【特別企画】
「ファイナルファンタジー」発売36周年。大ヒットシリーズに繋がる意欲作を、ファミコン版とピクセルリマスター版で振り返ろう
2023年12月18日 00:00
- 【ファイナルファンタジー】
- 1987年12月18日 発売
今から36年前の1987年12月18日、現在も続く人気RPGシリーズの始祖「ファイナルファンタジー」が、スクウェア(現スクウェア・エニックス)からファミリーコンピュータ向けタイトルとして発売された。
1986年5月の「ドラゴンクエスト」(エニックス)発売以降、コマンド選択式のRPGが急速にファミコンユーザーの間に浸透していく中で、RPGでありながら斬新な表現方法やゲームシステムを導入、パッケージビジュアル/キャラクターデザインに天野喜孝氏、シナリオ執筆に寺田憲史氏を採用した意欲作である。
弊誌では昨年も同じタイミングで、別の執筆者による本作の周年企画をお届けしているが、今回は2023年4月30日に発売されたNintendo Switch版「ファイナルファンタジー ピクセルリマスター」の画像とファミコン実機の画像の両方を使用し、筆者個人の思い入れも含めて振り返っていく。
「ドラゴンクエスト」への対抗心もうかがえる、意欲的なシステムや表現技術を導入
本作が発売された1987年は、前年の「ドラゴンクエスト」と同年1月の「ドラゴンクエストII 悪霊の神々」の発売をきっかけに、アクション性を廃したコマンド選択式のRPGがファミコンで人気を集めてきた頃だ。「デジタル・デビル物語 女神転生」(ナムコ)、「闘人魔境伝 ヘラクレスの栄光」(データイースト)、「桃太郎伝説」(ハドソン)といったファミコンオリジナルのRPGも同年にリリースされ、「ファイナルファンタジー」もそういったタイトルの中で発売された。
筆者が本作を購入した理由は、実はあまり覚えていなかったりするのだが、発売済みの「ドラクエ」シリーズ2作品をプレイし、コマンド選択式RPGの面白さに気づいたうえで、それとは趣の異なるグラフィックスや斬新なシステムに魅力を感じたことが購入動機となったのは間違いないだろう。
ゲームを始めると、真っ青な画面にプロローグとなるメッセージとともに、後にシリーズを象徴する楽曲となる「プレリュード」が流れ、その後すぐさまキャラクリエイトに入る展開は、ファミコンRPG1年生の筆者には驚きの展開だった。「えっ、タイトル画面は!?」と思いながらキャラクリエイトを終えると、いきなりフィールドに放り出されるのである。
「ドラクエ」のようなオープニングがないことにも面食らいつつ、「光の戦士」としてこの世界に現れた名もなき4人の主人公は、手にしたクリスタルに光を取り戻す旅へと出発する。旅立ちの地となるコーネリアのすぐ近くにはカオス神殿があり、そこで待ち受けているのが最初に対峙するボス「ガーランド」である。
装備が整っていればレベル1でも倒せる程度のボスなのだが、後に彼とは意外な形で再会する事実を、本作をラストまでプレイした人ならご存じなはず。そしてその彼が35年後に「STRANGER OF PARADISE FINAL FANTASY ORIGIN」の主人公として登場したことは青天の霹靂であった。
筆者が本作で最も好きなのがここからの展開で、ガーランドに囚われていたコーネリアの姫セーラを救出後、コーネリア王によって街の北側にかけられた橋を渡ると、改めて本作のタイトルが画面に映し出される。
「そして…… たんきゅうのたびは はじまった」
緑がかった情景にシルエット姿の光の戦士達。これまたおなじみとなった「メイン・テーマ」をBGMに、ウィンドウの中にオープニングメッセージがゆっくりと流れ、次いで開発スタッフの名前が表示される。ものの20秒程度の演出ながら、本作が「ドラクエ」とは違う方向性で作られたものだということもここで認識した。
先ほど触れた本作の購入動機を覚えていないことについては割とどうでもよく、何よりもこの演出を見たときのインパクトこそが、筆者が「ファイナルファンタジー」という作品を強く意識するきっかけとなったのである。
「ドラクエ」や後に発売されたRPGとは、その見た目から一線を画していて、フィールドのでこぼこした海岸線や、バードビューのような台形をしたコーネリアの町など、これまでに見たことない表現にワクワクした。
フィールド上のキャラクターは、ドット絵の主人公らをデフォルメした姿で、移動に合わせてアニメーションする。メッセージウィンドウ内に色がついているのは珍しかったし、その開き方にも特徴があった。ファミコンでは技術的に無理とされたあのウィンドウの開き方は、本作のプログラムを手がけた天才プログラマー、ナーシア・ジベリ氏のスキルによって実現したという話も耳にしたこともある。
サイドビューのバトルシーンは各種表示エリアがウィンドウで区切られていて、プレーヤーキャラが行動のたびにアニメーションし、麻痺や戦闘不能などの状態異常をそのポーズで表現していた演出もインパクトがあった。モンスターはエリアの中に最大9体が現れ、天野喜孝氏のモンスター絵がちょっと無理のあるドット絵になって画面内に詰め込まれていたのは当時ならではの苦労が伺える。
職業の概念をいち早く採用。後のシリーズで「ジョブシステム」へと発展していく
プレーヤーキャラクターには「職業」と「クラスチェンジ」の概念があり、そのパーティ編成にはずいぶん悩まされた。説明書には「戦士・シーフ・モンク・白魔術師」、「戦士・戦士・戦士・戦士」、「戦士・白魔術師・黒魔術師・赤魔術師」という例があったが、一部はちょっと無理のある組み合わせで、あまり参考にはならなかった。
筆者は「戦士・シーフ・白魔術師・黒魔術師」で開始した記憶があるが、この組み合わせだと、とにかくシーフが弱かった印象がある。「戦闘から逃げやすい」という特技はあったものの、忍者にクラスチェンジするまでは、敵の全体攻撃などで大抵一番最初に倒れてしまうのだ。以降周回プレイをするときは、シーフの代わりに戦士かモンクを入れるパターンが筆者の中で固まった。この職業の概念は後のシリーズでは、キャラクターの成長システムに関連する「ジョブ」として定着したのはご存じの通り。
中世ファンタジーをモチーフとした「ドラクエ」シリーズにはないSF的な世界観を取り入れていたことも、筆者の心をときめかせた要因である。後半の物語の舞台はなんと成層圏近くにまで及び、NPCや敵キャラにはロボットも登場。残念ながら(幸いにも!?)幻のモンスター「デスマシーン」には、当時は1度ぐらいしか遭遇したことがない。
そんなSF的な世界観を象徴するのが「飛空船」の存在だ。後に「飛空艇」と名称が統一されるこの乗り物は“超高速・障害物の影響なし・エンカウントなし”という快適な乗り物で、手に入れてしばらくは、意味もなくマップ上を飛び回っていた記憶もある。この飛空船はカヌーを手に入れた段階で入手できるようになるので、筆者は火のカオスが存在するグルグ火山をすっ飛ばして、氷の洞窟で強力な装備とともに飛空船(を動かすための浮遊石)を手に入れて、クラスチェンジをしてから火のカオスに挑むという進め方をしていた。
36年前のゲームだけに、ゲーム全体のバランスが不安定で、特にエンカウントの多さや、一部の敵が非常に手強かったことは、ゲームをリプレイするたびに思い返す。序盤からやたらと遭遇する機会の多い「ウルフ」系のモンスターは、HPが高い割に見返りが少ない。絶対に逃げることのできない「ピスコディーモン」や殴られるだけで即死することもある「マインドフレイア」、ボス並の全体攻撃ブレスを持つ「ドラゴン」系のモンスターなどは、姿を見るだけで背筋がゾワゾワする、トラウマレベルの恐ろしさを持ったザコ敵である。また当時は気づいていなかったが、バグによって効果がまったくない魔法もあったというから困ったものである。
その一方、ゲーム後半ではパーティの4人では装備しきれないほどたくさんの強力な武器防具が手に入り、クラスチェンジ後に恐ろしいほどの強さになるモンクなど、プレイヤー側のバランスブレイカーも実感していて、こうした部分もいろいろな意味で思い出に残るものとなった。
2023年4月にSwitchとPS4でも発売された「ファイナルファンタジー ピクセルリマスター」は、こうしたオリジナルのバランスもある程度残しつつ、敵とのエンカウントのオン/オフやダンジョンや街中での高速移動、20個(+オートセーブ)用意されたセーブファイルなど、かゆいところに手が届く、ゲームの内容を振り返るにはもってこいの仕様で作られている。BGMをファミコン版とアレンジ版に切り替えられるのも大きなポイントで、個人的推しの「マトーヤの洞窟」はファミコン版の音源で聴きたいところである。
筆者は今でもこの初代「ファイナルファンタジー」への思い入れは、どのシリーズよりも強かったりする。もちろん後のタイトルで気に入っているものはいくつもあるが、ファミコンRPG黎明期にリアルタイムで本作に触れられた経験が大きく、本稿執筆のためにファミコン版とピクセルリマスター版を改めて遊んで、当時の記憶が鮮明に蘇った。この高揚した気分のまま、この年末にはまだ見ていない後者のエンディングに突入しようと考えている。
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