インタビュー

【特別企画】「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」、重田智氏インタビュー

キャラクターの心情を重ねて動くMS、従来の“お約束”を超えた自然な関節表現

「ロングライフルを構えるポーズ」が劇中の雰囲気で再現できる
ライフルの連結もこだわりのアレンジが加えられている
金属の関節を持つ「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」だから実現できた、金の関節
今回のインタビューでは重田氏の“絵で表現すること”やキャラクターへの想いを聞くことができた
やはり2体並べてみたいと語る重田氏。2年前に発売された「METAL BUILD デスティニーガンダム」は現在入手困難な状況であり、再販を期待したい

 「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」は可動においても優秀だ。重田氏はアニメの作画においては、「こんなポーズは立体物ではとれないだろう」ということをわざと考えて描くところもあるという。しかし、バンダイのスタッフはそれを実現させてくる。重田氏が今回の「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」で気に入ったのは、「MA-M21KF 高エネルギービームライフル」を連結させ、“ロングライフル”とした、「ロングライフルを構えるポーズ」が劇中の雰囲気で再現できるところだという。

 このポーズは福田監督から「オープニングのタイトルバックでロングライフルを構えるポーズをさせよう」という指示に従って考えたもの。この指示は当時の重田氏を大きく悩ませた。指示通りのポーズをそのままとらせた場合、カメラに背中を向けてしまうことになる。右手でしっかりライフルのグリップを握るという“常識”では、どうしてもうまくいかない。そこで重田氏は、“トリガーとグリップを必ずしも握る必要はない”と解釈し、イレギュラーな考え方で、右手で銃身をがっしり握る力強い新鮮な印象をもたらすポーズを描いた。

 また、「MA-M21KF 高エネルギービームライフル」の接続もアレンジし、設定と異なる“本編作画としての説得力と、デザインとしての勢いのあるライフル”としているのも注目ポイントだ。シルエットとして、グリップの延長上に銃身があるようになっているのは、重田氏の“好み”も活かしたアレンジだ。

 そして、「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」の大きな特徴と言えば「金の関節」である。ストライクフリーダムガンダムの大きな特徴である金色の内部骨格は金属パーツだからこそ実現できた要素だとのこと。アニメでは福田監督が最初、「パワーを全開にしたら全身金色になる」というイメージを提示していたのだが、重田氏はその演出は他のロボットアニメでも使われていたと考え、それならばと福田監督は「関節を光らせよう」と思い至ったという。

 しかし、実はこの「金の関節」というアイディアの“商品化”は難航した。プラスチックの場合、素材に金メッキをかぶせると、どうしても関節でこすれてしまい、はげてしまう。「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」は関節に金属パーツを使用し、そしてメッキが金属に結合する技術を使っているため、こすれても金色がはがれないものになっているという。10年という年月、そして金属の関節という部品素材で、「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」が提示したアイディアを立体物として実現できたとのことだ。

 また、「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」、「METAL BUILD デスティニーガンダム」を実際に触った感触も聞いてみた。重田氏は、その再現度の高さ、耐久力があるためのいじりやすさが気に入っているという。「子供の時は、なんでテレビ画面の中と玩具のデザインはこんなに違うだ! と怒っていましたが、今では劇中以上の立体物すら出ますよね。当時とはものすごい差がありますね(笑)」と重田氏は語った。


重田氏: 自分の立体物への関心は、「画面で描いたポーズの再現」にあります。可動域がどの程度あるとか、片膝をつけてポーズがとれるとかではないです。以前、立体物化への監修作業で、あるポーズをとらせるのに動かないと困る構造部分を指摘したところ、「そこは動かせません」と言われたことがあるんです。特に、前屈み、左右の体のスイングができないのはどうしてなのかという不満は抱きました。肩や股関節が引き出せるのは良いけど、身のねじれがなければポーズというのはとれないんだ、という思いはなかなか伝わらないようです。

 ソードなどの大型の武器を振るうならなおさらで肩の可動だけではアクションポーズ“らしさ”はカバーできない。それがロボットなんだ、といわれるかもしれないけど、絵では力強い構図にならなくなってしまうんです。MSは人の型をしているロボットなのだからそういった“らしい”芝居が求められるところがある。そういった意味で、ようやく体がねじれる立体物が出始めてきたのは良かったと思います。

 作画の解釈の仕方にもよるところがありますし、これがリアルかと言われれば違うかもしれませんけど、せっかく人型をしていて、ドラマ上でのキャラクターの心情を重ねて動くのだから、そういった意味での力の入ったポーズがとれるようにして欲しいと考えています。

 筆者は個人的に「ガンダムのデザイン」が、人間の体と大きく異なっているという点が気になっていた。この疑問は昨年から始まった“18mのガンダムを動かそう”という「ガンダム グローバルチャレンジ」がきっかけで生まれたのだが、例えば腕は人間なら筋肉で引っ張り、肘はただの蝶番だが、ガンダムでは肘に回転軸があり、「現実の機械」として考えると肘に負荷がかかりすぎてしまう。

 現実に動くロボットと、ガンダムのデザインは乖離しているところがあるのではないか? 「リアルなロボットとガンダムの違い」を実際にガンダムを描く方はどう捉えているのだろうか? こういった質問を一度実際にメカを描いている人に聞いてみたかった。今回の機会に、重田氏に質問してみた。

 重田氏は、「逆にリアルに考えたとき、可動するロボットの腕ははたして人に近いものになるのかを考えると、まずそこからビジュアルが大きく違ってきてしまうと思います。そもそも人型である必要はあるのかとか、元々のかっこ良いロボットであるMSのコンセプトから際限なくずれてしまう様な気がします」とコメントした。


重田氏: もちろん絵に説得力をもたらす、“らしさ”は必要で、所々でそれは盛り込みますけれど、“リアルなSF”と、“ガンダムという世界が求める表現”は本当にイコールになるのかはわからないと思うんです。自分自身では“気にしていない”というのが正直なところですね(笑)。

 例えば自分が立体化の際に注文するのは、関節のメカニカルな構造を云々するより、このデザインのままだと肘や足を曲げたとき、関節ブロックがむき出しになって人間の持つシルエットからかけ離れてしまうのは何とかしてくれ、といったことです。やはり、リアルな科学的なアプローチよりも、アニメのイメージを優先して立体物や造形は進化していって欲しいと思います。

 一方で、「どうして玩具の関節はこうなってるの?」、「これは以前からこういうものです」といったやりとりに疑問を感じる部分もあります。だから自分が監修をするときは、「MSというキャラクター」を追求すると共に、「今の商品としての型」というところに疑問をぶつけて考えてもらうこともあります。私の考え方を新鮮に捉えてもらうこともありました。

 特に「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」は、“高額商品”であり、既存の商品の枠に囚われない開発者、監修者の意見をできるだけ活かす方向が求められる商品でもあるという。

10月に開催された「魂ネイション2015」では、オプションセットの光の翼つきの「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」が出展されていた
こちらは参考出展の光の翼つきの「METAL BUILD デスティニーガンダム」。こちらも発売して欲しい
プレミアムバンダイで受注が行なわれる「光の翼オプションセット」。「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」がさらにゴージャスな雰囲気に

 この「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」の発売直前に公開されるのが「光の翼オプションセット」だ。羽に取り付けることで光り輝く翼を広げたストライクフリーダムを再現できる。

 翼自身のパーツはクリアパーツで、3色のグラデーションでエフェクトを描いており、さらに間に挟まれたシートが特殊な印刷技術により、光を当ててなくても光り輝くように見える。「光の翼がつくと大きくイメージが変わる」と重田氏はコメントした。

 さらに重田氏の提案で「光の翼オプションセット」には、ドラグーンシステムを浮かせた状態で展示できるアームも付属する。重田氏は「この光の翼をつけるとなんだかゴージャスさが増しますね。デスティニーに負けないどころか、逆にデスティニーがかすんでしまわないか心配です」と語った。

 「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」は、「METAL BUILD デスティニーガンダム」を多分に意識して作られた商品だ。デスティニーで“悪魔”というイメージを突き詰めたからこそ、対抗するために“パラディン”というイメージを込めた。重田氏は「関節の金色の部分もあって、並べてみるとデスティニーには負けていないですね」とコメントした。劇中での直接対決はあまりなかった両機だが、だからこそ、「君の家で再現!!」という感じで、2つを並べて飾るのをオススメしたいという。

重田氏: 「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」は値段は張りますが、とてもよくできた製品だと思います。だからこそ高い満足を味わっていただけると思いますし、ぜひ遊び倒していただきたいです。色々なところに色々な想いや思惑を込め、色々なことを試しています。

 過去のストライクフリーダムの立体物ではできなかったことを、ストレートも変化球も含めてやっています。それはスチルを見ただけではわからないと思うんです。造形、可動域、素材の処理……色々なところから制作者の思いを汲んでみてください。