【特別企画】

集中力を高める「Myndlift」はeスポーツにも有効か? スタイリッシュな脳波計とスマホアプリで脳の状態をチューニング!

2019年リリース予定

 リラックスしつつも、高い集中力を発揮する「ゾーン」と言われる状態。近年、スポーツ分野で語られるようになったこの状態を意識的に作り出せるとしたら、それはeスポーツにも有効なのではないか?

 そんなことを考えたことがある⼈がいたら、ここで紹介するメディアシークの「Myndlift」は注⽬に値する製品だと⾔えるだろう。まるで最新の⾻伝導スピーカーのようなスタイリッシュで軽量な脳波計「muse」と組み合わせて使うスマホアプリ「Myndlift(マインドリフト)」は、ミニゲームや動画視聴の形式を持つトレーニングを重ねることで、意識して集中⼒をコントロールできる画期的なシステム。具体的には「muse」を頭に装着して「Myndlift」を起動し、いくつかのゲームをプレーすることで「ゾーンに入る感覚を把握」し、意識してその状態に入れるようトレーニングするのだ。弊誌ではこの最先端のアイテムを試す機会をいただけると聞いて、⽇本における代理店であるメディアシークの本社で話を聞いてきた。

ヘッドセット型脳波計とスマホアプリで集中力を訓練

 この「Myndlift」でのトレーニングは非常に手軽だ。Bluetoothで接続した脳波計測センサー「muse」を頭に装着し、スマートフォンやタブレットで「Myndlift」を起動。接続や装着状態のチェック、キャリブレーションを経たら、ミニゲームを中心とした10以上のコンテンツから好きなものを選択。

 たとえば「ランナー」であれば、ゾーンに入ってない、集中力が乱れているときは画面のコントラストが低く見づらく、ゾーンに入った状態になるほど画面は明瞭になり、ランナーの速度がアップする。同様に、「グライダー」なら自由落下で滑空するキャラクターがまっすぐに飛び、「火」では炎が大きくなる。どのコンテンツも集中するほど画面が明瞭になり、目的に沿った映像が映し出されるようになるわけだ。

 各4分間のコンテンツ5つを1セッションとし、1日に1~数セッションを行なう。たったこれだけのことで、ゾーンに入ることが容易になるという。言ってみればミニゲームを通じて脳をトレーニングするのだが、そう表現するとどうしても日本では一時ブームとなった知性を活性化させる意味での「脳トレ」をイメージしてしまう。「Myndlift」で高められるのは脳の働きというよりも集中力。自分の精神状態をコントロールするために行なうのだ。

「muse」を装着したところ。センサーが装備されたバンドを額に密着させ、両端を耳に掛けるように装着する。骨伝導スピーカー採用のヘッドフォンに似た形状で、装着の容易さもほとんど変わらない
「Myndlift」を起動すると、「muse」との接続を確認した後に装着の状態がチェックされる。そもそもヘッドフォンを装着する程度の手軽さなうえ、センサー部がちゃんと額に密着しているかなどがここで確認でき、装着状態の確実性も高い。“脳波計”という言葉の厳めしさとはまったく無縁だ
ゾーンに入ると画面が明瞭になり、炎が大きく燃え上がる「火」。基本的に集中力が低い状態では画面のコントラストが落ちて見づらくなる

脳の状態を視覚化してフィードバック

 「Myndlift」の各コンテンツでは、「muse」で読み取った脳波の状態がリアルタイムに画面に反映される。ユーザーはキャラクターの状態などを通じて脳波の状態を“自覚”したうえで、それぞれのコンテンツにおける目的を達成すべく、集中力を高める努力をする。一般的な表現で言うところの「バイオフィードバック(Biofeedback)」、脳科学でいう「ニューロフィードバック(Nuerofeedback/NFB)」の技法が使われているわけだ。

 たとえば集中力を高めるための「瞑想」であったり、スポーツ選手が自分の状態を把握するために決まった特定の動作を行なう「ルーティン」などを、「muse」とスマートフォンアプリを利用することで、より科学的に、そして手軽に行なえるのが「Myndlift」なのである。

 もともとNFBはADHDの治療用に研究されてきた技術だ。「Myndlift」の日本でのデベロッパー、メディアシークによれば、NFBについては100以上の研究結果が公開され、2012年に公開された研究ではNFBは精神刺激薬を使った薬物療法と同等の効果があると発表されたとのこと。また、同年に米国小児科学会は副作用のないNFBを“Best Support”な治療方法と認定。さらに2014年に行われた認知訓練との比較研究ではNFBのほうが高い効果を示したのだという。

 NFB訓練は本来は病院で行なうものだが、近年は「muse」と同様に手軽に脳波を測定できるデバイスが相次いで開発され、海外では企業の重役や、ワールドクラスの選手たちが日常的に行なうようになっている。NFBはADHDの治療だけでなく、自分の精神状態をコントロールするのに効果があるとの判断からだ。

「Myndlift」のデベロッパーであるメディアシークの平井祐希氏。現在のBrainTechを取り巻く世界的状況など、「Myndlift」が開発された背景も含めて詳しく解説してくれた。

「Myndlift」とヘッドセット型脳波計「muse」

 近年の研究で急激に解明が進む脳の働きを利用する技術を「ブレインテック(BrainTech)」と呼ぶ。FacebookやMicrosoft、イーロン・マスク氏が設立したNeuralinkといった海外企業だけでなく、アメリカやEU、中国では国家プロジェクト規模でこのブレインテック研究に予算を割いている。もちろん日本でも文部科学省や内閣府などの主導でブレインテックへ取り組むプロジェクトが進行中だ。

 この「Myndlift」はそうしたブレインテックを巡る世界的な潮流のなかで生まれた製品のひとつ。ブレインテック発祥の地と言われるイスラエルのベンチャー企業「Myndlift」が自社の名前を冠して世に送り出したものだ。

 また、脳波計の「muse」は、カナダのInteraXon社が販売する製品。従来の脳波計というと、ラグビーのヘッドギアのような形状をしたセンサーと大きく重い測定器を何本ものコードが結ぶような⼤がかりなもので、装着には数⼗分を要した。それに対し、「muse」はヘッドセット型で装着に必要な時間はものの数秒と⽐較にならない⼿軽さだ。

 これだけの構造の違いがある以上、当然ではあるが「muse」のほうが計測できるデータは少ない。しかし、心理状態を判断するための脳波は必要十分なだけ計測でき、しかも精度もかなり高いのだという。

 ちなみに脳波と心理状態の関係を表にすると以下のようになる。「muse」はこうした脳波を検出し、それを「Myndlift」が評価、視覚化し、各コンテンツへと反映しているわけだ。

【脳波の種類とそれぞれに関係する心理状態】
脳波の種類周波数心理状態
デルタ波デルタ波0.1Hz~3Hz深い睡眠(脳が休んでいるノンレム睡眠)、無意識状態
シータ波シータ波4Hz~7Hz浅い睡眠(脳が活動しているレム睡眠)
アルファ波アルファ波8Hz~12Hzリラックスした状態
低ベータ波12Hz~15Hz集中してリラックスした状態
ベータ波中ベータ波16Hz~20Hzストレスや緊張
高ベータ波21Hz~30Hz警戒、動揺
通常は見られないサーバー側の管理画面。「muse」を装着してセッション中に得られたシータ波、高ベータ派、SMR波がグラフ化されている
4分間のコンテンツを終えると表示される測定結果の画面。「muse」で得た脳波を分析し、状態を時間軸に対するグラフにして見せてくれるのだ。コンスタントにゾーンに入り続けることはとても難しい

eスポーツプレーヤーを対象にモニタリング調査を実施

 この「Myndlift」は海外では大学病院やクリニックなどで医療用に使われているが、国内で展開するにあたってメディアシークはあえてその医療用の認可を取らないことで、コストダウンを図り、広く流通させる意向だ。

 NFBはスポーツや仕事での応用に効果があると言われるが、同社がなかでも期待を掛けるのが高い集中力と瞬発的な判断力などが必要とされ、日本でも急激に裾野を広げつつあるeスポーツだ。そこで同社はeスポーツプレーヤー5名を対象に、モニタリングを実施した。

 スポーツなどでいうゾーンとは、リラックスと集中のバランスが取れた状態。これは12Hz~15Hzの低ベータ波の一種である「SMR波(Sensory Motor Rhythm/感覚運動リズム)」と呼ばれる脳波として現われるという。

 モニタリングではこのSMR波を向上させ、逆にリラックスしすぎた時に表れやすいシータ波や、動揺した時に強まる高ベータ波を抑えることを目的としたプログラムを用い、3週間に渡って実施。1日あたり4分間のコンテンツを5回、週に3日以上行なったところ、すべての対象者の測定結果において、SMR波の増加、シータ波と低ベータ波の抑制が見られたそうだ。

 各対象者へのアンケートでも1人を除く4人が何らかの効果を体感していて、集中力が切れたときに気持ちをリセットしたり、立て直したりが容易になった、重要な場面で慌てなくなった、などの解答があった。

 海外でNFBを実践しているスポーツ選手同様、モニタリングの対象者5人も概ね「Myndlift」に効果があり、それもeスポーツで役立つと感じているようだ。

 ここでひとつ、正直に書いておくべきことがある。NFBはまだ研究が続けられている技術であり、その効果に否定的な意見も少なくない。本来の目的であるADHDの治療に効果があると数多くの研究が証明している一方、効果が見られなかったと結論づけたものもあるのだ。

 両極端の結果が出るのはある意味仕方ない部分もある。なにせ脳波の状態としては変化が見られたとしても、あくまでも実際の効果は「体感」による。研究結果にはプラセボ(偽薬効果)によるものも含まれている可能性もあるだろう。

メディアシークが行なったモニタリングの風景。5人の対象者に3週間に渡って「Myndlift」を体験してもらい、得られた脳波などから効果を測定。聞き取り調査も行なった
モニタリングで得られた結果の一例。画像は「コール オブ デューティ ブラックオプス 4」の戦績を表した画面で、左が体験前、右が体験後のもの。体験後はミスが減るのと同時に戦績が安定し、大敗を喫することがなくなっているのがわかる

認知拡大と月額コストの設定が普及のカギか?

 実は担当編集と筆者はこの取材時に「muse」をお借りし、以降、「Myndlift」をそれぞれ試している。手も何も使わず、「muse」で得られる脳波だけでゲームを操作するのはなんとも不思議な感覚。さらに不思議なのは、回数を重ねるごとに、ちゃんと操作に熟達していける、つまり、集中状態に入りやすくなっていくのだ。どうすれば上手くいくのか、これほどプレイのコツを人に説明しづらい“ゲーム”がほかにあるだろうか。

 ともあれ、以下に2人の体験後の感想をまとめてみる。

筆者&担当編集の感想

・集中力が高まる、というよりも、集中した状態に入りやすくなる(2人とも)。
・コンテンツのプレイ回数を増やすごとに、少なくとも画面上では集中状態に入りやすくなる(2人とも)。
・コンテンツによって体感する難度に違いがあり、「グライダー」が難しい(2人とも)。
・4分間を通して集中した状態を持続するのは難しい。特に前半に集中状態に入ると後半が乱れ、前半が乱れていると後半に集中できるパターンが多い(2人とも)。
・プレイを重ねて経験を増やすごとに、プレイしていないときに自分が得意な画面を思い浮かべることで気が散ったときに集中しやすくなる(2人とも)。
・大勢がいる会社のオフィスよりも静かな自室のほうが集中しやすい(担当)。
・雑多な話し声でなく、BGMをかけてプレイしているときは集中しやすい傾向がある(筆者)。

 あくまでもこれは2人による「※個人の感想です。」な話でしかないものの、2人ともそれなりに何らかの効果を感じていることは確かだ。ただ、ここは強調しておくがこの「Myndlift」を導入してもゲームが上手くなるわけではない。その効果は、あくまでも集中力を高める助けが得られ、ミスが減り、成績を安定させやすくなる、といったレベルのものだ。仕事や勉強に活用したときも同様である。

 ちなみにメディアシークでは、「muse」の価格を約3万円、「Myndlift」の利用料として月額3,000円程度を予定しているという。価格は未だ“検討中”とのことでもっと安くなる可能性もあるとのことだが、3,000円というのはゲームコンテンツの月額課金などを考えると、正直かなり高額に感じられることは間違いない

 1度、2度触った程度ではなかなか効果がわかりにくいだけに、メディアシークではeスポーツのプロチームに導入してもらうなどしてのプロモーション活動を計画しているという。継続してサンプルを使用させていただいた今でこそ「価格によっては導入したい」と筆者は考えているのだが、はたしてどんな形で実サービスが開始されるのか、非常に興味深い。

コンテンツのひとつ「ランナー」。ゾーンに入ると画面がクリアになり、ランナーが加速。途中からライバル登場したり、スケートボードに乗ったりといった演出もある。こうした上手くいったときの画面を思い出すことで、「Myndlift」を起動せずとも集中力のコントロールがある程度できるようになった(気がする)
筆者も担当編集も苦手な「グライダー」。ほかにもゾーンに入るとYouTubeの動画がスムースに再生される「Video」など、セッションを構成するためのコンテンツは10以上に上る