インタビュー
「セガ3D復刻アーカイブス」インタビュー第3弾!
オープニングデモに新曲が!
(2014/12/18 00:00)
「スペースハリアー3D」と「アウトラン 3D」のサウンドは?
―― 今回、「スペースハリアー3D」と「アウトラン 3D」と、セガ・マークIIIやマスターシステムのタイトルが収録されていますが、こちらに関してはいかがでしたか?
並木氏: もちろんサウンドの再現性に関して、許される開発期間のなかで最善を尽くした、という感じです。ゲームギアにも搭載されている、いわゆるセガPSG=DCSG(SN76489、76496)という音源に関しては、再現性の部分は突き詰めてあったので、特にマークIII部分に関しては問題ないなと。
ただ、問題になったのは、FMサウンドユニット(※)ですね。
※FMサウンドユニット……セガ・マークIIIにオプションとして発売されたFM音源追加ユニットで、音源はYM2413(OPLL)を搭載。日本版マスターシステムはFM音源を内蔵。
―― もはや当然のようにFMサウンドユニットのON/OFFが出来るようになっていて、笑いました。
並木氏 これは「セガ 3D復刻プロジェクト」では初めての音源だったので……プレイステーション 2の「SEGA AGES 2500シリーズ」やWiiの「バーチャルコンソール」以来だったんじゃないかなと思います。かなり久しぶりだったんですが、このサウンドコアは自分が入社する前のものだったんですね。なので、「プロジェクトでこれまでいろいろ再現性を上げてきたその高さと比べると、大分再現性としては落ちてるよね」という認識があって。
OPLLという音源の再現がかなり難しかったんですよね。事情があって、音色に関しては齊藤君が地道にがんばって仕上げてくれて、PS2やWiiの頃よりは最善を尽くせたかな、という感じですね。
オープニングデモに新曲が!
―― オープニングデモには並木さんの書き下ろしの楽曲が入っていますね。
並木: 杉森さんが描かれたメインイラストにつながるオープニングデモが入りまして、それと、ゲームセレクト画面ですね。今回、パッケージとしてまとまったことで、今までになかったUIができたので、「当然曲がいるよね」となりまして。
オープニングデモとしては、他社でのアーカイブ的タイトルや、セガさんで言えば「SEGA AGES ONLINEのようなものができるといいよね」という話から、古賀君が先にオープニングデモを作りまして、自分は自分で「どうしようか」と松岡さんと話をしていて。映像的に復刻ゲームのキャラクターを動かす、しかも杉森さんのデザインしたイラストには、「今のゲームを購買層のお客さんの目を引くような、昔のゲームのアーカイブ」のメインイラスト、という意味で、いろいろ気にしてデザインされているんだろうな、と感じ取っていましたので、サウンド的にもそのあたりを狙っていければいいな、と。
そこで、あえて楽曲の音色を「アウトラン」のスペック(YM2151+PCM)にしました。「3D アウトラン」の時、新曲「Cruising Line」を書きましたが、あれと同じような形で作りました。「Cruising Line」の時は、曲としては当時の「アウトラン」の雰囲気とか、1980年代の音楽シーンみたいなものを意図して作りましたが、今回のオープニング曲では古臭い感じは出さずに「わくわくするような感じ」で作りました。とにかく、「絵に合わせて期待感をあおるような曲を作りたいな」と。あとは杉森さんのイラストにうまくつながるような形で、最後に「セーガー」って入れたかったんで(一同笑)。「アウトラン」のエレピ(電子ピアノ)の音色を使って(笑)。
僕の中では「かっこいいセガ」というか、イメージキャラクターであるソニックのようなクールなイメージで。レトロ感とかではなくて、割と元気で活発な曲にしたくて作りました。聞いてそう感じていただければうれしいなと。
―― 奥成さんたちに話を伺ったので確認みたいになっちゃいますが、絵が先行だったんですね。
並木氏: 音はもうギリギリに入れたんですよね。あの時期、自分のアパートの水道メーターを全部交換する、という工事が入っていたという……。朝8時45分ぐらいからドリルの音が「ガガガガー」っと入るという。
堀井氏: 仕事にならん(一同笑)!
並木氏: 自分の居室のメーター交換だけだったらよかったんですけれども、1週間ぐらいですかね……アパートが2棟あるんですが、どっちもやっていて、えらいことになりました。その間は「とにかく夜、曲を書くしかないな」ということで、完全に昼夜逆転しちゃってましたね。そういう過酷な状態で書いたという意味では笑い話になればいいなと思うんですが。サウンドクリエーターって意外とそういう悩みもあるんですよ。
―― (笑)。その話、Twitterで拝見して、「大変だこれは……」って思ってました。あの時期に制作されていたんですね。
奥成氏: 僕はひやひやしていました(笑)。
並木氏: タイトル画面からボタンを押して実際にゲームを選ぶメニュー画面で鳴る曲は、同じく「アウトラン」と同じ音源スペックで作っていますが、オープニングを引き継いで、懐古っぽい曲というよりは元気な曲というか、わくわくするような曲を作ったつもりです。
聴く人が聴いたらわかると思うんですが、リズムパターンは「スペースハリアー」のメインテーマのフレーズを持ってきていて、伴奏の「チャーンチャチャーン」というところも「スペースハリアー」の譜割を持ってきてます。Bメロも「スペハリ」のものを持ってきてますね。「『スペハリ』のアレンジじゃないか?」と思われる人もいるかもしれませんが、楽曲としてはまったく違うものなので、「なんか『スペハリ』っぽいけど……」という印象かもしれません。露骨にアレンジしたというのではなくて、新曲なんだけど、リズムや譜割に「スペースハリアー」のものを引用してみるという、僕としてもチャレンジというか、試行錯誤で作ってみました。
ただ単に、いかにも「メニューで鳴っている曲」を作っても面白くないし、僕がやる必然性もないかな、と思ったので、「自分だったら何がいいかな?」と考えて、そういう「アレンジと言うよりは、新曲なんだけれども、どこかセガの過去タイトルに基づいている部分がある、みたいなのを狙いたかった。音楽を言葉にすることは難しいんですが、「におい」みたいなものは残したかったんです。
それと、メニューからセガ・マークIII(マスターシステム)のタイトルを選ぶと、曲がシームレスにDCSGの音色に変化する(クロスフェードする)という仕掛けがあります。これは松岡さんと「メニューをどうしようか」という雑談をしているときに「これをやろうね」と決めました。
―― ふふふふ……。
並木氏: 「どんな雑談だ」(笑)ということなんですけれども、「こういうことをしたら面白いんじゃないの?」とキャッチボールをしたなかから出てきたアイディアですね。これもプログラマーの篠田君が締め切りギリギリのタイミングで曲が上がったにも関わらず(一同笑)、しかも水道工事をやっていたから明け方ですね、「曲ができたよー」と送ったらすぐに組み込んでくれて。
堀井氏: それは作業時間がずれていたからこそのメリットだね。
並木氏: 篠田君も夜型だったからね(笑)。
奥成氏: タイトルにBGMが付いたのって、ファイナルが最初ですよね(一同笑)。
―― マジですか(笑)!
奥成氏: そのファイナルは、当初より2週間後ろにスケジュールが押してのファイナルですからね。
堀井氏: そのあたり、本当に綱を渡っていたという。
並木氏: 思い出した! 今回のアーカイブスでの僕の作業に占める割合が大きかったのは何かというと、「パッケージでいろんなタイトルが1つのソフトに集まる」ことが思いのほか大変だったんですよ。自分の作業の大半は、「各ゲームタイトルごとに違った音量になるのはまずい」ということでの調整だったんですよ。これまでの「セガ 3D復刻プロジェクト」では1作1作、音量調整はしていたんですが、厳密に規定のラインを設けていたわけではなかったですし。
なので、「エコー・ザ・ドルフィン」と「アウトラン」や「ベア・ナックル」が1つのタイトルに集まることで、タイトルごとに「これ、音量が大きいな」とか「小さいな」とかいろいろありまして……。なおかつ、セガ・マークIIIではDCSGとFM音源ユニットもありまして、作業量が本当に多かった。チェックと調整で地道に合わせていくという地味な作業が。なおかつ、「100円玉を入れると環境音が鳴る」ということもやりつつ(笑)、いろんなことが同時進行で、自分のやるべき作業に膨大なものがあって、しかも優先度が高くて。そんな折に水道工事が入っちゃって……とにかくすべてを丸く治めるには、自分の中で優先順位だなんだっていうよりは、やれるものから片っ端から、ちぎっては投げでやるしかないな、と社長や松岡さんにエクスキューズを入れて……やってましたね。結局最終的にすべてやれたんですが。
今回、いろいろ細かい1つ1つのエピソードがありましたが、振り返って1番大変だったのは、たくさんのダウンロードソフトを1本のパッケージにするというのは、お客さんからするとあまりピンと来ないイメージかもしれませんが、プログラマもサウンドの僕もかなり大変でしたね。時間を1番要したのはそこなような気がします。そう考えると、おいそれと「Vol.2」とか「3」とか言えない気がします(一同笑)。
―― 奥成さんも前のインタビュー(第1弾)でそうおっしゃってましたよね。「まとめることで発生する新たな問題がある」と。サウンドだけでもマスターボリュームみたいなものが決まっているわけではないし、アーケードも家庭用も世代の違うものが一緒になるわけですし、オリジナルを作っていたスタッフも違うわけですから、「そりゃあ、音量も違いますよねー」という。しかもメニューで並んでいるから、どんどんソフトを切り替えるだけで違いがわかりますしね。
並木氏: 細かいことを言うと、セレクトメニューでのサウンドもありますね。カーソルをゲームタイトルに合わせると鳴る音や、決定したときに鳴るサウンドです。だから新規にかなりの音を作っているんです。「スペースハリアー」にカーソルを合わせると、ショット音と敵の弾が飛んでくる音が鳴るんですが、そういうものを作っていたんです。しかもそれ、アニメーションするので、絵ともタイミングを合わせていたりするんですよ。
奥成氏: 「『アウトラン』のブレーキ音が長すぎて事故っぽいから短くしてください」って注文しましたね(一同笑)。
並木氏: あれは絵のほうで「アウトラン」の文字が出てくるまでが最初長かったんで、デザイナーさんに短くしてもらって合わせました。
振り返るときりがない。サウンド1つとってもいろんな作業がありましたから、本当に最後の最後までやることになっちゃいましたね。
堀井氏: 音だけでもこれだけありましたし。
並木氏: 目新しいことをやっているわけではないですが、地味なところでいろいろなものがありましたね。調整やアイコンサウンドであるとか……。
―― サウンドスタッフの仕事の領域って、地味なところを含めていろいろあると思うんですが、お客さんの目線ではわかっているようでいて実はあまりわかっていないんですよね。勉強になりました。
並木氏: 普通にゲームに触れているだけでは割とわからない、むしろ気づかれないことが理想というか。お客様に違和感を与えない調整といいますか。スムーズに楽しく遊んでいただくための縁の下の作業、裏方作業ですね。20年以上サウンドの仕事をやってきて、自分が担当するときはそこだけはおろそかにしたくないなというポリシーでやってきたので、なのですいません、オープニングの曲がファイナルで初めて入る、というような事態になってしまったわけですけれども……。
―― (笑)。納得できます。
並木氏: こんなことを言うとあれなんですけれども、楽曲ってできるものなんですよ。だけど、調整作業には時間がかかるんですよね。
―― しかも、ゲームが出来上がってこないと調整もできませんものね。
並木氏: そうなんですよ。で、調整してもその適用を確認する前にバグが発生してまた調整できないとなると、さらに時間がかかってしまうとか。
細かいことを挙げるといっぱいありすぎましたね。メニューのFM音源とDCSGのクロスフェードも、メニューを切り替えるたびにお互いの曲でずれてきてしまうというトラブルが最初ありましたし。それぞれの曲のテンポの差異が微々たるものだと思っていたものが、割と大きなものになっていってしまうことが発覚して。僕のほうで半端な値のテンポの曲にわざと調整して……技術的な話になっちゃうんですが、FM音源の曲では中のタイマー機能にテンポが依存するんですが、DCSGではVSYNC(映像同期信号)に依存するんで、誤差が出ちゃうんですよね。その誤差を埋めるために、FM音源のタイマー機能のほうの数値を調整してVSYNCのほうに寄せて、テンポずれを起こさないようにしました。
こういうこともやってみないとわからないので……何ループもしているとずれていってしまうという。しかもチェックにも時間を要するんですよね。
―― しかも、直ったかどうかを確認するにも時間がかかりますよね。
並木氏: そうなんですよ。最終的にはとんでもない数ループさせないとずれない、というところまでは追い込めたので。たしか……あったあった、78回ループすると1/60秒分ずれるという。1ループあたり213.88マイクロ秒ずれるという。ここまでしか追い込めなかったんですけれども(一同笑)。
―― いやー、いろいろお話伺えてよかったです。ありがとうございました。
奥成氏: 真の最終回らしく、「セガ 3D復刻プロジェクト」のサウンドの総括的なインタビューになりましたね。
―― 2年間の総括の1つがこの「セガ3D復刻アーカイブス」だと思っていましたので、並木さんにお話を伺えてよかったです。ありがとうございました。
© SEGA
Bare Knuckle: MUSIC ©YUZO KOSHIRO
Ecco the Dolphin was originally created by Ed Annunziata.