【特別企画】

「劇場版 FFXIV 光のお父さん」、ゲームパート撮影現場を訪問

「CGと思わせたら勝ちです」マイディーさんとエオルゼアパート監督山本清史氏のインタビューもお届け!

【劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん】

6月21日 全国公開

 「劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん」が、6月21日に全国ロードショーされる。「FFXIV」プレーヤーでブロガーのマイディーさんが自身のブログ「一撃確殺SS日記」に連載した「光のお父さん計画」を皮切りに、書籍化、TVドラマ化と展開してきた。TVドラマ版は国内放送だけでなく、Netflixを通じて6か国語で全世界230の国と地域に配信された。「ファイナルファンタジーXIV」というIPの強さを活かして、あの「テラスハウス」のランキングを抜くこともあるほどの人気を博したそうだ。そして「FFXIV」の最新拡張パッケージである「漆黒のヴィランズ」のアーリーアクセスを直前に控えつつ、満を持しての映画公開となる。

【「劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん」本予告】

 本作を全く知らない人のために、簡単にストーリーを紹介しておこう。本作の主人公「岩本アキオ(坂口健太郎)」は、どこにでもいる会社員。夜には「FFXIV」内でマイディーというミコッテのキャラクターで遊んでいる。ある日、仕事一筋で単身赴任中だった父「岩本暁(吉田鋼太郎)」が突然会社を辞めて家に帰ってくる。寡黙な父親と上手くコミュニケーションが取れないアキオは、父親をゲームに誘って、正体を隠して友達になり、本音を聞き出すという「光のお父さん計画」を思いつく。

 本作の特徴はなんといっても、映画に使われるゲーム内の映像が実際のゲーム内で撮影されていることだ。今回も原作者のマイディーさんが撮影に全面協力。TV版と同じ山本清史監督が、撮影に当たっている。TV版が撮影されたのは2年前だが、その後のアップデートで「グループポーズ」の新機能などが登場しており、表現の幅は大きく広がっている。

 今回は、都内某所で行なわれているゲーム内パートの撮影を見学する機会に恵まれた。エオルゼアパートの監督山本清史氏やマイディーさんらがゲーム内での撮影をどんなふうに行なっているのか、レポートとインタビューでお伝えしたい。

あまり見る機会がないゲーム内映像の撮影現場

スクウェア・エニックスが撮影専用サーバーを提供

 撮影が行なわれている都内某所のスタジオには、マウスコンピューターが提供した20数台のゲーミングPCが並べられており、出演者はここで対面のコミュニケーションを取りながら撮影を進めている。

 新たに追加された表現手法を最大限に生かすためには、出演者が対面しての撮影が必要だという監督サイドの要請を受けて、映画版ではスクウェア・エニックスが同等の環境も用意した。開発サーバーを利用できたことで、キャラクターの容姿をすぐに変更でき、主要キャラクターから通行人1まで、キャラクターを使い分けての撮影も可能になったのだそうだ。とはいえ、撮影に使用されているのはすべてゲーム内に実装されているエモートや機能という部分はTVドラマ版と同じで、アイデアを駆使してリアルな動きを作りだしている。

 撮影は120FPSという、高フレームレートで行われている。そうすることでスローモーションをしやすくなるだけでなく、様々な検証をした結果、最も解像が良かったというのがその理由だ。光のお父さんが多くの人に受け入れられた理由として、映画のスタッフサイドでは本作がオンラインゲームのプレーヤーを普通の人として描いているからではないかと語る。

 オンラインゲームが登場する映画では、主人公はリアル社会でネガティブな要素を持っており、ゲーム内の英雄的な活躍でそのコンプレックスを払しょくするという設定の者が多い。しかし実際にオンラインゲームで遊んでいる多くのプレーヤーは普通の人であり、そういう普通のプレーヤーが悩みを抱えていて、ゲームを通して解決していくという物語は今までありそうでなかったため、そのこだわりが受け入れられたのではないかということだ。実際、マイディーさんや製作陣もゲームをポジティブに捉えたいという想いをもって製作にあたっており、映画では、それをより多くの人に伝えたいという目標を持っている。

 企画がスタートしたのは1年前。ドラマ版の時にはマイディーさんがドラマ化の事実を隠したままブログで「光のぴぃさん」を連載し、それがドラマ化につながる話だったと後から判明する趣向だったが、同じことをしても面白くないということで、今回はそういった仕込みはなく、3月に開催されたファンフェスの会場でプロデューサー兼ディレクターの吉田直樹氏によるサプライズ発表という形になった。

サゴリー砂漠での撮影現場に密着!

 今回の取材では、ザナラーンにあるサゴリー砂漠で、8人パーティのメンバーが一列に並んで歩きながら登場するというシーンの撮影風景を見ることができた。スタッフはマイディーさんのほか、事務所のスタッフやFCじょびネッツアのメンバーなどが撮影に協力しており、お互いに声の届く範囲に座って、山本監督の指示に従って担当するキャラクターを操作する。

 横一列に並んで足並みを揃えて前進するというのは人間が演じてもなかなか難しいものだが、ゲーム内での撮影も一筋縄ではいかず、微妙に足並みが乱れたり、キャラクターの向きが微妙におかしかったり、山本監督のカメラに不要な情報が含まれてしまっていたりとなかなかうまくいかず何度も撮り直しを行なっていた。その都度、全員がスタート地点に戻り、最初からやりなおしていく。わずか数十秒ほどのシーンだが、聞きしに勝る大変な作業だ。山本氏によれば、これでも開発サーバーと同等の環境をお借りできたことで、天候待ちや、一般プレーヤーの映り込みがなくなり、格段に撮影作業が楽になったという。

 撮影スタジオの端で見ていておもしろかったのは、マイディーさん自身がマイディーを演じているところだ。一見当たり前のように感じるかもしれないが、原作者が、劇場版の主役キャラクターの演技まで行なう必要はない。TVドラマ版では、公開サーバーにログインする形で自宅から、今回は開発サーバーということで、マイディーさんをはじめとしたスタッフ全員が撮影場所に集まり、お互いに声が届く距離で撮影を行なっている。

 原作者がいつもいて、かつ主役を演じるという環境は山本監督にとってはかなりやりづらそうにも感じたが、「そこは実写と変わらない」という。原作者ではなく、監督と役者の関係に徹し、以前のようにチャットではなく、直に言葉をぶつけ合うようになったことでやりやすくなった部分もあるという。マイディーさんは「のびのびとやらせてもらっている」ということで、関係は良好なようだ。

 30分ほどの撮影シーンの取材はあっという間に終了。もう少し別のシーンも観たかったが、スケジュールが詰まっているということで、続いて山本監督とマイディーさんのインタビューが行なわれた。インタビューはノーカットでお届けしたい。

【撮影風景】
【ゲーム内の撮影風景】

山本監督&マイディーさんにインタビュー

エオルゼアパート監督の山本清史氏
原作者のマイディーさんは顔出しなし。あくまでもゲーム内のミコッテのイメージで読んで欲しい

――ドラマ版が終わって、次は劇場版ということですが、劇場版になると聞いたときの感想や気持ちは? 「テレビでやりきった」という気持ちはなかったのでしょうか?

マイディーさん:  ドラマの時に、結構課題みたいなものが僕らの中では残っていたので、もうちょっとやりたいなという気持ちはすごくあったのですが、映画ということになると、銀幕デビューなので(笑)、より気合いを入れてやらないとなという気持ちはありました。すごいやりたいという気持ちがあったんです。

山本監督:  撮る方としても、結構できたこととできなかったことが明確にあって、ドラマがちょうど終わった頃に、ゲームのほうがバージョンアップして、撮影環境がより良くなったということもあり、だいぶ悔しかったので(笑)、やり直せるならやり直したいなという部分はありました。なので、いいチャンスだなと思っています。

――エモートの数も増えましたものね。

山本監督:  雲泥の差で、カメラもレンズが変えられるという。もうちょっと前にやってくれたらよかった(笑)と思ってましたね。

――それに加えて、開発サーバーと同等の環境を借りられたというのは鬼に金棒っていう感じじゃないですか?

山本監督:  天候待ちがなくなりましたね。ただ逆に、天候と時間が操作できるようになったので、例えば、曇り空から晴れにするという演出が可能なわけですよ。そうすると、欲が出るじゃないですか(爆笑が起こる)。この時晴れてほしいなとか、雨から晴れになるみたいなこともいろいろと考えたりするので、一長一短というか、逆に、考えるべきことが増えたという部分はありますね。

――先ほどの撮影でも太陽がちょうど逆光でいい感じに光が当たるような時間に設定されてましたが、想像以上に入念なロケが必要なんですね。

山本監督:  ロケハンが実はすごく大事です。ここにこれがあるというのを知っておかないといけないので、割と違うゲームをしてるみたいな感じですよね。

――TV版の知識というか、経験はそこまで役に立たなかった?

山本監督:  それは役に立ちました。あの時はただの初心者だったので、散歩から始めました(笑いが起こる)。そんなタイミングで始めているので、それに比べたら、知識は入っているので、ここはこれができるというのはわかってるんです。ただ、太陽がこういうふうになるとか、あの時は、成り行きでしかなかったので。今回は狙えるっていうことを考えると、もうちょっと入念な計画というか、狙いが必要なのかなぁという部分はちょっと大変ですけど。

――ドラマでも映像を作ったわけですが、それと意識的に変えているところ、もしくはドラマとあえて変えてないというところ、それぞれあったらお聞かせください。

山本監督:  意識的に変えているところは1つだけです。これ言っていいのかな? ドラマ版で結構好評だった、お父さんがくるくる回るシーンがあるんですけど。ドラマ版の時はエオルゼアの中でやった。僕の中では実はあまりヒットしてなくて。エオルゼアの中だから、ただくるくる回ってどっか行っちゃうだけなので、本当に何が起こってるのかぜんぜんわからないんですよ。今回はそれを見ている画面の中で起きることにしました。そうすると見え方もだいぶ変わってくるので。

 ゲーム画面とエオルゼアパートという分け方を今回はもう少しはっきりさせて、この動きはこちらで、この動きはこちらでと意識的にやるようにしています。基本的な骨組みは変わらないので、見せ方の部分をちょっと変えるということになるのかなと思うのですが、どうですか?

マイディーさん:  演じる側としては、基本的には変わってないですね。エモートの数が増えたりして、表情が特に増えていますから、その組み合わせを意識してやるようにはしてます。

山本監督:  その距離感で会話ができるというか、演出がその距離感でできるので、細かいことの要求が増えましたよね。

マイディーさん:  そうですね。前は全部チャットでやっていて、天候待ちもあって、時間も決まっていてという状態だったので、待ってる時間がほとんどだったんですけど。今回は結構、本当にこの距離でしゃべりながらできるというのが僕らもやりやすいというか。絵作り自体もこっちで何かインディマイディーが演技してる後ろのほうでまた違うタイムラインでまたいろんな芝居が入ってきたりとか。前はほぼほぼ不可能だったんですが、そこも演出を細かく入れてもらえる。だいぶ絵は変わりました。

――今、30分ぐらい収録風景を見せていただきましたが、だいたい1回の撮影で何時間ぐらいやっていて、それを何回ぐらい繰り返せば映画になるんですか。もちろんこれはゲームパートだけですが。

山本監督:  1日約5、6時間ぐらいだと思うんですが、それを2週間ぐらいかな。

――14日間ぐらいですか?

山本監督:  ただこれはゲーム内映像だけですね。ゲーム画面として使う時はめちゃくちゃ時間かかるので。意外と逆転があるんです。ゲーム画面イコールキャラクターになるので。UIの配置とか、チャットの広さとか、文字の大きさとかも全部、やってる人間とキャラクターが直結するじゃないですか。例えばお父さんの画面はこうで、アキオ――マイディーさんの画面はこうでと決まっているので、それにあわせてやるとなると、実はエオルゼアパートを撮るとるよりも大変だということが今回よくわかって、こっちにはめちゃくちゃ時間がかかりました。ただチャットを撮るだけなのに(笑)。

――今回も、何回もリテイクを繰り返していましたが、今回の30分の撮影はすんなりいったんですか? それともトラブりぎみだったんですか?

山本監督:  今日ですか? 今日は人数が多かったのと、初めてお会いした方が多かったので。割と気を遣ってやってましたね。

――いつもだと結構怒号がとびかってる?

山本監督:  いつも灰皿とびかってます(笑)。

――FC「じょびネッツア」からも撮影に参加されている方がいるということですが、結構前から皆さんにお伝えしていたんですか?

マイディーさん:  いや、そんなことないですね。状況が二転三転することが多いので。今回はこういう風な撮り方しようという話も、一週間後には、あれは無理なのでやっぱりこうしますみたいなことがあるので、全体に発表したのはつい最近です。撮り始める直前くらいかな。今回手伝いに来てくれているのは、ドラマ版にも参加していて一生懸命やってくれてたメンバーたちなので、信頼しています。やっぱり、飲み込みも早いですし。よーいドンですぐ撮影はスタートできましたね。だから、みんなに知らせたのは最近なんですが、来てもらってるメンバーには半年前くらいから伝えていたりしました。

――ゲーム内でも何か準備はされていたんですか?

マイディーさん:  僕は自主練とかしてましたね(笑)。

――今回、マイディーさんが演技の画面を見て、ちょっと衝撃をうけました。

マイディーさん:  そうですか?

――たとえば1、2、4って書いてたじゃないですか。あの数字はなんですか?

マイディーさん:  あれはリップシンクの秒数ですね。1秒のマクロ、2秒のマクロ、4秒のマクロというふうに。台詞に合わせて2、1、4とか秒数で言ってもらった方が分かりやすいので、ここは、2、2、1でいいよねとか。謎の数字が飛び交ってるので、聞く人が聞いたら、サッカーのフォーメーションみたいな。そういう専門用語的な部分も生まれ始めてます(笑)。

山本監督:  プラス表情とか。

マイディーさん:  表情も、素顔からいきなり怒るというよりも、ちょっといぶかしげな雰囲気をしてから怒るみたいに3段階ぐらい入れた方がより自然な表情になるんです。エモートって基本的にゲーム内で自分の感情を誰かに伝えるものですから。いきなりその表情にいってしまうんですよ。そこをそのままにすると、安っぽいのかなと思っていろいろと工夫したり、何かを挟んだりとか。ちょっと視点を動かしつつ。普通にしゃべってるところでも棒立ちになりながら会話すると、どうしてもゲームっぽさが出てしまうので。

 さっきおっしゃってた、ゲーム画面っていうのは、ゲームっぽさを出していきたいので、棒立ちでしゃべってもそれっぽいんですけど。エオルゼアパートっていうのになってくると、主人公の、いわゆる脳内補完された世界っていうイメージなので、できるだけ人間らしく動かないとダメなんです。だから、棒立ちでしゃべるんじゃなくて、しゃべりながらも体勢を変えながらしゃべったりとか、そういう動きをするように工夫はしてますね。

山本監督:  結構、座りながらしゃべってもらったりとか、振り返りながらしゃべってもらったりとか、いろいろやってますよね。

マイディーさん:  お芝居っぽさが増してますね。

――特定のエモートなんかは戻るときが気を遣いそうですね。その表情から一瞬でもとの真顔に戻るじゃないですか。そこの間に別のエモートを挟んで調整するわけですか?

マイディーさん:  例えば、微笑みという表情ひとつにしても、微笑みってほんとスッと戻るんですよ。絶対今の嘘の笑いだなと(笑)。監督がカットっていうまでは、それを連打して。笑顔をキープする。

山本監督:  それが面白いこともあるんですけどね。お父さんのキャラクターとかは、逆にすっと戻った方がそれらしいですから。

マイディーさん:  そういうところでキャラクター付けができたりとか、そういう場合もありますからね。

――今のお話の中でも、課題がまだ残っていてとおっしゃってた部分がありましたが、解決できた部分で見て欲しいところなどあったりしますか。

マイディーさん:  嬉しいことに今回もドラマ版と同じストーリーなので、同じようなシーンが出てくるから、気持ち的にはバージョン2.0的な気持ちで挑むというか、前の演技をベースにして変えていける、変えていくというのができるので。こないだ撮った羅刹衝のシーンなんかは結構できたかなぁと。

山本監督:  あれはしてやったりというか。

マイディーさん:  カメラアングルがすごい感じでしたね。

山本監督:  10回ぐらいやりましたからね(笑)。

――チーム全体が成長しているんですね。

マイディーさん:  やっぱり顔を合わせて、声を掛け合いながらだと、大きいモニターに監督の画面が見えますから。やった後にどんな状態で撮れてたのかというのをすぐ確認できるので、どこがだめだったのかがわかるんです。前はそれがわからなかったので。それがよかったのかよくなかったのかも全部委ねないといけなくて。

――やはり直接、この辺でと言えるのはいいですよね。普通の現場みたいだなと。

山本監督:  そうなんです。

――やっぱり意見が衝突することはありますか。それぞれ映像クリエイターですよね。

山本監督:  意見の衝突は……(とマイディーさんの顔を見る)。

マイディーさん:  これはねー、監督が柔軟にしてくれてるなっていう(笑)。まず最初にこのシーン撮りますよっていわれた時に、僕らがまず演技プランみたいなものを出して、こういう風にやりたいですっていうのをのんでくれたりとか。そこだけ変えようかみたいな感じで、まず僕らの意見を聞いてくれるので結構のびのびできてます。1人の人間が動かすのではなくて、何人かでやってるから個性が出てくる。演技に個性が出てくるっていう環境を作ってくれてるなって。それはありがたいですね。

山本監督:  実写と変わらないですね。

――でも、山本さんすごくやりにくいでしょ? 原作者がすぐ近くにいるわけだから、下手するとガンガン文句言われるわけですよね。

山本監督:  それは実写で役者と変わらないですよ。実際「こうこうこうで、こう撮りまーす」と監督がいうと、それに文句を言う役者もいるじゃないですか(笑)。

――ドラマ版の時は、全くそれがなかったわけでですか。

山本監督:  いや、そんなことはないです。むしろ、チャットだからこそ、感情がストレートに伝わる。逆に誤解があったりとか、意見の相違みたいなものはあったと思います。お互い大人の対応をしたりとか。

――フェイス・トゥ・フェイスになる前からやってることはあまり変わらないわけですね。

山本監督:  僕の中では変わらないですね。チャットでやろうが、スカイプとかボイスチャットでやろうが、面と向かってやろうが、僕の中の気持ちはそんなに変わらないです。

――ドラマって元々7話でしたが、映画はもっとコンパクトになりますよね。シーンの選出みたいなものはどういうふうに決めたんですか。このシーンは絶対映画で描くというシーンはありますか?

山本監督:  脚本の段階ということですよね。

――そうですね。

山本監督:  それは難しい話なんですけどね。マイディーさんのブログのどこをつまむかっていう話なんですよね。ドラマのファンもいると考えると、ドラマでやってたことをある程度残しつつ、全く新しいお客さんにも伝わらないといけない。さらに、マイディーさんのブログをずっと昔から応援してきた人たちも納得するようなものにするために、打ち合わせというか、議論というか、殴り合いというか(笑)。

――「ここないんかい!」ってところは絶対にありますよね。

山本監督:  ここ1、2カ月は特にありましたね。

――それはつまりもっと尺をよこせという?

山本監督:  尺が長いというのはそもそもあったんですよ。僕も野口さんのもホン打ちに参加したときに、「この尺本当にやります?」ってところからスタートしたんです。絶対長いよ大丈夫ですか? と。でも削りたくない、削れないよねというところに結局落ち着いたんです。今度は、どう面白くするかというところでの殴り合いが始まって。そうしたらどうしても削らなきゃいけない部分があるので、そこは泣くしかないという部分もありました。マイディーさんにも意見があるし、スクエニさんにももちろん意見があるし、脚本の吹原くんにもあるので、そこはお互い腹の底さらけ出してにこやかに殴り合ってました(笑)。

マイディーさん:  会議室じゃなくて、カラオケボックスで殴り合ってました(笑)。

――そう言うとカラオケのついでみたいな。

山本監督:  集まれる場所として貸し会議室がなくて、いい大人がカラオケボックスに集まって1曲も歌ってません。

――歌ってないんですか?

マイディーさん:  そんな雰囲気じゃないですからね(笑)。

山本監督:  僕と野口さんも2月ぐらいまで、お互いの家の近くまで行って、夜中の1時2時ぐらいまでずっとああしよう、こうしようと話をしてました。実写パートとエオルゼアパートのつなぎ方とか、分け方とか。結構、演出で詰めないといけない部分だったので、それありきで脚本に落とし込むという打ち合わせを何回かしました。ドラマの時もしましたが。今回はもっと多かったですね。

――その打ち合わせの中で、2時間前後という尺の中に納める段階で、テーマとか表現について、実写パートとゲームパートの中でどういう風な部分を重要視しようと考えられましたか?

山本監督:  映画ということで、1本の軸で考えた場合、お父さんの成長という部分は絶対に必要で捨ててはいけない部分だと考えました。「光のお父さん」というタイトルでもあるし、「FFXIV」を始めて、そこにのめりこんでいくことで、自分が隠していた想いとか、伝えきれなかった言葉みたいなものを伝えられるようになる。その大きな意味でのテーマは絶対に崩してはいけなくて、そのための仕掛けを置いておこうということになりました。

 それに加えて、マイディーさんのアキオというキャラクターが、ドラマ版の中ではゲームで学んで、会社の仕事に活かしてということが結構あったんですが、お父さんの成長ということも含めて、そこにアキオの成長も何となく絡めていきたいなというところは、お互いの監督の中にありました。2人がゲームを通して、絆を取り戻し、親子関係を再生しつつ、何かしら成長感のあるストーリーというものは描きたいねということで、ずっと議論してました。いろんな小ネタはあるにせよ、そこにつながらないとただの蛇足になるので、思い切って削ってもいいのではないかという話をしてましたね。

――劇場版には新キャラとして妹が出るとのことですが、どういった形で登場させるんですか。

マイディーさん:  それも要は尺を詰めるためのテクニックというか。2人で会話するより、3人で会話した方が、話がころがりますし、展開が早くなるかなと思って。

山本監督:  お父さんとアキオがお互いになんとなく言葉をかけづらいという関係性がある中で、ハブになる人物が絶対必要でしょうというお話だったと感じています。それがお母さんではなくて、ちょっと弱い立場というか、家族的に妹みたいなものがいれば、妹ががんがん文句を言えるし、文句を言う中で「お前ら2人でやれよ」みたいな感じになれば、お父さんと息子がなし崩し的に「おぉ」みたいな感じになりやすいかなという仕掛けですね。

――では妹も交えて3人で一緒にゲームを遊ぶわけではない?

山本監督:  一緒にゲームを遊ぶというアイディアもあったと思うんですが、それはちょっと気持ち悪いんじゃないかと。さすがに、そんな家族いるかなと思って(笑)。「こいつら2人ともゲーマーで超キモい」と思ってる方が、妹としてたぶん普通だと思うんですよね。「この親父と息子やべぇ」と(笑)。

――ドラマ版にはいなかったルガディンのキャラクター。彼について何かしら話せることはありますか。

マイディーさん:  あれは、僕らはとても気に入ってるキャラクターです。

山本監督:  あのキャラに関しては、結構こっちに裁量がゆだねられていて、どういうキャラクターにしようかと考えた時に、そのキャラを使う子の性格を僕らでいろいろ考えて、こういう仕事をしているからジョブはこれだなあとか、台本を読み解くと、強そうなやつがいいよねみたいなことをお互いに出しあったらアクション映画スターみたいなのが出来上がりました(笑)。だけど、ちょっと女の子らしさも出そうとか、キャラメイクは面白かったですね。一番ハマった気がします。

マイディーさん:  僕的にはルガディンっていうのを攻めたかったですね。イメージとしては、全然オンラインゲームに興味のない友達を「FFXIV」やってみようぜと誘ってみて、わかったって言って始めたら、結構ガチ勢に成長していくっていうのがあるじゃないですか。自分を追い抜いていくような。ああいうキャラクターなのかなと思っています。映画ではそこまでストーリーが進まないんですけど。そういう要素のある面白みというか。そういうのが表現できたらいいと思ってます。結構、するする進んでいきますので。

山本監督:  やってるジョブも結構玄人ですし。

マイディーさん:  お父さんとは違う、1人の初心者さんを出したかったんです。

――ゲームパートとはちょっと外れるんですが、ドラマの時には、マイディーさんが部屋のプロデュースとかされてたと思うんですが、今回、実写パート結構絡んだりしてるんですか?

マイディーさん: @@いいこと聞いてくれました。僕、調子に乗って10万円分ぐらいファンフェスグッズを買ってしまいまして、ぜひそれを使ってくださいとお願いしています。最近「FFXIV」プレーヤーになって、逆に「FFXIV」グッズがないのも不自然なので、一番新しい、おしゃれなリングとか、サボテンダーのボードゲームとかを飾ったりしてます。

――小道具として、マイディーさんの私物が使われてるんですか。

マイディーさん:  普通に持ってきました(笑)。

――最近発送されたばかりですよね。(編集部注:取材は3月中旬)

マイディーさん:  昨日届いて、確か明日からアキオの部屋の撮影が始まるんですよ。朝届いて、封を開けてとりあえずブログ用に写真を撮って、すぐ戻して持っていきました。オシャレな「FFXIV」プレーヤーの部屋というイメージです。

――撮影が終わらないと手元に戻ってこないですよね。

マイディーさん:  そうなんですよ(笑)。

山本監督:  部屋全体のトーンもマイディーさんの意見で作ったじゃないですか。

マイディーさん:  そうですね。小物だけじゃなくて。

山本監督:  ドラマの時も映画も、ちゃんと美術の方がマイディーさんの意見を聞いて、部屋の雰囲気を合わせたと話してました。

マイディーさん:  僕が今住んでいる築50年のイメージはないんですけど(笑)。「FFXIV」プレーヤーの人が見てもかっこいいなと思ってもらえたらいいですね。理想の「FFXIV」部屋というか。そういうのを目指してもらいました。

――マイディーさんは、今後この仕事を生業にしていかれるんですか。

マイディーさん:  どうなんでしょう。需要があれば全然。むしろ皆さんにお仕事をいただければ(笑)。

――ちなみにマイディーさんの今の本業は何になるんですか?

マイディーさん:  何なんでしょうね。ブロガー? それを聞かれると一番僕も困るんですけど。ゲーム画面制作ですかね。

――たとえば、2、2、4という口パクのマクロのような独特のセンスというのはどこで学んだんですか。ああいうのは学校教育の中に出てこないじゃないですか。

マイディーさん:  それはやっぱり10年間ゲームのブログをやっていて、「FFXIV」のスクリーンショットはサービス開始直後からずっと毎日撮っているわけなんですよ。だから気がついたら身についていましたね。

――何かの影響や勉強じゃなくて、独学ということですか。

マイディーさん:  昔、芸人をやってた時に、吉本の養成所に行ってたんですけど、そこで演劇の基本は習っていましたけど。

――それがちょっと活きてるのかもしれないですね。

マイディーさん:  サボってましたけどね(笑)。ドキュメント映画を見るのも結構好きだったりするので、そういう影響もあるのかもしれないです。絵的なものはずっとスクリーンショットを撮っていて、最終的にこういう演技をしたら、こういう画面ができるなということに精通してる部分はありますから、それが活きてるのかなとは思います。

――最後に映画の魅力を一言ずつお願いします。

山本監督:  僕らからすると日常的になりすぎていて、ここがすごいという判断が難しくなっているんですが、実際のゲームのキャラクターを動かしてそれが、銀幕とかテレビ画面に耐えられる映像になるんだということを、知ってほしいっていうのが一番根底にあります。今はこういうツールがあって、ゲームの中でこういうことをすれば映画が撮れるんだよということが、僕がこの作品に関わるモチベーションになってるんですね。「これってCGなの?」と思われたら勝ちだと思っています。

 何も知らないお客さんが「これCGで撮ってるよ」と彼女とかに言うような作品になったらいいなと。そう見えるように頑張ってるので。エオルゼアパートがどういう風に見えるかというところをぜひ確認して欲しいです。想像する絵とは絶対違うものになっていると思うので。「絶対CGでしょ?」って聞かれるんじゃないかなって思ってるんですけど。そう言ってもらうのがちょっと楽しみです。それが見所かどうかわからないですけど、そういう気持ちでやってます。

マイディーさん:  僕がずっと思ってるのは、これがオンラインゲームの可能性であり、オンラインゲームプレーヤーのひとつの人間の形である。自分のプレイが映画になるって、すごいロマンがあると思うんですね。

山本監督:  ちょっと気恥ずかしい感じもしますけどね。

マイディーさん:  そう、俺って坂口健太郎なんだって(笑)。自分のキャラクターに声がついたり、夢があると思うのと、監督もおっしゃってましたけど、確かにCGだと思われたいという気持ちはあります。ただ実在のプレーヤーが操作しているキャラクターが撮られて映像になっているというのはまたCGとは全然切り口が違うと思います。見た目は確かに似ていますが、撮影方法とか切り口が全然違う映像だと思うんですね。ひとりひとりちゃんと命があって、考えがあって、演技をしたもので作られているので、どちらかというと、リアルな撮影現場に近い環境が存在する、ということを僕は知って欲しいなと思って一生懸命演技をしている感じです。

 オンラインゲームは“ゲーム”とついているので、どうしても敵を倒したりレベル上げをしたりというところが注目されるんですが、「FFXIV」というゲームはそれだけではなくて、そこからもっと文化的な活動もできる。最近では音楽を奏でてコンサートをしている人たちも見ますし、バーを経営している人もいます。そういう多様性を持ったゲームだというのを知って欲しい。そう思って毎日一生懸命がんばって撮影していますので、ぜひ映画を見て面白そうだなと思ったら、ぜひ「FFXIV」で遊んで欲しいと思っています。楽しいので。映画の宣伝じゃなくなってきちゃいましたね(笑)。

――ありがとうございました!