インタビュー

SEGA60周年記念CD「GO SEGA」&「DJ Mix」制作スタッフインタビュー

「SEGA 60th Anniversary Official Bootleg DJ Mix」インタビュー

 本アルバムのプロデューサー/DJを務めた、「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」シリーズのサウンドディレクターとしても有名なセガの大谷智哉氏と、本アルバムのスーパーバイザーで、「スペースチャンネル5」シリーズや「きみのためなら死ねる」などの曲を手掛けた、同じくセガの幡谷尚史氏に直撃取材を敢行。「DJ Mix」ならではの面白さや聴きどころをタップリとお聞きした。

【インタビュイーの皆さん】
セガの大谷智哉氏
セガの幡谷尚史氏
「SEGA 60th Anniversary Official Bootleg DJ Mix」ジャケット
ライナーノーツ
ジャケット裏面

歴代のセガ音楽を把握するため「DJ Mix」制作チームを結成

――本日はよろしくお願いいたします。早速ですが「SEGA 60th Anniversary Official Bootleg DJ Mix」をなぜ制作、発売しようと思ったのか、そのきっかけから教えていただけますか?

大谷氏:私は2018年頃から「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」シリーズの曲だけを使ったDJプレイを、「セガフェス」のイベントや、ソニックの誕生日に合わせてYouTubeでプレミア公開などをしていまして、昨年には「Sonic The Hedgehog DJ Style "PARTY"」というアルバムを出しました。このアルバムを幡谷さんに聴いてもらったところ、「『ソニック』もいいけど、セガの曲をいろいろ使ったこういうアルバムを作ってほしいなあ」と意見をもらったんです。私としては、作るのは⼀筋縄ではいかないなと思いつつも、もし作れたら面白いものになりそうだなと思ったのがきっかけでした。

幡谷氏:私のほうからは、アルバムの内容に関して口出しはほとんどしていませんが、「サウンドの人間として、60周年のプロジェクトに対して何かやらねば」という使命感を果たしたい思いはずっと持っていました。我々は今までに2次的、3次的なサウンドトラックの先の展開を、特に「ソニック」シリーズではマメに作り続けてきたのですが、過去に大谷が出したようなアルバムを、ぜひ60周年でも作ってほしいなあと。実は、メガドライブミニのときにも、「DJMix」のような企画をやってほしいと思っていたんですけどね。

 例えばコンピレーションアルバムみたいに、名曲をいろいろ集めるだけでも価値が出ますから、おそらく60周年の最後を飾る「セガコン」(※1)的なベスト盤は出すだろうなと。じゃあ、我々のほうではその次の、最後の最後に位置するような、単なるセレクト集だけではない喜びや価値があるものを出せたらと考えていました。大谷は以前からDJをずっとやっていて、選曲するセンスを元々備えていますから、大谷ならではのセンスと切り口を生かしたものを期待していました。

 私からは、そのきっかけとなる声掛けをしただけで、実際の制作は大谷を中心に進めていました。ですから、今回のアルバムではスーパーバイザーと言うよりは、「身近にいたお客さん」と言ったほうが正しいかもしれません。

※1……「セガコン」:2001年にソニーミュージックエンタテインメントから発売された「セガコン-THE BEST OF SEGA GAME MUSIC- VOL.1」および「VOL.2」のこと。どちらもCD3枚組で、ファン投票によって選ばれた上位100曲を収録した。

――「GO SEGA - 60th ANNIVERSARY Album -」のスタッフにもお話を伺ったのですが、「DJ Mix」の企画のほうが「GO SEGA」よりも先に動いていたそうですね。

幡谷氏:はい。「GO SEGA」のようなアルバムが出る前提で「DJ Mix」の企画を進めていました。「セガコン」は長く売れた商品でもありましたので、60周年記念の「GO SEGA」も絶対に企画されるだろうと。僕らはその「GO SEGA」の次の物を何か出そう、助太刀をしたいなと思っていました。

大谷氏:「ソニック」シリーズの曲であれば、私が担当していないものも含めて、私のほうでデータや権利関係などもある程度把握はしていますので、DJ Mixやコンピレーションアルバムも作りやすい土台はできているのですが、セガ全体でのアルバムとなると、その量があまりにも膨大で、当然、私が知らない曲もいろいろあるので、1⼈で制作進行を切り盛りするのは容易ではないと思いました。

 そこで、「あの曲を入れたい」と思ったときに、すぐにデータや許諾が取れる体制を作ることが先決と考え、まずはチームを作ることにしました。発売元のレーベルでもあるウェーブマスターのA&R担当者と、セガの楽曲ライセンス担当と私の3人、それから幡谷さんにも加わってもらって、私が「この曲を入れたい」「あの曲の許諾を取りたい」と言ったときに、すぐに動ける体制作りから始めました。

――アルバムの制作がスタートしたのは、いつ頃からですか?

大谷氏:去年、東京ゲームショウ2020オンラインのステージイベント(※2)で、私がDJライブをやったのですが、その頃からこのプロジェクトは動いていまして、曲のセレクトもかなり進めていました。「イベントの最後で、何かやってくれませんか︖」と言われたのがきっかけでDJをやったのですが、まさに制作の真っ最中だったセガ曲セットの「DJ Mix」を、ライブの尺と照らし合わせながら、その⼀部をお披露目させていただきました。 本当は、そのDJライブの後に私がアルバムの告知をする予定だったんですよ。ところが、当日の生放送プログラムが押し気味だったので、急遽MC枠がカットされ告知できなかったんです。TGSでは言えなかったので、年明け早々に仕切り直し、今年の1月に最初の情報を出しました。

※2……ステージイベント:セガブースの「セガアトラスTV」で、大谷氏にが披露したDJイベントのこと。現在でも視聴可能。

【SEGA 60th DJ LIVE【TGS 2020オンライン】セガアトラスTV 9/27放送アーカイブ】

――最初にリリースをしたときの、セガファン反応はいかがでしたか?

大谷氏:第1報のときは、まだ曲目を公表していなかったので皆さんに詳しい内容までは伝わっていなかったわけですが、2月25日に全曲のリストとオープニングトラックに映像を付けたもの(※3)を公開した際には、さまざまな反応がありましたね。

幡谷氏:収録タイトルごとのファンが反応して、ネット上によく書き込んでる印象を受けましたね。「『switch』があるぞ」とか、「『エターナルアルカディア』のことを忘れていなかったんだ!」とか。熱心なファンの方が気付いてくれてるるんだなあと。

大谷氏:音源をまだ公開していない段階でしたから、皆さんそれぞれの推しの作品や曲があるかどうかという着眼点での反応でしたよね。私としては、早く皆さんに聴いていただきたいなと思っております。

※3……「映像をつけたもの」:公式サイトで公開された、動画を添えた本アルバムのオープニングトラックを指す。

全60トラック選曲の真相 「Opening」曲や版権曲の許諾にもハンパないこだわりが!

――「DJ Mix」の制作にあたり、どうやって収録する60トラックをリストアップしたのか教えていただけますか?

大谷氏:60周年記念にふさわしいDJ Mixとしての選曲をしようと考えました。有名かマイナーかは無関係で、単純に曲としてキャッチーなポイントがあるのか、あるいはインパクトがあるかどうかで選んでいきました。「DJ Mix」の中で映えるかどうかが曲選びのポイントですね。

 「DJ Mix」とひとことに言っても、いろいろなスタイルがあります。セガの膨大な曲をひとつのミックススタイルに、例えばテクノミックスとかに限定するのはとうてい不可能ですから、必然的にオールジャンルミックスになります。私自身は、オールジャンルミックスが最も好きなDJのスタイルなのです。わかりやすい例で言うと、テクノからロックへ、ヒップホップからボサノバへなど全然違うジャンルに繋ぐことで驚きを仕込みやすく、飽きのこない流れを作れるんです。

――選ばれた60トラックのなかには、「スペースチャンネル5」や「赤ちゃんはどこからくるの?」など幡谷さんが作曲されたものがいくつか入っていますが、これらの曲はお互いに仕事がしやすいという理由で選んだのでしょうか?

大谷氏:選曲に忖度は一切なく、単純に面白いかどうかで選んでいった結果、自然とこうなったというだけですね。

幡谷氏:大谷と私とは、以前から「スペースチャンネル5」や「ROOMMANIA#203」など、ずっと近い距離でいっしょに作っていましたし、お互いのことを詳しく知っていて接点が多いのは確かですが、それだけではない広がりがちゃんとあって、大谷が知っている範囲のなかから組み立てやすい曲を、きちんと探して選んであると思います。

大谷氏:「DJ Mix」として作るのに、DJの好みではない曲が収録されていたら、それはちょっと違うじゃないですか?

幡谷氏:ええ。「DJ Mix」としてやる以上、それはやってはいけないことですよね。

大谷氏:DJがかけたい曲をかけるのが基本ですから、そのあたりは制作メンバーもみな理解してくれていて、選曲に対しての注文が一切なかったのがありがたかったです。

――ボーカルが入った曲がとても多い印象を受けましたが、大谷さんがボーカル曲を意図的に選んだのでしょうか?

大谷氏:意図的にボーカル曲を増やそうとはしていませんが、確かに多いかもしれませんね。その中で、例えば「龍が如く」シリーズでは、たくさんある歌もののなかから、「龍が如く3」の「Fly」や「龍が如く0」の「One-Eyed Dancer」など、インストのバトル曲を散りばめることで流れにメリハリを作ったり、工夫をしているんです。

――最初に流れる「Opening」はどうやって作曲したのでしょうか?

大谷氏:作曲ではなく、素材を集めてリミックスしたものですね。おもむろに曲が始まるのではなくて、最初は景気のいい、ファンファーレ的な始まり方にしたいと思っていました。本編ではノレる、盛り上がる曲を前提で選んでいるのですが、そうすると、良い曲ではあるけれどもDJセットには不向きということで外れる曲が出てきてしまうんです。

 「社歌」のオリジナルや、「エターナルアルカディア」のオープニングテーマは本編には入れられませんでしたが、「始まるぞ感」が強い曲なので、イントロのみを抽出して切り貼りし、さらにセガの印象的なボイスも散りばめてリミックスしていきました。

――ナルホド。「始まるぞ感」がキーワードだったんですね。

大谷氏:今回のアルバムでは、藤岡真威人さんのボイスも使わせていただけることになったのですが、「DJ Mix」のどこに入れたらよいものか、ずっと考えました。途中でいきなり「セガだよ!」って言われても、それはそれで面白いかもしれませんが、そのような単発の素材は「Opening」に凝縮しようと思い付きました。

 ほかにも、「セ~ガ~」の有名なアイキャッチですとか、「あかどこ&きみしねライブ」の光吉さんMCボイスや、「バーチャファイター」のアキラの「10年早いんだよ!」のセリフとか、それから個人的にも大好きな「スペースチャンネル5 パート2」のうららの「さあみんな!銀河の果てまで、ウキウキ大行進よ!」のボイスもゲームではエンディングの場面で使われている曲ですが、「始まるぞ感」にはぴったりということでミックスしました。

 と、ここまでは順調だったのですが、最後のところは「それじゃあいきますよ~!」の光吉さんのボイスの後に「ワン、ツー、スリー、フォー」とセガの有名キャラクターのボイスを使ったカウントを入れることを考えていました。幡谷さんが「ROOMMANIA#203」よりネジタイヘイが「ワン、ツー、スリー。フォー」と言っているボイスを発掘してくれていたのですが、この大役がネジで良いのかという問題がありました(笑)、というのは冗談でテンポが合いませんでした。「ソニック」のボイスの中から探したのですが、あらかじめテンポが決まっていることもあって、合う素材がなかなか見付かりませんでした。

 私としては、過去の素材を再構築したうえで新しいものが生まれているアルバムにしたかったので、新録はなしで考えていました。「ソニック」シリーズでも、「チームソニックレーシング」や、「ソニック&オールスターレーシング トランスフォームド」などのレースゲームだったらカウントボイスがあるかも、という話になり、実際レース開始時のアナウンスボイスはあったのですが、キャラクターのボイスではありませんでした。そこから話が発展し、あるときに「セガのレースゲームと言えば︖」と雑談をしていたら、「メジャーなのは、やっぱり『アウトラン』でしょう」という話題になったんです。

 その時点で「ソニック」のボイスから離れまして、「アウトラン」の「Get Ready」のボイスから始まる一連の効果音を入れることにしました。「アウトラン」は、スタートする前にプレーヤーが好きな曲を選べるようになっていますから、このアルバムのスタートとしても丁度いいなと思いましたね。設定的にもピッタリなので、「これだ!」と(笑)。

――「Opening」は尺こそ短いですが、そこまでこだわってリミックスされていたんですね。驚きました……。

大谷氏:さらには、「アウトラン」の効果音の裏で、実は「リズム怪盗R 皇帝ナポレオンの遺産」の「SHOW TIME」という曲が、流れているんです。先日公開した「Opening」の曲を聴いて、「SHOW TIME」に気付いたファンの方もいらっしゃいましたね。「SHOW TIME」も、オープニングらしい曲を探していたときに思いついたもので、曲名的にも、「これからショーが始まるよ!」という意味でもすごくいいなあと思っていましたが、これもまた「DJ Mix」のパズルにはうまくはめ込むことができなかったんです。

 ですが、「アウトラン」の効果音が決まったところで、試しに「SHOW TIME」のイントロをはめ込んでみたらピタリとハマりました。よくそこにハメてみようと思ったなと我ながら思うのですが(笑)。

 先日公開した映像付きの「Opening」は、広報担当者から告知の際に映像を付けたらどうでしょう?と提案を受けたのがきっかけで、ソニックチャンネルのVJ担当といっしょに作りました。CDの宣伝用にPV的な映像を作る予定はなかったのですが、いざ作ってみたらとても本作のユニークさが表現された面白いものになりました。

――収録曲のなかには、版権曲もいくつか入っていますよね? 制作チームを立ち上げたうえで企画を始めたとのお話がありましたが、許諾を得るに当たって何かご苦労などはありませんでしたか?

大谷氏:「サンバ DE アミーゴ」の曲、「Samba De Amigo(Samba De Janeiro 2000)」の許諾を取るのは大変でしたね。この曲はBelliniの90年代の大ヒット曲「Samba De Janeiro」のライセンスを受けて、本作用のバージョンをわざわざ作っていただいたもので、ほぼほぼゲームのテーマ曲みたいな位置付けなんです。今回は「DJ Mix」アルバムなので、この曲はどうしても⼊れたいと思っていました。

  ーティストの方はドイツ在住なので、許諾を取るためには現地で確認を取らなければいけなかったのですが、連絡先が住所しかわからず、電話番号やメールアドレスもわかりませんでした。ウェーブマスターの担当が、「手紙を出すしかないな」ということで、「曲を使わせていただけませんか?」と手紙に書いて送ることにしました。

 ところが、後でトラッキングを見たら、手紙が現地に届いておらず、日本に返って来ちゃったんです。そのときは、ドイツ国内がロックダウンの真っ最中だったので、もしかしたら郵便システムそのものが機能していなかったか、もしくはすでに移転していたから届かなかったのか……。いずれにせよ、「これはもう無理じゃん……」と、みんな諦めムードになってしまいました。でも、私はどうしても諦め切れなかったんです。

 で、あるとき瀬上さん(※「ソニック」シリーズサウンドディレクターの瀬上 純氏)と別件のビデオ会議で雑談をした際に、このプロジェクトのことを話したら、ネットでBellinのプロデューサーの経歴を調べてくれて、別名義で活動しているらしいとの情報を見付けてくれたんです。しかも、それが超有名なテクノアーティストだったので驚きました。いただいた情報を元に私がフェイスブックで検索をしたら、お名前が見付かったんです。タイムラインを覗いて見たら、最近もひんぱんに投稿していたので、もしかしたらコンタクトが取れるのではないかと思いました。

 そこで、ウェーブマスターの担当にフェイスブックのメッセンジャーで打診してもらったところ、ようやくプロデューサーご本人と連絡が取れて、許諾を得ることができたんです。

――そんな裏話があったんですか……。無事に許諾がいただけて本当に良かったですね。

幡谷氏:私もこの話を聞いたときは感動しました。「Samba De Amigo(Samba De Janeiro 2000)」は、アルバムのちょうど中間の辺りに入っているのですが、この直前の「ナニガデルカナ 神のみぞ知る歌~言霊祭ver.~」の曲からつながる流れがすごく良くて、ウワーッと盛り上がるんですよ。

大谷氏:そうなんです。せっかく苦労して許諾をいただいた以上、本来は尺の関係で1トラックあたり1分程度の制約があったのですが、この曲は少し長めに入れました。直前の「ナニガデルカナ」と「Popcorn」のマッシュアップの流れから含めて、楽しんでいただけたらうれしいです。

幡谷氏:もし本当のクラブで流したら、みんなが一斉にワ~ッと盛り上がるところですからね。

曲と曲の間の「つなぎ」にも、DJとしてのこだわりが満載

――60トラックもの曲を、どうやって「DJ Mix」というひとつの作品になるようにつないだのでしょうか? 尺もCD1枚分に録音できる目一杯の時間を使っていますし、ものすごく大変だったのではないかと思いますが?

大谷氏:まず大前提として、CDを複数枚ではなく1枚で、60トラックをまとめたパッケージにすることを先に決めました。それから、自分で入れたいなと思った曲をかき集めたのですが、最初は音源を⼀切触らずに、曲のリストをエクセルの表にズラッと書き出して、「これとこれはつながるな」とか、「こことここは別の流れだな」とか、エクセル上でセルをパズルのように動かしながら選曲を組み立て、並行して許諾の取得を進めてもらいながら、最終的なミックスのシミュレーションをしていきました。

 基本的には、曲のテンポやノリ、キーなどの音楽的な条件でつなぎながら、「この5、6曲でひとつのヤマになるかな?」と、緩急のポイントをいくつか作れるように曲目のテキストを見ながら組み立てていきました。そうやって絞り込んでいきながらも、単に音楽的なことだけでなくキーワード的なもの、つまり歌詞の意味ですとか、エピソードなどの二次的条件みたいなものも含めてつなぐようにしました。

幡谷氏:最初の「Opening」から、次の「ジャガジョゴ(ヴォーカルヴァージョン)」につながる流れだけでも、これがまた実に面白いんですよ。

――どんな意図があったのでしょうか?

大谷氏:「みんな笑え、みんな歌え、みんな騒げ」とか、「夢を見る子どもたち、大人になってもラララ……」という歌詞があるので象徴的と言いますか、セガはゲームやエンターテインメントを作っている会社ですし、子どもの頃に夢を見た人が、やがて大きくなってセガの開発者になったりもしていますので、歌詞的にもいいなと思ったからです。

幡谷氏:「ジャガジョゴ」は、まさに埋もれた名曲だと思います。歌は谷啓さん、ゲームをプロデュースした喰始さんが作詞を担当した曲で、もし1990年代にゲームがブレイクしていたら歴史に残る1曲になっていたのではないでしょうか。しかも、今回収録した「ヴォーカルヴァージョン」のほうが、ゲームのOPで使われたバージョンよりもレアな音源なんですよ。

大谷氏:PS2に移植版を出したときに、ポカスカジャンがカバーしたんですよね。この曲も、途中に入れようとするとうまくハマらなかったので、最初のほうに持ってくるしかないだろうと思って選びました。

幡谷氏:「ジャガジョゴ」はほとんどの方が知らないかもしれませんが、何回か聴いているうちにきっと好きになる曲だと思いますよ。

――ほかにも工夫したところを教えていただけますか?

大谷氏:「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」の「まちでうわさの…」から、「ペルソナ5」の「Tokyo Daylight」につながるところも、歌詞でつないだ例のひとつです。これらの曲はテンポ的にもつながるだけなく、「まちでうわさの…」のラップで「渋谷のパルコが待っている~」という歌詞が出た後に、「ペルソナ5」で渋谷のマップでも流れる「Tokyo Daylight」へとつながるんですよ。面白いでしょ?

幡谷氏:ビジュアルを思い浮かべても、曲がちゃんとつながるのは面白いですよね。

大谷氏:ええ。こんな形で条件がそろったら、「これは音楽的にも意味的にもオイシイので決定!」と考えながら作っていきました。

――歌詞とビジュアルでもつながるんですね。面白いです!

大谷氏:ほかにも、セガの曲と言いながら「これってセガの曲なの?」と皆さんが思ってしまうような曲も入っているかと思います。今、お話した「ペルソナ5」もそうですし、グループ会社であるサミーのパチスロの曲も入っていますからね。グループ会社、関連会社との関係もセガの60周年の歩みを語る上で外すことはできませんし、そこに名曲があるならなおさらです。

 パチスロの曲もぜひ入れたいなとは思いつつも、私自身がパチスロに詳しくなかったので、サミータイトルの楽曲をいろいろと聴き続けた結果、「パチスロ 闘え︕サラリーマン」、「Craze for You」のディスコ感がいいなと思って選びました。「Craze for You」の前には、光吉さんが歌う「電脳戦機バーチャロン フォース」の「Conquista Ciela」が、テンポ的にも近いので入れたのですが、光吉さんと言えば「日本一歌がうまいサラリーマン」ということで、実はサラリーマンつながりでもあるんです(笑)。

――ナルホド。一見すると関係なさそうに思える曲同士でも、何かしらのつながりがあるんですね。

大谷氏:もうひとつ例を挙げましょうか。アルバムの尺の関係で、だいたいどの曲も1コーラスまでしか⼊れられないのですが、社歌である「セガ・ハード・ガールズ」版の「若い力 -SEGA HARD GIRLS MIX-」だけは、間奏部分にセガの歴代ハードが出てくる長尺のラップパートがあるので、これはカットできないと思いました。

 「若い力」の次は、曲のテンポが比較的近く、転調後のキーが同じという理由で、「新サクラ大戦」の「新たなる」につないだのですが、「新たなるユメ~」という歌詞が出てくることに気が付いたんです。「若い力」のラップの最後は「ユメをつないでドリームキャスト~」と言う歌詞があるんですよ。ドリームキャストでも発売されたいた「サクラ大戦」シリーズが、夢をつないできた結果、2020年に「新サクラ大戦」が発売されたわけですから、この「ユメ」つなぎは実にいいなあと。初めて気付いたときには、これサイコ~じゃない?と思いましたね(笑)。
幡谷氏:この辺りの経緯はライナーノーツにも書いてありますので、ぜひご覧になっていただければと思います。

――最後の曲は、「赤ちゃんはどこからくるの?」の「あかどこスタッフロール」で、忖度はないとのお話でしたが奇しくも幡谷さんの曲で締める構成になりましたね。

大谷氏:同じく幡谷さん作曲の「スペースチャンネル5 パート2」の「THIS IS MY HAPPINESS」(※57トラック)のところで終わっても、ほぼほぼよかったんですよね、元々エンディングの曲ですから。その後にもう1回、アニメ版「甲虫王者ムシキング~森の民の伝説~」のエンディング曲、「HIKARUステージ」につながるくどさも、セガっぽくていいなと思いましたので、ここはあえてくどくしました(笑)。

 「HIKARUステージ」が終わったところで、今度は光吉さんの歌う「デイトナUSA, From Loud 2 Low SUN」の「Let's Go Away ~Piano Ver.~」が割り込んできます。セガの音楽と言えば、「デイトナUSA」のあのフレーズをイメージする世代の方も多いのではないかと思いますし、ある種アイコンみたいなフレーズですからね。「最後はオレに締めくくらせてくれ!」と言いながら割り込んで来たようなイメージです。その後、いろいろおふざけもしたけども、最後は「テヘペロ……」みたいな、鼻歌でも歌ってお茶を濁そうと思いましたので、それに相応しい「あかどこ」の曲につなぎました。実は、この鼻歌ボイスには私の声もかなり割合で入っているため、選ばせていただきました。

 DJをやるときは、自分の枠内で盛り上げ切ってから終わるか、あるいは次のDJにバトンタッチするのが普通なので、エンディングは作らないと思いますが、今回はアルバムなので、後味がいい塩梅に、こんな感じで締めちゃってもいいのかなあと思って作りました。

幡谷氏:もしかしたら、「デイトナUSA」のところで、「ああ、終わったな……」と思って止めちゃう人がいるかもしれませんけど。そういう微妙な間があるところもまた面白いんですよ。まさに2段オチみたいな形で。

大谷氏:本当は、「新たなる」の辺りで終わってもいいぐらいなんですけど。

幡谷氏:そこはもう茶目っ気ですよね。

ジャケット、ライナーノーツデザイン秘話:あの「謎のオジサン」の正体とは?

――先程、ライナーノーツのお話がありましたが、各収録曲の解説は大谷さんが書かれたのでしょうか?

大谷氏:はい。全曲の解説と、選曲の理由やポイントを書かせていただきました。各曲のクレジットももちろん載っていますよ。

――ジャケットのデザインは、今までのセガ関連のアルバムとはまったく違う印象を受けたのですが、これはどなたが作ったのでしょうか?

大谷氏:「ソニック」シリーズのサウンドトラックなどで、毎回いっしょに作っていただいているデザイナーさんにお願いしました。このアルバムは、最初に「Bootleg Mix」という仮タイトルを決めたのですが、その理由は「オフィシャルのベスト盤とは、ちょっと外れたことをやりますよ」ということを、タイトルの中でハッキリと言っておきたかったからです。

 皆さんが期待されるベクトルと違ってはいけませんので、タイトルからも、ビジュアルのイメージからも、これは「セガコン」でも「GO SEGA」でもない、正当なセガの歴史を順番にたどるベスト盤とは違うアルバムであることを、一目瞭然でわかっていただけるようにしたかったんですね。

 そんなテーマがありましたので、ジャケットはセガが60歳になったということで、紳士のオジサンがDJをしているデザインに、ちょっとイタズラ好きの60歳のDJオジサンというイメージにしました。さらに、60年の歴史を紡ぐということで蓄音機も描いてあります。

幡谷氏:このデザインも、まさに茶目っ気ですよね(笑)。

――60歳のDJオジサンのイメージとは、これまた面白いお話ですね。

大谷氏:さらに、ジャケットは紙ジャケです。レコードジャケットの仕様のCDサイズ版という感じです。実物を見るとよくわかるのですが、着色料をふんだんに使用した外国のお菓子みたいな色使いで、発色がすごいんですよ!

 それから収録曲のリストは、70年代のパンクのデザインといいますか、雑誌の切り抜きをペタペタ貼って作ったようなデザインのフライヤーってあるじゃないですか? 今回は「Bootleg」というコンセプトなので、そんなイメージのデザインにしてあります。しかも、タイトルごとに違うフォントにしています。

幡谷氏:実はですね、フォントはタイトルのイメージに合わせて選んでいるんですよ。

――エッ、本当ですか!?

大谷氏:本当です。デザイナーさんは、すべての曲やタイトルを知っているわけではありませんので、私が曲ごとに「レトロ」とか「ポップ、カワイイ系」、「テクノ系」とかキーワードを用意して、それを見ながら作っていただきました。

――細かいところまでこだわってデザインされたんですね、いやあ驚きました……。

大谷氏:「Boot盤だから、別にチープにしてもいいんじゃない︖」という意見も出たのですが、60周年記念として作る以上、さすがにチープだとまずいでしょうと。「盤面はCD-Rに手書き風のデザインでもいいんじゃない、勝手に作って配布しているようなのでいいじゃん」て、いやいやコンセプトが伝わりにくいでしょうと(笑)。デザインの落としどころを決めるのは、なかなか難しかったですね……。

幡谷氏:曲名とかIPとか、伝えなくてはいけない最低限の必須情報がありますしね。そして「GO SEGA」と発売が近いこともあり、差別化も重要でした。正統的なベスト盤である「GO SEGA」のあとに、お遊び感覚満載の「DJ MIX」を出すことで、ここから新たな発掘や発見があり、今後に発展していきたいという思いもあり、ジャケットはすごくわかりやすくてオシャレなデザインで差別化することができたと思います。

【ジャケット、ライナーノーツのデザインにも注目!】
ジャケットは何と紙ジャケ!(※帯付きで撮影)
ジャケットの裏面
CDはレコードをほうふつとさせる、ビニール製内袋に入っている
ライナーノーツを取り出したところ
ライナーノーツの裏面
ライナーノーツを広げるとトラックリストが読める
同じく、ライナーノーツを広げて裏返したところ

将来の展望:「DJ Mix」のイベント、アルバムのシリーズ化は実現するのか!?

――今後の活動予定についてお尋ねします。大谷さん、または幡谷さんが、昨年の東京ゲームショウのステージと同様に、本アルバムの収録トラックを使ったDJイベントをやりたいという思いはありますか?

大谷氏:もちろんあります。アルバムのプロモーションにもなりますし、入れたくても入れられなかった曲もありますので、アルバムとはまた違ったセットでDJができたらいいなあと。もし声が掛かれば、いつでも出たい思いはあります。

――次回はセガ65周年、その次は70周年のタイミングで、「DJ Mix」を新たに作ってシリーズ化しても面白そうですよね。

大谷氏:60周年の後押しがあったからこそ、これだけ手間の掛かったアルバムを出すことができたわけですが、もしみんなが「ぜひやろう」と賛成してくれればシリーズ化できると思います。

 セガの音楽は、内部のコンポーザーが作った名曲がたくさんあります。加えて、外部のアーティストやシンガーとのコラボレーションも古くから積極的にやってきた歴史がありますので、それらも外すわけにはいきません。さらに、外部のアーティスト目線で作られた、タイアップ的な曲も入れたいと考えました。収録するためには、当然ですが許諾をいただく必要がありますから、いろいろな方に1軒ずつ問い合わせをするなど、たくさんの手数を踏んだからこそ、このアルバムの選曲が作れたんです。

 例えば、以前に光吉さん本人とも話したことがあるのですが、「光吉猛修ノンストップMix」みたいなアルバムができたら面白いですよね。もし作ったらどれだけ濃厚なアルバムになるのかなあと。ノンストップMixを作るまでもなく、光吉さんは誰にも止められないと思いますが(笑)。ほかにも、まだまだいっぱいテーマが作れると思いますよ。

――それでは最後に、GAME Watch読者の皆さんに向けて、おひとりずつメッセージをお願いします。

大谷氏:昨年からセガ設立60周年ということで、改めて「セガを知ろう」というキャンペーンが展開されていたわけですが、サウンド担当としてはセガのゲーム音楽を知ってほしいという思いがありました。ただ、そうは言っても膨大な楽曲がありますので、知らないタイトルのサントラをいきなり買っていただくのはなかなかにハードルが高いと思います。そう考えると、いろいろな曲のオイシイとこ取りをした「DJ Mix」であれば、セガの音楽を気軽に知っていただくのに丁度良いフォーマットだと思います。

 このアルバムを入り口として、今まで知らなかった別なタイトルの曲も聴いていただけたらうれしいですね。今まではレトロ系タイトルの曲は好きだったけど、最近のタイトルの曲を知らなかった方が「こんな曲もあったのか!」と新しい発見をしていただいたり、逆に若い世代の方も、もし「ジャガジョゴ」みたいな昔の曲を聴いて何か新しい発見をしていただけたなら、私としては⼀番うれしいです。

 「DJ Mix」ですから、私が意図的に作った選曲のピークがいくつかあるのですが、皆さんそれぞれ推し作品の曲が流れるところも、その人にとってのピークなのでは、と気が付きました。聴く人によって至るところに、いろいろな盛り上がりができるのが本作の魅力であり、面白さだと思います。

 60周年記念だからこそ作ることができた、奇跡の1枚と言っても過言ではないこのアルバムを、ぜひお手に取って聴いてほしいです。

幡谷氏:収録曲のなかに、過去に1つでも遊んだことがある、または聴いたことがあるIPや曲がありましたら、ぜひまた聴いてみて下さい。どの曲も、セガの歴史において重要なポジションになっていますし、苦労の末に出来上がったものがとても多いので、ものすごく特徴的な曲ばかりがそろっています。ですから2周、3周と聴いているうちに、自然と好きになっていくと思います。

 実は、私も最初は知らなかった曲が結構あったんですよ。例えば「ヒーローバンク」の「かせげ!ジャリンコヒーロー」の曲は、去年のTGSのDJイベントを聴くまでは知らなかったので、「こんな曲があったんだ!」とびっくりしたのですが、今ではすっかり気に入っています。このアルバムは何度も聴いているうちにどんどんなじんでくる、すごく聴きやすくて長く楽しめるものになっていると思います。「セガ、あるいはセガグループは、こんなものを作っていたんだ」という発見を皆さんにしていただきたいですね。私は毎日散歩しながら聴いていますが、全然飽きないんですよ。

大谷氏:洗い物をしながら聴くのもオススメです(笑)。

――ありがとうございました。