【特別企画】
ファミコン版「へクター'87」36周年! 新しさと懐かしさが同居した、ほかに例を見ない“戦略シューティング”
2023年7月16日 00:00
- 【ファミコン版「へクター'87」】
- 1987年7月16日 発売
ハドソンのファミリーコンピュータ用ソフト「へクター'87」が、本日で発売36周年を迎えた。
本作は自機のノア号を操作して、光粒子砲(対空)とクラスター(対地)の2種類のショットで敵を倒していくシューティングゲーム。全6ステージで、各ステージの最終地点に出現するボスキャラを倒すとステージクリアとなる。地球に第3次世界大戦が勃発して人類の遺産が焼き尽くされ、失われた過去を求めて太古の地球に旅立った調査船団がバイオメカに追撃され、唯一難を逃れたノア号が古代地球で戦うというストーリーで、1面はインカ帝国、2面はマヤ帝国、3面はアトランティス大陸、4面はエジプト、5面はムー大陸で、最終面は邪馬台国が舞台となる。
本稿では、「へクター'87」の特徴や魅力はどこにあったのか、発売直後から夢中になって遊んだ筆者の体験を交えつつ改めて振り返ってみる。
あえて時代を逆行することで唯一無二の世界観を形成
本作ならではの特徴は、奇数面が縦、偶数面が横スクロールに、つまり1面ごとにスクロールの方向が変化することだ。現在までに数多のシューティングゲームが世に出ているが、ステージ単位でスクロールが入れ替わるシステムを取り入れた例は、今も昔も非常に珍しい。偶数面でのノア号は右向きとなり、光粒子砲とクラスターのどちらでもすべての敵を倒すことが可能で、クラスターは着地後に地面に沿って滑るようになる。
もうひとつの本作の大きな特徴は、ノア号にパワーアップの要素が一切存在しないこと。ファミコンに限らず、当時のシューティングゲームはアイテムを取るとショットがパワーアップして、攻撃力や一度に撃てる弾数が増え、弾幕も派手に描かれるようなタイトルが目立つ中、本作は前述のストーリーを反映するかのように、時代を逆行した異色の存在であった。また、本作以前にハドソンが発売した「スターフォース」、「スターソルジャー」の両シューティングゲームは近未来の宇宙空間をほうふつとさせるが、本作の敵キャラやマップのデザインは古代生物を想起させるものが多いのも、その個性をいっそう引き立てているように思えてならない。
自機のノア号は、敵や壁に当たるとライフ(エネルギー)が減り、残量がゼロになると破壊されてミスとなる。ライフ制とはいえ、本作にはショットを1発当てただけでは倒せない耐久力の高い敵が非常に多く、一部の敵や障害物は当たると即ミスとなってしまうこともあり難易度は総じて高い。そこで、当時のハドソンは本作をプレイするにあたり、最大1秒16.5発の連射機能を搭載したコントローラー「ジョイカードmkII」の使用を推奨していた。
だが、たとえ連射装置を使用しても、ノア号がダメージを受けると一定時間ショットが撃てなくなり、偶数ステージでは壁に当たるとダメージを受けるのに加えて、画面左、つまり自機の背後からも敵が頻繁に出現するので、おいそれとは簡単にエンディングまで到達できないほど難しい。本稿の執筆のため、筆者は数十年ぶりに「ジョイカードmkII」を引っ張り出してプレイしてみたが、その印象は発売当時とまったく変わらなかった……。
とはいえ、奇数ステージでマップ上に隠された配電盤を発見して壊すと、画面内の地上物を根こそぎ破壊できてすこぶる快感、なおかつ高得点が稼げるアイデアは秀逸。同じく、特定の場所に隠された「H」、「E」、「C」、「T」、「O」、「R」の文字パネルをすべて出現させると100万点の大ボーナスが獲得できたり、わざと空中の敵を増やして得点を稼ぐパターンを研究したりして楽しめるなど、難しくても夢中になってしまう“戦略シューティング”ならではの魅力があることは確かだ。
全国大会を開催する前提で作られた、画期的なゲームモードを搭載
以前に拙稿「ファミコン版「スターフォース」が今日で38周年!」や「Stay at home! 発売36周年、今こそ「スターソルジャー」で“100万点” を達成しよう!」でも紹介したように、本作はハドソンの夏の定番イベントであるプレーヤー日本一決定戦「TDK全国キャラバンファミコン大会」の第3回大会で使用された。本作のパッケージには「認定'87全国ファミコン大会」のマークがプリントされており、当初から「キャラバン」を開催、運営する前提で作られたことがわかる(※「スターソルジャー」のパッケージにも同様のマークがある)。
本作の白眉は、第1回大会で使用された「スターフォース」と、第2回大会の「スターソルジャー」には存在しなかった、「キャラバン」と同じルールで遊べる専用モード「2分間モード」(予選)と「5分間モード」(決勝)を搭載したことだ。
専用モードの実装、しかも制限時間になると自動でゲームが終了するタイマー機能も付いたお陰で、プレーヤーは自分で用意したストップウォッチをいちいち見る手間もなく、大会の練習ができるようになったのは画期的なことだった。しかも両モードでは、全ステージクリア後に残りタイムがボーナス得点として加算されるので、スクロールが止まるボス戦では少しでも時間を稼ごうと必然的にリスク覚悟で接近戦を挑むことになり、プレーヤーをますます燃えさせてくれるのだ。以後、ハドソンはPCエンジン用ソフト「スーパースターソルジャー」、「ソルジャーブレード」などを使用して「キャラバン」を開催することになるが、これらのタイトルにも搭載された「2分間モード」と「5分間モード」の元祖は、実は本作なのである。
また本作では「キャラバン」の会場に行くことができないプレーヤーに配慮し、自宅で参加できる「ベストスコアキャラバン」も、87年8月31日まで実施していた。「ベストスコアキャラバン」は「5分間モード」をプレイした得点が出ている画面を写真に撮り、封筒に入れてメーカーに送るという方式で、マニュアルによると1位のプレーヤーはCDプレーヤーが、2位はツインファミコン、3位はTDKのビデオテープ10本がプレゼントされた。筆者も「ベストスコアキャラバン」に応募したが、撮影の最中はピンボケしていないか、写真屋さんに現像をお願いしてから翌日の夕方に仕上がるまでの間「フィルム代がムダにならなければいいんだけど……」と、ドキドキしながら待っていた思い出がある。
現在、盛んに行われているeスポーツの公式大会では、通常版とは別に専用モードを用意して大会を運営するのはごく当たり前のことだが、まだeスポーツの単語もインターネットもない時代に、大会モードをいち早く導入した本作の開発スタッフの功績は称賛されてしかるべきだろう。
本作は、ファミコン以降に登場した各種プラットフォームに移植される機会が非常に少なく、筆者が調べた限りでは、2007年に月額課金制のPC向けサイト「i-revo」の配信タイトルの1つとして登場して以来、現在まで一切移植されていない。難しいながらも独特の面白さがある本作を、またどこかのタイミングで誰もが遊べる機会が生まれることを期待したい。無論、連射機能を標準搭載する改造を施したうえで……。
(C)1987 HUDSON SOFT