【特別企画】

「ストリートファイター6」CBTレポート【eスポーツ編】

“勝負の嗅覚”が試される奥深い「ドライブシステム」を深掘り

【ストリートファイター6】

2023年 発売予定

価格:未定

 2023年に発売が予定されている「ストリートファイター6」(以下スト6)は、格闘ゲームの金字塔たる「ストリートファイター」シリーズの最新作だ。ここ最近で続々と情報が発表され、ファンの期待がどんどん高まっている本作だが、10月6日から10日にかけて、オンライン対戦とトレーニングモードが遊べるクローズドベータテストが開催された。

 今までに何回か試遊の機会はあったが、自宅から制限なく「スト6」をプレイできるのはこれが初めて。日頃主にeスポーツライターとして活動している筆者は、前作「ストリートファイターV」のプロシーンを追いかけてきた経験があり、今回は「スト6」の競技性、スポーツ性を検証すべく、本ベータテストに臨んだ。

 「スト6」はグラフィックスやキャラクターデザインはもちろんのこと、バトルシステムを前作から大きく刷新しているが、この新たなバトルシステムは、前作までのシリーズタイトルに慣れ親しんだ筆者のようなプレーヤーにとって、どのような感触なのか。本稿では、細かい仕様を解剖しながら、「スト6」のゲーム性を深堀りしていきたい。

 なお弊誌では、「スト6」のCBTについて、「ストリートファイター」シリーズ最新作としてどうかの視点でレポートした記事も掲載している。こちらもぜひご覧いただきたい。

「ストリートファイター6」タイトルロゴ

ゲームの肝、「ドライブシステム」の駆け引きが奥深い

 「ストリートファイター6」をプレイした感触としてまず感じたのは、前作「ストリートファイターV」と全く違うプレイフィールを持っているということだ。前作に比べてテンポが速く、「Vトリガー」のような明確な逆転要素はないが、それでいて常に有利不利が入れ替わる可能性があり、序盤から終盤まで試合に緊張感がある。そしてこの要因はやはり、今作で新たに追加された共通システム「ドライブシステム」にあるように思う。

体力ゲージ下の緑のゲージが「ドライブゲージ」

 まずドライブシステムの仕様を簡単におさらいしよう。ドライブシステムの根幹は、今作で新たに追加されたドライブゲージにある。ドライブゲージは最大で6本までストックされ、各ラウンドの開始時に自動的にフルストックされる。プレーヤーはこのゲージを使って5つの行動をプレイでき、それらは「ドライブインパクト」、「ドライブパリィ」、「オーバードライブ」、「ドライブラッシュ」、「ドライブリバーサル」だ。どれもゲージの消費量が異なるが、攻撃手段や防御手段として非常に強力で、ゲームメイクに欠かせない行動である。

例えばオーバードライブ版「波動拳」を撃つとゲージが2本消費される

 そして重要なのは、この「ドライブゲージ」は「ガードゲージ」の役割も兼ねているという点だ。言い換えれば、プレーヤーは能動的にこのゲージを消費するだけではなく、相手の攻撃を何かしらガードすると必ずドライブゲージを消耗する。ドライブゲージはまさに、攻防一体のゲージというわけだ。そして相手の攻撃をガードし続けるかゲージを完全に使い切ってしまうと「バーンアウト」という状態に陥り、一気に不利になってしまう。

右側のケンはバーンアウト状態になっている

 バーンアウト状態に陥ったプレーヤーは、一切のドライブ行動を使えなくなる。相手の攻撃を捌くパリィやアーマー付きのインパクトも打てなければ、無敵属性付きのオーバードライブ必殺技で切り返すこともできない。これだけでも辛いのに、加えて相手の技をガードしたときの硬直が一律で4フレームも増えるので立ち回りも弱くなり、さらには画面端で相手のドライブインパクトをガードするとスタン状態になってしまうおまけつきだ。

スタンすればもちろん手痛いコンボをもらうことになる

 バーンアウトからは時間経過で回復するが、これがかなりの時間(放置でだいたい20秒ほど)かかるため、これを凌ぎきるのはかなり難しかった。ベータ版では新システムを使いたいがあまり簡単にバーンアウトしてしまうプレーヤーが多くいたが、バーンアウトすると攻防どちらもが明確に弱体化するため、一気に試合が傾くことが多くあった。

 そして相手のドライブゲージを削る方法は、技をガードさせるだけではない。相手の技の後隙に反撃を決める「パニッシュカウンター」や、各種スーパーアーツによる攻撃も、相手のドライブゲージを削ることができる。まだ自分のドライブゲージに余裕があるからといって、軽率にオーバードライブ昇竜拳などを放つと、反撃次第では一気にドライブゲージを削られバーンアウトに陥ることもある。このあたりの駆け引きは、研究が進めば進むほどシビアなものになっていくだろう。

パニッシュカウンターでスーパーアーツを決めると相手のドライブゲージを2.5本ほど削る

 要約すると、ドライブ行動は非常に強力な共通システムだが、使えば使うほどバーンアウトが近づいてしまうため、まさに諸刃の剣なのだ。これを逆の視点から見ると、「スト6」では相手の体力を減らすのはもちろん、ドライブゲージを減らすことでも大きなアドバンテージになるということで、そのあたりのリソース管理が非常に重要になってくる。試合の場面ごとに自分と相手の体力とドライブゲージ残量を確認して、残ったゲージを使っていかに勝ち切る、または逆転するかを考える、そういったゲームメイクの技術が要求されるというわけだ。全体的に見て、かなり競技性の高い、奥深いシステムだといっていいだろう。

いかなる行動にもリスクがある、「スト6」の読み合い

 ドライブゲージをめぐる駆け引きの概観は理解してもらえたかと思うが、では実際に上述のドライブ行動はどのような面で使われるのか、紹介していきたいと思う。特に注目したいのは「ドライブパリィ」と「ドライブラッシュ」、ドライブ行動の中でも特に発展性の高いであろう二つだ。

 ドライブゲージ0.5本消費の「ドライブパリィ」は発生1フレーム、持続8フレームの当て身技で、相手の打撃技を中下段に関わらず受け流す技だ。普通に使うだけだとガードするのとほぼ変わらず、持続の8フレームが終わると後隙を晒すことになるので、使いどころは難しい。しかしこのドライブパリィの強みは「ジャストパリィ」成立時にある。最初の2フレーム以内に相手の打撃を受け止めるとジャストパリィが成立し、弱パンチに対してもコンボを決められるほどのリターンをとることができるのだ。

ドライブパリィをうつと身体が青く光る

 このジャストパリィの存在があるお陰で、どんな状況でも読み合いが発生することになる。1フレームでも隙間がある連携にはドライブパリィで割り込むことができるし、不利フレームを背負っていてもドライブパリィでターンを奪い返すことができる。さらに言えば起き上がりにリバーサルでドライブパリィをすることもできるため、相手の起き攻めにもリスクを負わせることができる。よく「ターン制」と形容されていた前作「ストリートファイターV」の攻防と違って、「スト6」ではドライブパリィがあることで常に攻守が入れ替わる可能性があるのだ。

ジャストパリィの暗転演出

 しかし当然ドライブパリィにも弱点がある。後隙に反撃を受けてしまう他、投げを重ねられてしまうと通常の倍のダメージを受け、強制ダウン状態になり、さらにドライブゲージを追加で1本ほど失う。しかしこれに対して今度は小技による暴れやバックダッシュが機能することになるため、読み合いが延々と続いていくわけだ。どんな状況においても安パイといえる行動がなく、その点が「スト6」の特徴といっていいだろう。

パリィを投げるとパニッシュカウンターになって大量ダメージとなる

 次にゲージ1本消費の「ドライブラッシュ」だが、これは通常技や特殊技でキャンセルが可能な強化ダッシュだ。一気に距離をつめて相手に触りに行くことができる技で、主に攻撃に使うことになる。そしてこのドライブラッシュの面白い点は、キャンセルして出した通常技のフレームが変化するという点だ。

緑に光るドライブラッシュ

 ドライブラッシュをキャンセルして通常技を出すと、その通常技はダッシュの慣性を受けて通常よりもリーチが伸び、加えてヒット時、ガード時のフレームが通常時よりも4フレーム長くなる。つまり技が当たっていれば通常よりも重いコンボを決めることができ、ガードされていた場合も攻めを継続できるというわけだ。

ガイルはドライブラッシュ中段からコンボに行くことができる

 さらにこのドライブラッシュは通常技の硬直をキャンセルして放つこともできる。キャンセルした通常技がヒットしていた場合はコンボに、ガードされていた場合は強力な連携に移行することができるため、攻めの選択肢として非常に強力だ。しかしその強さの反面、この場合はドライブゲージの消費量が3ゲージに増えるというコストがある。もしもドライブラッシュで仕掛けた攻めを相手にジャストパリィで返されてしまった場合は、ドライブゲージを半分以上失うことになるため、大損害をこうむることになる。やはりこのあたりのリスクリターン管理が「スト6」の重要な要素となってくるだろう。

 このように「スト6」では、攻防一体のドライブゲージの存在により、プレーヤーの行動には常にリターンに相応したリスクが存在している。試合中のどの場面においても、安定行動と呼べるような選択肢がなく、常にお互いの残リソースを確認しながら駆け引きをしていく必要がある。そういった意味で「スト6」は非常に「対戦格闘ゲームらしい」ゲーム性をしているのではないだろうか。自分や相手の技のフレームなどを知識として知っておくことももちろん重要だが、その上でドライブシステムを駆使していかに勝負を仕掛けていくかが勝つためのカギとなってくる。プレーヤーの「勝負の嗅覚」が試されるゲーム性であるといっていいだろう。

パワーアップしたトレーニングモード

 最後に、本ベータ版で初プレイアブルとなった「スト6」のトレーニングモードを紹介したい。格闘ゲームを真剣にプレイするとなると、トレーニングモード機能の充実度は気になるところだが、結論から言って、「スト6」のトレモは文句なしの充実度だった。

 まず今回のトレーニングモードの目玉といってもいい新機能が、フレームの可視化機能「フレームメーター」だ。この機能により、「スト6」では外部サイトなどに頼ることなく、すべての技のフレームをトレーニングモード内で調べることができる。何かしらの技を出すと、その技の発生までのフレーム、攻撃判定の持続フレーム、硬直フレームが全て分かるようになっている。同じように、その技をガードもしくはヒットした側の硬直フレームも一目瞭然だ。

緑のタイルが発生にかかるフレーム、赤が持続、青は後隙、黄はガード硬直を表している。この場合青が黄よりも4マス多いのでマイナス4フレームというわけだ

 またこれまで通り、特定の状況を再現する機能も充実している。レコードのスロットは合計で8つあり、複数レコーディングした場合はそれぞれの確率を設定してランダムで再生することができる。また、ガードやヒット後の反撃設定にも5つのスロットが用意されていて、こちらも複数設定してランダム再生することができる。キャラクター対策や状況確認の練習にもってこいだ。

レコーディングは計8スロットあり、様々な状況を再現できる

 他にも、セレクト画面に戻ることなくキャラクターとステージが変更できる点や、状態保存が3つのスロットに分けられること、ゲームスピードを50%に落とすことができる設定など、細かいところでも非常に使い勝手がいい。ドライブシステムのおかげで一気に行動の選択肢が増えた「スト6」だが、トレモがこれだけ充実していれば練習も捗ることだろう。

キャラクター変更後のロード時間も非常に短い

「スト6」eスポーツシーンの未来とは

 以上が筆者の「スト6」ベータ版レポートとなる。全体的な感触として、前作「ストV」とはかなり異なったゲームになった印象があり、操作性やテンポは非常に軽快で、それでいて駆け引きの面白さがある、かなり奥深いゲームに思えた。過去作のゲームシステムを完全に置き去りにしたような刷新ぶりなので、古参プレーヤーばかりが強いというような状況になることは想像しにくく、プロシーンにおける新たなスタープレーヤーの台頭も大いに期待できることだろう。

 ゲームの競技性、公平性という意味でいえば、ひたすらシンプルでバランスのいい「ストV」に勝るかどうか、現時点で断言するのは難しい。しかし観戦する側にとっては、近距離の細かい読み合いで大きな差がつく「ストV」に比べ、ドライブゲージ残量により有利不利が分かりやすく、各種ドライブ行動により常にゲームが動くダイナミクスを持つ「スト6」は、見ていてより分かりやすく楽しいタイトルになるのではないかと予想される。あとは、キャラクターのバランスが良いことを祈るばかりだ。

 また今回のベータ版ではオンライン対戦の感触も良好だったため、これもeスポーツシーンには追い風になるだろう。オンライン環境が整っていれば、オフラインの練習を持たないような小国からもプロ選手が出てくることが見込めるからだ。「スト6」発売後は国内外で多数の大会が開催されることが予想されるが、オフラインシーンの復興とともに、世界各地の選手が凌ぎを削るプロシーンが見られるようになると期待したい。

 筆者は今回のベータ版をプレイして、ますます本作の発売が楽しみになった。ゲーム性、キャラクター、UI、どれをとっても斬新なアイデアが多く、「ストリートファイター」シリーズに新たな風を吹き込もうという気概が感じられる。そして「スト6」の発売は、格闘ゲームeスポーツシーンの新たな章の幕開けになることは間違いない。今まで格闘ゲームに興味はあったが中々手が出せなかったという方は、是非本作の発売に合わせて格闘ゲームの世界に飛び込んでほしいところだ。