ゼニマックス・アジア高橋徹氏、Tango Gameworks三上真司氏インタビュー
2012年のゼニマックスの戦略、そして三上氏の求める“大作ゲーム”開発者


3月6日収録





 ゼニマックス・アジア株式会社の親会社であるZeniMax Mediaは、2010年10月、三上真司氏が設立したゲーム開発会社、株式会社Tango Gameworksを買収し、Tango GameworksはZeniMaxグループの1員になった。

 それからおよそ1年半、Tango Gameworksはメディアを通じて、新規タイトルのための人材募集を行なう。今回はゼニマックス・アジアのゼネラルマネージャー高橋徹氏と、Tango Gameworksエグゼクティブプロデューサーの三上真司氏にインタビューを行なった。

 インタビューでは最初にゼニマックス・アジアの2011年の活動と、今後の戦略、そして三上氏の目指すゲーム像と、Tango Gameworksが求める開発者像について質問してみた。なお、インタビューを読んで「我こそは」と思うゲーム開発者は、下記リンクをクリックして、Tango Gameworksに応募して欲しい。

 

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■ 2012年のゼニマックス・アジアは、新作「Dishonored」と、「Skyrim」のDLCを展開

ゼニマックス・アジアのゼネラルマネージャー高橋徹氏
Tango Gameworksエグゼクティブプロデューサーの三上真司氏
大ヒットとなった「Skyrim」。2012年にはDLCも登場する
新作「Dishonored」。レトロフューチャーな世界が魅力

――最初に、2011年はゼニマックス・アジアにとってどういった年でしたか?

高橋氏: 前半は「Hunted: The Demon's Forge」や「Brink」が発売延期となったり、日本だけのサーバーになってしまったりと、日本サイドの力以外のところでごたごたがあり、厳しい部分がありました。

 「Rage」はモノそのものは良かったのですが、タイミング的に、「Gears of War 3」の発売日と近かったり、「コール オブ デューティ モダン・ウォーフェア3」の手前といった人気タイトルの続編が出る中、新規IPであること。開発のid Softwareは海外では知名度が高いものの、日本ではもう少しというところもありました。色々考慮し、結果としてはひどい内容ではなかったとはいうものの、僕の期待値には届きませんでした。

――シングルプレイ中心のFPSは、日本のユーザーに合うかなとも思いました。また、海外デベロッパーの「濃いシングルプレイのFPSが作りたい」という想いと、ユーザーの求める「マルチプレイで楽しみたい」という部分で、ズレがあるんじゃないかというのは感じています。

高橋氏: FPSが日本でも売れるようになってきた。しかし僕の勝手な臆測ではありますが、「コール オブ デューティ」シリーズをプレイしている日本のユーザーさんの80%くらいは、マルチを中心に遊んでいると思うんです。タイトルによりますが、海外制作のFPSはマルチプレイを楽しんでいるのが、日本では圧倒的なんじゃないかなと思います。

 だからといってシングルのFPSがすべてだめとは思いませんが、開発者のシングルプレイへのこだわりと、ユーザーのマルチ志向も、特にid Softwareに関してはあったのだと思います。

――そして何と言っても2011年後半では、「The Elder Scrolls V: Skyrim」が大ヒットとなりました。

高橋氏: 期待通りの成績でした。ちょうど1.4のパッチもサービスできました。PS3版の場合は、公式ページで発表しているように、1.3のパッチを削除してから入れるのがベターです。今でも「PS3版を買うのにはパッチを待った方が良いですか」という問合せが来ますが、このパッチで改善されています。

 また、PC版の販売は「Rage」からゼニマックス・アジアでも始めたのですが、「Skyrim」はPC版の売行きが好調で、Steam版がびっくりするほど売れて、1月に出したパッケージ版も1万本を超える好評でした。正直、僕は「そんなに売れないだろう」と思って、日本語のリソースがあるから出そう、というくらいのノリだったのですが、パッケージ版を含めると、Xbox 360版に並ぶくらいの売上げとなりましたね。

――そうなると、今後の戦略にPC版の存在は外せないというところでしょうか。

高橋氏: ただ、「Skyrim」はある程度特殊なところもあると思うんです。Modで長く遊べるというところなどもあるし、Xbox 360ユーザーとPCユーザーは被っているところもあるので、一概には言えないところもあります。PCでのゲームユーザーはまだ把握しきれてないところがあります。

――では次に、今後の予定を教えてください。

高橋氏: 今月「Fallout: New Vegas Ultimate Edition」と、「Fallout: New Vegas 特別価格版/PS3 the Best」がでます。他にも低価格化のタイトルのリリースが前半に集中してくると思います。そしてまだ正式には発表していませんが、「Skyrim」のDLCが今年のどこかの時点でリリース予定です。新作としては、「Dishonored」を年内に、海外とそれほど間をあけずに発売します。これまでのタイトルと同じように、日本語音声を含むフルローカライズです。

――「Dishonored」は、どのようなゲームになるでしょうか。

高橋氏: ファーストパーソンのアサシン系アクションです。正面から戦うことも、ステルスによるアプローチも可能な、自由度の高さが特徴で、現在の我々の世界とは少し違った方向に発展した「レトロフューチャー」の世界観です。「ハーフライフ 2」でアートディレクターを務めた実績を持つ、ヴィクトル・アントノフがコンセプトアートを担当してます。

――公式ページでは「サンドボックス・アサシネーション」という表記がありましたが、サンドボックスのスケール感としては「Grand Theft Auto」のような街全体の大きさなんでしょうか、それとも「Hitman」のようにステージとしてマップが設定されており、そこから様々な方法を試みていく形になるのでしょうか。

高橋氏: 基本的には「Hitman」タイプですね。詳しい情報については近々改めて発表します。ご期待ください。

――日本でゲームを販売することを視野に入れ、ゼニマックス・アジア側から開発に要求することというのは、どういったものなのでしょうか。また、日本のユーザーを意識して、コンテンツの要望を出すといったことはあるのでしょうか。

高橋氏: 基本的には、クリエーターが作りたいもの、欧米で売れるものを作ってもらい、必要に応じて日本で売る場合に考えなくてはいけないところは、検討するというのが私達のスタンスです。

 ゲーム性は絶対に変えません。CEROを通すための変更点でも、それでゲーム性が変わってしまうようなことがあれば、ゲームそのものを出しません。私達が変える部分としては、デフォルトの難易度設定を変更したり、視点移動の速度を変えたりそういった部分です。どうせ手が加えられる、変えられる部分は中途半端になってしまうので、クリエーターが作るもの、作りたいものに、ゴチャゴチャ言いたくはありません。

 なるべくオリジナルに近いものを、オリジナルに近いタイミングで、オリジナルと同じクオリティで出したい。オリジナルの言語で作っているものを100点とすると、ローカライズはどうしてもそこから何点引かれるか、というものになります。なるべく100点に近く、というのがローカライズで目指すところです。

 音声に関しては、「1番美しい世界」というのは、オリジナルの音声と日本語音声の両方が入っている状態で、ディスク1枚に収まるのが理想ですが、物理的なハードルもあります。もうひとつ、「タイミング」もあります。元々多言語に対応しているタイトルならば日本語を加えるのも簡単ですが、そうでない場合は時間がかかる。その作業のために時間がかかりすぎるのは問題であり、微妙なところですね。

――一方、「Skyrim」のDLCに関しては、まだほとんど情報が出ていない状態ですが、こちらはどのようなものになるでしょうか。

高橋氏: こちらに関しては、まだほとんど情報がまだありません。コンセプトなどもまだあきらかにしていない。発売時期もアナウンスしていません。現在明かしている情報は「ボリュームは小さなものではない」ということと、「いくつかのDLCを発売する予定」というところだけです。

 「Skyrim」のDLCはリリース時期はあきらかにできませんが、ローカライズの規模感としては、下手をすると「Dishonored」より大きなものになるかもしれないです。そのくらいのボリュームがあるものになりそうです。


【Dishonored】
現代とは違う未来世界で展開する物語。超自然的な要素もあるという



■ ゼニマックスグループだから可能な、世界に向けた“大作”ゲーム開発

三上氏の世界に向ける姿勢も語られた
今回の求人。世界に挑戦するクリエーターを募集する
Tango Gameworksはゼニマックスのスタジオの1つとして、ゲームを開発する

――次にTango Gameworksさんのお話をお聞きします。2010 年10 月にゼニマックスとの合流を発表なさいましたが、現在までどのような活動をなさっているでしょうか。

三上氏: 地道に良いゲームを作っていますよ。

――現在まだどのようなゲームを作られているかという情報を公開なさっていませんが、どのようなゲームになるでしょうか。また、Tango Gameworksでは現在開発のラインはいくつでしょうか。

三上氏: ワールドワイドでヒットするための、AAAの大作を作っています。現在の開発はこの1本です。現在スタッフは65名程度ですが、まだまだ増やす予定です。

高橋氏: 携帯向けでもなく、ソーシャル向けでもなく、据置き機でプレイできるタイトルです。現在は対応ハードも未定で、「据置き機」というところです。

――Tango Gameworksとゼニマックスの合流というのは、どういった経緯で実現したのでしょうか。

高橋氏: 三上が「世界で勝負するゲームを作りたい」という想いを持っていろいろなメーカーと話をしていく中で、ゼニマックスはその中の1社だったということです。そして、ゼニマックス側の判断として、制作費を払って1本のゲームを作るよりも、「作る人達に余計な心配をさせたくない」という考え方がありました。

 お金の心配をさせずに、自由度を担保させたい。Tango Gameworksは自由にゲームを作るための独立した会社ではありますが、自由度と、資金的なバックアップというところで話し合い、こういった形になりました。

――現在制作しているタイトルを、これまで三上さんが手掛けたタイトルと比べ、制作期間や人数はどうでしょうか。多い方ですか? また、まだまだ増やすというところで、どういったところに注力しているのでしょうか。

三上氏: 今までで1番大きいものになっていると思います。リソースとしてはグラフィックスに力を入れるのは当然ですが、今の時代グラフィッカーを増やすだけでなくて、プログラマーを増やしていく必要がある。これまでのタイトルと比べて、1番多くのプログラマーと仕事しています。まだまだ足りないくらいです。

 アイデアを実現していくところでプログラマーが必要になっていく。また、僕の作り方は試行錯誤を重ねていく部分が多いところもあります。「良い物を、好きに作っていいよ」と言われると、試行錯誤を重ねてしまいますね。もちろんきちんとした締切りはあります。ですが、僕はこれまで僕自身がディレクションするゲームは制作期間が1年とかで短かった。これだけの期間を制作に充てられるタイトルは、初代の「バイオハザード」まで遡らないと、ないくらいなんです。

――これだけ時間を掛け練り上げ、プログラムに注力していくというのは、それだけ凝ったゲーム性や、「プレーヤーがやれること」を多くしていくための、ということでしょうか。

三上氏: そうではなく、演出なども含めたグラフィックス、そして世界観、ぱっと見たときの映像のクオリティを実現させるために、プログラマーの力が必要なんです。お客さんに伝わりやすい部分を作っていきたい。見た目の良さというのは必要だと思っています。

 そして、「広めの世界観だから、絵はこれくらいでいいや」というところで終わらせたくないんです。広大な世界を用意しつつ、グラフィックスのクオリティは維持したいと思っています。「細かいところまで手を抜かない」という、日本人らしいアプローチをしていきたいと思っているんです。広大でありながら、細部までこだわった世界を作っていきたい。

 僕が作っているタイトルは、現在はまだ、ゲームジャンルや、ゲーム性といった部分も言えません。完成は2013年以降で、こちらもリリース時期などはまだアナウンスできません。

高橋氏: ゲームに関しては、楽しみに待っていて欲しいです。ただし、現在、明かせないのですが、三上が作りたいもの、アイデアは現在大体固まっている。今度はそれを形にしていくために、人材が必要であり、今回、このインタビューを通じて、人を募集していきたいのです。

――Tango Gameworksのホームページからも、人材を求めているというのは強く伝わってきました。Tango Gameworksとしては、どういったアピールをしていきたいですか。

三上氏: 現在、日本ではソーシャルゲームが流行っています。現在はプログラマーなどがそちらの方向に流入している。逆に、ワールドワイドで勝負したい、“デカいタイトル”を作ってみたいと考えている方にとっては、Tango Gameworksに来るのはチャンスなんじゃないかな、というところです。

 僕自身は、僕が作りたいものを軸に考えたいし、一緒に制作していく開発チームの1人1人にも許せる範囲内で自由に作ってもらいたい。僕が思うものを作ると言うことと、スタッフの作りたいものを作っていくというのは、ある意味矛盾している部分もありますが、それがTango Gameworksの特色の1つなのかなとも思っています。全てがトップダウンで決まるのではなく、作りたいものの大まかなところは僕が決めさせてもらいますが、細かいところはスタッフが自由に作れる。そこが良いところなんだと思っています。

――現在の「ゲーム」に関して、個人的にですが、特にソーシャル系で、「隣の人に勝ちたければお金を払おう!」、「この商品が欲しければくじを引こう!」というゲームが、「ビジネスとしては優れているのではないか」という雰囲気があって、それでいいのかという、“あせり”のようなものを感じています。ゲーム性って何だろう、ゲームを作るってどういうことなのだろう、という価値観が揺らいでいる部分があるんです。作り手側である三上さんにとっては、こういう価値観の揺らぎのような感覚はあるのでしょうか。

三上氏: 僕自身はあくまで、見て面白くて、やって面白ければ、それは全部ゲームです。その定義に収まるものは全てゲームで、ソーシャル系もやって面白ければゲームで、そこを分ける理由はありません。どこの場所でも気軽にプレイできる面白いゲームか、家で、据置き機でじっくり楽しむ大作ゲームか、僕が募集する人材に問いかけたいのは「どちらが作りたいか」だけです。そこで、僕はデカイタイトルを作りたい。決して小さなタイトルを作るのも嫌いではないのですが、今回は大きなタイトルを作りたいと思っている人に、参加して欲しい。

 一方、ビジネスという意味合いにおいては、僕の出発点はクリエーターなので、あまりソーシャル系を意識してません。簡単に言えば「お金儲けをするためにゲームを作るのか」、「面白いゲームを作って、ユーザーに喜んでもらうためにゲームを作るのか」という立脚点の違いです。僕は面白いゲームを作って喜んでもらいたい。お金はユーザーさんが喜んでくれたレベルに応じて後からついてくるものだと思っています。お金儲けのために何をするかという考え方は、僕らクリエーターの立場からはしたくないし、役割分担としても“ゲームを売る側の人達”がやるべきだと思います。

 クリエーターが金儲けのためにこのシステムを入れよう、とかやっていると、「一体俺は何がしたかったのか」、ということになる。自分がやりたいことに対して「それは儲かるのか、儲からないのか」と問われ、儲かりにくい、リスキーだからやめようということをしてしまったら、じゃあ君は何のためにクリエーターになったのか、ということになる。何も作れなくなってしまいます。ですから、ゲーム作りという意味で、あまり価値観が揺らいだことはありません。それでも一時期、プロデューサーをやっていたころ揺らいだ時期はありました。「何をしたら良いんだろう」と考えたこともありました。

――ゲーム作りという部分では、日本のゲームだと、メーカーの名前が前面に出て、開発会社はあまり出てこない場合があるかと思います。開発会社が前面に出るというところは、海外型のゲームの作り方に近いのかなという印象を受けました。

三上氏: いや、海外のゲームスタジオとメーカーという関係という意味では、ゼニマックスはかなり自由度が高いと感じています。システム的な意味で縛りが少なく、作りたいものを作っていける環境にあります。

――作りたいものを作っていける環境の中で、海外ユーザーへの意識というものはありますか。

三上氏: あることはあります。僕自身プレイしている8割は「洋ゲー」、海外産のゲームなので、そこから感覚的に「面白い」と感じたところを取り入れている部分はあります。自分自身も洋ゲー的な要素が面白いと感じている部分も強くあるので、その感覚に従えばいいのかなと思っています。

――三上さんの中で、欧米のゲームの魅力はどういったものでしょうか。

三上氏: ゲームによって全く違います。例えば「Skyrim」は、ゲームの中に広大なフィールドがあって、そこに浸れる。敵を倒さなくちゃいけない、レベルアップしなくちゃいけない、といった部分はあったとしても、独特の世界観の中を歩けると言うだけで満足できる。世界、キャラクター、ストーリー、戦闘を経てどうやって成長していくのか、ユーザーはやりたい放題に近いことができる。

 日本の古いゲームの文法というのは、決められた世界で作られた障害をクリアしていく、障害物レースや、走り幅跳びのような、レールが敷かれたものをユーザーがどうクリアしていくかというような、ルールなども決められたところがあると思うんです。一方「Skyrim」は「こういう世界があるんだけど、遊んでみない?」というスタンスが大きく違ったと思いました。

 日本のゲームだとクリエーターの作った駆け引きの中で、ユーザーがどうクリアに持って行くか、そのベーシックな部分で厚くなってきた。海外のゲームは、ユーザーがあれがしたい、これがしたいということに対して、作り手側が幅広く用意するという部分がある。そこに考え方の違いがあると思います。

――一方で日本のゲームの、「よりスマートなクリアを目指す」というような、突き詰める方向性があると思っています。三上さんが作るゲームだからこそ、自由度と突き詰める部分でのバランスがあるのではないか、とも思っています。

三上氏: 狭い範囲でゲームの腕を研ぎ澄ませていくというのが、古いゲームのマニアックな魅力だったと思うんです。だけど、ゴージャスで凄く広大な世界を目の前に見せられて、「どうぞ」と言われれば、やっぱりユーザーはそっちに流れてしまう。「これは極めれば凄く面白いですよ」というのは、僕のタイトルでは「ゴッドハンド」になりますが、好きな人は当然いますが、より多くの人に楽しんでもらうためには、ゴージャスで広い世界を提供してあげたいと今は思います。

 「ゴッドハンド」は逆に「売れなくてもいいや」というくらいの気持ちで、好き放題に作りました。「これお客さんが嫌なんじゃないの?」っていわれてもあえてやるような。こういうゲームを作ると、次は、「もっと多くの人に遊んでもらえるようなゲームが作りたい」と思うようになる。交互に波が来ます。それもまたちょうど良いのかもと思っていますね。

 日本と欧米のゲームを比較したとき、僕から見れば、ゲームを作るという発想自体は、海外も国内も違いはないと思う。違うのは、舞台を作る感覚であったり、欧米は大きくカラーがあれば細かいところはいらないという、良くも悪くも大ざっぱな考え方があり、日本は細かいところにこだわりまくる陶芸家のような気質かなという見方もあります。

――今回、三上さん達をゼニマックスに合流させるという判断で、高橋さん達ゼニマックス・アジアの役割はどのようなものだったでしょうか。

高橋氏: 最終的な判断は、もちろん本社です。日本の開発者を特別視していたわけでもなく、世界に通用するゲームクリエーター集団を社内に取り入れ、成長していこうという我々の戦略に、三上達が加わったということです。

 もちろん、ゼニマックス・アジア単体から言えば、本社が作ったものを日本で販売するものが柱ですが、他社のライセンスを受けての販売や、日本のクリエーターが作ったものを買って販売していくと言うことも考えたり、模索は続けています。その中で三上達Tango Gameworksとお互いの志が合致するところがたまたまあったので、割と早く決まったというところはあります。

――日本のクリエーター集団が海外メーカーのスタジオの1つとなって、海外市場に向けてゲームを作っていくというところは、個人的にも応援したいところがあります。

高橋氏: メーカーが自社スタジオでないゲームを作らせる場合って、やはりあくまで“外注”です。既に自社IPで同じジャンルのものを持っていたりする場合もある。また、カプコンが「バイオハザード」のナンバリングタイトルを外注にするか、うちが「The Elder Scrolls」シリーズを他の会社に作らせるかというと、そういうことはしないわけです。どうしても、1番重要なところ以外にする。“社内”での制作というのは、外注とは違う。

 また、寂しい話ではありますが、現在の据置き機の、日本のゲーム市場というのは、海外メーカーにとって「誤差の範囲」になってしまっている。かつては売上げの30~40%、時には50%もいっていたのに、現在はPS3/Xbox 360の市場で言うと、感覚的に10%程度になってしまっている。世界に据置き機が浸透している一方で、日本の市場は縮小しています。

 その中で、北米・ヨーロッパに販売力がある会社と組むかというのが大事になってきています。そういった市場の中で、同じものを売る場合、日本のパブリッシャーの海外支社が売るのと、ゼニマックスや、Electronic Arts、Activisionが“本気”で売る場合は、やはり違いが出てきます。こう言ったことを考えると、三上だけでなく、小島さんや、須田さん、プラチナゲームズといったスタジオも、世界に通用する技術力や発想力といったパワーはありますが、作っても、それがなかなか良い形で出せない、という現状もあると思います。バックアップなどの諸々の周辺事情でブレイクできてない。

 そういった意味で今回、三上とは、お金の心配はいらない、自社タイトルとして、日本だけではなく世界で死にものぐるいで売る。良い物さえ作ってもらえれば、今までとは違う結果が出てくると期待しています。

――三上さんにとって、パブリッシャーのこういった期待はプレッシャーになってくると言うところもあるでしょうか。

三上氏: プレッシャーはいつもあります。重要なのは、今ゲームを作っていくためにどうしていくかだけの話です。個人的に気になっているのは、自分が面白いと思っているゲームを日本の人にもっと遊んで欲しい、そのためにどうするか、という考え方を、どのくらい入れていくべきなのか、ここはあんまり考えないようにしようと思いつつも、やはり考えていかなくてはダメなのかなと。

――日本市場の小ささというところも含めて、日本のユーザーの、ゲームへの想いというところが見えないなと感じるのは、欧米産のゲームが受け入れられない、というのがまだあるのかなと思える部分があるんです。これだけ多くの欧米産ゲームが日本で出るようになっているのに、まだなのかと。

高橋氏: 冷静に分析すると、ナンバリングでない日本の大手メーカーの新規IPも、5万本の売上げで終わるというのは現在はざらにあります。そう考えると、我々海外メーカーがそこそこのタイトルを持ってくれば、新規IPでも、5万という目標は達成できる時代になっています。100万本タイトルはないかもしれないが、30万本、50万本タイトルというのは出てきています。言うほど海外タイトルが受け入れられてないという状況は、もうないと思いますね。

 洋ゲーをいかに認めてもらえるかという時代はもう過ぎた。我々自身も「洋ゲーパブリッシャーである」という考えを捨て、いかにこのタイトルをここでたくさん売るか、という考えに切り替えなくてはいけない時期だとも思っています。





■ ラストチャンスの基幹スタッフ募集。「ワールドワイドに挑戦できるゲームを作ってみないか?」

インタビューでは三上氏の真摯なゲーム開発の意気込みと、高橋氏の世界的なマーケット分析の視点が伝わってくる
Tango Gameworksの公式ページ。“ノリの部分だけがアピールしてしまっているかも”とのこと
スタッフのイラスト。何故か皆鼻血を出している

――Tango Gameworksが作るこれまでのIPではないタイトルというところで、新規IPを作る上での自由さというものはあるのでしょうか。

三上氏: そうですね、これまでとはがらっと変わった作り方をしています。全く違うというわけではないけど、良くも悪くも驚きを感じてもらいつつ、安心感も感じてもらえるタイトルになると思います。あまり言うと核心に迫ってしまうので、詳しくは言えませんが。

高橋氏: 今回あくまで言いたい部分は、Tango Gameworksというスタジオが、こういった環境の中、世界に向けてゲームを作っていく中で、「仲間を募集したい」というところです。

三上氏: 具体的な部分では、特にプログラマーを募集しています。何度か言っているように、「デカイ仕事をしてみませんか?」ということを言いたい。「日本人でもこれだけのゲームを作れるんだ」ということを証明するために、自由にできる環境を用意しています。

高橋氏: ビジネスサイド側の人間の意見ですが、労働環境を見た場合、日本のパブリッシャー、特にソーシャル系を見ていると、賑わってて、いっぱい人も募集している。給料も高めに設定して、人材を入れている。ただ、そこに所属している人達が、みんな、本気でソーシャルゲームを作りたいかというと、違うとも思うんです。

 僕の勝手な見方ではありますが、ソーシャル系はすごく短いスパンで、小さなコンテンツを、「これを作りなさい」と強く言われて、そこに従っているイメージがあります。そこそこの仕事をこなして、給料を得ている人が多いんじゃないか。そこに満足できてない人はいるんじゃないかと思うんです。中には大作ゲームや、コンシューマーゲームを作りたいのに、今はその会社にいる、という人もいるんじゃないかと思う。

 そういった現状に疑問がある人の選択肢としてTango Gameworksがある。Tango Gameworksのホームページを見てもらえれば、やりたいことや、会社の雰囲気がわかってもらえると思いますね。

三上氏: ただし、ホームページに載っているスタッフのイラストみたいに、みんながみんな鼻血を出しているわけじゃありません(笑)。意外に真面目に作っていますよ。

 生活をするためにこの仕事をしているんだ、というところに我慢できないクリエイティブ色の強い人達、「俺達は面白いゲームを作りたいんだ、俺が持っている技術を十分に発揮したいし、もっとトップレベルまで伸ばしていくために学びたいんだ」という人達にこそ来て欲しい。

 「食うために仕事をしてるんです」という人は求めていません。そういう方にはもっと良い仕事があると思います。僕らの仕事は、必死こいて頑張らなくてはいけない仕事です。デカイ夢を持っているか、そうでないかで求めてくるものは変わってきます。年齢も問いません。

 技術が高い人を求めたいですが、同じくらいの技術を持っていても、「ゲームが好きか嫌いか」で、大きく変わってきます。仕事は大変で、プレッシャーもある、しんどいことも多い。そこを乗り越えていくには、「ゲームに興味があるか」ということと、お客さんがゲームに対して凄く喜んでくれたということに喜びが感じられるかなんです。お客さんがゲームを楽しんでくれたというのが、僕らにとって唯一の“薬”なんです。苦労が報われる瞬間です。まず、「お客さんがすごく喜んでくれた」というのが1番で、「たくさん売れました」というのは2の次なんです。

 たくさん売るために何をすべきかを考えるのは、プロデューサーがやった方が早い。「純粋にゲーム作りたい、ゲーム好きやねん」という人に来て欲しいし、中には「そこまでゲームが好きってわけじゃないけど、自分が持っている技術を存分に活かしたい」という人も、良いゲームを作るためには必要です。ただ、1回小さいゲームを作る方向に行っちゃうと、もう後戻りは難しい。自分を磨くために、というところもキーじゃないかと思います。細かいのが得意な人もいれば、世界を作るのが得意な人もいる。いろいろな人材をバランスを考えて入れていきたい。野球と同じで、全部バッターでは勝てない。守備がうまい人も、時には三振してしまうけど、当たればデカイ人も必要なんです。

――Tango Gameworksはホームページでも強く人材募集をしていますが、現在応募はどうでしょうか。

三上氏: ホームページを見ての募集は最初は多かったのですが、最近はやや減少傾向にあります。表現のスタイルの「襟を正すべきなのか?」と話し合ってはいます。うちのノリの部分だけがアピールされてて、「僕たちはプロとして意外に厳しく、かつ楽しくやっているんだ」というところが伝わってないんじゃないかと思うところもあります。

高橋氏: ただ、随時募集はしているものの、今回のように大々的に募集をするのは久しぶりですよね。

三上氏: 後は、自分たちがいかに高いところを目指しているのか、実現しているかは、タイトルを見せないと伝わらない部分もある。入って、一緒に仕事してくれれば、どれだけ高いものを作っているか分かってもらえるんです。人材募集の手段としてTangoGameworksの技術やセンスを提示するデモも一瞬考えたのですが、それがノイズになってしまう。実験的なコンテンツが、余計なイメージになるのを避けました。

高橋氏: 書類選考を通って、面接までたどり着けば、ちょっと見れる可能性があるかもですね。

――具体的な申し込みとしては、ホームページからの申し込みですね。

高橋氏: GAME Watchでもこの記事が出るときは広告が出ているはずです。記事の最後にもリンクを張ります。そこから申し込んでください。

三上氏: タイトルを発表したら、募集はものすごく増えるとは思います。だけどそれができない。その時は人材も集まり、もう遅くなっている。たくさん来てもらっても、採用できない。今は、リスクと覚悟が必要な時期で、それをできる人に加わって欲しいです。

 現在、ある程度は土台ができているのですが、一部はまだできてない。これを固めるために人材が必要なのです。今がホンマに、「ラストチャンス」に近いと思っています。あと半年、1年たってしまうとできあがってしまっていて、一緒に基礎から組み上げるという「一緒に立ち上げたんだ」という実感がもてるし、自由に作れる、そのラストチャンスです。

――では最後に、まさに求めている人材に向けてのメッセージをお願いします。

三上氏: 仕事に夢やロマンを持っていて、良いものを作りたいと思っている人、ある種青臭い欲望を持っている人は、うちに来て一緒に仕事をしてくれれば、満足して仕事ができるんじゃないかと思います。そういう人を募集しています。よろしくお願いします。

――高橋さんは、ファンに向けてのメッセージをお願いします。

高橋氏: 今年は、「Skyrim」のDLC、そして「Dishonored」が発売されます。いままで通り良いものを出していきます。Tango Gameworksの作品も来年か、再来年かはまだわからないですが、今年はパブリッシングサイドでの体制づくりを頑張っていきたいと思っています。


 

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(2012年 3月 9日)

[Reported by 勝田哲也]