インタビュー

「3D サンダーブレード」インタビュー(番外編!)

開発スタッフからのコメント紹介!【3】

STAGE5/「グラントノフ」グラフィック担当・冬野灰馬氏のコメント

1. 馴れ初め

 堀井さんとは、以前にやったシューティングゲームイラストの個展で縁ができまして、「3D アフターバーナーII」でちょっとだけ関わらせていただきました。その時はホンのお手伝いだったんですが、「『3D サンダーブレード』ではガッツリ関わって欲しい」という打診があったんです。当初の話では2014年初頭にやる予定で、僕のスケジュールも空いてたんですが、お話が無いまましばらく経ち、「どうしたんだろう? やっぱり『サンダーブレード』は無理なのかな」と。そうこうしているうちに別の仕事が入って、丁度忙しくなってきた頃に「ついにやれます!」と、ディレクターの松岡さんから連絡が入ったんです。僕の脳裏には“勝訴”の代わりに「サンダーブレードGO!」って書いた紙を持って走ってくる松岡さんの姿が目に浮かびました。

2. 会議

 とはいえ熱狂的なファンが多いセガゲーの制作という重責。しかもあのこだわり集団であるエムツーさんクオリティで……。この仕事、生半可な覚悟ではできません。しかも、既にフルタイムの現場で仕事していたので、相当な激務になる事は予想できました。もう40過ぎてますから、無理も効かないと思いましたし。なので、最初のミーティングに呼んで頂いた時、正直言って仕事を請けるか請けないか、4:6くらいで請けないだろうなという気分だったんです。あまりに大変だし、クオリティも保証できないかなと。

 そんな感じで臨んだミーティング。堀井さん、ディレクターの松岡さん、プログラマの齋藤さんが揃った実に濃いネタ出し会になりました。とにかく皆さん話が超面白いんですよ。ネタが一々濃いし、断ろうと思ってるのに、引っ張られて僕もネタがどんどん出てきて。で、「どうしよう、どうしよう、断った方がいいのに」とか思ってたら、松岡さんが「実はね、冬野さん。ラスボスはこれで行きたいんですよ。できますか?」と言って、すかさずあの「グラントノフ」の画像を出してきたんですよ(某検索エンジンの画像検索で、検索語は「あうあーあーあー」だった)。ズルイ。で、困ったことにそれを見た瞬間、爆笑と同時に、「どうやったらコレを実現できるか」の青写真がパッと浮かんでしまったんです。つい無意識に「あ、できますね。かっこ良くできると思います」って、即答しちゃいました。で、ああ、これ出されちゃ仕方無い。「(健康的には)地獄行き兼(開発が面白いことには)天国行きのこのヘリに乗るしか無いのだなー」とか思いましたね(笑)。

3. セガのドット絵

 ミーティングの後にネタを整理したラフ資料を用意しました。会議でイメージが固まっていたお陰であっという間に仕上がり、かつエムツーさんにもOKをすぐに頂けたのでスムーズに作業に入る事ができました。とはいえ、昔ドッターだった僕も今ではすっかり3Dの仕事に特化しており、ドット絵の仕事には随分ブランクがありました。なので、まずは齋藤さんから提供して頂いた「サンダーブレード」のグラフィック原画をじっくり見て、どんな感じの絵にするかを考えました。

 当時のセガの絵作りは、「貴族のグラフィック」だと僕は思っています。貧弱なリソースを工夫やとんちで乗り切るコンシューマに比べて、圧倒的なハードパワーをノビノビと使っているその姿勢には、“貧乏くささ”が一切無いんですよ。なので、第1にグラフィックパレットの割り振りをせせこましくしないように心掛けました。第2にセガグラフィックの特色はなんといっても鮮やかな配色です。今回はモチーフが要塞なので、それ程派手にはできないのですが、それでも鮮やかな印象になるように気をつけたつもりです。因みに僕はズームという会社でドット絵を教わったX68っ子なんですが、キャリアの中で色々な仕事をしたにも関わらず、ちょっと油断するとズームっぽい色とか塗りになってしまいます(20年以上前なのに!)。そのため脳内のセガエミュレータを絶えずアクティブにしておくことに気を配りました。

 今回の仕事で難しかった点は“ありそうで無かったものを作る”という事に尽きます。「サンダーブレード」には勿論要塞のステージはありませんから、その後の「ギャラクシーフォースII」から雰囲気を想像してデザインの方向性を定めました。ポイントは基板のスペックが違うので、「ギャラクシーフォースII」のような絵作りはできないと言う事。少ないスプライトで画面が持つかどうかはプログラマの齋藤さんのアドバイスが大いに参考になりました。僕は日中外で仕事をしているので、作業は主に早朝と土日を利用して進めました。朝早くデータを上げてメールを出しておくと、夜には返事が帰ってきます。翌朝それをフィードバックする感じでした。そう、スペシャルモード5面のグラフィックは僕の睡眠時間と休日でできているのです。

 でも、終わって振り返ると、「ひたすら楽しくてそんなに疲れた訳でも無かったな」というのが率直かつ現金な感想です。

4. 見所

「スペシャルモード」の「STAGE5」の入口
オリジナル版になかった「列車砲」
「グラントノフ」もオブジェクトの重ね合わせで表現。エンジン部が脱落する

 今まで無かったものを付け足す訳ですから、導入部分は大きな問題となりました。すなわち、オリジナルではエンドになる4面ラストから5面にどう繋ぐかという事で、「エレベーターで地下に降りる」とか、「上空に登る」とかいろいろとネタは出たのですが、技術的な問題が立ちはだかり、より実用的なアイディアとして“4ボスの背後に入口を隠す”演出を考えました。つまり戦いは終わっていなかった、という展開です。2面の洞窟入り口のメカ版を用意さえすれば要塞を作る事ができると踏んだ訳です。

 そして、その後の要塞内部は大きく2部構成にして、前半は要塞の存在そのものがサプライズで、後半戦では列車砲と鉄橋という大仕掛けでビックリ、みたいな流れにしてみました。実は最初にネタ出ししたら追加面を3つくらい作れるくらいのネタ量になっちゃってかなり刈り込んでいるんですよ。列車砲のゾーンの先に海水を引き込んでる区画があって、そこは「スーパーサンダーブレード」の潜水艦ボスが碇泊する基地になっている……みたいなネタがまだいっぱい残ってます。僕的にはまだまだやれそうなので、「ウルトラサンダーブレード」とかリクエスト下さい! きっとエムツーさんが実現してくれると思います(笑)。

 トリの「グラントノフ」。コレが難物でして。最初「『ギャラクシーフォースII』みたいな感じでできるんじゃね?」と思っていた訳ですが、規定のキャラ表示数で実現するのはかなりたいへんだという事を痛感する事になりました。デザインは割とスンナリできたんですが、その後にドット絵を描いて、細分化するパーツをくっ付けたり切り分けたりする作業に随分時間を掛けました。その際に齋藤さんと密にやり取りしたのが得難い体験でした。悪い言い方をすると、お互いに“丸投げと無茶ぶりのキャッチボール”をしている感じなんですが、信頼できる相手に委ねきる事ができる仕事って本当に幸せなんですよ。

 最初に触れた通り「サンダーブレード」はキャラ数制限が40個と意外に少なくて、あれもこれも入れようとするとあっという間にキャラが足りなくなってしまうんです。最初の打ち合わせの際に松岡さんから「『グラントノフ』のエンジン部分をズルっと丸ごと脱落させたい」という希望を聞いていたので、それも込みで実現できるよう知恵を絞りましたが、齋藤さんのアイディアと協力あってこそでしたね。笑えるだけでは無く、ちゃんとカッコいい「グラントノフ」を作り上げようと必死で頑張りました。いわば究極の出オチキャラにして、シリーズ13本のトリを飾るネタを担当するプレッシャーは相当なものでしたが、もし面白がって頂けたなら幸いです。エンディングとか、思い残す事は無くも無いですが(笑)、セガファンに贈る素敵なプレゼントの一部を担当できた事を誇りに思っております。

(佐伯憲司)