インタビュー

【MSFS2024】「Microsoft Flight Simulator 2024」開発者インタビュー

空の旅に“心から恋をしてほしい”。5人のキーマンに開発の裏側を訊く

【Microsoft Flight Simulator 2024】

11月19日 発売予定

価格  Standard Edition:9,700円

Deluxe Edition:13,000円
Premium Deluxe Edition:16,300円
Aviator Edition:26,000円

 11月にリリースされるMicrosoftのフライトシム最新作「Microsoft Flight Simulator 2024」。2020年に発売された前作「Microsoft Flight Simulator」からパフォーマンスが大きく改善されているほか、新たなプレイモードが追加されたことで、フライトシムの完成形により一歩近づいた作品となっている。

 本稿では「Microsoft Flight Simulator 2024(MSFS2024)」の5人のキーマンにそれぞれ話を伺うことができたので、開発者インタビューをお届け。前作「Microsoft Flight Simulator(MSFS2020)」からの進化点、新モードの「キャリア」や「チャレンジリーグ」を中心に開発の裏側を訊いてきた。

 今回インタビューしたのは、Asobo Studio CCOでキャリアモードなどの設計を手掛けたDavid Dedeine氏、Asobo Studio CEOで技術的側面を担当したSebastian Wloch氏、コミュニティ出身のスタジオで航空機の開発などを手掛けたChristopher Burnett氏、Brandon Yaeger氏、そして「Microsoft Flight Simulator」責任者のJorg Neumann氏だ。

 なお、本作のプレイフィールについては別途レポートが掲載されているため、ぜひご一読いただきたい。

Asobo Studio CCOのDavid Dedeine氏
Asobo Studio CEO兼共同創設者のSebastian Wloch氏
Working Title Simulations共同創設者のChristopher Burnett氏(左)、Got Friend創設者のBrandon Yaeger(右)
「Microsoft Flight Simulator」責任者のJorg Neumann氏

「MSFS2024」は誰でもどんなレベルでも始めることができる。Asobo Studio CCO・David Dedeine氏

――「MSFS2024」は「キャリア」や「ワールドフォトグラファー」といった新モードが多数搭載されました。David氏オススメのモードはどれですか?

David氏:私からすると全てがオススメなので少し難しい質問ですね(笑)。どれから初めても素晴らしいモードで、それぞれプレーヤーにとって何か見つかるものがあり、少しずつ他のモードもプレイしていくことで、最終的にはよりよいパイロットになれるよう目指しています。

 「MSFS2024」は誰でもどんなレベルからでも始めることができて、それぞれに合わせて操縦が上手くなっていくと思います。

――「キャリア」や「アクティビティ」にある遊びは、フリーフライトでも体験できるのでしょうか?

David氏:残念ながらそれはできません。例えば「F-18」でフリーフライトに行っても、シームレスに「アクティビティ」のチャレンジに遷移したりすることはできません。「フリーフライト」はそれ自体に存在価値があると思っていて、“ただ飛ぶだけ”というモードは取っておきたかったのです。

 「フリーフライト」とは別の遊びとして新しくモードを作ることで、パイロットの仕事を体験したい方はキャリアやアクティビティ、競争したいパイロットはチャレンジリーグ、リラックスして飛びたい方はフリーフライトという棲み分けになっています。

――「キャリア」といった新モードによって、今後の「MSFS」の可能性が大きく広がったと感じました。「MSFS2024」のアップデートで、新たなアクティビティやチャレンジを追加する予定はありますか?

David氏:いい質問ですね、アップデートはもちろんあります。キャリアモードの内容であったり、新しいアクティビティやチャレンジが登場する予定です。現在は「MSFS2024」のリリースに向けて頑張っていますが、リリースまでに間に合うか怪しいものも正直あるので、そこは今後のアップデートで提供していければと思います。

「チャレンジリーグ」プレイ中の画像

プレイ体験の全てを改善。Asobo Studio CEO兼共同創設者・Sebastian Wloch氏

――「MSFS2020」はサイズがとても大きかったのですが、「MSFS2024」はクラウドをより活用したことでサイズがコンパクトになっています。他にもクラウドによってどのようなメリットが生まれましたか?

Sebastian氏:まずはサイズがかなり小さくなりました。「MSFS2020」はダウンロードに何時間もかかっていましたが、「MSFS2024」は環境さえよければ最初にプレイするまで5分ほどしかかかりません。

 「MSFS2020」はリリース時点でサイズがかなり大きく、日本のワールドアップデートの時から「あれを捨てよう、これも捨てよう」といった最適化がとても大変だったんです。ですが「MSFS2024」ではクラウドの活用範囲を広げたことで、キープしておきたいものはキープできるようになりました。スピードだけでなく、プレイ体験の全てが改善されていると思います。

――フライトに関するデータを毎回サーバーにアクセスして取得していますが、今回のデモではアクセス時間に1分ほどかかることもあり少し気になりました。このアクセス時間は今後最適化されて、速くなることはありますか?

Sebastian氏:今後より速くなるはずです。フライトに必要なデータのサイズやアクセス状況にもよりますが、20秒以下になると思います。

――CPU側の処理をマルチスレッド化したと聞きました。これによってゲームにどれほど影響があるのか、またGPU側とのバランスはどのようになっているのでしょうか?

Sebastian氏:CPU側の処理のマルチスレッド化は時間をかけて最適化しました。具体的に言うと、「MSFS2020」では8スレッドだったのが、「MSFS2024」では32スレッドまでを同時に処理できるようになりました。これによってパフォーマンスが向上して、特に4K解像度ではスムースさを実感できると思います。

多くのパフォーマンス改善が図られた「MSFS2024」

――「MSFS2024」のシステム要件は、前作「MSFS2020」から大きな変更がありませんが、グラフィックス面ではかなりの進化を遂げています。これは最適化によるものでしょうか?

Sebastian氏:そうですね、グラフィックス面においては「MSFS2020」から沢山の最適化が行なわれました。特に世界中の木や草、地面は大きく改良されていて、GPUへの負荷は高くなるところですが、処理を大きく増やさないように効率化されています。

――例えば現世代最高スペックの「GeForce RTX 4090」ではどれほど快適に動くのでしょうか?

Sebastian氏:4K60FPSでプレイできると思います。NVIDIAのアップスケーリング技術「DLSS」を使えばフレームレートが上がって、より快適にプレイできますよ。

――デモルームで「MSFS2024」をプレイしたところ、非常に快適でした。本日のデモで使われていたPCのスペックを教えてください。

Sebastian氏:本日のデモでお使いいただいたPCは、CPU「Intel Core i9」、GPU「GeForce RTX 4080 Super」、メモリーは64GBです。

――Xbox Series X|Sでの画質設定・フレームレートはどのようになっているのでしょうか?

Sebastian氏:Xbox Series Sはミッドレベルの30FPS、Xbox Series Xはハイレベルの30FPSに設定されています。実際にプレイしてみれば、そこまでの違いは感じないはずです。

【グラフィックスが改良された「MSFS2024」】
「MSFS2020」での富士山
「MSFS2024」での富士山

コミュニティ出身の開発者に訊く。Working Title Simulations共同創設者・Christopher Burnett氏&Got Friend創設者・Brandon Yaeger氏

――「MSFS2024」では様々な航空機や空港が収録されていますが、「MSFS2020」からどういったアップデートが施されているのでしょうか?

Christopher氏:Garminのアビオニクス(電子機器類)やボーイング製の航空機、フライトプランの改良などを重点的に行なってきました。特にフライトプランはXboxアカウントに紐づけられていて、Webサイトからでもプランニングできるようになっています。

――「MSFS」はコミュニティをとても大事にするゲームという印象です。今回の「MSFS2024」でコニュニティのフィードバックによって追加された航空機にはどのようなものがあるのでしょうか?

Christopher氏:航空機については、全世界のパイロットからのリクエストによるものが非常に多いです。ボーイング機やエアバス機のみならず、グライダーを増やしてほしいという声が多くありまして、「MSFS2024」ではグライダーを拡充しています。

「MSFS2024」で拡充されたグライダー

――Brandon氏率いるGot Friendは「MSFS」開発チームへ2023年に参加したとお伺いしました。どういった経緯でMicrosoftとパートナーシップを組んだのでしょうか?

Brandon氏:もともと私たちは「MSFS」のコミュニティ側の人間で、小さなチームでアドオンを開発していました。それにMicrosoftが気付いてくれて、一緒にやらないかと声をかけてくださいました。とてもびっくりしましたし光栄なことでした。

――Christopher氏、Brandon氏それぞれの開発チームのスタッフは何名ほどなのでしょうか?

Brandon氏:Got Friendはコアメンバーが4人、景色専門のスタッフが1人で、全員で5人になります。

Christopher氏:私たちWorking Title Simulationsは2021年の創設当時は5人でしたが、「MSFS2024」制作のために現在では26人が働いています。

――非常に少人数ですが、例えば機体やアビオニクスを制作するのに一つにつきどれほどの期間がかかるのでしょうか?

Brandon氏:私たちだと、一つの機体を作るのに大体2~3カ月ほどかかります。とても大きいアビオニクスのプロジェクトになると、6カ月かけて5人だけで制作を進めていきます。もちろんWorking Title Simulationsとも連携しているので、より短期間で制作することもありますよ。

――コミュニティ出身のスタジオの強みはどこにあると思われますか?

Brandon氏:私たちはよりよい航空機を作るために情熱を注いていて、品質は高いものになっていると思います。そしてMicrosoftはコミュニティを大事にしている会社で、私たちのようなコミュニティ出身の外部スタジオにもコンテンツ制作を託してくれていることを誇りに思っています。

「MSFS」に携わる開発者は全世界にいる

空の旅に“心から恋をしてほしい”。「MSFS」責任者・Jorg Neumann氏

――前作「MSFS2020」までは初心者が入りにくいゲームという印象があったのですが、今作「MSFS2024」ではキャリアモードやワールドフォトグラファーといったフライトシム初心者でも楽しめるモードが充実しています。これはやはり、新たなプレーヤー層を呼び起こしたいからでしょうか?

Jorg氏:そうですね、「MSFS2020」はコアなフライトシムファンに長時間プレイしていただきました。そこで「MSFS2024」ではXboxユーザーをはじめ、より多くのゲーマーにフライトシムを楽しんでほしいと思い、フリーフライト以外の様々なモードを追加しました。

 特に「MSFS2020」にもチュートリアルはあったのですが、多くのプレーヤーからチュートリアルが複雑で操作を覚えづらいという声があり、フリーフライトで実際にプレイしながら操作を覚える方が多かったのです。そこで「MSFS2024」では、一人一人がパイロットとしてどのように航空機を操縦するのか、どのような仕事をするのか体験できる「キャリア」モードを実装しました。

――確かに先ほどプレイした「MSFS2024」のキャリアモードは、一人のパイロットとしてどのような過程を歩むのか、実際に体験しているような気分になりました。

Jorg氏:そうなんです。「MSFS」でどのように航空機を操縦するのか学んでから、実際にパイロットになる方も多いですからね。

――「MSFS2024」のキャリアモードは、パイロットとしての仕事を再現するシミュレーションゲームにもなっていました。実装にはどのようなアイデア、ユーザーからの声があったのでしょうか?

Jorg氏:実世界のパイロットたちに話を聞いてみると、半分以上が試験を受ける前に「MSFS」をはじめとするフライトシムをプレイして、試験に臨んていることがわかったんですね。そこで航空機を操縦して世界中を旅するだけでなく、航空機に乗るパイロットがどんな仕事をしているのか体験できるゲームにしようと思いました。

 「MSFS2024」では、お客さんを乗せて長距離を移動する旅客機、救助活動を行なうレスキューヘリなど世の中の仕事として存在する“働く航空機”を体験できます。より多くの方が「MSFS2024」を通じて、実際のパイロットとしても活躍することを願っています。

「MSFS2024」で実装されるキャリアモード

――いよいよ「MSFS2024」が11月に発売されますが、一方で前作「MSFS2020」のアップデートも継続すると発表されています。両作はそれぞれどのようなポジションで今後アップデートされるのでしょうか?

Jorg氏:はい、発表通り「MSFS2024」発売後も前作「MSFS2020」のアップデートを続けていきます。それぞれは同じワールドを使っているのですが、プログラムで使用されているコードが違います。あまり詳しくは言えないのですが、異なる作品として今後も続けていきたいと思っています。

――「MSFS2020」が発売されてから4年が経ちましたが、ユーザーからのフィードバックはどのようなものがあったのでしょうか?

Jorg氏:集まった“フィードバックスナップショット”はコミュニティの中で毎週投票が行なわれていて、それらを基にどのような改善点があるのか、私たちは耳を傾けています。その中で「こういうバグがあるから直してほしい」といったフィードバック、「こういう機能を追加してほしい」という提案、ロードやグラフィックスに関する改善点が私たちにたくさん届いています。

 また1カ月から1カ月半に一回「開発者Q&A」というライブセッションを開催していて、世界中のプレーヤーからの質問に答えています。中には私たち開発チームが知らないことを知っているプレーヤーの方もいらっしゃるので、私たちも非常に助かっています。

「MSFS2024」発売後も「MSFS2020」のアップデートは継続される

――まだ「MSFS2024」の発売前ですが、「MSFS」シリーズを通してどのような体験をプレーヤーに提供していきたいか、今後の展望を聞かせてください。

Jorg氏:いい質問をありがとうございます。「MSFS」シリーズは40年以上も続いていて、Microsoftが提供するゲームで最も長い歴史を持っています。私たちの目標は、プレーヤーの皆さんが欲しているものを開発・提供していくことです。コミュニティのために、そしてコミュニティと一緒に「MSFS」を発展させていきたいです。

 「MSFS」は一つのチームが開発するのではなく、25のチームが連携して開発しています。さらに珍しいのは25チームの内、24チームはコミュニティから来ていて、コミュニティの力が「MSFS」のイノベーションに繋がっているのです。SDKを通じて、航空機を作ったり、空港を作ったりと、自由に「MSFS」を活用して、究極的にはデジタルツインを目指したいと考えています。

 私が申しあげたいのは、初心者からコアなフライトシムファンまで「MSFS」は全てのプレーヤーに喜ばれるゲームであってほしい。そして“空の旅に心から恋をしてほしい”です。

――最後に日本の「MSFS」パイロットに向けてコメントをお願いします。

Jorg氏:まず日本の「MSFS」ファンに最大限の感謝を述べたいです。本当にありがとうございます。前作「MSFS2020」をリリースしたあと、最初のワールドアップデートは日本が舞台でした。日本のファンの皆さんはとてもアクティブで、実際に航空機や空港を作ったりして「MSFS」を楽しんでくださいました。ぜひ「MSFS2024」もプレイして、空の旅を楽しんでください。

――ありがとうございました。