【特別企画】
「Logicool G Cup 2019」、「フォートナイト」大会の最終結果はなぜひっくり返ったのか!? その経緯と背景にあるものとは
2019年12月20日 00:00
- 【Logicool G Cup 2019】
- 11月23日開催
11月23日、日本のeスポーツシーンにおいて残念な出来事が起きた。「フォートナイト」を競技種目に行なわれた「Logicool G Cup 2019」において、各試合のスコアで計測ミスが発生し、最終結果が大会終了後に入れ替わったのだ。
大会終了から4日後の11月27日に、弊誌を含めたメディア、関係者に訂正の連絡があり、公式サイト上でも改めて正しいスコア、最終順位が発表された。筆者が「ん? これはおかしいぞ」と思ったのは案内のメールの文面に、経緯の説明がないまま「ご理解の程、よろしくお願い致します」とまとめられていたことだ。念のため公式サイトを覗いても、なぜそうなったのか経緯の説明がない。“ご理解”とは誰に対するメッセージなのか。
今年で5回目を迎えた「Logicool G Cup」は、あえてプロを排し、アマチュア大会であることにこだわり続け、“プロへの登竜門”としてボトムからeスポーツを支えてきた伝統のある大会だ。主催であるロジクールは、Logicool Gを展開するペリフェラルメーカーでありながら、大会参加に際して特に使用デバイスを自社製に強制したり制限することもなく、純粋に手弁当でアマチュアeスポーツシーンを支えている。プロのeスポーツ大会のように煌びやかさはないものの、日本のeスポーツシーンにとってなくてはならない存在であり、eスポーツを扱うメディアとして大切にしたい大会の1つだ。
それだけに、今回の件は率直に言えば、「Logicool G Cupが今まで大切に積み上げてきたものがガラガラと崩れようとしている」と感じたし、eスポーツを扱うメディアとしてこれを“ご理解”したらダメだと感じた。
なぜなら、経緯の説明がなくブラックボックスのままということは、訂正後に至ってもスコアが正しいという客観的な証明ができない。本大会は5位までに、「北米ブートキャンプツアー」という、極端に言えば、アマチュア選手のアスリート人生を左右するような副賞が用意されているが、訂正後も5位までの顔ぶれに変更がないものの、万が一、ここに作為が存在すれば、これはもう大スキャンダルになる。ブラックボックスで結果が発表され、そこに作為があるようなら、それはもうスポーツでも何でもないからだ。
そこで筆者は、訂正を依頼してきた代理店に、結果を訂正すれば済む問題ではないと考えていることを伝え、経緯の説明を求めたところ、大会を主催したロジクールと、大会の運営を担当したJCGより直接説明を受けることができた。本稿ではその内容を整理してお伝えしたいと思う。
原因は観戦モードなし&手計算によるヒューマンエラー
まず、本大会で何が起きたのか説明しておきたい。大会の模様については11月24日に掲載した「Logicool G CUP 2019」レポートを参照いただきたいが、当日2位と発表されたDiscentra.jp選手と、3位と発表されたNEXUS.shushupiy選手の2名の出場選手で集計ミスが発生し、Discentra.jp選手が1位、NEXUS.shushupiy選手が4位と訂正された。この結果、当日1位と発表されたRikki選手は2位となった。
次に間違えた内容については、Discentra.jp選手は1試合目のスコア(9位、6キル、11ポイント)が丸々抜けており、NEXUS.shushupiy選手については3ポイント誤加算があったという。これは大会終了後、Discentra.jp選手から指摘があり、再計算したところ発覚。合わせてNEXUS.shushupiy選手にも集計漏れがあったことが発覚し、合わせて発表となった。
最終結果を記した1枚のメモがある。大会終了直後に参考のためにメディア向けに共有されたものだ。これはあくまで実際の集計に使ったメモではなく、速報用にその集計結果をメディア向けに書き写したものということだが、スコアがこんな状態で集計されていて大丈夫なのか思った。訂正後の結果と見比べると上記2人の誤りに加えて、当日1位と発表したRikki氏のスコアも1点間違えていることがわかる。
JCGの大会責任者である管野辰彦氏には、「なぜこういうことになったのか」について、30分近くに渡って説明を受けた。すると水面下で驚くほど多くの想定外の事態が多発し、それが結果として集計ミスに繋がっていたことがわかった。
筆者は大会を観戦していて、試合ごとにスコアが出ないことに違和感を感じたが、観戦中はあえて出さずに最終結果を楽しみにさせる演出だと捉えていた。実際は、本大会にはいわゆる観戦モードが使用できず、出そうにも出せないことを、説明を受けてはじめて知った。
観戦モードとは、高校生eスポーツ大会「STAGE:0」の「フォートナイト」部門や、「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS(PUBG)」の日本リーグ「PJS」等で採用されている大会専用モードで、第三者の視点から試合が観戦できるだけでなく、スコアの管理なども行なえるなど、大会の配信に最適化された機能を備える。
本大会では、事前に開発元のEpic Gamesより観戦モードが使用できないことが告げられていた。そこでJCGは「通常モードのデュオ」を用い、被撃破者の画面を利用して観戦画面を構築する計画だったという。
しかし、関係者の間でディスカッションした結果、「アリーナモードのソロ」に変更することを余儀なくされたという。なぜデュオではなくソロになったのかというと、いくつか理由があるようだが、大きな理由の1つはそもそも大会モードであるアリーナにはデュオがなかったためで、ソロへの変更が決まったのは、エントリー発表の直前だったという。
大会開始直前になって大会モードが使えず、デュオがソロに変更になる。大会運営経験者だったら戦慄するような事態だ。なぜなら、大会モードが使えないということは、ゲームAPIを使った正確なスコアの入手ができず、すべて手動での集計になるだけでなく、デュオがソロになるということは、計算しなければならない対象が倍になる。しかも、1試合あたりの参加人数はたっぷり99人だ。
集計はどのようにして行なわれたのか。集計担当は現場担当、リーダーを含めて12人。ピーク時は15人確保したという。これは多いのか少ないのか。今回筆者は、JCG以外のeスポーツ大会運営会社にも、そのあたりがどうなっているのか取材したが、この数字は決して少なくないどころか多いぐらいだった。つまり、JCGは大会モードが使えず、デュオがソロになったことを踏まえてしっかり増員を図っていた。
管野氏が「誤算だった」と語ったのは、集計担当がスコアの集計に専念することができず、「ゲームが起動しない」、「マウスが認識しない」、「ネットに繋がらない」といった参加選手に対するテクニカルサポートのケアにも集計担当のリソースを割かれてしまったことだという。
ここは補足説明がいるだろう。通常プロの大会では、大会前日に機材を持ち込み、マシンセッティングを行なう。「PUBG」のように選手ごとにマシンが用意されている場合は設定後はそのままスクリムになだれ込み、1戦ごとにマシンを使用する選手が替わる場合は、保存した登録データをストレージに保管し、運営側が管理する。なぜプロの大会がわざわざコストを掛けて前日にマシンセッティングを行なうかというと、大会開催に支障が出るようなリスクを回避するためだ。
マシンセッティングはすんなりいけば1チームあたり30分から1時間程度、交代で処理しても数時間もあれば十分行なえる。ところがeスポーツの誕生から20年以上が経過した現在でも、未だに土壇場でPCが起動しなかったり、ゲームが上手くアップデートできなかったり、ネットに繋がらなかったりする。そうなると運営サイドは事前に用意した新しいマシンを持ってきていちセッティングし直すことになるが、それだけで1~2時間は軽く掛かってしまう。選手達はその間ずっと待っていなければならないことが多く、筆者もそういった現場に立ち会うことがよくあるが、プロ選手が国際大会で結果を残すために必要な資質は“忍耐力”だと思うことがよくある。
話を戻すと、「Logicool G Cup 2019」は、アマチュア大会として前日のセッティングを行なうような余裕はないため、全出場選手達に機材持ち込みを許可した上で、当日の朝マシンセッティングを行なった。当日は参加選手達には9時に集合して貰い、9時半過ぎには会場入り、10時過ぎ頃からセッティングを開始してもらったという。セッティングには2時間半ほどの余裕を見て、12時半オープニング、12時45分第1試合開始の予定だったが、「全然間に合わなかった」(管野氏)という。
その結果、当初第2試合目と第3試合の合間に行なう予定だったCrazy Racoonらによるトークショウを前倒しして行なうことでマシンセッティングの時間を作り、無事大会開始にこぎ着けた。それでも開始は90分ほど遅れ、本来スコア計算を行なうはずだったトークショウの時間はなくなり、試合間のインターバルも短くなり、集計スタッフにとって大事な時間が失われてしまった。機材制限無し、前日セッティングなしがもたらしたアマチュア大会がゆえの玉突き事故といっていい。
集計方法については、1人の担当が十数台ずつ受け持ち、リーダーがそれをとりまとめるという原始的な方法で行なわれていた。スコアの確認方法は、各プレーヤーに結果画面のキャプチャ取得を依頼し、その画面の内容を集計担当が記入するという手順だった。
ちなみに同じバトルロイヤルゲームのトップリーグで採用されている集計方法は、驚くほど精密なものだ。まず、各チームから申告された試合結果を元に、複数人がそれぞれ別のシートを使って結果を入力する。その後、スタッフ間でシートの内容を照合し合い、不一致なら再計算、一致していれば映像チームにデータを渡す。映像チームが入力した結果画像とシートを再度チェックし、一致していればMCが発表という手順を踏む。さらにその後ゲームAPI側から吐き出された結果を見て、万が一結果画像と違いがあればタイミングを見てお詫びと共に訂正を行なう。
筆者はあの結果発表までの短い時間にここまでのプロセスを経ていることに驚かされたが、もっと驚いたのはここまでやっても「年単位で見たらミスは発生している」という事実だ。バトルロイヤルタイトルのスコア集計はかくも大変で神経を使う仕事であることを実感させてくれる。であればなおのこと、「Logicool G Cup 2019」は集計ミスに気づいた後、スコアと順位を訂正するだけでなく、何故そうなったのかしっかり経緯を説明すべきではなかったのか。
なお、この取材したケースで、なぜゲームAPIから吐き出されたスコアを最初から使わないのかというと、試合が終わった瞬間にすぐ吐き出されるのではなく、一定時間掛かるためだという。APIによる出力がほぼリアルタイムになるまで、大会運営側は手動計算に頼らなければならないわけだ。
ところで、「Logicool G Cup 2019」はどのようにして集計ミスに気づくことができたのか。これについても謎に包まれたままだったが、答えは当日2位と発表され、実際は1位だったDiscentra.jp選手の指摘によるものだという。
Discentra.jp選手はどの時点で集計ミスに気づいたのか、また今回の集計ミスをどのように捉えているのか取材した。
まず、気づいたタイミングについては結果発表時点だったという。
「3試合目が終わった時点で優勝したと思ってました。1、2試合目が終わったあとは他の方の機材トラブル等もあったためにリプレイを見る時間があったので、だいたいトップ付近の点数は把握していました。1試合目時点では5位以内に入っていて、2試合目は良い成績では無かったですが大きくリードはされていないのも分かりました。そこで3試合目で最多キル+ビクトリーロイヤルだったので優勝したなと思いました。恥ずかしながら自分の確認ミスで予選通過者がもらえるアドバンテージポイントがどのような形で付与されるのか把握しておらず(内容は通過者は一律+10pt)、結果発表で直接名前を呼ばれるまでは入賞かどうかは分からない仕様だったので、5位が30ptsポイントというのを聞いて結構危ないと思っていましたが、準優勝と発表されました。35ptsと言われたのですが、アドバンテージポイントがないと思っていたので『36ptsじゃないのかなあ?』と思いつつ、そのタイミングで違いますとも言えないのでとりあえず結果発表を終えました。
元から調べる予定でしたが、帰ってる途中で、自分が1位じゃないなら1位ってどのぐらいの成績だったのか気になり、結果発表の時点で聞いていたrikki君の順位ポイントが自分より少なかったので自分よりかなりキルしていないと駄目なことに気づきました。リプレイを見返すと明らかに自分よりキルが少ないのに加えてrikki君のポイントが+10されてるのに気付き、アドバンテージポイントの存在を知りました
自分の本当のポイントは46で、発表されたポイントは35だったので、アドバンテージポイントが足りないのに加えて1ポイント集計ミスしてるのでは?と思いましたが、実は自分は繰り上げ当選だったので、それは予選通過扱いにならず10ポイント貰えないのかというメールを運営者様側にしたところ、そもそも一試合目の点数(11ポイント)が加算されてなかったという話でした」(Discentra.jp選手)
大会の結果発表では2位と発表され、2位としてコメントしたにも関わらず、後日集計ミスで1位に繰り上がったことについて、Discentra.jp選手はどのような感想を持っているのだろうか?
「思うところはありつつも本当になにも感じなかったですね。優勝と発表されたら喜んでたのかもしれませんが、準優勝ですら出来過ぎだと自分では思ってたので悔しいとも思えず、しかし2位なので素直に喜べないのに加えて、さらにポイントのミスもあったので一周回ってと言いますか、本当に何も感じなかったです
自分のようなアマチュアというか成り上がりたい選手にとっては大会を開いてくれたこと自体に感謝していたので、初めての大会でいろいろ不備もありましたけどそれも含めて責める気とかも起きませんでした。それよりどうこの話が終着するのかがわからなかったのでそれが一番気になってました。自分としては良い形で終われたので良かったです」
最後に、大会を主催したロジクールと、大会運営を担当したJCGにコメントを頂いた。
「まずは今回JCGが、Logicool G Cupを担当させていただいた中で、あってはならない運営上のミスが発生したことをプレーヤー様、視聴者様、関係者様にお詫びしたいと想います。今回の経緯についてご説明させていただいた通りで、こういう経緯だからこうなってしまったんですと言い訳をするつもりはなくて、今後のeスポーツ業界において、この経験を活かしてよりよいシーンを作っていく。それを通じてよりよいプレーヤーを世界に送り出していくということを続けさせて頂いたらと思っております。JCGはメディアとしてユーザー様とのチャネルも開けておりますので、忌憚ないご意見、ご要望を寄せていただければと思います」(JCG 管野氏)
「Logicool G Cupを毎年開催していく中で、今年初めて『フォートナイト』を採用して、色んな方の期待、楽しみなどの反響が主催社側として凄く嬉しかったのですが、それに水を差すようなことが起こってしまって申し訳ありません。引き続きアマチュアeスポーツを応援していきたいので、またチャンス頂けたら、皆さんと派手に楽しくやっていけたらと考えております」(ロジクール 伊達玄四郎氏)
Discentra.jp選手からは、アマチュア選手らしい初々しい若干の戸惑いを含んだコメントを頂いたが、アマチュア選手は選手を守ってくれる組織も仲間もおらず、発信力も十分ではない。だからこそ、アマチュア大会でこのような順位が入れ替わるようなミスは避けなければならないと思う。
念のため、管野氏に発表された再集計結果の作為の有無を聞いたところ「すべて再集計しました。絶対にありません」と力強く語ってくれた。Discentra.jp選手ら5名の入賞者は自信を持って副賞のブートキャンプに参加できそうだ。このブートキャンプは、まだ具体的な詳細は決まっておらず、ブートキャンプ先のスケジュールと参加者のスケジュールを調整してから決めていくということだが、eスポーツ先進国である米国の最新eスポーツ環境の視察を考えているという。この5人から、あるいは参加者の中から新たな日本人プロeスポーツ選手が現われるのか、注目したいところだ。