インタビュー
【特別企画】マスターピースゾイド「MPZ-01シールドライガー」インタビュー
生物の動きを極限まで追求し、こだわりのギミックで再現
(2015/12/26 00:00)
タカラトミーが展開する組み立て式玩具「ゾイド(ZOIDS)」の最新シリーズ、「マスターピースゾイド」が2016年より展開される。その第1弾となるのがこの「MPZ-01シールドライガー」だ。
「ゾイド」とは、同社がトミーの時代に国内で展開した恐竜や動物、昆虫などをモチーフとした組み立て式の玩具だ。1982年に「メカボニカ」の名称でスタートし、翌1983年に「メカ生体ゾイド」とシリーズを改められ、それまでの玩具では見られなかったメカニカルなデザインと、ゼンマイやモーターを内蔵したギアボックスによるリアルな動き、そしてこの玩具のために緻密に設定された独自の世界観とストーリーなどが当時の子供たちの心を掴んだ。
「ゾイド」は昭和を代表する玩具のシリーズとして大ヒットを記録した後1990年に一旦終了。しかし“メカ生命体”というモチーフは魅力的で、さらに当時を懐かしむユーザーも多く、いくつかの新シリーズや旧シリーズの復刻展開が行なわれている。そして1999年のTVアニメ化による新たなファンも獲得し、現在へと至っている。
このマスターピース(以下、MPと略)ゾイドのシールドライガーは、2016年から展開される新シリーズ第1弾となる製品で、過去に発売したゾイドシリーズを現代の技術で蘇らせるというプロジェクトのもとに設計され、価格なども含めて完全なるハイターゲット向けに企画されたものとなっている。
本稿では来年3月に発売予定のシールドライガー、そして第2弾として発売予定の「MPZ-02セイバータイガー」両者の試作品を前に、タカラトミーボーイズ事業部の中瀬崇嗣氏と、デザイン担当の熊走明子氏に開発の経緯や苦労、そしてシリーズ見どころや展望などについて聞いてみた。
現代の技術で、動物の動きを極限まで再現したゾイドを作る
この「MPZ-01 シールドライガー」はどのような思いの中生まれたのだろうか? 「かつてのゾイドを、現在のテクノロジーでリバイバルし、『究極のゾイド』を作るというところから始まりました」と中瀬崇嗣氏は語った。この「MPゾイド」の企画が始まったのは2012年だという。中瀬氏は子供の頃にゾイドのメカニカルなデザインや構造に魅せられ、大学は機械科を目指し、実際にトミー(当時)に入社してしまったというプロフィールを持つ企画マンだ。
シールドライガーをゾイドの「マスターピース(最高傑作)」として成立させるべく、中瀬氏をはじめとする開発陣は、そのモデルとなったライオンの動きを再現するために、上野動物園へと足繁く通いつめ、日がな一日メスのライオン(中瀬氏いわく「オスのライオンは寝てばかりで動かない」とのこと)の姿を観察・撮影し、歩くときの筋肉の動きまでチェックしたという。
本物のライオンの歩き方をゾイドで表現するために特に苦労したのは、前脚の再現だと中瀬氏は語った。ライオンは歩くときに前脚の先を肩より内側にすぼめ、さらに踏み出したときに肩胛骨が前に出るという特徴がある。しかし、動きを検証するために製作した「骨モデル」なるプロトタイプの内部機構で、肩部分の関節を複雑化してそれを再現してみたところ、自立して歩くことができなくなってしまったというのだ。
関節の複雑化は歩行に支障を来すだけでなく、強度や組み立て難易度にも影響するため、内部機構と動作のバランス取りを見直し、調整に調整を重ねたことで、歩行と動きの再現を両立させた現在のサンプルの動きへと至っている。実はこのインタビューを収録した12月上旬の時点で、さらに安定した歩行を実現するための最終調整に入るそうで、製品版ではサンプルよりももう一段階安定したものになるとのことだ。
開発チームの“動物の動き”を再現することへのこだわりは、ただ歩くことだけに止まらない。動画を見てもらえればわかるとおり、歩き出す前後には各部の鼓動(アイドリング状態)と、咆哮する様子が挟み込まれて、より動物らしい動きを演出している。
過去のゾイドはスイッチを入れるとすぐに動き出したが、それに対して中瀬氏は「僕らは『機械生命体』を作っているので、それが本当に生きているように見せたいんです。ですからこのMPシールドライガーでは、スイッチをいれていきなり動き始める違和感を払拭しました」と、これらの演出を付け加えた理由を説明した。
実はこの歩行以外の動きを加えたことによって、モーター1個ではその動きをまかなえなくなり、ギアボックス内のモーターを2個に増やすことで、一方を歩行に、もう一方をアイドリングと咆哮に割り当て、それをICによって制御するという設計になっている。製品版では電源を入れたときは[アイドリング]→[歩く]→[咆哮]の順で動作し、これを5セット繰り返した以降の動きはランダムになるとのことだ。
ICなどを組み込んで、ハイターゲットに特化した商品となるのなら、いっそもう1ステップ上の、プログラミングロボットやリモートコントロールゾイドなどを作る企画もありなのでは?と思い質問してみたのだが、「ごく初期の話にはありましたが、すぐになくなりました」という返答が帰ってきた。
「プログラムやリモコンで動かしたときに、動物らしさをどこまで維持できるのか」という思いが開発者全員の頭にあり、まずは自分で操作することより、過去のゾイド同様、ギアボックスとクランクやカムの構造によって進化した動きを実現することを優先することに、ゾイドとしての価値があると中瀬氏は語った。
実は以前にも、ゾイドの「アイアンコング」をラジコンロボットにする企画が進められ、一部のイベントなどでも披露されていたが、サーボによるラジコン操作にしたことによって価格が上がりすぎ、かつシンプルな構造でゾイドとしての動物的な動きやプロポーションを突き詰めることができず、商品化されることなく現在に至っている。
モチーフのライオンと、旧シールドライガーの中間を目指してデザイン
このMPゾイドのために、新たにリファインされたシールドライガーのデザインについても聞いてみた。デザインを担当した熊走氏は、プライベートでもゾイドのファンで、普段からゾイドのイラストを描くのが好きで、このシールドライガーも熊走氏が実際に描いたイラストをもとにデザインを起こしている。
デザイン的には、過去に発売されたシールドライガーがあるとはいえ、それを直接リファインするのではなく、こちらもやはり実物のライオンの骨格や肉付きを参考に「ライオンとオリジナルのシールドライガーの中間のシルエットを目指しました」と熊走氏は語った。
例えばシールドライガーのたてがみの部分にあたる「エネルギーシールド発生装置」は、実際のオスライオンのシルエットに近づけ、複数のパーツを展開させることで、正面から見たときにライオンらしく見えるというアレンジが加わっている。
中瀬氏が現在の技術を内部機構に盛り込んだように、熊走氏は現代の武器や兵器を意識し、シールドライガーが実在の兵器となったらこうなるのではないか、という解釈で細部へのアレンジを施している。またストーリー的にこの後、シールドライガーの強化機種という設定で、「ブレードライガー」が登場するので、あえて対比させるため、脚を太く見せたり、複数の放熱フィンより目立たせたりして、意図的に無骨さを強調しているそうだ。
デザインにおいて最も苦労したのは、やはり機構との兼ね合いだそうで、このシールドライガーの場合は、骨組みの段階から体の中心に大きなギアボックスが設置されているために、ライオンの肉食獣特有の細い腹部のシルエットをどう表現するかが最大の課題で、これ以上細くは設計できない腹部に対し、シールドライガー特有の頭部そこから続く背中のパーツを少し大きめにデザインすることで、腹部を細く見せている。
こうした苦労の甲斐もあって、前述の正面のシルエットなども含めて、顔は熊走氏お気に入りのポイントとなり、「シールドライガーに見えつつも新しい意匠も加えて、さらにライオンに近いシルエットになりました」と語っている。
メカだけど表情が変わる新解釈を盛り込んだMP第2弾「セイバータイガー」
ここからは、MPゾイドの第2弾となる「MPZ-02 セイバータイガー」についても触れておきたい。既にシールドライガーのソリッドでメカ然としたデザインに対し、セイバータイガーは曲線の多いデザインで、より動物に近いシルエットをしている。セイバータイガーが所属する「ヘリック共和国」のゾイドと比べ、装甲が多い「ゼネバス帝国」のゾイドの特徴が色濃く現れた機体だ。
ギアボックスは共通の設計のものが使われているため、歩行のメカニズムは基本的にシールドライガーと同じとなるが、制御ICを変更したことにより、歩行と咆哮のパターンが異なり、目のLEDなども異なる色となり、シールドライガーを買った人も楽しめるような仕様となる予定だ。
モチーフとなった動物はもちろんトラで、セイバータイガーと比べて、頭部などがかなり小さく、ファンが特に気にしているオリジナルのシルエットを崩さずにリファインされているのがわかるだろう。
両足の付け根部分にはクリア素材による装甲が新解釈として施されているが、熊走氏いわく「フル装甲の割に重量が軽いというこの機体の設定から、軽くて強固な装甲をイメージして透明のデザインにしました」とのこと。ちなみにこのクリアパーツと内部にあるトラジマを表す模様は、中瀬氏のアイデアによるものだそうだ。
もう一つ面白いギミックとして用意されているのが、顔の表情を変えられるパーツが用意されるという点だ。キットには頭頂部と鼻の横のパーツが2種類用意され、これを差し替えることで、ネコ科の動物が毛を逆立てて歯をむき出し威嚇をしているような「怒り顔」を表現できるのだ。
熊走氏は「メカだけど表情を変えられるという新しい解釈で、デザインにおけるチャレンジのポイントとなりました」と、このギミックについて説明する。本当はモーターの連動やパーツの変形などで実現したかったそうだが、そうすると頭部を大きくせざるを得なくなり、この機体の魅力の一つである美しいシルエットを崩してまでやることではないと判断し、パーツの差し替えという形に落ち着いている。
ゾイドシリーズが持つ魅力やエネルギーへのリスペクトは忘れずに続けていきたい
2016年3月にはシールドライガーが、2016年夏にはセイバータイガーの発売を控え、いよいよ現実的になってきたMPゾイドシリーズ。「ゾイドファンの皆様からの期待値も高く、プレッシャーは感じているのですが、『ゾイドらしい』製品になったと思っています」と、中瀬氏は発売への抱負を語った。
さらに気になる次の展開に関しても「もちろんここで終わることはなく、次への準備はしています」と、ファンにとって心強いコメントもいただいたている。もちろんまだ当分先の話になるので、まずは今回のシールドライガーとセイバータイガーの、新世代のゾイドの完成度を味わってみてほしい。
最後に中瀬氏は「ゾイドは弊社にとって非常に大事なコンテンツであり、特殊なコンテンツでもあるんです。今のおもちゃは、アニメなど何かしらのコンテンツがあってのマーチャンダイジング商品というのが主流ですが、ゾイドはおもちゃオリジナルの世界観を作って売れたという時代を経た商品ですからね。手にするお客様や我々開発者の技術心をくすぐり、モノとしてのエネルギーも持っている。そこに対するリスペクトとプライドは、これからも大切にしていきたいですね」と語った。