【特別企画】

アーケード版「テトリス」35周年! 突然ゲーセンに現れ特大のインパクトを残した元祖「落ち物パズルゲーム」の奇跡と軌跡

【テトリス】

1988年12月 稼働開始

 セガが1988年12月に稼働開始したアーケード版「テトリス」が、2023年12月で35周年を迎えた。

 「テトリス」は、画面上部から落下してくるブロックを操作してフィールド上に積み、横一列にラインを作って消していく、いわゆる「落ち物パズルゲーム」の元祖である。現在でも、99人で同時対戦できる「TETRIS 99」や映像と音楽で魅せる「テトリス・エフェクト」、「ぷよぷよ」と「テトリス」がコラボした「ぷよぷよテトリス」など、多くの関連またはコラボタイトルが発売され続けている。

 こと日本国内に限れば、最初にヒットした「テトリス」は、1989年6月に任天堂が発売したゲームボーイ版であると認識している人が、もしかしたらいるかもしれない。だが、それは大きな間違いである。なぜなら、アーケード版はゲームボーイ版より半年も早く登場して大人気を博し、その面白さを世に知らしめていたからだ。

 事実、当時の業界紙「ゲームマシン」の1989年1月15日号に掲載された、設置店舗での人気とインカム(売上)を元に集計したランキングコーナー「Game Machine's Best Hit Games25」を見ると、本作はこの時点で早くも「テーブル型TVゲーム機」部門の第1位を獲得し、およそ1年間にわたりトップの座に君臨し続けていたのだ。発売から数年が経過した後も、本作が稼働している店舗はごく当たり前に存在し、後発のタイトルも含めて「落ち物パズルゲーム」は麻雀ゲームなどと同様に、以後ゲーセンの定番ジャンルとなったのである。

 以下、アーケード版「テトリス」の魅力と、筆者の35年前のかすかな記憶をたどりつつ、本作がゲームセンターに姿を現した当時の様子を改めて振り返ってみよう。

【「テトリス」ゲーム画面】
「テトリス」の基板とインストカード(※筆者私物)

単純極まりないのに、底知れぬ面白さを秘めた稀代の傑作

 本作は基本ルールも、操作方法もいたってシンプル。全7種類のブロックを、ボタンを押して90度ずつ回転させるか、レバーで左右または下に移動させてフィールド上に積むだけだ。

 だが、筆者が最初にゲーセンで目にしたときは、どうやって遊ぶゲームなのかがすぐにはわからなかった。なぜなら当時は「落ち物パズルゲーム」などという単語も、プレイヤー間のコンテクストもまったく存在しなかったからだ。別の人が遊んでいる様子をしばらくの間眺めつつ、サルのキャラクターが基本ルールを説明するデモ画面を見たところで、ようやく筆者はルールが理解できたと記憶している。

サルが基本ルールをレクチャーするデモ画面

 1988年当時のアーケードゲームの花形は「ギャラクシーフォース」、「ニンジャウォーリアーズ」、「パワードリフト」など、いわゆる大型体感筐体を使用したシューティングやアクション、レースゲームであった。これらのタイトルとは対照的に、フィールドが画面サイズに比べてとても狭く見えて、これと言って目立つ要素がなかった本作は「何だか古臭いなあ。面白いのかなコレ?」というのが筆者の第一印象だった。

 しかし、いざプレイしてみると、レベルが上がるにつれてブロックの落下速度がどんどんアップするスピード感に加え、ラインを作ってブロックを消すと、上部に残ったブロックがドスンと落ちる演出が実に快感。思考力だけではなく、ち密なレバーとボタン操作、反射神経も必要なことがわかり、当時はシューティングゲームばかり遊んでいた筆者もすぐに気に入ってしまった。

 高得点かつ至極の快感が得られる「テトリス(4ライン同時消し)」を狙うあまり、長方形のブロック、通称「テトリス棒」が出現するまで粘り切れず、ブロックを最上部まで積み上げてゲームオーバーになったプレイヤーはいったい世の中にどれだけいたことか。もちろん筆者もその1人であり、ゲームオーバーになるとサルが笑い転げたり、真っ赤なお尻を叩いたりするパフォーマンスに時にはムカつきながらも(苦笑)、レベルが上がるタイミングでジングルが流れ、ヨーロッパのどこかと思われる街や自然の風景、恐竜や古代遺跡など背景のビジュアルが変わる演出も相まって、本作にはすっかり魅了されてしまった。

レベルが上がるとブロックの落下スピードが上がるスリル感と、背景が変わる演出も秀逸だった
ゲームオーバーになるとサルが挑発するのもアーケード版ならではの演出だ

ブロックを積む快感をさらに引き出した絶妙の調整

 「テトリス」の素晴らしさは、単純なブロックの操作だけでも楽しめるよう、開発スタッフが絶妙の調整をしていたことが、長期にわたり人気を博した大きな要因だったと思われる。

 本作はレバーを下に入力すると、ブロックの落下速度がアップし、加速中は得点はアップする仕組みになっているので、設置場所を早めに決めることでテンポよくゲームが進み、なおかつ得点稼ぎもできるのがこれまた楽しい。また本作は、ブロックが地面や他のブロックに触れても、すぐには固定されない特徴もある。これを利用して、一見するとブロックが入らない狭いスペース、あるいは落下速度が速くて間に合わないように思える場所でも、工夫次第で積むことができるのがとにかく面白かった。

接地後に固定される直前までブロック動かせるようにしたことで、「テトリス」の面白さがさらに増したと言っても過言ではないだろう

 他方、BPSが発売したPCやファミコン版の「テトリス」では、方向キーやジョイスティックの下ボタンでブロックを回転させる操作に変わり、ボタンを押すとブロックが最下段まで一気に落下して、接地した瞬間に固定されるルールになっていた。筆者はアーケード版を最初にプレイした後にX68000版とファミコン版を遊んだのだが、レバー入力によるブロックの加速ができなかったので「アーケード版のほうが面白いや」と率直に思ったことを今でもよく覚えている。なお、誤解のないように念のため追記しておくが、筆者はX68000版もファミコン版も駄作であると斬り捨てているわけではない。どちらも発売当時は人気があり、特に後者は販売本数が181万本(※数字の出典は「CESAゲーム白書」)にも達する大ヒットとなった。

 アーケード版は子供だけでなく、普段は麻雀や将棋、野球などのスポーツゲームを主に遊ぶ社会人、ご年配の方々も盛んにプレイしていた印象も筆者は持っている。未知のジャンルであった本作が世代を問わずに人気を集めたのは、ブロックを積んで消すだけのシンプルな内容でありながら、その行為を何度繰り返しても飽きないほどの高い爽快感があったからだろう。

 発売から35年が過ぎた現在では、アーケード版が稼働しているゲーセンはほとんど存在しない。だが幸いなことに、2019年に発売されたメガドライブミニには、アーケード版とほぼ遜色のない、極めて移植再現度の高い「テトリス」が収録されている。アーケード版を知らない人は、ぜひメガドライブミニ版をプレイしていただき、本作ならではのブロックを積む快感を体験していただきたい。

移植再現度が極めて高い、メガドライブミニ版の「テトリス」