【特別企画】

全てのサイバーパンクの“始祖”たる小説「ニューロマンサー」を読んで、「サイバーパンク2077」の世界の基礎を学ぼう!

発売日:12月10日予定

価格:
通常版 7,980円(税別)

 本当に待ちに待った「サイバーパンク2077」の発売が迫っている。もう待ちきれない、という人も多いだろう。しかし発売日は12月10日、これより先にこの世界に飛び込むすべはない。そこで、ゲームの発売の前にこの「サイバーパンク」という世界を一足先に満喫できる小説「ニューロマンサー」をぜひ薦めたい。

 「ニューロマンサー」、ウィリアム・ギブスンというカナダの作家の書いたSF小説だ。最初の刊行は1984年、今から36年も前だが、この小説が「サイバーパンク」を生んだのだ。この小説が起爆剤となり、様々な作家・アーティストがギラギラとした混沌の未来世界を作り、その世界で生きる人々を、様々なイメージを描いた。その世界は直接的、間接的に現代のあらゆるエンターテイメントに取り込まれている。

今回紹介する小説「ニューロマンサー」は、日本での翻訳版の刊行は1986年。Kindle版も出版されており現在でも入手しやすい。価格は772円(税込)

 サイバーパンクは1980年代から1990年代にかけて大きく流行した。「攻殻機動隊」、「マトリックス」、「スノウクラッシュ」、「銃夢」、「アキラ」など様々な作品にその影響がある。そしてそれは発展するコンピューターゲームやCG作品、コミックや小説、TRPGなどに影響を与えた。この時代学生から大人になった筆者はモロにこれらの作品に影響を受けた。

 そういった中で筆者は「ニューロマンサー」を読み、サイバーパンクの“原初”を知り、大いにハマったのだ。そういう背景を持つ筆者にとって、6月の試遊会で筆者が「サイバーパンク2077」をプレイした時感じたのは、「ついに見て触れる“サイバーパンク”の世界が現われた!」というものだった。

 ジャックイン、サイバネティクス、神経ブースト、企業国家、怪しげな人々、コネ……純度100%のサイバーパンク世界が目の前に広がり、実際にその世界を冒険し、登場人物として様々な事件に関わり、そして世界の根幹に触れるような大事件に直面する。サイバーパンク小説を読んだり、TRPGで友人と遊んだり、映画などで夢想した「あの世界で生きる感覚」を「サイバーパンク2077」では体験できたのだ。それは筆者が昔見た「サイバーパンクの世界で生きてみたい」という夢を叶えてくれた興奮を確かに感じさせてくれた。

 そしてもう1つ、映画「ブレードランナー」はサイバーパンク作品の代表と言える作品であるし、本作のイメージにおける大きな影響を与えた作品だ。しかし今回敢えて「ニューロマンサー」1本に絞ったのは、本作がまさにその後の様々なサイバーパンク作品に影響を与えた作品であり、“原初”だからだ。もちろん「ニューロマンサー」も様々な過去の作品がなければ存在し得ない小説であるが、「ニューロマンサー」が提示した方向が、「サイバーパンク」という文化に結晶化したことは確かなのだ。

 「ニューロマンサー」は今や古典であり、その提示する未来は現代とは大きく違う。文体はパンク過ぎて、正直ちょっと読みにくい。しかし、そこから生まれた強烈なイメージ、広がる世界観、この世界そのものの魅力はいつまでも色あせない。今回「サイバーパンク2077」が発売される今だからこそ、「ニューロマンサー」を薦めたい。サイバーパンク作品の源流を作った本作の魅力を改めて語り、「サイバーパンク2077」への期待を高めて欲しいと思う。

新たなフロンティア“電脳世界”、そのめくるめくイメージを提示した作品

 「ニューロマンサー」は“千葉”から始まる。東京の隣にある千葉県千葉市である。海外の有名なSF小説に日本の実在の地名が出るというのは、やはり楽しい。「ニューロマンサー」の主人公ケイスはこの地に流れ着いてきたのだ。

 ケイスはかつて「サイバースペース・カウボーイ」だった。最高のコンピュータデッキを媒介として広大なネット世界にジャック・イン(接続)、失敗すれば接続した人の神経を焼く氷(アイス)をくぐり抜け企業から情報を盗み、雇い主に売る、腕利きのカウボーイだった。しかしケイスはある情報をくすね、不当に売り払おうとした。雇い主はケイスに最も残酷な復讐をした。彼にソ連製の真菌毒を注入し、ジャック・イン能力を奪ったのだ。

「サイバーパンク2077」の舞台は“ナイトシティ”という名前だが、「ニューロマンサー」の物語のスタートであるチバ・シティも同じくナイトシティと呼ばれる。頽廃的な雰囲気が小説世界を強く思い起こさせる

 それから1年、ケイスは世界最高の闇の神経クリニックが集まるチバ・シティでゴロツキ同然の生活を送っていた。持っていた資金・新円(ニュー・イエン)はあっという間にすり減り、安宿でドラッグに溺れ、安い依頼をこなす(殺人まで)人間になっていた。それでも夜ごとに見るのはサイバースペースの夢。彼は完全に“墜ちて”いた。

 しかし1人の“サムライ”が彼の運命を変える。ミラーグラスを埋め込み生身の瞳を絶対に見せず、体中に武器を埋め込み、神経を高速化した女用心棒(サムライ)モリイと軍人上がりを思わせる謎の男アーミテイジが彼をその境遇から救い出す。神経毒で破壊された神経を修復し、最高のサイバースペースデッキ「オノ=センダイ・サイバースペース7」を与え“仕事(ラン)”を依頼してくる……。

 そして溢れ開いてケイスを迎え入れる。流体ネオン折紙効果。広がるは、距離のないケイスの故郷、ケイスの地、無限に延びる透明立体チェスボード。内なる眼を開けば、段のついた紅色のピラミッドは東部沿岸原子力機構。その手前の緑色の立方体群はアメリカ三菱銀行。そして高く、とても遠くに見える螺旋状の枝々は軍事システムで、永久にケイスの手には届かない。
 どこかでケイスが笑っている。白塗りのロフトだ。遠くの指がデッキをいとおしみ、解放感の涙が頬をつたっている。

 小説から引用したこの文章は、ジャック・イン能力を取り戻し、ケイスがサイバースペースに“帰還”を果たした時のものだ。「ニューロマンサー」では“電極”を通じ視覚でサイバースペースを捉えることができる。カウボーイはデッキを操作し、そのテクニックで様々なシステムを守るアイスを突破し、企業のコンピュータから情報を盗むだけでなく、企業の建物に侵入しドアや警備システムに干渉する。

 また、対象が受信機を持っていれば視覚を“借りる”こともできる。実働部隊のモリイの視覚に同居し、ケイスはターゲットの深奥部に潜入、モリイをバックアップする。ケイスはそうしながらもサイバースペースに戻ったり、現実に戻り、仕事をこなしていく。モリイにはこちらからは何のアクションをすることができないが、感覚も共有している。荒事でモリイが足を骨折してしまった時、ケイスはアジトでデッキを操作しながらその痛みに悲鳴を上げてしまう。

 こういった表現は現代のエンターテイメントでは一般的とも言えるだろう。そのイメージを与えた“始祖”ともいえる作品が「ニューロマンサー」なのだ。もちろんサイボーグの概念などはこの前からあるし、謎めいた展開はスパイアクション、コンピューターの幾何学的描写などは急速に発展していくコンピュータゲームなどの影響も見て取れる。

 しかし、1984年と言えばファミコンが生まれて1年、非常に先鋭的なユーザーがパソコン通信を始めているような時代だ。執筆時期はコンピュータゲームが大きな動きを見せるころであろう、だからこそ「ニューロマンサー」はそのイメージを具体化することでその時代のクリエイター達の心を大きく揺さぶった。

「サイバーパンク2077」では、プレーヤーのスキルを強化することで様々な専門家に育てられる。プレイスタイルも大きく変わってくる

 映画「マトリックス」は、企画時は「ニューロマンサー」の映画化を目指していたという。士郎正宗の「攻殻機動隊」は「サイバーパンク文化」の独自性、可能性を日本の多くの読者に提示した作品とも言える。“電脳世界”という新たなフロンティアは多くの人を揺さぶった。この機会にその原初である「ニューロマンサー」を読んでおくのも、サイバーパンクの基礎知識として、大事なことではないだろうか?

身体に近接武器を埋め込むパワー型のキャラクターにも育てられる。モリイをイメージした埋め込み型のミラーグラスもあるだろうか

 「サイバーパンク」のビジュアルに大きく影響を与えた作品としては、間違いなく1982年に公開された「ブレードランナー」が挙げられる。「ブレードランナー」はフィリップ・K・ディックの1968年のSF小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」を原作としている。

 「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」は人間とアンドロイド(人造人間)との対比を描くことで人間を問うことがテーマである。このテーマはサイバーパンク作品でも多用されるテーマではあるが、「人間と機械の融合」、「コンピューター世界という新たなフロンティア」というサイバーパンクの大きなテーマがまだ盛り込まれていない。このためディックはサイバーパンク文化に多大な影響を与えた人物だが、彼の作品はサイバーパンク以前と定義されている。

「ブレードランナー」は、ディックの小説を原作としながら、そのビジュアルイメージは原作とは異なる新しい未来世界を提示した映画と言える。ちなみに筆者は人間性を深く見つめ、人間の繋がりと愛へ向かっていく「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」の原作のストーリーテリングとテーマが大好きである

 一方、「ブレードランナー」の特に街のビジュアルはサイバーパンク文化に極めて強い影響を与えた。正直、原作である「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」では「ブレードランナー」の混沌と活気に溢れる風景は浮かばない。小説で提示される世界は“核戦争後の放射能で少しずつ滅んでいく灰色の世界”であり未来世界としてはかなり閉じたイメージだった。「ブレードランナー」は小説とは大きく異なるどぎついネオンや派手なアジア風風景というテイストを加え、斬新な未来世界を作り出したのだ。

 「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」を原作としながら、独自の、活気と退廃という相反するイメージを提示し、それがサイバーパンク文化を大きく刺激し、「新しい未来世界」を提示した。サイバーパンクの街は「ブレードランナー」が最初を作ったと言っても過言ではないだろう。「ニューロマンサー」はサイバーパンクの“原初”であるが、この作品だけがサイバーパンクではない。様々なアーティスト達の強力な創造力が、サイバーパンク文化を形成しているのだ。

「ニューロマンサー」が切り開いたサイバーパンクTRPGと、新たなロマン

 そして「サイバーパンク2077」である。本作はTRPG「サイバーパンク2.0.2.0.」の世界から50年以上経った世界が舞台となっている。「サイバーパンク2.0.2.0.」の重要人物の1人・ジョニー・シルヴァーハンドは「サイバーパンク2077」において、まさに“鍵を握る人物”として主人公V(ヴィー)の前に現われる。

 現在日本では「クトゥルフ神話RPG」や「ダンジョンズ&ドラゴンズ」など様々な作品が積極的に刊行されており、ブームとなっている。筆者は1980年代後半からのTRPGのブームを体験している。「ダンジョンズ&ドラゴンズ」、「ソードワールドRPG」など様々な作品が刊行された。

 筆者は主にホラーやミステリーがテーマの「クトゥルフの呼び声」や、ダークファンタジーの「ストームブリンガー」に夢中になったが、サイバーパンクも人気のジャンルだった。筆者がプレイしていたサイバーパンクは「メタルヘッド」と、「トーキョーNOVA」だった。

ファンタジーRPGの“武器屋”の様に人体を改造する“サイバネティック医師”が登場するのが「サイバーパンク2077」の世界だ

 筆者はこのサイバーパンクTRPGの“基礎知識”として「ニューロマンサー」を読んだ。前述したが「ニューロマンサー」はまさにゲーム文化が大きく花開く時期に執筆された小説であり、非常にゲームっぽいのだ。カウボーイ、サムライといったプレーヤーの役割を定義する“職業”の概念。様々なコネを持つ依頼主、街の情報屋、現地の無法集団を動員する手配屋などのNPCの定義……。これらをルール化してゲームに取り込み、自分だけの「サイバーパンク物語」を作りたい、という気持ちはとてもよくわかる。だからこそ「ニューロマンサー」をお手本に様々なコンテンツが生まれた。

 「サイバーパンク2077」は“TRPGの匂い”もとても楽しい。従来のゲーム以上にキャラクターに対する“設定”が細かいところは特にTRPGっぽさを感じる。キャラクターの生い立ちを「ストリートキッド」、「ノーマッド」、「コーポレート」の3つから選ぶところや、スキルやパークによるキャラクタークリエイトの選択肢の多さもルールブックを何度も読み直しながら、キャラクターシートに様々な情報を写していたTRPGならではの面白さと、複雑さを感じさせる。

 さらに“シナリオ”だ。「ニューロマンサー」は世界観と共に、雇い主も誰も信用できないダークで謎めいた展開が衝撃的だった。このため「ニューロマンサー」から生まれたサイバーパンクTRPGはプレーヤー達を使い捨てにしようとする雇い主が多く登場するダークなシナリオが多かった。企業間抗争、それを利用してのし上がろうとする小悪党、人知を越えた存在になりつつある電脳世界の住人達……様々な人間の思惑がプレーヤーを翻弄し、さらにはプレーヤーごとに与えられた「秘密の目的」があったりする。お互いの腹を探りながら協力して仕事(ラン)を進めていく楽しさが、サイバーパンクTRPGにはあった。

怪しげな依頼人はサイバーパンクものでは定番と言える存在だ
企業に所属する者達はこちらを利用する駒としか見ていない

 「サイバーパンク2077」にもこの雰囲気はしっかりと受け継がれている。プレーヤーが手にする“この世界の鍵”は50年以上も前に世界に影響を与えていた伝説的ロッカー、ジョニー・シルヴァーハンドだ。

 かれはVが奪取を依頼されたバイオチップの中にいた。Vは保管容器の破損というトラブルでそのバイオチップを自分のスロットに埋め込む。そして彼の目の前にジョニー・シルヴァーハンドが50年前そのままの姿で現われるのだ。Vはこのバイオチップを巡る争い、そしてジョニー自身の思惑に翻弄されることとなる。特にジョニーは50年の時を経て蘇った超自然の存在のようで、非常に興味深い。

キアヌ・リーブス演じる「ジョニー・シルヴァーハンド」。50年も前の伝説のロッカーが物語の鍵を握る

 「ニューロマンサー」も非常に奇妙な存在が関わってくる。1人は伝説的カウボーイのディクシー。彼自身は死んでいるのだが生前の情報をコンピュータデータ化され、サイバースペースでケイスの仕事を補佐する。そしてもう1つ、電脳世界で生まれた大きな存在が物語の鍵を握っている。人が意識ごと飛び込める電脳世界だからこそ生まれる人間の肉体に留まらない存在、まさに“新しいロマン”を提示しているところが「ニューロマンサー」のキモなのだ。

 ニューロマンサーという言葉は「死人使い(ネクロマンサー)」にもかけてある。“死人が電脳世界に残留し、さらに新たな生命体とも言える存在が生まれる”というサイバーパンク独特の“ファンタジー”も非常に重要な要素なのである。

 「ニューロマンサー」なくしてはサイバーパンクという文化、サイバーパンクTRPG、そして「サイバーパンク2077」も生まれなかった、と筆者は断言したい。「ニューロマンサー」は文体もパンクであり、キャラクターの行動は破滅的、突発的で読み進めるのが難しい。だからこそその新しさも含めて衝撃だった。ぜひこの“古典”を読んで、来たるべき「サイバーパンク2077」に備えて欲しい

【サイバーパンク2077 ― [日本語吹替版] ゲームプレイトレーラー】

 サイバーパンク作品で提示された未来のいくつかは、現代はいくつか達成している。「インターネットで自由に情報を引き出せる世界」は1980年代には到底考えられない世界だった。新聞やテレビといった限られた人だけが情報を発信する時代は終わりを告げ、ネット文化という新しい人間関係が生まれている。

 当時の作家が予想しきれなかった新しい時代を私達は生きている。実際サイバーパンクという響きは現代においてはいささかレトロな響きがある。なぜ開発者達はサイバーパンクというテーマを現代に蘇らせたのか? ここは大きな興味が惹かれるところだ。面白いことに「サイバーパンク2077」はある大きな事件により世界を繋ぐインターネットは存在しない。現代の我々とは大きく異なる世界を舞台にどのような物語が語られるのだろうか?

 サイバーパンク作品の究極のテーマは「テクノロジーは人間に何をもたらすか」にあると筆者は思っている。そして作品の面白さは敢えて極端な状況、物語を提示することで、読者(プレーヤー)にインパクトを与えることだ。「ウィッチャー3」では“人と魔物”、“善と悪”、“ファンタジー世界ならではの価値観”など様々なテーマで私達の心を揺さぶってくれた。「サイバーパンク2077」にも様々な衝撃を期待したい。