インタビュー

「聖剣伝説 VISIONS of MANA」プロデューサー小山田将氏インタビュー。リメイク版「聖剣伝説3」を経て、完全新作へかける熱いこだわりを語る

【聖剣伝説 VISIONS of MANA】

2024年夏 発売予定

価格:未定

 スクウェア・エニックスのアクションRPGシリーズ「聖剣伝説」の完全新作「聖剣伝説 VISIONS of MANA(以下、聖剣伝説VoM)」がプレイステーション 5/プレイステーション 4/Xbox Series X|S/PC(Windows/Steam)で2024年夏に発売される。

 過去作のリメイクやHDリマスター版はこれまで数多くリリースされてきたが、完全新作となると17年もの間動きがなかったと改めて知り、正直驚きであった。

 本稿では、長い沈黙を破って発売される「聖剣伝説VoM」の制作の秘話やこだわりなどを、本作のプロデューサーである小山田将氏にお話を伺った。小山田氏は、近年の「聖剣伝説」シリーズプロデューサーを務めており、2018年に発売された「聖剣伝説2 SECRET of MANA」や2020年に発売された「聖剣伝説3 TRIALS of MANA」などを手掛けている。

 本作を期待している「聖剣伝説」ファンはぜひ最後まで読んでいただきたい。

「聖剣伝説」シリーズプロデューサー・小山田将氏

本作はどの作品のファンから見ても「聖剣伝説」を感じられるものに

――今回、リメイク作品などを除くと約17年振りの完全新作となりますが、開発のきっかけや経緯など伺えますでしょうか。

小山田氏:2014年にシリーズプロデューサーを引き継ぎ、スマートフォン向けの新しいビジネスにチャレンジしていました。その一方で、当時のコンソールの現世代機で「聖剣伝説」作品が遊べる状態ではなかったため、まずはきちんと過去作を遊べる環境を整えながら、新作をどう作っていくか検討と下準備をしていました。

 「聖剣伝説3 TRIALS of MANA」で少し踏み込んだリメイクの作り方をしたときにユーザーさんからも好評をいただいて我々としても先(新作)が狙えるんじゃないかという手応えがあったので、「聖剣3ToM」を作っている途中に“完全新作はこっちの方向性で進化させてどう作っていくか”というところから準備していました。

 新作を作る大きなきっかけは「聖剣3ToM」発売後に実施したアンケートで、リメイクやリマスターよりも新作を望む声が多かったことも後押しになったと思います。

2007年にニンテンドーDSでリリースされた「聖剣伝説 HEROES of MANA」。アプリゲームやリメイクを除くとこれが最後の作品となっていた
スーパーファミコンでリリースされた「聖剣伝説3」が現代の技術で2020年にフルリメイクされ好評を博し、新作の制作へと繋がった「聖剣伝説3 TRIALS of MANA」

――今作の世界観やキャラクターなどはまさに王道の「聖剣伝説」といった感じですが、新作を作るに当たって心掛けていたことやこだわりなどありますか?

小山田氏:今まではリメイクだったので、ある程度キャラクターデザインなどを踏襲することで「聖剣伝説」らしさは表現できると確信はありました。しかし今回は新規でキャラクターを作るということで、キャラや背景(世界観)、モンスターの表現もどこまで進化させるかとなったときに今までの指針が通じない部分も結構ありました。

 当時自分が引き継いだときは「聖剣伝説」って、一番好きなタイトルが人によって全然違うシリーズではあったんですよ。ただ、リメイクを長く続けていったことで、キャラクターデザインのHACCANさんのイラストが「聖剣伝説らしさ」を担う割合が増えていったので、引き続きキャラデザをお願いしまして、モンスターは石井浩一さんのデザインをしっかり再現できれば大丈夫だろうと。

――キャラクターとモンスターはこれまでの「聖剣伝説」の形を大事にしたということですね。

小山田氏:あとフィールドに関しては絵本のテイストに振るのか、リアルな方向に振るのか、それとも完全に違うものにするのかを考えました。やっぱりみなさんの「聖剣伝説」のイメージって磯野宏夫さんの“マナの樹”のイメージだろうなというのがありましたので、磯野さんのマナの樹をイメージした背景の構築といった形になりました。

 キャラクターはHACCANさん、マナの樹は磯野さんのイメージを踏襲、モンスターは石井さん。どこを切り取っても、どの作品のファンから見ても「聖剣伝説」を感じられるものにするというのは意識していました。

――「ファイナルファンタジー」シリーズですと作品ごとにテイストが大分違いますが、「聖剣伝説」はテイストを変えようという案は最初からなかった感じでしょうか?

小山田氏:自分がもともと「聖剣伝説」のファンで、この世界観やキャラクターが好きというのが高じて作らせていただいているものなので、尖った物を作ってやろうとかは特になく、みんなが好きだった「聖剣伝説」を磨いて現代の物にしたいという気持ちではあります。

――今作では広大なフィールドを冒険するセミオープンフィールドを採用していますが、これはどういった経緯でこの形になったのでしょうか?

小山田氏:先ほどの磯野さんの自然の感じを表現するにあたって、石井さんがシリーズの中でも大切にされていた“その世界に没入できるような空気感の構築”というのがキーなのかなと思っていました。

 ラビ(モンスター)たちも当然フィールドにいるし、風の流れが精霊によって生まれているものだったり、精霊がその場にいるんだなというのを感じられるものをうまく表現したいという話をさせていただいたときに、そうなると(フィールドを)結構広く作っていろんな精霊や生物が感じられるものにする必要があるよね、というところから広さが決まりました。広さが決まった故に、遊びとしてこういうことを盛り込んでいかないとこの広さで遊ぶ意味ないよね……みたいな感じです。

 スーパーファミコン時代にあった、地続きの大陸を全部巡るみたいな昔ながらのRPGの体験というのはどうしてもやりたくて、そういった中で今の形に決まっていきました。

――遊びを盛り込むというのは、フィールド中に隠された宝箱だったりサブクエストだと思うのですが、こちらのボリュームや遊び応えはいかがでしょうか?

小山田氏:具体的なボリュームはちょっとお答えできないんですけど、やり込み要素の1つとして探索というのがあります。ストーリーの進行で精霊器を手に入れることで初めて触れられるものがあったり、今だったらあれが触れられるんじゃないかとかを振り返って探索してもらえるような遊びはたくさん作っています。

――試遊で、精霊器を使ったギミックなどがフィールドにありましたが、それは全種類の精霊器にそういったギミックが用意されているのですか?

小山田氏:はい。8属性の精霊分すべてあります。

プロデューサー自身が「聖剣伝説」のファンだったこともあり、世界観をかなり大事にして制作に当たったとのこと
精霊器を使うことで探索の幅が広がるという遊びが盛り込まれている

――こういった形式のゲーム性だとゲームの自由度が気になるところですが、そういった部分はいかがでしょうか?

小山田氏:物語的には今回はストレートな順路で進んでいくような形になります。ストーリーに関係なく好きな行き先に向かえるとかは当然あるんですけど。

――あくまでメインストーリーはルートが決まってるという感じなんですね。先日の試遊でちょっと横道にそれたらレベル50超えのモンスターがいたり、自由な探索はできる印象でしたね。

小山田氏:そういった強い敵も自信があれば低レベルでも勝てるかもしれないし、当然後から倒しに行ってもいいし、そういった自由度はある感じです。

――フィールドでの移動やピックルに乗っての高速移動など、プレイしていてとても快適でしたが、こういった部分はかなり気をつけていたのでしょうか?

小山田氏:そうですね。やっぱり広大なフィールドで爽快に遊ぶというところで、煩わしい制約を付けずに気持ち良くサクサク遊べるようにした方がいいかな、と。ユーザーさんは「聖剣伝説」自体にすごくハードなものを求めている訳ではないと思っていて、アクションもそうだし遊びとしての制約は強くなく、誰が遊んでも気持ちよく同じような手触りでストレスなく遊べるといったところを意識しています。

ストレスなくサクサク遊べる作りを心がけているだけあり、プレイ感は快適そのものだった

――アクションですが、今作では空中ダッシュや敵を打ち上げてからのコンボなど、スピーディーかつ爽快なアクションに進化していましたが、戦闘アクションはかなり力を入れられたのでしょうか?

小山田氏:今回ご協力いただいている開発会社のディレクターさんと話すときは、ベースとしてのRPGは守ってもらいたいという相談はしていたんですよ。ただRPGという根幹は守りつつ、アクション部分をどこまで踏み込めるか、というのがなかなか難しく……。そのディレクターの方がバトル構築の強みを持たれていて、精霊を使ったアイデアなどをいただき、作っていただいたものを見せていただいたんです。ここまでやってもRPGとしての体裁はしっかり保てて爽快感は進化しているなと感じられたので、すごい良いものになっていると思います。「聖剣3ToM」よりも進化していると感じていただけたなら、それは狙い通りなので、応えられてよかったなと思いました。

――今作のクラスチェンジは、精霊器の付け替えでいつでもクラスを変えられる「ファイナルファンタジー」のジョブシステムのようになっていますが、この形式になった経緯など伺えますか。

小山田氏:先ほどのフィールドの話もなんですが、精霊が息づいているという遊びをいろいろ考えたときに精霊器という1つの物をギミックとして使うというのがきっかけではあります。

 精霊器が同じ属性で同時に遊べちゃってもそれはそれですごい強いときもあれば、すごく弱いときもあるというような極端な遊びになってつまらないかなという話がありました。試行錯誤を繰り返してから自分に合っているのはこの精霊器だというような遊びの方が本作には向いているというのもあって、本作は自由に付け替えられるようになりました。

――同じ精霊器でもキャラクターによってクラスや武器、アクションなどが異なるのはかなり大変だったのではないでしょうか。

小山田氏:武器の種類が多いのは開発チームからすると大変なことですね。「聖剣伝説」の要素として武器を持ち替えてアクションが変わるっていうのは作品の中でも割とあったものだったので、なんとか実現してほしいということに何とか応えてもらったというのが強いですね。プロデューサーがワガママばっかり言ってます(笑)。

アクション性の向上やクラスによる武器変化など、アクション面もかなり力を入れた様子

――ゲーム序盤に解放されたクラスは終盤では活躍させるのが難しいみたいな、クラスに強さの優劣などはあるのでしょうか?

小山田氏:一応強さの優劣は横並びにしているので、最初に風と月が手に入ったからといって、後半では弱くて使えなくなってしまう、ということはないです。もちろん使いやすさと状況に合わせて付け替えた方が有利というのが生まれるようにはしています。基本的には8個ある中で精霊器とクラスの能力、仲間のクラスとの組み合わせといったところで好みのものを見つけてもらうのが遊びになってるかなと思います。

強さに優劣は無く、お気に入りのクラスを最後まで使える設計になっているとのこと

――最後に、本作の見所や押しのポイントなどを伺えますでしょうか。

小山田氏:最初にフィールドやキャラクターなど、どこを切り取っても、どの作品のファンからも「聖剣伝説」に見えるようにすごく意識して作っていて、今作のフィールドはいろいろ走り回ってほしいなと思っています。

 長い歴史がありますが、シリーズをまだ触ったことがないっていう人もすごく多いと思っています。自分が小学生のときに「聖剣伝説 -ファイナルファンタジー外伝-」、「聖剣伝説2」を遊ばせてもらってすごい感動したので、そういう体験を感じてほしいというのを意識して作っています。いろんな人に触れてもらいたい「聖剣伝説」になっていますので、ぜひ触ってほしいです。

――ありがとうございました。イチファンとして期待しております