インタビュー
【特別企画】「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」、重田智氏インタビュー
チーフメカ作画監督が提示する、たくましく力強い新たなストライクフリーダム
2015年11月20日 00:00
バンダイの「METAL BUILD」シリーズは、ガンダムのアクションフィギュアとして最高峰のクオリティ、ギミックを持つ商品である。シリーズを通じて人気が高いが、特に2013年の商品「METAL BUILD デスティニーガンダム」はアニメ本編以上に禍々しいイメージにアレンジされ、ファンから高い評価を得た。だからこそ最新作の「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」はどのようになるか、ユーザーの注目と期待は非常に高かった。
その「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」がいよいよ11月21日発売される。今回、発売に先がけ「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」を見ることができ、そして本作の監修を務めたアニメーターの重田智氏に話を聞くことができた。重田氏は「機動戦士ガンダムSEED」および、「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」のチーフメカ作画監督を務めた人物。「METAL BUILD デスティニーガンダム」で大胆なアレンジ監修を行なった中心人物である。
今回の「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」も大胆なアレンジが行なわれている。劇中で“最強のMS”として描かれるストライクフリーダムを、本商品はよりマッシブに、力強く造形している。本作に込めた想いはどのようなものか、インタビューしてみた。
“悪魔”に負けない“パラディン”に! 前作を踏襲しての力強いアレンジ
重田智氏は“監修”という形で「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」に関わっている。重田氏はこれまでも「METAL BUILD フリーダムガンダム」、「METAL BUILD デスティニーガンダム」の監修を担当し、ディレクターは原型師として活躍するケミカルアタック from 株式会社ウイングの坂本洋一氏が務め、バンダイのスタッフとこの3作を手がけている。今回の「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」もその仕事の延長線上にあり、共に積み上げてきたしっかりした実績があるという。
重田氏: 坂本さんをはじめとしたスタッフは「METAL BUILD」シリーズをやる以前からこういった仕事を一緒にやっている方々なんです。これまでやってきた仕事で様々な試行錯誤をして、坂本さん達は「SEEDらしさとは何か」といったことをしっかりわかっていると思います。ですので今回、自分の方から「こうしてくれ」といったトップダウン式で指示を出すのではなく、坂本さん達からまず提示されたものがあり、それをベースに煮詰めていったという形です。
自分は二次元の絵の側の人間ですから、アニメ作画上でのMSのコンセプトや表現方法を提示するというスタイルで、例えば可動部分の構造とかは「こんなポーズをとらせる事ができたらいいね」といった感じで、構造や設計に関しては完全におまかせしています。……ただ、そういった所さえ、自分が思っている以上にのめり込んでやってくれていて、「あのポーズも、このポーズもこうやってとることが可能です」みたいに何とか対処してきてくれるんです。しかも期待以上なんですね(笑)。
だから、「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」ではコンセプトワークの役割でしたね。それは、例えばバンダイさん側でこういった製品を作るときに、その方向性をジャッジメントする役割の人が必要になるんじゃないかと。自分はSEEDシリーズでのデザイナーや監督ではないけど、メカを動かす立場の責任者として「この方向性で良いと思います」と言う人がいれば、みんながその方向で行ける、今回は、そういう役割ですね。
その上で、今作の「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」はどういったコンセプトで作られたのだろうか。重田氏は“「METAL BUILD デスティニーガンダム」に負けないものを作りたかった”と語った。
「METAL BUILD デスティニーガンダム」は、あえて“悪魔”というイメージを持たせている。劇中のデスティニーガンダムは、重田氏から見て「敵役として成り立つデザイン」であり、製品ではこういった部分と、物語上のシン・アスカの激しい感情の部分などをプラスしていくことで“見る人によってはこう見えているのではないか?”ということで、悪魔という方向性を強く打ち出したアレンジがなされた。しかし、ストライクフリーダムはどうするかというところで重田氏は悩んだという。
重田氏: ストライクフリーダムは“強い主人公機”ではあるけれども、デスティニーの“悪魔”のように一言でパキッと言い切れる様な言葉がなかったんです。悪魔に対抗するなら天使なのかなと思うんですけど、天使という言葉そのものの響きが非常に弱い。というか、曖昧なイメージがあって頭に輪っかを乗せたファニーな“エンゼル的”な感じになってしまうんですね。
それに「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」でのキラは、どこか達観しているところがあって、キャラクターの心情としてのイメージを引っ張り出すのが難しかったのかもしれないです。自分は「SEED DESTINY」のキラは意図的に感情を表に出さないようなキャラクターだった気がするんですよ。物語の2/3くらいまではそうしていても、ストライクフリーダムの強さはMSとしての描写で伝わるんだけど、キャラクター性で弱いんですよ。
そこで坂本さんと方向性を相談していて「西洋甲冑」というキーワードがまずできて、さらにそこから“パラディン”という、力感溢れた、ラクスを守る聖騎士というイメージにたどり着きました。そのイメージから、「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」はマッシブで、筋骨隆々としたプロポーションでのイメージといった感じでのアレンジとしました。このパラディンというイメージにたどり着くまでが、一番苦労したところかもしれないですね。
実際、「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」を見ると非常にマッシブなアレンジが加えられているのがわかる。デスティニーと並べるとよくわかるのだが、胸板が厚く、肩ががっしりしていて、足が太い。羽根のラインに目を奪われがちだが、かなり力を感じさせるアレンジが加えられている。
また装甲のパネルラインの情報量も見所だ。「METAL BUILD デスティニーガンダム」もかなり凝っていたが、「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」はそれ以上だ。足やスカートには基本色だけでない配色も施されていてより立体映えのする複雑な面構成となっている。ここは基本色が白のためのっぺりとしてしまうことを防ぐため、シリーズでの“進化”を感じさせるため、という側面もあるという。
上半身のデザインとしては、ガンダムは肩のラインが実は難しいと重田氏は語った。アニメ設定に従って立体を考えると胸のダクトの位置が下がりがちで、自身の監修での立体物では意識して“胸を張っているように”上げているところがあるそうだ。そこが、力強いフォルムを生んでいる。
また、腰の「MMI-M15Eクスィフィアス3 レール砲」も設定画より複雑なギミックで展開する。アニメ設定より大型化されており、構える姿も迫力がある。いじってみるギミックの楽しさも追求したとのことだ。
マッシブなボディと共に、ストライクフリーダムのデザインの上で大きな特徴が「羽」である。ストライクフリーダムの羽はドラグーン・システムにより分離し、独自に浮遊、攻撃を行なう。「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」ではこのドラグーンを取り外し、台座に飾ることが可能だ。
重田氏はこの羽を外した形態に関して「羽を外したら見栄えがどうなるかと思っていたが、肩アーマーがしっかりして、ドラグーン射出後の展開したウイングでのシルエットでの形態でも見応えがある」とコメントした。このバランスはバンダイの開発側でこだわった部分だという。
「SEED/SEED DESTINY」のガンダムは、兵器ではなくキャラクター
一通り「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」を重田氏にチェックしてもらってから、改めて対になる存在である「METAL BUILD デスティニーガンダム」のデザインの方向性に関して、なぜ“悪魔”というある意味極端な方向性を提示したのか、そして重田氏の“モビルスーツ(MS)観”について聞いてみた。
重田氏: デスティニーやストライクフリーダムなど作中で登場するMSは、監督の福田さんの作家性によって、キャラクター性が非常に強くデザインされていて、そこに本編のパイロットであるキャラクターの感情を乗せることで劇中のガンダムは描かれていると思います。「METAL BUILD デスティニーガンダム」も同じようにキャラクターの感情を意識したアレンジをして、従来の商品とは異なるデスティニー像を見せられたと思っています。
アニメや特撮などもそうなんですが、時がたつほど見ている方もその作品に対する想いが熟成されていく。そして、その熟成された想いに応える商品が必要になってくるんじゃないかと思っています。「今の熟成された想いの中では、このくらいに見えているのではないだろうか」という解釈で、「METAL BUILD デスティニーガンダム」は作りました。
アニメではそのシーン、そのカットで、「怖いシーンでは、メカであるMSでも怖く見えて良いんじゃないか」という思いで描いている部分があります。フリーダムに剣を突き立てたインパルスは、普段のインパルスとは違って見えたり、セイバーの手足を切断するフリーダムは、顔半分を黒くツブして意図的にキラの振り切った感じや、視聴者の方にフリーダムが怖いと思ってもらえる“ライティング”を意識しました。「METAL BUILD デスティニーガンダム」はそういった手法を使ってデザインした部分もあります。
福田さんはよく言っていますが、MSもキャラクターだと捉えているんですね。自分も個人的にはロボットアニメってロボット=キャラクターだと思っています。それは、富野監督のMS=乗り物であるという解釈とは違う部分かもしれないですね。
ここで疑問が浮かんできた。MS=キャラクターという視点だと、「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」では少し、筆者は“違和感”を感じた。線の細いところのあるキラ・ヤマトというキャラクターに対して、「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」はマッシブで、力強い。キラのイメージと重なりきらないところもあるのではないか?
重田氏は今回のデザインは、キラそのもののイメージを追求しながらも、「METAL BUILD デスティニーガンダム」と、「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」を2体並べたときのバランスも考えたと語った。
重田氏: 商品として考えると、主人公機であるストライクフリーダムをデスティニーと並べたときに、デスティニーの持つアクの強いデザインに対して、対等かそれ以上の存在感が必要だろうと考えました。そうでなければ、ストライクフリーダムが見た目ですでに負けてしまうのではないかと思ったんです。
ひょっとしたら、マッシブで力強い今回のストライクフリーダムのフォルムそのものも、キラ本人が望んだものではなく、軍の象徴として、周りから求められているものだと解釈することもできると思うんです。デスティニーに負けないデザインになっているというのは、キラ自身は「みんなからはフリーダムってこんな風に見えているのか」と思うかもしれませんね。
両澤さんに確認したわけじゃないんですが、自分はキラは好きで職業軍人をやっているわけじゃないと捉えています。だから「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」の全身に施されたマーキングは「宇宙世紀のガンダム」とは異なり、ミリタリー的なマーキングは似合わないのではないかと思ってるんですよ。例えば、キラはMSの機体に撃墜マークなんて絶対書かせないんではないかと思います。
デスティニーのシンならば撃墜マークやら、軍としてのパーソナルマークはつけたがるかもしれないけど、キラの方はもし描かれるとしたら軍の象徴の義務としての“おしつけ”であって、本人はいやだなと思うんじゃないかなと。もしそういったマーキングが機体にされていたら「僕やっぱり、いまだにこれ好きになれないよ」なんて、ラクスに言うんじゃないかと(笑)。
「ガンダム SEED」そして「ガンダム SEED DESTINY」が終わってすでに10年たちますけど、それでも今でも版権作業や立体化の監修作業の依頼があります。「METAL BUILD ストライクフリーダムガンダム」は10年たったからこそできるデザインだと思いますし、立体物は求められるテーマがカテゴリーごとに毎回違います。商品へのアプローチが毎回違っていたり、前回の立体化の反省が活かせるというところで、メリットはあると思っています。
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