【特別企画】
“新しい生活様式”に対応したメーカー公認オンラインTCGイベントがスタート!
不正はどう防いでいる!? メーカー公認の店舗イベントに自宅から参加できる時代が到来
2020年5月27日 00:00
筆者は、これまで2回にわたって、新型コロナウイルスによって外出や店舗の営業が制限されている状況で、TCGコミュニティの取り組みについて紹介してきた。
最初の記事は4月頭に公開された、オンライン対戦のやり方を紹介する記事であり、DiscordやSkypeなどのビデオ通話機能を使って、TCGのオンライン対戦を行なう方法について解説した。
TCGのオンライン対戦は以前から行なわれていたのだが、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の発令後、オンライン対戦を行なうTCGプレーヤーが急増している。オンライン対戦環境を整えても、対戦相手が見つからないと意味がないが、オンライン対戦需要が高まったことで、対戦相手を探したり、交流を行なうためのDiscordサーバーが多数運営されている。
これらのDiscordサーバーは、TCGショップが運営しているものもあれば、プレーヤー有志が個人的に運営しているものもある。オンライン対戦相手の探し方とTCGオンライン対戦の現状については、5月上旬に公開された、記事で解説したが、その記事では、大手TCGショップのカードキングダムが運営するDiscord店が主催している、デュエル・マスターズのオンライン交流会に実際に参加した様子も紹介した。
その後も、Discordを利用したオンライン交流会や大会は増えているが、ポイントなのはそのほとんどが“メーカー非公認”のイベントであるというところだ。
これまでTCGショップのデュエルスペースやイベント会場などで行なわれてきたTCG大会の多くはメーカー公認のイベントである(メーカー公認ではなく、ショップが独自におこなっている非公認イベントもあるが)。公認イベントと非公認イベントの違いとは、文字通り、メーカーから公認を受けているかどうかで、公認イベントであれば、TCGメーカーからの賞品サポートが受けられるなど、メリットが大きい。
公認イベントは、毎月ショップからTCGメーカーにイベント開催の申告を行なうことで、TCGメーカーからプロモカードや公式サイトでの告知といったサポートが無料で受けられるようになっているのだ。公認イベントで入手できるプロモカードは、市販されているカードとはデザインなどが違っているため、イベント参加へのモチベーションとなる。その代わり、メーカーが決めたルールをショップ側が守る必要がある。
非公認イベントは、ショップや有志が自由に開催できるが、賞品サポートなどは受けられないので、イベント参加費の一部が賞品のコストとして使われるのが一般的だ。公認イベントは、無料で参加できるものや、100円や300円といった低価格で参加できるものも多く、参加者にとってメリットが大きい。つまり、Discordを利用することで、TCGをオンラインで楽しめるようになったといっても、公認イベントにオンラインで参加できるようにならないと、以前と同じようにTCGをプレイする環境が整ったとは言い難いのだ。
オンラインでも、メーカー公認イベントに参加して、プロモカードを入手したいというTCGプレーヤーは多かったが、オンライン対戦はその仕組み上、イカサマなどの不正行為を防ぐことは難しいため、メーカー公認イベントを実施するのは難しいと思われていた。しかし、TCGの元祖である「マジック・ザ:ギャザリング」(以下MTG)を開発・販売しているウィザーズ・オブ・ザ・コースト(以下WoTC)が、業界に先駆けて、プロモカードを入手できる公認イベントをオンライン上で行なうことを発表したのだ(プレスリリース)。TCGプレイ環境をオンライン化する最後のステップに到達したといってもいいだろう。
前々回の記事と前回の記事で、TCGをオンラインで楽しむ方法を解説してきたが、ついに公認イベントもオンラインで実施される時代になったというのは、筆者にとっても感慨深い。そこで今回の記事では、これまでオンラインで公認イベントが実施されなかった理由の解説や、日本初となるオンライン公認イベントに娘が参加したときの様子を紹介する。
賞品付き大会をオンラインで実現しにくい理由とは?
ここ数カ月で、TCGのオンライン対戦を楽しむプレーヤーは急増した。しかし、プロモカードなどの賞品が付く公認イベントをオンラインで開催することには、二の足を踏むTCGメーカーがほとんどであった。その理由は、オンライン対戦ではその仕組み上、イカサマなどの不正行為を防ぐことが困難だからだ。
残念ながら紙を使った通常のTCG大会においても、不正行為を働くプレーヤーは存在する。もちろん、そうした不正行為をしたことがない、不正行為をすること自体考えたこともないというプレーヤーが大多数なのだが、大規模大会では、上位入賞者に数十万円を超える賞金が出たり、世界に数枚しかない希少な(つまり高価で取引される)プロモカードが授与されることもあるため、あの手この手で不正行為を働くプレーヤーが後をたたない。不正行為が発覚したプレーヤーは、その大会から追放されるだけでなく、そのTCGの公認大会への参加を半年間または1年間禁じられるなど、厳しい措置がとられている。
オンライン対戦では、Webカメラで写る範囲が限られる上、ジャッジ(審判)が卓についてプレーヤーの動きを監視することもできないので、不正行為をしようと思えばいくらでもできてしまう。そのため、どうしても賞金やプロモカードなどを順位に応じて与えるという大会をオンラインで開催するのは難しいと考えられていた。
そうした事情もあり、Discordサーバーが多数建てられ、活発にTCGのオンライン対戦が行なわれている状況になっても、賞品サポートなどが付いたメーカー公認イベントがオンラインで開催されることはなかった(5月9日にはReバースのブシロード公認リモート大会が、5月16日と17日にはブシロードTCGをリモートで遊ぶブシロード公認イベントが開催されたのだが、参加無料で賞品もない交流会的なイベントである)。
そうした中、2020年5月19日にTCGの元祖である「マジック・ザ:ギャザリング」(以下MTG)の開発・販売元であるウィザーズ・オブ・ザ・コースト(以下WoTC)が、これまで店舗でおこなっていた公認イベントである「プレインズウォーカー・チャンピオンシップ」(以下PWCS)のオンライン版「プレインズ・ウォーカー・チャンピオンシップ in Discord」(以下PWCS in Discord)を、2020年5月23日、24日、25日、29日に実施することを発表した。なお、同時に初心者向けイベント「ティーチングキャラバン」のオンライン版「ティーチングキャラバン in Discord」も同時に発表されているが、こちらは紙のMTGではなく、デジタル版の「マジック・ザ:ギャザリング アリーナ」を利用するイベントなので、ここでは割愛する。
MTGは世界中でプレイされているTCGだが、PWCSは、2019年に開始された日本限定イベントであり、PWCS専用のプロモカードが賞品として用意されている。新型コロナウイルスが広がる以前は、MTGを扱うTCGショップでPWCSが開催されていたのだが、2020年4月8日~6月1日まで、すべての公認イベントが中止されることになり、PWCSも当然4月以降は開催されていない。
PWCS in Discordは、その日本限定の店舗イベントPWCSをDiscrodを利用して行なうというものであり、PWCS専用プロモカードもイベントを開催する各店舗に配布される。また、紙のPWCSもそうだが、参加者から参加料を集めて行なわれるイベントであり、これまで各ショップがおこなってきた非公認のオンラインイベントから、さらに一歩踏み出した画期的なイベントであり、TCG史に残るエポックメイキングな出来事といえるだろう。
5月19日に発表されたPWCS in Discordの実施店舗は全国で6店舗のみとごく限られた開催となるが、今回は初めての試みであり、テスト的な意味合いもありそうだ。状況次第でこうしたDiscordを使ったイベントを増やしていく予定とのことだが、そのアナウンス通り、5月25日には、別の8店舗とピットインでの2回目の開催がアナウンスされ(日時は5月30日および31日となる)、あわせて5月末までに全国14店舗で延べ15回開催されることになる。
ちなみにオンラインで公認イベントが開催されるのはいいが、不正行為への対策はどうなっているのか気になる方もいるだろうが、結論からいうと、PWCS in Discordでは特に不正行為への対策が取られているわけではない。
現状のWebカメラやスマホを利用したオンライン対戦では、どうしてもカメラに映らない死角が存在するため、完全に不正行為を防ぐことは不可能である。WoTCは、MTGプレーヤーの良識を信じて、イベントを企画したのであろう。しかし、そうはいっても、特別なプロモカードが大会優勝者や上位プレーヤーに授与される従来の形式では、高価なプロモカードほしさに不正行為を働くプレーヤーが出てくる可能性は否定できない。そこで、PWCS in Discordでは、大会結果(最終順位)に関わらず、参加者全員の中から抽選で、上位賞のプロモカードが配布されるというルールに変更されている。つまり、1位になっても優勝プロモカードがもらえるわけではないというのは、競技志向のガチ勢には物足りなく感じられるかもしれないが、カジュアルなプレーヤーにはありがたいし、景品欲しさの不正行為への抑止にもなるだろう。
WoTCとしても、この点は議論を重ねたものと推測されるが、今回は競技性を追求するよりも、紙のデッキで実際に対戦できる機会を作ることが、TCGプレーヤーのためになると判断したのだろう。勝っても負けても、プロモカードを手に入れられるチャンスが変わらないのであれば、見つかるリスクをおかしてまでわざわざ不正行為を働くプレーヤーは少ないだろう。
ピットインが開催した「プレインズ・ウォーカー・チャンピオンシップ in Discord」に娘が参加
続いて、今回はピットインが開催したPWCS in Discordに娘が参加したので、その様子をレポートしたい。ピットインは、東京都江戸川区にある玩具店で、各種TCGはもちろん、ベイブレードや爆丸などの競技系玩具のイベントも多く開催しており、古くから地元住民を中心に愛されているショップである。また、常連のTCGプレーヤーのレベルも高く、プロツアー参加者も輩出している有名店だ。ピットインは現在、緊急事態宣言が発令されたことで店舗は一時休業中であるが、紙でも遊びたいというTCGプレーヤーの要望に応えるために、PWCS in Discordを開催することになった。
以前の紙でのPWCSは、店舗によっては100人近い規模で開催されたこともあったが、今回はすべてオンラインで行なうこともあり、定員16名と比較的小規模での開催となった(他のPWCS in Discordも定員16名が多いが、定員32名で実施されるところもある)。MTGでは、使えるカードの範囲によっていくつかのフォーマットが決められているが、PWCS in Discordでは、最もカードプールが狭いスタンダードフォーマットで行なわれる。また、MTGはサイドボード(メインデッキとは別に最大15枚までのカードを用意しておき、1戦目や2戦目の終了時にメインデッキのカードと交換できる)があるTCGであり、通常はBO3(Best of 3、3本勝負で2本先取したほうが勝ち)ルールで行なわれる。しかし、PWCS in Discordでは、開催者がBO1(Best of 1、1本勝負)にするかBO3にするかを選べるルールになっており、ピットインではBO1を採用した。BO1だとサイドボードが不要で、勝負も短時間で終わるので、初心者でも気軽に参加しやすい。
PWCS in Discordのイベント自体は、各店舗が運営しているDiscord上で行なわれるが、参加申し込みの方法は店舗によってさまざまである。ピットインの場合は、TwitterのDMで申し込むことになっていたが、定員が少なかったこともあり、受付開始から数時間で定員がすべて埋まった。参加費は1500円で、銀行振り込みで行なう仕組みであった。参加費を振り込んだ時点で、正式に参加が確定する。参加費が1500円といっても、参加賞として全員にPWCSプロモカード「覆いを割く者、ナーセット」が1枚と最新パック「イコリア:巨獣の棲処」(日本語)が3パック配布されるので、参加するだけで元はとれる。なお、本来、PWCSでは上位賞としてベスト8にPWCSプロモカード「世界を揺るがす者、ニッサ」1枚が、優勝者に「戦慄衆の将軍、リリアナ」1枚が追加で配られるのだが、前述したように、PWCS in Discordでは順位を問わず、ランダムでこれらの上位賞プロモカードが配布される。通常の大会とは異なり、勝てば必ず上位賞がもらえるわけではないので、不正行為の抑制になると考えたのであろう。また、参加人数を問わず、大会は確定3試合で行なわれる。
前回の記事では筆者が自分でイベントに参加したが、今回は筆者よりもはるかにMTGが上手な娘に参加してもらった。娘は、MTGのオンライン対戦経験や、紙での公認大会などへの参加経験はそれなりにあるのだが、WoTC公認のオンラインイベントへの参加はもちろんはじめてであり、楽しみにしていたようだ。娘は最近、スタンダードよりもモダンやパイオニアに力を入れており、スタンダードのデッキはちょっと微妙なものしかなかったのだが(マルドゥ騎士だが、土地基盤が弱かったり、エンパレスの宝剣が2枚しかないとか)、あくまでも交流会的なイベントであるということで、勝ち負けを気にせずに対戦を楽しむように伝えた。
当日は13時から開始だが、10分前にはピットインのDiscordサーバーに入り、「抽選会場」チャンネルで待つように指示が出された。「抽選会場」チャンネルで、主宰者のピットイン高宮店長から開会の挨拶がおこなわれ、「組み合わせ発表」チャンネルで1回戦のマッチングが発表された。ピットインのPWCS in Discordでは、あらかじめ対戦用テーブルが8つ用意されており、指定されたテーブルに入ることで、自動的にビデオ通話が開始される。DMで対戦する場合と異なり、フレンド登録などをしなくてすむので、非常に楽だ。また、対戦中にピットインのスタッフが様子を見にくることもあった。対戦が終わったら、勝ったプレーヤーが「結果報告」チャンネルに行き、結果を報告する。
今回はBO1で開催されているため、制限時間は30分と短めで、制限時間が終了すると即引き分けというルールである。予定通りに大会は進み、3回戦終了後、抽選会がおこなわれ、追加でプロモカードがもらえる9名が発表された。なお、参加賞や追加賞品については、後日ピットインの店頭で受けとることになっているが、他のPWCS in Discordでは、郵送に対応しているところもある。
公認オンライン対戦イベントが広がることを期待
今回のPWCS in Discordは、ピットインとしても初めての経験のはずだが、運営はとてもスムーズで、参加者もオンライン対戦に慣れている方が多かったようで、まったくトラブルなく進行した。WoTCとピットインとの間で、事前の準備や打ち合わせなどがしっかりなされていたのだと思われる。
肝心の娘の戦績は1-2(1勝2敗)とイマイチだったが、2戦目は相手のライフを1まで追い詰めたので、かなり惜しかった。完成度の高いデッキを使っていたプレーヤーが多かったようで、娘が使っていたカジュアルなデッキでは大体予想通りの結果であった。また、最後の抽選会も残念ながら外れてしまったが、本来なら上位プレーヤーに贈られるものなので、外れて多少がっかりはしていたが、納得はしていたようだ。娘に、イベントの感想を聞いたところ、「マッチングや対戦、最後の抽選会も予定通りに行なわれ、これまでの対面での店舗大会とあまり変わらない感覚で参加できた。参加者も皆さんマナーが良くて楽しかったので、また機会があったら参加したい」とのことだ。前述したように、5月25日に、PWCS in Discordの開催が9回追加されたが、TCGショップ支援の意味合いもあり、今後もこうしたオンラインでの公認イベントが増えていきそうだ。
緊急事態宣言は解除されたが、以前のようにTCGショップで大会が開催されるようになるまでには、まだしばらくかかりそうだ。前述したように、TCGのオンライン対戦では不正行為を防ぐことが困難であるため、競技性の高い大会を行なうのは無理だろうが、今回のPWCS in Discordのように、勝ち負けだけを競うのではなく、交流を目的としたイベントでプロモカードがもらえるというのは、カジュアルプレーヤーにとってはとても魅力的だ。
新型コロナ終息後も、店頭大会と平行して、こうした公認のオンライン対戦イベントが行なわれるようになれば、大会をやっているTCGショップが近くにない方や、時間が合わないという方も参加できるようになる。また、オンラインで予選を行ない、決勝は店舗でオフラインで行なうといった形も考えられる。
不正対策については、結局のところ、TCGプレーヤーの良識に委ねるしかないというのが筆者の考えだが、TCGプレーヤーの全体の意識次第で、イカサマプレーヤーを減らすことは可能だろう。紙を使った対面での対戦はもちろん、オンラインでも不正行為を働くことは恥ずべきことであり、TCGプレーヤーの資格がないという認識が広まれば、不正行為を行なうプレーヤーも減るはずだ。不正行為への決定的な対策がない以上、オンライン対戦が完全にオフライン対戦の代わりになるとはいえないかもしれないが、順位に関係なく抽選でプロモカードがもらえたり、スタンプカード形式で、複数回参加することでプロモカードなどがもらえるような仕組みなら、参加しようと思うTCGプレーヤーは多いのではないだろうか。
TCGのオンライン対戦は、TCGにおける「新しい生活様式」といえる。業界の先陣をきったMTGに続いて、他のTCGでもこうした流れが広がることを期待したい。