【特別企画】
【GT25周年】山内一典氏自慢の“馬車”が初お披露目! 「グランツーリスモ7」開発スタジオツアーが開催
2022年12月23日 00:00
- 【グランツーリスモ】
- 1997年12月23日発売
ゲームクリエイター山内一典氏率いるポリフォニー・デジタルは12月14日と15日の両日、「グランツーリスモ」シリーズの25周年を記念したスタジオツアーを開催した。ツアーは2日にわけられ、初日はゲームメディア、2日目はカーメディアで、山内一典氏による「GT」25周年プレゼンテーションにはじまり、社内設備をお披露目する文字通りのスタジオツアー、山内氏への合同インタビュー、大会仕様コクピットでの「グランツーリスモ7」試遊など、盛りだくさんの内容だった。歩行ではスタジオツアーの模様をお届けする。
初お披露目となったポリフォニー・デジタル“新”東京スタジオ
ポリフォニー・デジタル東京スタジオは、東京都の東側、江東区にある。江東区役所のすぐ近くのオフィスビルイースト21ビジネスセンターの3階が丸々開発スタジオとなっている。同社は2017年にもオフィスツアーを実施しているが、新型コロナウイルス発生以降に同じ江東区内で移転しており、新オフィスのメディア公開は今回が初となる。なお、2011年、東日本大震災の発生を受け、オフィス機能の一部を福岡に移転し、山内氏も移ることが話題となったが、現在はこの新東京スタジオに社長室を構え、東京を拠点に活動しているようだ。
ところで、「グランツーリスモ」のタイトルの由来は、シリーズのファンならご存じの通り、中世ヨーロッパにおいて、教養を学ぶための大旅行に使われた馬車から来ている。そしてポリフォニー・デジタルという会社自体も“旅をする馬車”と定義づけており、すなわち「グランツーリスモ」とは、自身の活動を体現する存在として、ポリフォニー・デジタル自体をも包含したネーミングとなる。
山内氏曰く、ポリフォニー・デジタルは、学びの空間であり、知識社会であり、様々な多様性を実現しつつ、フラットな組織運営を行なう組織。元々5人程度の小さいチームからはじまった組織だが、現在は250名の社員を抱え、東京、福岡、など複数のオフィスに分かれて開発作業が進められている。
ポリフォニー・デジタルがおもしろいのは、「グランツーリスモ」を作るだけの会社ではないというところだ。設立時の理念は「世界の神羅万象を量子化して計算可能な存在にする」、「社会に対して開かれた存在であること」の2つで、“世界の神羅万象を量子化して計算可能な存在にする”具体的なアウトプットのひとつが「グランツーリスモ」というに過ぎない。自動車メーカーとのコラボレーションによるビジョン・グランツーリスモや、日産 GT-Rのマルチファンクションディスプレイへの開発参加はその理念追求の一環となる。
各種イベントや大会も開ける広々としたオープンスペース
さて、オフィスツアーは、山内氏自身が案内してくれた。山内氏が目指すオープンでフラットな組織運営は、オフィスデザインにも存分に感じられた。ポリフォニー・デジタルのオフィスは、山内氏がロビーと呼ぶ広大なオープンスペースと、本丸である開発スタッフが勤務する非公開スペースに分かれている。
オープンスペースは、今回山内氏のプレゼンテーションが行なわれた多目的ホールになっており、「GT7」がプレイできるコクピットゾーン、バーカウンター、打ち合わせスペースにわかれている。ライティングは間接照明がメインで、やや薄暗く、スノッブな雰囲気。バーではお酒も楽しめるようになっているが、バー後方にメニューっぽく配置されているのは、「GT」ワールドシリーズの優勝者のネームプレートで、カウンターの内側には照明や音の調整機材も配置されているなど、機能的な配置になっている。
この空間は、イスを片付ければダンスホールとしても使用でき、イスをコクピットエリアに向ければ、そのままeスポーツ大会も開ける。開発スタジオのロビーとはとても思えないゆとりのある空間だ。入り口付近に大会開催時や来場者向けのロッカーも用意されているが、各ロッカー名は「GT7」収録コースが付けられているのがおもしろい。
フラットかつオープンな開発エリアにはユニークな施設が山盛り
東京オフィスの大部分を占める非公開スペースは、スタッフたちが開発作業を行なうエリアだ。スタッフたちの作業エリアは原則撮影禁止だったため、ごく一部しかお伝えできないが、オープンスペースの数倍の広さがあり、部署ごとに部屋を設けたりせず、肩の高さほどのパーテーションで区切っただけの奥までよく見渡せる単一の空間になっている。1社1チーム、フラットな組織運営を体現するデザインだ。
最初に通されたのはサウンドルーム。「GT」の音を作るルームであり、様々な楽器や機材で満たされた大小2つの部屋が用意されていた。ポリフォニーでは、サウンド、効果音も含めて、すべて内製で取材、録音、加工、編集を行なっているが、ここでは主に加工や編集が行われている。防音となっており、山内氏による最終チェックもこちらで行っているようだ。
ちなみにサウンドルームに向かう通路もラウンジのような空間となっており、リラックスできるソファ、テーブルには灰皿が置かれている。この部屋は、山内氏もたまに弾くというピアノのほか、ギターなど各種楽器も置かれ、ちょっとしたセッションも楽しめるようだ。最大の特徴は、ルーム奥のライブモニターを通じて、福岡の開発室のラウンジにリアルタイムで繋がっているところだ。このラウンジでタバコ休憩しながら、福岡にいるスタッフと雑談したり、飲み会をすることもあり、こういう何気ない雑談に、新しいアイデアが生まれることもあり大事にしているという。「自然とコミュニケーションが生まれるようなセットアップ」(山内氏)愛煙家の山内氏ならではのアイデアがつまった喫煙ルームだ。
オープンスペースに戻り、両開きの自動ドアを抜けると、心臓部である開発エリア。その開発エリアを取り込むように複数の会議室、スポーツジム、資料庫、撮影スタジオ、サウンドルームなどが配置されている。開発エリア中央には、まさに大会議室といった雰囲気のガラス張りの会議室があり、その壁には社内のPCやサーバーなど各種機材の使用率などを示すグラフがリアルタイム更新されているモニターが並べられ、広大な開発エリアのアクセントになっている。
ちなみに会議室はすべて1つずつデザインが異なり、和室、ダイニングルーム風、リビングルーム風など、創造空間に相応しい親しみやすいテーマで仕上げられている。中でもとびきり奇天烈な和室会議室は、掘りごたつ風で、障子を開けるとホワイトボードが出てくるなど、こだわりの一室。山内氏によると、パートナーが来社したときはここでお茶を点てることもあるようだ。
会議室の大きな特徴はすべてオープンスペース、もしくはガラス張りとなっており、外から中が見え、声も聞こえるようになっている。ここも山内氏のこだわりであり、社会的に開かれた存在であり、スタッフに対してすべて公開していくという考えによるものだという。後述するが、山内氏が執務する社長室は、オープンスペースからも丸見えになっており、分け隔てのないオープンさというのがこのオフィスの共通点となるようだ。
そしてポリフォニーは、開発エリアとスポーツジムが直結している。「近ければ近いほど良い。じゃないとみんな利用しない」(山内氏)という考えから、開発スタッフの運動不足を解消するためにこしらえた山内氏肝いりの施設。山内氏も週2ペースで利用しているという。広さは会議室大といったレベルだが、ひととおりのトレーニングマシンに加えて、ボルダリングの練習機器や、山内氏のようなレーサー向けに、ブレーキペダルを踏み込む踏力を鍛えるマシンなどが置かれている。
それからユニークだったのはライブラリー。入り口付近こそ、書架にクルマ誌、カメラ誌、アート誌の最新号が並べられた図書室風だったが、一歩中に入ると、貴重な資料ばかりが目白押しの“社内博物館”の様相を呈していた。
「25年前に参考にしていたタミヤのプラモデル」(山内氏)に、クルマメーカーの歴代カタログ、塗料メーカーから取り寄せた色見本、「GT」シリーズで過去に発売されたプラモやフィギュア、開発に携わったドライビングホイールのモックアップ、アーティスト、エンジニア合同でデッサン大会を行なうという石膏像なんてものもある。
ライブラリーで思い入れのあるアイテムを問われて山内氏は、かつて参戦したニュルブルクリンクのレースで使用したGT-Rのフロントフェンダーを挙げた。ファルケンのロゴを見る度に、当時の怖い思いが蘇るという。
ライブラリーからさらに進むと撮影スタジオがあった。機材が持ち出されているためがらんとしていたが、単純な撮影に加えて、グリーンバックの環境でワールドシリーズの実況解説をここで収録したりすることもあるようだ。このほか、開発エリアのちょっとしたスペースにGT家具があったり、レーシングコクピットがあったり、初代「GT」の映像が流れていたりと、遊び心満載の楽しい空間となっていた
ロビーと開発エリアの中間に、山内氏が執務する社長室が存在する。社長室は山内氏が作業するデスクに、ちょっとした打ち合わせ用のソファエリアで構成されているが、ここも当然ガラス張り。しかも、開発エリアのみならずオープンスペースからも見えるようになっており、来場者はついつい覗き見したくなってしまうところだろう。
ポリフォニー・デジタルの新本社は、まさに山内氏がプレゼンテーションで語ったとおり、フラットかつオープンで、創造性を育むスペースとなっていた。1社1チーム、ほぼ「GT」シリーズのみという開発スタイルを25年続けられたのは、こうした開発環境の影響も大きいだろう。この山内氏の理念に共感するゲームクリエイターとその予備軍は、ポリフォニー・デジタルの門を叩いてもいいだろうし、ゲームファンは、オープンスペースで行なわれる大会やイベントに参加してみては如何だろうか。
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