インタビュー
SEGA60周年記念CD「GO SEGA」&「DJ Mix」制作スタッフインタビュー
CD4枚に詰め込まれたセガ60年の歴史。そして”音と歌詞とビジュアル”で繋がる60トラック
2021年3月24日 00:00
- 【「GO SEGA - 60th ANNIVERSARY Album -」】
- 3月24日発売
- 価格:6,460円(税別)
- 【「SEGA 60th Anniversary Official Bootleg DJ Mix」】
- 3月24日発売
- 価格:3,000円(税別)
ウェーブマスターよりセガ関連作品の曲を全108トラック、CD4枚に収録したセガ設立60周年記念アルバム「GO SEGA - 60th ANNIVERSARY Album -」が、および歴代のセガ音楽をまとめて聴けるDJ Mixアルバム、その名も「SEGA 60th Anniversary Official Bootleg DJ Mix」が、本日3月24日に同時発売される。
「GO SEGA - 60th ANNIVERSARY Album -」には70年代に発売された懐かしのアーケードゲームをはじめ、歴代の家庭用ハードから最新のスマホ用ゲームの曲まであまねく収録され、さらにはセガの社歌までもが聴けるという、まさにセガ音楽ヒストリーの集大成とも言うべき逸品だ。
一方の「SEGA 60th Anniversary Official Bootleg DJ Mix」は、60周年にちなんで選んだ全60トラックをDJ Mixとしてひとつの曲にまとめ上げ、CD1枚の録音時間の上限、約74分ギリギリまで収録したもの。60周年記念の掉尾を飾るにふさわしい、こちらも超大作のアルバムだ。
長年のセガ、あるいはゲーム音楽ファンであれば、両アルバムのリリースの報を聞くやいなや、テンションが大いに上がったことだろう。だが、普段からアルバムを買ってゲーム音楽を聴く習慣がない読者のなかには、もしかしたら「『GO SEGA』と『DJ Mix』はどこが違うの?」とか、「DJ Mixって、そもそも何なの?」などと思っている人がいるかもしれない。
そこで当GAME Watchでは、セガ60周年を飾る2つのCDについて、それぞれ制作者/コンポーザーにインタビューを敢行。それぞれの聴きどころやこだわり、ポイントなどをたっぷりと語っていただいた。その内容を余すことなくお伝えするので、ぜひ最後までご一読を!
【編集部より】本インタビューは新型コロナウイルス対策のため、関係者の安全に配慮してビデオ会議で実施しました。
「GO SEGA - 60th ANNIVERSARY Album -」インタビュー
もしかしたら、これが最初で最後になるかもしれない、かくも豪華なアルバムはいかにして誕生したのか? 本アルバムのA&Rプロデューサー、ウェーブマスターの“モバ伊藤”こと伊藤良弘氏、セガファンにはおなじみの大御所コンポーザー“Hiro師匠”ことセガの川口博史氏、同じくセガの奥成洋輔氏、西村ケンサク氏の4名にお集まりいただき、収録曲へのこだわりや視聴の際に楽しむためのポイント、そして長年変わることがないセガ愛をタップリと語っていただいた。
発売日を延期してまで、60曲の収録予定を108曲に増やした真相とは?
――「GO SEGA - 60th ANNIVERSARY Album -」のリリースおめでとうございます。まずは本アルバムをなぜ作ろうと思ったのか、その動機から教えていただけますか?
伊藤氏:数々のSEGAサントラを手掛けている弊社としても、GO SEGAプロジェクトと連動した商品をリリースするべき責務がありました。まず最初に、CDは4枚組で、曲数は60周年にちなんで60曲にしようと、私のほうでパッケージのコンセプトを大雑把に決めました。4枚組ですと、セガの「S」、「E」、「G」、「A」の頭文字をあしらった4つの盤が作れますしね。それと、こじつけ価格もセガセガしくこだわり6,460円[税別](※セガサミーホールディングスの証券コード)に設定しました(笑)。
――アルバムの制作にあたり、皆さんはどんなお仕事を担当されたのかを教えて下さい。
Hiro師匠:アルバム全体の監修、つまり文句を言う人です(笑)。この企画が立ち上がる前から、60周年で何かCDを出せないかと思っていたのですが、先に大谷(智哉氏)のほうで別の企画(※「SEGA 60th Anniversary Official Bootleg DJ Mix」の制作)が走っていましたので、だったら自分のほうは動かなくてもいいかな、と思っていたんです。
ですが、後になってモバ伊藤から「こんなCDを出そうと思いますが」と相談を受けまして、じゃあ大谷のほうはDJ Mixだし、こっちは原曲をメインにして作りましょうという話をしたのが、アルバムを作ることになったそもそもの経緯ですね。
奥成氏:「SEGA AGES」シリーズでのスーパーバイザーと同じような役割(※本アルバムではCo-A&R)、お手伝い係ですね。モバ伊藤から「こんなカンジで作って出そうと思うんだけど、どうかな?」という相談を受けましたので、収録曲のバランスが悪いから別の曲を入れたほうがいいだろうとか意見を出したり、音源が正しく鳴っているかをチェックしました。それから、ブックレットに載せた曲の解説の原稿も私が書きました。
西村氏:私はブックレットの校正を担当しましたが、あとはスペシャルサポーターとして、たまに伊藤にお会いしたときに「頑張って下さいね!」とひたすら応援する役割でした。このインタビューに同席させていただいたのも本当におこがましい限りで、今日はファンの1人としてずっと聞いていようかなあと(笑)。
――とんでもないです! 読者の皆さんに、ぜひ制作中のお話をたくさんお聞かせいただければと……。
西村氏:この間の「セガゼミ」のイベントですとか、私と奥成ともども、60周年イベントのどこかに少しずつ関わっているものが多かった気がしますね。
奥成氏:実は60周年イベントの企画のうち、8割ぐらいはポシャったので表に出ている部分は非常に少ないのですが、仕込みの時間はものすごく長かったので、たくさん働いた実感はあります(苦笑)。
Hiro師匠:確かに。あんなイベント、こんなイベントがいろいろなくなっちゃったなあと……。
西村氏:でも、こうしてアルバムが無事に形になったので本当に良かったなあと思います。
――では、アルバムの収録内容についてお尋ねします。当初の発表では、セガの設立60周年にちなんで全60曲を収録する予定だったのに、なぜ発売日を延期してまで収録曲を増やすことにしたのでしょうか?
伊藤氏:いざ編成を始めてみたら、あまりにもセガ楽曲の名曲が多過ぎて、60曲ではとてもじゃないけど収まり切れなくなりまして……。結局、折り合いがつかずにリスケをして、曲数はいったいどうするのか、限られたCDの容量との戦いを延々続けた結果、どうにか全108トラックにまとめることができました。ファンの皆様のなかには、「あの曲が入ってないぞ!」とお叱りがあるかもしれませんが、あらかじめお詫びを申し上げておきます。
――それにしても、収録曲は歴代セガハードのタイトルだけにとどまらず、アーケードゲームはビデオ以外にも「UFOキャッチャー」シリーズやメダルゲーム、さらには社歌まで入っていたりと、実に幅広いですよね! 最初からジャンルは多くしようと意識して収録曲を決めたのでしょうか?
Hiro師匠:はい。今までにセガがやってきたことを、あらゆるエンターテインメントの歴史を集めてパッケージ化したいというコンセプトがありました。本当は、ほかにも入れたいジャンルがいろいろあったのですが、残念ながら音源が手に入らなかったなどの理由で、収録することができなかった曲もありました。
できれば「アストロンベルト」(※1)とか、LDゲームの曲も入れたかったんですけど、さすがに現物がもう残っていなくて……。しかも、LDは劣化するので、たとえ現物があったとしても、音がノイズだらけで使い物にならないことがあるんです。ほかにも、エレメカの曲もあったらセガらしさが出せるので入れたいなと思っていたのですが、こちらも残念ですが実機の用意ができませんでした。
※1……「アストロンベルト」:1983年にアーケードに登場したシューティングゲーム。敵機や背景の映像はLD(レーザーディスク)に収録されたものを使用していた。
――Hiro師匠は、長年にわたり数々の曲を作られてきましたが、作曲者の立場から見て、今回のアルバム制作の過程でセガならではの曲の特徴など、何か気付いた点はありましたか?
Hiro師匠:セガは昔から、個性的な音が多かったなあと改めて思いました。ゲーム音楽の音質が、年々ハードも変わっていくうちに、どんどん進化していくのもとても面白いですよね。最初の「ヘッドオン」(※2)には、まだSE(効果音)しか入っていなかったですし。
※2……「ヘッドオン」:1979年に登場した、敵の車にぶつからないようマイカーを操作し、画面内のドットをすべて消すとステージクリアとなる、ドットイート型ゲームの始祖とされるアーケードゲーム。
奥成氏:私は最初から、このアルバムは絶対に面白くなると確信がありました。今から10年ほど前、「ゲームセンターCX」を製作しているガスコイン・カンパニーさんに「THE ゲームメーカー SEGA編」というセガのゲームを紹介するDVDを作っていただいたときに協力した時の経験からです。最初の企画はメガドライブだけだったのですが、せっかくゲームメーカーの紹介ビデオをセガでやるのであれば、「全部のハードまとめてやりませんか?」と提案して、SG-1000からドリームキャストまで全部紹介するビデオになったんです
ハードを増やすと、紹介範囲が広くなった分だけ個々の中身がパッと見で薄くなってしまう面もあるのですが、全体を見るとハードの進化の変遷がわかるのでとても面白いんですよ。最初のSG-1000ではピコピコ音だけだったのに、やがてFM音源になったりして進化するのがよくわかりますし、グラフィックスが2Dから3Dに進化するのも見られたりして、すごく面白いDVDができたんです。
ですから今回のCDも、絶対に面白くなるだろうと。SG-1000が発売される前の時代、「ヘッドオン」が出た1979年から最新のスマホゲームまで幅広く、約40年のセガの歴史を音でたどることができるというコンセプトを上手にまとめることができましたので、4枚続けて聴くことでより⾯⽩くなると思いますよ。しかも、今回のアルバムはゲーム音源だけでなく、セガの社歌「若い力(135)」や湯川専務の「ドリームキャスト」の歌唱ソングなど、変わり種もいろいろと楽しめるのも味のひとつですね。
曲、音源のセレクトにとことんこだわって収録
――今回のアルバムには、市販品として初収録の曲が多い印象も受けました。初収録タイトルを増やそうという意識も最初からあったのでしょうか?
Hiro師匠:そうですね。皆さんが今まで話題にしたことがなかったような曲も、いろいろと入っていると思います。
――個人的な意見でたいへん恐縮ですが、「ペンゴ」の「ポップコーン」や、「スーパー・ロコモーティブ」の「ライディーン」など、懐かしの版権曲BGMが収録されたのもすごくうれしかったです。これらの曲の使用許諾はスムーズに取れましたか?
伊藤氏:はい。つつがなく!
奥成氏:ほかにも「テディボーイブルース」(※3)みたいな、アイドルとのタイアップ曲もあったりするのが、セガの面白いところのひとつではないかと思います。これは私の想像で、当事者に直接お話を聞いたわけではないのですが、セガは元々ジュークボックスの輸入をしたり、初の国産ジュークボックスを製造した会社でしたから、その流れでこんなタイアップ企画が生まれたのかもしれませんね。昔はジュークボックスにレコードが入ると、レコード会社の人たちにとってはすごく大きな実績になるので、日本中のレコード会社がセガへ売り込みに日参していた時代がありましたので、おそらくかつてのセガは音楽業界と近いところにあったのではないかと。
Hiro師匠:そうそう。ラジオ屋と同じことですよね。
※3……「テディボーイブルース」:女優の「いしのようこ(当時は「石野陽子」)」さんがアイドルとしてデビューした際のシングル曲。レコードの発売に合わせ「テディボーイブルース」という、主人公を操作して敵をショットとキックで倒していくアクションゲームがリリースされた。オリジナルであるアーケード版のボーナス⾯には石野陽子が登場する。1985年登場。
――収録された108トラックは、すべて今回のアルバムのために新たに録音したのでしょうか?
伊藤氏:新録もありますが、多くは過去に弊社で制作したサントラに入っていた曲は、そのマスター音源を使用しました。ただし過去に音源化された曲についてもリマスタリングをしたうえで、最終的にHiro師匠が監修をして完成させたのが、このコンピレーションアルバムとなります。
Hiro師匠:今回のマスタリングは、もう本当にタイヘンでした……。
伊藤氏:ホント、たいへんおつかれさまでございました(笑)。
Hiro師匠:先程もお話しましたが、「ヘッドオン」はSEだけですし、曲によってはPSGだったりFM音源だったり、オーケストラや歌、ロックやジャズもあったりして、ジャンルも音源も音質もみんなバラバラなんです。なので、いったいどこに音質を合わせて作ればいいのか、とても悩ましい日々が続きましたね。確か、こっちから4回ぐらいリテイクを出したのかな?
伊藤氏:ええ。そうでしたね。
Hiro師匠:で、最終的には音源ごとに、その当時の音源らしく聴こえるよう、昔のものは昔のように、今のものは今のように感じられるマスタリングにしてあります。ですから、もしかしたら今回収録された曲のなかには、過去の別のアルバムに収録されたものとは違ったように聴こえるものがあるかもしれませんね。
新しいものを作るとき、今までは基本、音圧感のある今どきの音にしようと思ってやってきましたが、今回のアルバムの場合はそれだと昔の良さが消えてしまうので、昔のものは昔のまま残すことをコンセプトにしています。
伊藤氏:その時代ごとの空気感みたいなものも大切に表現したい、と言う想いで調整してありますので、そこも含めて楽しんでいただけたらうれしいですね。
――収録にあたって、ほかにご苦労なさったことはありましたか?
奥成氏:新規で収録した「ヘッドオン」や「モナコGP」「トランキライザーガン」などは、純正の基板がセガに無いものもあり、入手に苦労したそうです(笑)。この時代の古い基板ですと、1枚で何十万円するものがあったりするビンテージの世界になっていて、ただ動かすだけでも怖いのに、そこからわざわざ録音しなくてはいけないので、ずっとハラハラしていましたと録音担当者から聞いています。
西村氏:結局、基板はどうやって調達したんですか?
奥成氏:コレクターの方からお借りして録音しました。「モナコGP」は時間の都合でゲーセンミカドさんで録音させていただいたそうです。
Hiro師匠:収録で一番大変だったのは、どの曲だったのかな?
奥成氏:「トランキライザーガン」だったと思います。もう今では世の中に出回ることがなかなかありませんので……。
Hiro師匠:それでも、まだ世の中には持っている人がいるのはすごいなあと。
伊藤氏:基板をまだ持っていて、しかもちゃんと動くように手入れしてる方もいて、本当にありがたい限りですよね。
ブックレットにもセガの歴史を凝縮
――公式サイトによりますと、ブックレットはセガの会社案内パンフレットを模したデザインにされたとのことですが?
伊藤氏:はい。セガ広報部からもご快諾をいただきまして、BtoB向けに作っているセガグループの会社案内をオマージュしたデザインにしました。ブックレットには、会社案内に掲載されているコーポレート・ヒストリーなどを、こちらでアルバム用に編集を加え、再度セガ広報部にて全体を監修いただいた小冊子となります。
奥成氏:ブックレットに載っている曲の解説は私が書きました。全108トラック分1曲1曲は書いていてないのですが、折角なのでぜひお読みいただけると幸いです。全部書こうと思えば書けたのですが、もし載せたらすごい量になってしまうので、全体を歴史ごとにまとめた形にしてあります。
西村氏:私は思い出話とかを書かせていただいたのですが、後で奥成の解説を読んだら、あまりの量と素晴らしさに「ウオオ!」とうなってしまったんですよ。
Hiro師匠:そうそう。せっかくだから、全曲の解説を書いたらよかったのに。奥成の解説だけ載っけておけば、あとは自分とかが何も書く必要ないでしょう(笑)。
奥成氏:いえいえ! Hiro師匠はクリエイティブに参加されている方なので、曲について語っていただければ、我々としてはとてもうれしいですし。私のように曲を書いていない、現場にもいなかった1ユーザーみたいな声を書いたところでしようがないですから……。
40年分もの曲があると、初期の時代の曲はわかるけど最近のものは知らないとか、あるいは真ん中ぐらいの時代しかわからないとか、そういう方がたくさんいると思いましたので、「こういう流れで、こんな曲が入りました」と全般の解説をしておきたかったんです。このピコピコ音は何なのか、「ライディーン」がなぜ入ってるのかなどを最低限の範囲で触れ、ブックレットを読んだ方に時代背景をわかっていただけるように書けているかと思います。
それから、今回のアルバムではモバ伊藤のこだわりで、特定のジャンルや音源にこだわらずにリリース順に収録してあるところがキモになっています。
伊藤氏:そうなんです! セガが世に出した順番で聴いていただくというスタイルにしてあります。
奥成氏:例えば、かつてはゲームセンターに行ったら「スペースハリアー」を遊び、家に帰ってから「アレックスキッドのミラクルワールド」を遊んでいたという時代が確かにあったハズですので、曲をリリース順に並べることで時代を再現できると思ったわけですね。
――ナルホド! 収録タイトルのリストを最初に拝見したときに、何でジャンルがバラバラに入っているのか不思議に思ったのですが、リリース順に並べてあったんですね。
Hiro師匠:本当に奥成の解説はすごくいいよね。1,600だったか、2,000文字近く書いたんだよね?
伊藤氏:いいえ、4,000文字です! 最初は400文字でと頼んでたんですけど、出来が良過ぎたので文字数の制限を解除しちゃったんですよ(笑)。
奥成氏:いやいや、お恥ずかしい限りです(笑)。最初は曲の解説に絞って、感想とかは⼀切書かないよと言っておいたのですが、やっぱり全然足りなくなってしまって……。モバ伊藤に制限をなくしてもらって一旦書き終えてから「もうちょっと尺と時間の余裕があったら、歌のところの説明もできますよ」と相談したら、「じゃあ、それも書いて下さい」って言われたので最後のところにまとめて特殊ジャンルの曲のみ解説を書いておきました。
伊藤氏:せっかくですから、後で全曲の解説をサイトにアップしませんか?
奥成氏:本業がおろそかになるので勘弁してください。もしアルバイトとして雇ってくれたら、仕事終わってから副業でやりますよ(笑)。
Hiro師匠:今回のアルバムは、奥成の解説がメインで、CDがオマケで付いてると言えるぐらい出来が良いので、ぜひご覧になっていただければと。
(一同爆笑)
プラットフォームを問わず、あらゆるジャンルから幅広い曲の収録を実現
――本アルバムの制作を通じて、セガの音楽の歴史に関して皆さんの目や耳から何か気付いたことはありますか?
奥成氏:CDを聴いていると改めて面白いなと思ったのが、光吉(猛修氏)の歌や曲が忘れた頃に出てくると言いますか、時代の節目節目で出てくるところでした。私のなかでは、光吉のボーカルデビュー曲は「それゆけ︕ココロジン -1993-」(※4)だと思っておりまして、この曲はおそらくモバ伊藤のセレクトだったと思いますが、アルバムに収録されると知ったときは思わずニヤッとしちゃいました。
伊藤氏:「それゆけ!ココロジン -1993-」は最初から収録するつもりでした。なぜかと言いますと、S.S.T.BAND(※5)で最初にお披露目して以来、音源化されることがなかった幻の楽曲だったからなんです。正確に言うと、S.S.T.BANDと言うよりはB-univ(※6)の前夜祭的な作品でしたので、往年のセガファンの皆さんへ、ぜひ届けたいという想いがありました。
※4……「それゆけ!ココロジン -1993-」:1993年に登場したアーケード用占い機「それいけ!!ココロジー」の収録曲(作詞:蟻川とんぼ氏、作曲:並木晃一氏)。
※5、6……S.S.T.BAND、B-univ:前者は1988年に結成された、並木晃一氏、Hiro師匠、光吉猛修氏などのセガサウンドコンポーザーが参加した、世界初とされるゲームミュージック・ライブ・バンド。後者は1993年に結成された、並木晃一氏と光吉猛修氏のユニットの名称。
奥成氏:それからこの曲は、1993年に行なわれたS.S.T.BANDの最後のライブで披露された、ボーカルが入った初めての曲でもあるんです。ステージに「R三郎丸」という、クマの着ぐるみみたいなパジャマ姿の男が突然現れてこの曲を歌ったので、S.S.T.BANDがまたスゴイことになったなあと思ったら、「今日で解散です。皆さんさようなら~!」と言って去って行き、ザワザワしたまま終わるというライブだったんです(笑)。しかも、元のアーケード版「それいけ!!ココロジー」自体があまりなじみがなく、これまでに何度か出ている光吉さんのベスト盤にも一切入らなかったんです。
伊藤氏:「それいけ!!ココロジー2」のほうは、過去にリアレンジされたバージョンでリリースされましたが、第1弾の音源化はまったくされておらず、作品自体がなかったことにされている感があったので、この機会にぜひCD化しようと思った訳です。
奥成氏:この曲が2枚目のCDの途中に突然登場して、その次は「デイトナUSA」、しばらくしてから、今度は「バーニングレンジャー」が登場します。
伊藤氏:光吉さんの歌は、4枚目に「ホルカ×トルカ」と、セガモバ&セガ店舗のイメージソングである「また、ここで逢いたい...」が最後のほうに入ってますよ。
――光吉さんの歌だけでも、実に幅広いセガの音楽史を垣間見ることができるんですね。今さらではありますが驚きです!
奥成氏:今回はどの音源を収録するのか、その絞り込みにもかなりモバ伊藤のこだわりがあったようです。例えば「セガサターン、シロ!」の歌は、あえて藤岡弘、さんが歌ったレアバージョンを使ったりしています。
Hiro師匠:アレ? 藤岡さんバージョンのほうがレアだったんだ。
奥成氏:ええ。テレビCM版はとみたいちろうさんが歌ったバージョンを使っているんですよ。
Hiro師匠:そうかそうか、ナルホドね。
奥成氏:最初に音源化されたCDシングルにはとみたさんバージョンが1曲目、つまりA面として入っているんです。
伊藤氏:CM版はとみたさんバージョンでしたから、藤岡さんバージョンは、ある意味B面扱い的な収録になっていましたよね。
奥成氏:そうですね。それとB面扱いという意味では、ソニーミュージックさんから出した「セガコン」というアルバムに湯川専務の「噂のドリームキャスト」という歌が入っていたのですが、今回のアルバムではそのCDのA面にあたるドリームキャストのテレビCFソング「Dreamcast」が入っています。
伊藤氏:ええ。やっぱりドリームキャストのCFソングも必要だと思いましたね。
奥成氏:一方で、ニンテンドー3DS版の「きみのためなら死ねる」の歌は光吉バージョンではなく、オリジナルである床井(健一氏)バージョンになってたりします。と、こんな流れでモバ伊藤好みのセレクトでいろいろ考えて収録しまして、私は、そのセレクトされた曲に対して「これを⼊れて、これを外して……」という提案をしたわけですね。これはSwitch版「SEGA AGES」の開発タイトル選定と同じような要領で、侃々諤々の議論を繰り返しました。
伊藤氏:ええ。「これは偏り過ぎでしょう!」とか、ご意見をいろいろ参考にさせていただきました。
奥成氏:確か、最初にリストを見たときには、1980年代の大型体感ゲームの曲だけで全体の半分近くあったんですよ。「GO! SEGA」の企画なのに、それだとバランスが良くないのでいくつか削っていただいたのですが、今見ても多過ぎでしょうコレはとはまだ思ってます(笑)。
――でも、かつて一時代を築いたセガの大型体感ゲームは名曲ぞろいですから、必然的にたくさん収録したくなりますよね……。
奥成氏:それから、体感以降のアーケードタイトルや2000年代以降のドリキャスより後の楽曲については最初ほとんど入ってなかったんです。そこで、システム基板別だったり、他社ハードで出たタイトルをいろいろ収録したいという思いもありましたので、私から厚めにリクエストしました。ちょうど「セガゼミ」の企画も並行して進めていましたので、西村ケンサク先生の講義(※7)の台本を見ながら「2000年代のカードゲームがもっとほしいなあ」と思ったんですよね。多分、最初は「三国志大戦」しかリストになかったので、もっと入れたいよなあと。
さらに「ワンダーランドウォーズ」ですとか、現役で動いているアーケードゲームも入れてもらえたら、より充実するだろうなと。音源として聴ける機会がなかなかないですし、今のセガのゲーセン感が伝わるだろうと考えてリクエストしました。
※7……西村ケンサク先生の講義:西村氏は、昨年12月に公開された「セガゼミ」第3回、アーケードの講師役を担当した。なお冒頭の同氏の写真も、講師を演じているときのワンショットである。
伊藤氏:そうでしたね。ほかにもアーケードからですと、「maimai」や「チュウニズム」の曲も入っていますよ。
Hiro師匠:メダルゲームの曲も聴けます。メダルゲームにも、いかにもセガっぽい曲がたくさんありますからね。
奥成氏:ええ。「ドラゴントレジャー」の曲もまさにセガっぽいですし、皆さんに懐かしいなと思っていただけたらうれしいですね。
西村氏:アーケードのカードゲームにはタイトルごとに熱心なファンがいて、過去にサントラもたくさん出ているんですけど、歴史の文脈で語られる機会が今まであまりなかった気がするんですよ。メダルゲームもまたしかりで。なので今回、すごく良い機会を作っていただけたので、アーケード担当としては奥成に只々感謝するばかりです。
奥成氏:いえいえ。私もケンサク先生の講義があったおかげで、カードゲームも大事なことに気付けましたから。
西村氏:1980年代のゲームは文脈のひとつとしてずっと語られていますが、2000年代以降のアーケードゲームはタイトルごとにバラバラになってしまうんですよ。そういう意味でも、「GO SEGA」のアルバムが発売されることになって本当に良かったなあと思います。
――新しいところでは、昨年発売されたゲームギアミクロの曲も収録されていますよね。
奥成氏:1タイトルにつき1曲かと思いきや、ゲームギアミクロだけは2プラス1曲も⼊ってるのはモバ伊藤のセレクトで、私のごり押しとかではないです!(笑)。
伊藤氏:ゲームギアミクロは60周年記念商品ですからね。作曲はゲーム音楽ファンには有名なchibi-techさんと坂本慎⼀さんということもあり、またエムツーさんからのラブコールもございましたので収録させていただきました。
西村氏:同じく60周年の記念商品である、アストロシティミニの曲も確か入ってましたよね?
伊藤氏:はい。バッチリ入ってますよ! Hiro師匠制作の楽曲でもありますからね!
奥成氏:アストロシティミニではアルバムを出しましたが、ゲームギアミクロは出せなかったので、ここで参加させてもらえたのはよかったですね。せっかくの機会でしたので、ゲームギアミクロの音はエミュレーターから取るのではなく、私の提案でゲームギア本体で鳴るデータを用意したうえで録音しました。
伊藤⽒︓そうなんです︕ エムツーの駒林(貴行氏)さんから、わざわざゲームギア用で再生できるROMデータを、手間ひま掛けてカートリッジにしてご用意して下さったんです。
――実機で流れるROMまで用意するとは! さすがのこだわりですね。
奥成氏:ゲームギアミクロと言えば、シャレで「UFOキャッチャー DX」と同じ曲(※「グリーンスリーブス」)を入れたら、「それも収録させてほしい」とまさかのリクエストがモバ伊藤からありまして。この曲は「UFOキャッチャー DX」として収録しました。実はUFOキャッチャーのサントラCD化も10年以上前に検討したことがあったんですが、あの筐体から録音するのはメチャクチャ大変なので諦めたんです。
今回のところはゲームギアミクロ版ですが、曲としては同じものになっているはずなので、ご勘弁くださいということで。一応「UFOキャッチャー DX」とマスターシステムは音源が同じなので、この曲はマスターシステムを使って録音しています。
伊藤氏:Hiro師匠の曲と言えば、今回「DARTSLIVE(ダーツライブ)」の起動音も収録しましたよね!
奥成氏:「DARTSLIVE」もHiro師匠の作曲だったことを、私も今回初めて知りました。
Hiro師匠:まあ知らないでしょうね、あれは自分の趣味で作った曲なので。ほかにもジョイポリスの「レールチェイス・ザ・ライド 英雄復活編(組曲)」曲も入れました。この曲は、以前に出した「レールチェイス」のアルバムでも収録したので、ほかのジョイポリスのアトラクション曲も入れられたらとは思っていたのですが、探す時間と手間が足りずに実現できませんでした。
奥成氏:「レールチェイス・ザ・ライド」も過去に音源化されていたんですね。10年前にCD作るの協力したのに忘れていました……。
Hiro師匠:あのCDは、⾃分的には「ライド」がメインのアルバムだったんだよね。
奥成氏:ナルホド。それで今回CD聴いて、今でも曲をよく覚えているなあと思ったんだ! あのアルバムはすごくマニアックでしたよね(笑)。
マスターアップ直前まで、スタッフ間で熱い議論を展開
――最終的に、108曲のリストが決まったのはいつ頃でしたか?
Hiro師匠:ちょうど1カ月ぐらい前だったと思います。(※筆者注:本インタビューの収録は3月2日に実施)
伊藤氏:もう本当に、ギリギリのタイミングでしたよね。曲数が止めどなく増えたわけではないのですが、何かしらのマイルストーンを置きたいと思っていて、煩悩の数だけ悩みに悩んだ末に選んだ108曲のリストをHiro師匠にお見せして「これで勘弁して下さい」とお願いしたところ、「ヨシ、これでいい」とご了解をいただきました。
奥成氏:2月に入ってからも、土壇場で曲が変わったことがありましたよね。
Hiro師匠:確か、マスタリングの前日に1曲入れ替えたのかな?
伊藤氏:ええ。諸般の事情で1曲だけ差し替えましたね。
奥成氏:今回のアルバムを作っていて、曲自体の充実感がいろいろあったと言いますか、例えばドリカムの中村正人さん楽曲や古代(祐三氏)さん作曲の曲なんかもそうなんですが、「この曲は、ライセンスの部分があるから外そうよ……」みたいなコスト面での妥協がなく、歴史の重要度から選んで収録できたことも良かったなあと思いますね。
――本アルバムを最初に告知したときの、ファンの皆さんの反応はいかがでしたか?
伊藤氏:好意的なコメントが多くて、とても救われました。あとはセールスにつながれば、我々としてもたいへんありがたいですね。
――アルバムは期間、あるいは数量限定での発売になるのでしょうか?
伊藤氏:このアルバムは継続販売商品となりますので、そこはご安心ください。
奥成氏:このアルバムをお買い求めになる、古い時代からのセガファンの方であれば、おそらく「セガコン」も持っていると思うんですよ。「セガコン」は人気投票をしたうえで収録した曲を、CD3枚組で2種類発売されたのですが、正直なところ私が「GO SEGA」のアルバムの話をモバ伊藤から最初に聞いたときは、「今でもアマゾンとかで、『セガコン』がまだ買えるんだけど︖」と思ってピンと来なかったんです。
ですが、実際に今回モバ伊藤セレクトでアルバムを作ってみると、20年前にリリースされた「セガコン」とは収録も時代の範囲もかなり変わっていますし、風変わりな曲もいろいろと⼊っていますので、こだわりが出て面白いなあと。また今回のアルバムもウェーブマスターらしく、新録の曲は特に高音質で収録してありますので、過去の他社から出たアルバムよりもずっと良い音でお楽しみいただけます。ですから、同じ曲でも「セガコン」時代までのものとは全然違って聴こえる曲もあるのではないかと思います。
伊藤氏:今、私セレクトというお話がありましたが、念のために補足しておきますと、私だけで収録曲を全部決めたわけではありません。実は選曲に関しては、セガの楽曲ライセンス部が運営しているセガ・サウンド・ターミナルの公式ツイッター(@SST_V)で、「もしあなたが『セガ楽曲ベストアルバム』を作るとしたら、どんなセガ曲を入れますか?」というツイートをしたときのデータや、セガ設立60周年記念無観客ライブ「SEGA 60th ANNIVERSARY LIVE」での演目も参考にしました。それから、セガの各サウンドセクションの上長(※高木保浩氏、冨田晴義氏、幡谷尚史氏)らにもちゃんとお伺いを立てつつ、まとめたこともお伝えしておきます。
Hiro師匠:もし「あの曲が入っていないじゃないか!」と思われた方は、全部モバ伊藤のほうに言って下さいね(笑)。
奥成氏:私も108曲が決まったと聞いてからも、「この曲よりも、こっちでしょう」と言ったものもあったのですが「もうキリがないので勘弁してください」と言われてしまいました。
伊藤氏:そこはもう、私が矢面に立つしかないですよね……。皆さんが100パーセントご満足いただけるものを作ろうと思ったら、セガ歴代の全曲を収録しないといけないと思いますし、正直そんなアルバムを作るのは難しいですね……。
Hiro師匠:セガ100周年記念のときはできるんじゃないの?
伊藤氏:その頃には私もあの世ですよ! あとは次の世代に任せます。
(一同爆笑)
――「GO SEGA - 60th ANNIVERSARY Album -」の発売を記念して、今後は何かイベントを実施する予定はありますか? ファンとしては、収録曲を演奏するS.S.T.BANDの復活ライブなどがあればとてもうれしいのですが……。
Hiro師匠:それはないです。
西村氏:師匠、そんなバッサリと切り捨てなくても……。
Hiro師匠:じゃあ、ライブは99パーセントやらないです(笑)。
伊藤氏:ブックレットで、ケンサク君が「しばらくの間、[H.](※8)のライブをやっていませんので、久々にライブをやってみてはいかがでしょうか?」と書いていましたし、ファンからもご要望のコメントもありましたので、ぜひ検討して下さい。
※8……[H.](エイチ):2011年にセガのサウンドコンポーザーが結成したユニット。Hiro師匠、光吉猛修氏、福山光晴氏、庄司英徳氏、甲斐孝博氏などが参加している。
Hiro師匠:[H.]に関しては、一時期セガの開発部が分社化したときに、サウンドのスタッフも会社が分かれたのでしばらくできなかったんです。今は同じセガに戻ったので、できる可能性はゼロではないですね。ケンサク君も、今はセガの人間だよね?
西村氏:はい、そうです。本当なら、60周年記念イベントとしてライブをやりたかたったんですけどね。
Hiro師匠:1回だけ、無観客ライブはやりましたけどね。
奥成氏:今後Hiro師匠はユーチューバーとしても活躍されるのかなども含め、ぜひ期待したいですね。
Hiro師匠:今は個人作品の発表ができるようになったから、前から個人活動はやってるけどね。
――楽しいお話が尽きませんが、そろそろお時間が迫ってきたようです。最後におひとりずつ、GAME Watch読者にメッセージをお願いいたします。
伊藤氏:本アルバムは、セガの社名の由来でもある「Service Games」を背負って来たタイトル群の音楽商品です。「Amazing SEGA ~新コーポレート・アイデンティティ~」から始まり、セガのアミューズメント施設系イメージソング「また、ここで逢いたい...」で大団円を迎えるCD4枚組108トラックを、最初から最後まで聴いていただき、我々セガグループの熱き想いを感じていただけたらうれしいです。セガ社歌「若い力」も入っていますので、ぜひ皆様も斉唱下さい(笑)。
奥成氏:アルバムを通じて、音で綴ったセガの歴史をぜひ味わってください!
西村氏:私もファンの皆さんと同じ気持ちで、発売を楽しみにしています。先程もお話しましたが、実施できなかった60周年の企画がいろいろありましたが、セガ60年の歴史を振り返るためには音楽は絶対に外せないと思っていましたので、こうしてアルバムの発売決まって本当に良かったですね。全曲を聴いていただき、セガの歴史を感じていただけたらうれしいです。
Hiro師匠:セガ60年の歴史が詰まった、このアルバムを買わないと後で絶対に後悔すると思いますよ。だから、まずはみんなでアルバムを買おう!
――ありがとうございました。
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