【特別企画】

これはゲームか現実か……「Last Labyrinth」先行体験レポート

VRならではの演出がプレーヤーの心を動かす驚きの体験

 あまたは、11月13日にリリースされるPlayStation VR/HTC Vive/Oculus Quest/Windows Mixed Reality Headset用VR脱出アドベンチャーゲーム「Last Labyrinth(ラストラビリンス)」のメディア向け体験会を開催した。

 本作は「VR時代の新しいアドベンチャーゲーム」をコンセプトに開発され、VRだから実現できる世界観と、仮想キャラクターとのコミュニケーションを体感できるVR脱出アドベンチャーゲーム。謎の館に閉じ込められたプレーヤーが、謎の少女「カティア」と力をあわせて数々の謎を解きながら館からの脱出を試みるというストーリーだ。

 「Last Labyrinth」で筆者は物語とキャラクターに強く感情移入した。重要すぎる選択が怖すぎてできず、ギブアップしてしまった。筆者自身ここまで短時間で感情移入する体験は初めてだった。「Last Labyrinth」はどういった想いで作られたのか? 体験終了後に本作のプロデューサー/ディレクターの髙橋宏典氏にインタビューすることができた。体験レポートとインタビューをお伝えしたい。

【GARRETT: 『Last Labyrinth(ラストラビリンス)』第2弾トレーラームービー】

心臓バクバクで手汗がびっしょり、人生はじめての体験。

 体験会では椅子に座った状態でヘッドセットをかぶり、コントローラーを握る。本作はプレーヤーキャラクターが車椅子に拘束されているため、動かせるのは首と両手首から先のみ。ほかは動かしても全く意味がない。プレーヤーの意思表示は額に取り付けられたレーザーポインターを右の手に持っているコントローラーで点灯させて位置の指示、イエス・ノーを首のフリだけで答えるのみ。まず、動けないという時点でちょっとドキドキしてきた。

 ゲームがスタートすると目の前には暗闇の中に電気スタンドが立っており何かがぶら下がっている。なんだろうとマジマジと眺めてみると多分小さなぬいぐるみだろうか。暗闇の中でぼんやり見えるシルエットをレーザーポインターで指すとすっと白い手が伸びてきた。ここでもうすでにちょっとびっくりして手に汗がじんわりと滲んでいた。

 本作には全くチュートリアルがないので、本当に手探りの状態で進んでいかなくては行けない。このスイッチを押したらどうなるとか全くわからないのだ。ホラーゲームではないのになぜか不安が募っていく。

 伸びてきた手の主がプレーヤーのパートナーの「カティア」だ。しかし、彼女の話している言葉は全くわからない。ロシア語にも聞こえるしドイツ語にも聞こえる。ニコニコしながらなにか話しかけてくる「カティア」を見ながら更に不安にかられる。言葉が理解できないだけで人がいても不安は倍増することを改めて実感しただけだった。実際のところ「カティア」が話しているのはどの言語でもなく、ゲーム内のオリジナルの言語なので、本当にわからないものだそうだ。

 「カティア」が電気をつけてくれると小さな部屋だった。電気スタンドの他にはドアしかない。……ドアしかない。心の準備はできていないけれど、行くしかない。ドアをレーザーポインターで指すと、「カティア」がドアに近寄り指差してなにか話しかけてくる。意味はわからないけどとりあえず頷いてみた。「カティア」が近寄ってくると眼の前が真っ暗になった。もう全然頭の中が整理できない。

「カティア」は初対面からめちゃくちゃ健気

 目の前が明るくなると第一の部屋とでも言うのだろうか、左右2つの扉がある部屋にいた。どちらかに進まなくてはいけないようだが、ドアがロックされている。部屋の右側のドアの下には短い線路と電車が置いてあった。部屋には2つボタンの様なものが設置されているが、ボタンを押せばドアの鍵が開くのかもわからない。もしかしたら、ボタンを押すと急に床が抜けるかもしれない。本当に何もかもわからない。自分で動けないので、近くに行って見ることもできない。何が起こるのかわからない恐怖と自分で確認できない恐怖でもう心臓がドキドキし始めた。

 しかし、進まなければ、ゲームは始まらない。とりあえず右の部屋に入ることにして、多分コレだろうというボタンをレーザーポインターで指した。「カティア」が近寄って指を指してくれる。半分投げやりな気持ちでうなずいた。「カティア」がボタンを押した途端、電車が線路上を走り出し、ドアの鍵が開く音がした。開いてしまった以上進むしかない。ただ、筆者はこの部屋に入らなければよかったと今でも後悔している。

 入った部屋には床一面に線路が張り巡らされていた。そして不思議な位置にボタンがあった。あぁ、さっきのドアの前にあったにはこの前フリなのかなんて思っていたが、それより何より、この部屋はすごく嫌な予感がする。変な位置にあるボタンが気になる。そして一発では絶対解けそうにないパズル。失敗の匂いしかしない。

 しかし、引き返すこともできないので、無い頭でものすごく考えながら、いろいろ操作してみた。これでどうだと「カティア」にボタンを押す指示を出した時点で嫌な予感は的中した。ボタンを押した「カティア」がボタンがあった場所で手と首を拘束されてしまった。あ、やっぱりと思った瞬間、あることが脳裏をよぎった。もしこのまま「カティア」が死んだら、自分はどうなるんだろう。

 そう思った瞬間、走り出した線路を行先を見て再び察してしまった。もうここからは、とにかく恐怖タイムだった。電車が走る音、捕まった「カティア」がもがき苦しむ音、それがVRという形で耳元でしっかり聞こえる。どちらも生々しく聞こえてさらに後悔の念が強くなる。プレーヤーである筆者自身も、身動きが取れないので、ただじっと見ているしかない。逃げ出すことも許されない。

 死刑執行をじっと待っている気分はこういう気分なのか。正解であってくれという期待に反し、電車はいってはいけない方向に行ってしまった。その瞬間電車は切ってはいけない糸を切り、「カティア」の首を落としてしまった。その場に残るは筆者だけである。電車がぷつんと糸を切る音と共に仕掛けが作動していく。あまりの恐怖に筆者は目を逸らしてしまったが、あの糸が切れる音はしばらく耳の奥に残っていた。

この部屋は筆者にとってトラウマ

 その後も他の部屋を体験させてもらったが、最初の部屋のダメージが強く、その上選択を間違うと2人とも死んでしまう重さに耐えきれなくなり途中でギブアップしてしまった。多分スタッフの方がいなかったら右の部屋に入って失敗したところで絶対に止めていた。それくらいリアルな恐怖と後悔が筆者の心のなかにしっかり残っていた。

 外したヘッドセットとコントローラーは汗でびっしょり濡れていた。そしてちょっと涙目だった。ホラーゲームではないのに、正直ホラーより怖い思いをした。体験した後に思ったことは「VR(ヴァーチャルリアリティ)ってこういうことだ。」である。ジャンルというより、「ヴァーチャルなのに、よりリアルな体験と心の機微を感じるゲームです。」と言いたい。

他の部屋も謎解きと恐怖が表裏一体

仮想キャラクターとのコミュニケーションとVRならではの体験をつくる

――本日はよろしくお願いいたします。まず最初にお聞きしたいのですが、このゲームを言葉で表すとどんなゲームになるんでしょうか?

髙橋氏:VR脱出型アドベンチャーゲーム……。なんですが、プレイして、多分説明するのにもどかしいゲームだと思ったと思います。ある意味、意図したところではあり、結果的にジャンル分け不能というか、既存のジャンルで例えて説明しにくいものになってしまったかなと反省しております。

 企画の成立経緯からすると、キャラクターのコミュニケーションのところをすごくやりたかったというところがありました。私は以前の経歴的にソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)におりまして「どこでもいっしょ」の立ち上げのときのディレクター、その後のシリーズではディレクター/プロデューサーをしていました。

 そのときから個人的な興味というかテーマとして、仮想キャラクターとのなにかコミュニケーションをしていくというものがありました。個人的な興味もありまた何かの形でやりたいなと思っていました。そこからVRというデバイスを使うことで、もっとキャラクターのコミュニケーションも、違う表現ができるんじゃないかというところは企画の取っ掛かり的なところにありました。なので僕の心のなかでは「どこでもいっしょ」と根っこは同じゲームなんです。


「Last Labyrinth」プロデューサー/ディレクターの髙橋宏典氏

――一緒ですか……。

髙橋氏:一緒です(笑)。仮想キャラクター……ポケットステーションの「どこでもいっしょ」も、言い方は悪いですが、あの様な小さいゲーム機で、そんなに大したことないだろうなと思って、ポチポチやってると結構ぐっと来ることを言われる。その時に自分の心が変容するのを感じると言うところが構造としては同じです。

――なるほど。

髙橋氏:あと、プレーヤーがプレーヤー自身のままで体験するという意味でも同じ構造だと思っています。「どこでもいっしょ」もゲーム内にプレーヤーキャラクターが別にいて成立しているゲームではなくて、プレーヤーキャラクター=自分自身という構造のゲームです。本作も一応設定としては車椅子で閉じ込められているというのがあります。VRデバイスの特徴として、主観視点になるとプレーヤーキャラクターと自分の区別がすごく曖昧になるというのがあって、プレイしている人が現実の自分自身と近い気持ちになる。そういった意味ではそこの構造も、僕の中ではポケットステーションとVR機器は似てると思っているんです。まぁ、これを言っているのは僕だけなんですけれどね(笑)。

――確かにVRはプレーヤー自身がキャラクターになることが多いですね。

髙橋氏:プレーヤーとキャラクターのコミュニケーションすること自体が、今までにない体験になっているという意味では僕の中では精神的な姉妹作という感じです。

――確かに語りかけてくるという面では同じなんですが、カティアの言葉の意味がわからない分ゲーム内にいると孤独感が増す気がします。

髙橋氏:まだ、序盤のところだけなので、ショッキングなところのインパクトも強かったと思います。ただ、ある程度長く体験していただいた方だと「カティア」の可愛さだとか「カティア」と意思が通じ合ってくる様に感じてきたりします。自分の指示に頑張って一生懸命謎解きをしてくれて、自分の選択の間違いでひどい目にあってしまうところが、すごくカティアに対する愛着というか守らなければみたいな気持ちがものすごく強くなってくるんです。まぁ、そういう意味ではこれも「どこでもいっしょ」と同じです。

  自分的にはなんと言うんですかね、仮想キャラクターとの新しい体験ができるそういったVRならではのアドベンチャーゲームを作ろうと思って作ったつもりです。

――「どこでもいっしょ」の中では言葉でのコミュニケーションでしたが、本作「Last Labyrinth」では言葉が何も通じず動きだけでのコミュニケーションを取るという方法になっています。ここに至った経緯はなんでしょうか?

髙橋氏:「どこでもいっしょ」も「Last Labyrinth」も、仮想キャラクターとのコミュニケーションをどう描くかという部分、それによってプレーヤー自身の気持ちがどういう風に変化を受けるかっていうところが個人的に好きなんです。テーマでゲームを作っていくことがぼちぼちあるので、そういう流れなかで、「どこでもいっしょ」で言葉によるコミュニケーションというのを一回やって、ポケットステーションという表現力の低いハードウエアが前提にあったので、まぁそうなりましたと。

 時代背景からすると、あの当時はまだ「たまごっち」の余韻があったんです。お世話をするのは「たまごっち」を当時やってた人にはわかると思うのですが、「ピーピーピーピー」とお世話しろってうるせえなって、「トイレ流せ」とか「食い物くれ」とか。どこか作業っぽくなっちゃうのがやだねというところがあって、そういうところよりもうちょっと友達目線というか、あまりお世話をしなくてもいいけどコミュニケーションをするようなものを作ったほうがいいんじゃないかという経緯で最終的にあの形になりました。ただ当時、その様な形で記号的な表現プラス言葉が入れられたのも、当時あった世代のハードしてはポケットステーションが容量も大きかったし、演算速度も速かったからできたというのもあります。

 ではVR機器で改めてコミュニケーションを描くとなったと考えたときに、前提になるいくつかのファクターの中に、まずVRという表現力をいかに活かすかというところがまず1つありました。「どこでもいっしょ」みたいなドット絵をVRで出してもしょうがないんです。あともう1つはリードアニメータを努めた福山敦子というメンバーが社内におります。彼女は私と同じくソニー・コンピュータに同時期に在籍しておりまして「ICO」とか「ワンダと巨像」のリードアニメータをしておりました。

 「ICO」では「ヨルダ」という主人公イコのパートナーキャラクターのアニメーションをしていて「ワンダと巨像」では「アグロ」という主人公ワンダの愛馬という、基本的に主人公の相方キャラクターのアニメーションで数多くの経験がある彼女の良さみたいなものをそのVRの世界で活かせるのではないか。人間型のキャラクターでVRの表現力を生かしたものが、VRの中にいれば新しいコミュニケーションができるのではないかとなりました。

 そういった中でアニメーションがいいものが作れる人材が社内にいるのに、言葉主体になってしまうとなんか違うなとなり、コミュニケーションの形としても、VRでしか体験できないようなコミュニケーションのやり方を考えたときに、言葉がわかり合えないパートナーと心を通わせ合って共同作業をしていくみたいなのは描き方次第ではおもしろいのではないかというところで、言葉が通じない形になりました。

  プレーヤーとしては、基本的に居心地が悪い感じというかそういうのも擬似的に味わってもらいたい。なので海外とかに行って全然知らない新しく来た街にいくと、言葉か通じないけどわからなくてもそこら辺の人を捕まえて片言の現地語で「このホテルに行くにはどうしたらいいんだ?」くらいはしないといけないじゃないですか。それの疑似体験ではないですけれど、そういう言葉か通じない中でも、誰かとコミュニケーションしてサバイバルするという事自体はあまりない経験で、VRでならちょっと変わった形で体験できる、新しい体験を作れるかなと考えたのもありますね。

――本作ではコミュニケーション以外にも本作ならではのコンテンツはありますか

髙橋氏:いくつかこのゲームでないと味わえない体験というものがあるかなと思っています。仮想キャラクターのとのコミュニケーションなのに自分がそういう気持ちになるんだとか感じるのはこのゲームならではです。

 ホラーじゃないと言いつつも、いろんな死の体験ができるっていうのはこのゲームならではかなと思います。実は開発中にもいろんなゲーム開発者にプレイをしていただいていて、某ホラーゲームのディレクター氏はあのギロチンのシーンは「やった!」と喜んでいましたよ(笑)。

――糸が一本ずつ切れていく音が更に恐怖感を煽られてもう怖いしかなかったんですが……。

髙橋氏:そういうところがVRでしかできない体験という意味ではこの作品自体、プレイしていただくとわかるんですが、死とかそういうものがしっかり描かれています。もっと進んでいくともっといろんな嫌なことがあるんですが、パズルも後半にもっと歯ごたえのあるものも用意されているます。

 ノーヒントでプレイしていると普段脳みその使わない変なところを駆使してチリチリする感じと、生とか死とかのせめぎあいですごい脳みそがアツい感じになると思います。そういう死の体験も含めてこのゲームでしか味わえない謎の心理状態みたいなところが、売りと言うと変ですが、他のゲームでは代替できない体験にはなっているかなと感じています。

 多分、普通にモニターでやるゲームだと、同じ表現でも「はいはい」、「そっか。死ぬんだ。ふーん」みたいな感じになるんです。多分ここまで心が痛まないと思うし、プレーヤーキャラクターというか自分が死ぬこと自体も、「あ、そういうゲームの仕組みね」くらいで終わると思います。そこはVRならではの体験が作れたかなと思います。

――脱出アドベンチャーゲームで脱出失敗=壮絶な死はかなり衝撃的でした。

髙橋氏:企画の当初から「館を脱出する」、「失敗すると我が身に何かあって死ぬ」みたいなのはあったんですけれど、今ほど強烈なポジションはありませんでした。ただゲームを試行錯誤していくうちに、プレイがダレるというか、長くプレイしてもらうとわかるんですけれど、ほとんどの部屋で時間制限がありません。

 なのでじっくり考えられはするんですけれど、ただ解けず失敗して部屋から出られないだけみたいな状態がずっと続くとプレイがなかなか締まらないですよね。あと、2016年の東京ゲームショウにプレビューバージョンを出させていただいて、その時にゲームショウのオペレーション上、その状態でやるとたくさんの人に体験してもらえないよねというのもありました。プレイ自体が締まらないし、ちゃんと区切りがわかる形にしたかった。普通の謎解きゲームだと制限時間があって、強制終了ですよね。

 ただ、東京ゲームショウみたいな試遊の場で5分ですって言われて5分終わったからはい途中ですとなると、「カティア」とのやり取りとか、その良さとかが伝わるかと言ったら「なんかかわいい女の子いたね」くらいで終わってしまう。且つ、プレイが締まらないよねってなりました。そこである程度短い時間でも終わることに納得感があって、且つ「カティア」とのやり取りとか、存在感みたいなのが成立するようなゲームシステムがないかなと突き詰めていった時に、失敗したら死んじゃったらいいんじゃない?みたいな形になりました(笑)。

 しかし、思ってたよりもゲームシステム上それだとちゃんと整合性があると思います。プレイしてる人も自分がやった選択で死亡する構造なので納得感がある上に、ゲームデザイン上も綺麗だよねくらいで始めたんです。ただ、そこが思っている以上に心理的ショックが大きくなってしまったのはありますね。その辺りは福山の渾身のアニメーションで「カティア」が当初思っていた以上に存在感が際立って、艶めかしい存在となっているのも要因だとと思います。NPC、コンピュータの中に作られているデータのはずなのにそこにいるという存在感がものすごく高くなってしまったので、ショックを受ける振れ幅も大きくなってしまった。

――髙橋さん、福山さんをはじめ本作の開発チームには錚々たるメンバーが集っていらっしゃいますね。

高橋氏:そうですね。私や福山以外にもソニーコンピュータにいたベテラン勢が老体に鞭打ってやっています。

 私は「どこでもいっしょ」をやっていましたし、共同ディレクターの渡邉哲也は「人喰いの大鷲トリコ」のレベルデザインの物理シミュレーション部分を担っていたり、PS3用ソフト「パペッティア」というプラットフォームアクションゲームを作っていました。あと、背景を担当しているのが草場美智子と言って「グランツーリスモ3」などのコースの背景を担当していたり、サウンドは「スーパーロボット大戦」シリーズを担当していた花岡拓也と言うものです。

 割とそういうベテラン勢をコアにしつつ、若手メンバーとの組み合わせでやってるってことで、すごい海外のフォーラムとかYouTubeの書き込みとか見ていてもPS2の匂いがするみたいなのを見かけます。キャリア20年以上のベテランプラス若手みたいなチームメンバーで頑張っています。ただ、プレイステーションなどでユニークなゲームを作ってきたメンバーが、VRと言う新しいプラットフォームで、他社では無いユニークな企画にチャレンジしてるというところは皆さんにお伝えしたいです。

 テーマ曲は菊田裕樹さんと言う「聖剣伝説2」とかを作った元スクウェアの方で、「カティア」の声とボーカルは「METAL GEAR SOLID V THE PHANTOM PAIN」に登場した「クワイエット」の声を担当したステファニー・ヨーステンさんと本当にユニークな人たちが集まっています。

 ステファニーさんの熱演もあって「カティア」がよりかわいくなっています。作中に出てくる言語は何語でも無いオリジナル言語なのですが、大元のシナリオは日本語で書いたのです。しかし、実際の公式シナリオはオリジナル言語に基づいてアルファベットの発音記号で渡していて、元の日本語の意味はこんな感じですと言う形でやっています。

 また、ステファニーさんで本録音をする前に社内のアメリカ人のスタッフが仮音で録音した際には、アルファベットを見ると英語の発音とコンフリクトして全然上手く読めなかったんです。これはステファニーさんも収録に苦労すると思うから、長めに時間を取った方がいいと思うという話をしていたのです。しかし、ステファニーさんは、1日目だけちょっと練習しただけで2日目以降はその場でぶつぶつ練習して「あ、大丈夫ですよ」みたいな感じで、普通にほぼ噛む事なく感情を込めて演技できていました。

 他の人だと多分初めて見ただけの発音記号をあれだけ感情を乗せて演技できないと思うのですが、それをスムーズにできたのはステファニーさんの言語能力が常人と違う、謎言語をスラスラと話すというすごい才能があったからだと思います。

 ちなみに、もし解析班のような方がいてちゃんと言語を解読して日本語に翻訳されたとしても、適当な事を言っているわけではなく、大元のシナリオに基づいて実はそのシーンそのシーンごとにちゃんと意味のある言葉を言っています。

――たしかに「カティア」の表情と声がマッチしていて、だんだん言っている言葉がなんとなくこうかな?みたいな察しがついてくるところもありました。

髙橋氏:そうですね。何を言っているのだろうと想像しながら分かり合ってるのか、分かっていないけど道行きを共にするところも今回描いていきたかった部分です。

――私は途中でギブアップしてしまったんですけれど、今回いろいろな所で体験会を実施されていますが、参加された方の反応はいかがですか。

髙橋氏:出展したイベントによって体験者層の幅が広いので、さすがに今回体験していただいた部屋はインパクトが強すぎて出していません。なので、他の部屋の体験にはなるのですが、それでもやっぱり感受性の強い方とかは「もう無理無理」みたいな感じになってしまう方もいました。ただ、それ以前のこととして、皆さん「ゲームだろ」とか「VRでしょ」っていう、固定概念で「こういうものでしょ」って思っていたら、その前提が覆されてショックを受ける方はそれなりにいらっしゃいました。

 ゲーム慣れしている方とかは、割と最近は良くも悪くも親切なゲームが多くて、なにかギミック発動する前に、今本当にやるのかみたいなのを丁寧に何回もアラート上げてくれるとか、チュートリアル的なのがあるんだよねみたいな前提で行って、急にこう悲惨な結末になってしまって「え?あ?終わり?」みたいに戸惑う。

 でも、そのときにそれまでの短い時間でカティアとのやり取りもあって、すごいやっちゃった感というか、罪悪感があとから湧いてきました、みたいな感想がありました。ゲームのなかのNPCって死んでも大したことないし、別に何回もリトライできるものでしょみたいな気持ちとかを覆されるので、すごくショックを受ける方がいますね。

 あまりゲーム慣れしていない方が多いイベントとかに出展したこともあるんですけれど、その時は逆に前提がないので単純に驚く、でもやっぱりカティア短い時間のやり取りの中で頑張ってやってくれているのに大変なことになっちゃったみたいな感想はすごく多いです。

 体験会をしていると、意外とVRは過去の経緯もあって「酔うから嫌だ」という方がとても多かったんです。また、過去に他の作品を試してこれぐらいでしょと思っている方が多く感じました。もったいないなと思ってしまいます。

 ちょっとVRに興味はあるけど、もう一定距離を置いている方とか、被ったことないんだけどでもVRってこのぐらいでしょっと思っている人も結構多いなと思っていて、VRガンガンかぶる人はそれなりに被っていただけるんですけれど、割と興味があったりとか、VRは知ってるんだけれど全然被ったことないけど、こんな感じとおもってる方にもどうにか届くといいなと思います。

 また、カティアがかわいいというのはプレイを長くした方ほどおっしゃっていて、かわいいけど怖いんですよ。キャラクターはかわいいんだけど、ゲームが怖いんですよみたいな。

――その気持ちはよくわかります。

髙橋氏:おもしろいのはそこの心理の変化みたいなのがあって、今年の3月にSNSとかでテストプレイをしたい方を一般募集して来ていただいて。30人規模くらいだったんですけれど、そういうものに応募される方ってVRに興味が高かったり、ゲームをすごいやり込んでいらっしゃる方が多かったんです。

 なので、カティアのことを、ゲームやってる方なら、NPCだなって思って、死んでもバンバン殺しながら謎解きしていくのかなと思ったら、みんなだんだん長考に入るようになってくるですよ。

 最初、仕組みがわからない時は今までのゲームの感覚でチュートリアルとかあるだろうと思って、手当り次第目についたボタンを押していくんです。ゲーマーの方ほど、ぱっと部屋に入ったらあまり深く考えず目についたボタンを押して死ぬみたいなことが何回かあったあと、だんだん大半の方は割と長く考え込むようになっていくんです。

 後で感想を聞いてみると「最初はゲームのキャラクターだと思ってバンバン進めていたけれど、カティアが死んでしまうたびにすごい気分悪いじゃないですか。なんかすごい罪悪感が湧いてきてノーミスで行こうという気持ちになってしまう」みたいな意見が多かったです。割とゲームをやられてる方でもそんな感じのリアクションなので、そういった意味ではVRならではの仮想キャラクターとのこれまでにない体験を作るという最初に掲げたコンセプトを達成はできているんじゃないかなと思います。

――とても聞きにくいのですが、ゲーム内ではオリジナル言語で話されていますが、ゲームクリア後主人公が閉じ込められている理由はわかるんでしょうか。

高橋氏:うーん。実は本作はマルチエンディングになっています。具体的に幾つあるかは公開していないので、現時点ではオープンにはできないんですが、2個とか3個とかよりはたくさん用意しています。ただ、基本的に言葉がない世界のなので、我々がエンディングと呼んでいるものも、VRの中の体験として映像で見る形での体験になっています。

 もちろんそこでも意味のわかる言葉はないので、見た映像について、それをどう解釈するかっていうのは体験した人それぞれによって振れ幅があるかなと思います。あと一応おまけ程度ですけれどコンプリートすると、また更にちょこっとしたエンディングもあったりします。そこも含めて全て映像でしか提示されないのでそれをどういう風に解釈するかはそれぞれ見た人に委ねてる感じになってます。

 あとはマルチエンディングなので、整合性のないパラレルワールドでエンディングがたくさんあるという形になります。どれか好きなのを自分的エンディングとして「これが私のトゥルーエンディング」みたいな感じで選んでもらえたらいいかなと思います。

 ちなみに最初にこういうエンディング案でいきますと開示したらメインのプログラマーからは「全部バッドエンドじゃないですか」と言われて「え?そんな事ないでしょ?」っとなりました。一応バッドエンドじゃないつもりだったので「そうかぁ、バッドエンドかぁ」って(笑)

 今回、「生」と「死」もテーマとしては入っているかなと思います。哲学っぽいですが、割と死を感じることがあまり多くないということもあって、仮想キャラクターだから死んでもいいみたいなのを個人的には疑った方がいいと思っています。

 ゲームのキャラクターだから何回も死ぬの普通になってますけど、それって本当に普通のこと?みたいな感じですね。もし世界が映画の「マトリックス」みたいだったら、自分はゲームキャラクターだと思って殺していたNPCにも人生があるかもしれない。

 体験した方はこのこれまでのゲームに分類できないヘンテコな気持ちに混乱して、そして製作側も言語化に困っているので、ゲームジャンルを上手く言語化してつけてくれないかなと思っています。

――プレイしても、分類がむずかしいです。

高橋氏:そうですね。実は「どこでもいっしょ」の時もゲームデザイン的な系譜でいうと人工無脳といって掲示板やWEB上で言葉を教えて会話するみたいなプログラムは既存であったんです。もちろんドット絵があってみたいな技術も既存でありました。

 ただ、「どこでもいっしょ」も出来上がってみたものとして、言葉を教えて人工無脳が変なこと言うゲームだよというのはゲームシステムは説明してるんですが、自分の体験をちゃんと正確に伝えたことにはならない。当時のプロモーションの担当者といろいろ話して、これは既存のゲームにはないから新ジャンル名をつけるしかないねとなり「お話しゲーム」というジャンルを名乗りました。

 本作もゲームの仕組みだけでいうと「パズル」とか「謎解き」でしょうか。「アドベンチャー」……まぁ厳密にいうと「アドベンチャー」要素はあまりないです。「アドベンチャーゲーム」的なテイストはあるんですが、「アドベンチャーゲーム」ですというと「……うーん」みたいな感じになります。少女のキャラクターとパズルを解くんだよというのも説明にはなっているんですけれど、ゲームの体験としての説明かというとこれも「……うーん」みたいな感じです。

 ジャンル名を困ってるとTwitterに呟いたらフォロワーさんが「カティアちゃんとヒヤリハットのドキドキなんとか大作戦」というのをつけてくれたんです。これも確かに間違ってはいないんですが……(笑)

――最後にこれから本作に触れるであろうプレーヤーに向けて一言お願いいたします。

高橋氏:「どこでもいっしょ」が好きな人はぜひ買って体験して欲しいです(笑)VRってやったことある人もない人もまぁこれぐらいかな、VRでしかできない体験と思った時にイメージでVRの体験ってこんなぐらい?とかこんなものと思っているところがあると感じています。しかし、「Last Labyrinth」はVR慣れしてる人もしてない人も「VRってこんな体験ができるんだ」という想像もしてなかった様な気持ちになる体験ができる作品になっていると思いますので、VRを被ったことがある人もない人もぜひ一度やってみてください。

――ありがとうございました。

 本作は11月13日発売予定だが、発売後も大阪での体験会や時期は未定ながら体験版の配信も予定されているとのことだ。ぜひとも1度本作を触って、VRならではの体験を経験してほしい。