インタビュー

「グランツーリスモSPORT」プロデューサー山内一典氏インタビュー

「フェアでクリーンなレースは人びとを幸せにする」。GR Supra GT CUPは来年以降も継続へ

10月26日収録

 東京モーターショーで、「FIAグランツーリスモチャンピオンシップ2019 ワールドツアー 東京」を展開する「グランツーリスモSPORT」。このFIA(国際自動車連盟)との協業でスタートした「FIAグランツーリスモチャンピオンシップ」も2シーズン目を迎え、トヨタとの全面タイアップで実現したワンメイクレース「GR Supra GT CUP」の決勝大会や、茨城国体の延長線上の大会となる「都道府県対抗U18全日本選手権」など、3日間で5つのチャンピオンシップが開催される。山内氏が、「GT SPORT」のビジョンとして掲げた“新しいモータースポーツのあり方”が大きく実を結びつつある。

 本稿では、会期2日目、「GR Supra GT CUP」終了後に行なわれたメディア合同インタビューの模様をお届けしたい。

「グランツーリスモSPORT」プロデューサーの山内一典氏

――東京モーターショーでは、関わりもかなり拡大して、会場も大きくなっているが、どういった経緯で今回のような形になったのか?

山内氏: 昨年、東京モーターフェスティバルと共催という形で、FIAグランツーリスモチャンピオンシップのアジアファイナルをMEGA WEBで行なったが、僕ら「グランツーリスモ」の目的というのは自動車の文化を維持すること、あるいはモータースポーツに参加する人たちを増やして、減少に歯止めを掛けたいという想いがあって、その想いが東京モーターフェスティバルや東京モーターショーを開催されている自工会(日本自動車工業会)さんと一致したということ。

――FIAの公認大会は2年目を迎えたが、どのような感想を持っているか?

山内氏: 2シーズン目が終わろうとしているところだが、最初の一年目に気づいたのはスポーツとは何か。人は誰でも祝福されたいし、誰でも祝福したい。それがスポーツの本質だなと思った。2年目の今年、さらに気づいたのはFIAグランツーリスモチャンプオンシップというのは、eスポーツというカテゴリに位置するものだと考えられるが、極めてクリーンでフェアなレース、コンペティションが行なわれているという意味において、非常にレアで、貴重な選手権になっていて、今年僕が気づいたのは、人間の不幸せは割と定義しやすい。たとえば、貧困だったり、寒いとか、ご飯が食べられないとか。一方で人間の幸せは規定不可能なところがあって、人によって幸せの定義は様々な形がありうるから。ただ、人間って競争が好きなんだなということを改めて思ったし、人間って自分自身が進歩する、学習して一段高いレベルにたどり着くことが普遍的な欲求であることの気づいた。かつ、それらの競争がフェアに行なわれていることが重要で、クリーンでフェアな競争は、人を幸せにさせるんだということに気づいた。

――先ほど決勝大会を終えたばかりのGR Supra GT CUPの感想から聞かせて欲しい。

山内氏: ワンメイクレイスというのはクルマの差がないので、ドライバーの実力がそのまま出るレース。1シーズン、オンラインで戦ってきて、その上位ランカーたちが世界中から集まってきて、世界一を決めたわけだが、世界中のプレーヤーが参加するワンメイクレースで、車の差がないなかで1位になるというのはとてつもなく凄いこと。結果を見ると勝つべくして買ったというか、やはり年間を通じて1番強い選手が勝った。だからスポーツというのはそういうところを裏切らないなと思った。

【プレゼンターとして登壇した山内氏】

――第二シーズンが終盤を迎えて、次のシーズンに向けて何か新しい試みを考えていたりするか?

山内氏: 例えば東京モーターショーに合わせてアンダー18の選手権もやるが、それは国体と関連したイベントだが、クリーンでフェアな競争、スポーツの本質というのは人間を幸せにするものなので、FIAグランツーリスモチャンピオンシップは世界のトップオブトップのドライバー達が参加する極めてハイレベルなチャンピオンシップになっているが、もう少しトップより下のカテゴリーのチャンピオンシップもやっていきたい。ウィナーはたくさんいればいるほどいい。

――「GT SPORT」が発売から2年が経過して、昨年FIAチャンピオンシップがはじまって、今年は国体やポルシェ、スープラ、eスポーツ団体主催のeスポーツ大会、eモータースポーツのムーブメントが巻き起こっているが、この現象をどう捉えているか?

山内氏: 昨年は正直困惑していたところがある。というのも我々が6年前にFIAの皆さんとこの構想をして「GT SPORT」を作っていたときに、まだeスポーツが来ることを想定していなかった。でもそれはたまたま偶然eスポーツ、「GT SPORT」のローンチ、大会の実施が重なっただけ。

――本大会でも参加している、昨年のチャンピオンのイゴール・フラガ選手は、山内さんから見てどのような選手か?

山内氏: イゴール選手とは、明日のアンダー18選手権の前にトークイベントを行なう予定だが、一言で言うとすごく魅力的な若者。日本生まれで、12歳まで日本にいて、それ以降はブラジルに行ってレース活動を続けて、どこにも希望がないような状態を経験しながら、常にポジティブで努力をしてそれを乗り越えてきた若者なので、彼から学ぶことは多い。FIAグランツーリスモチャンピオンシップのワールドチャンピオンになったのは偶然ではなかったなと思った。

――車好きを増やすという話だが、これまでクルマ業界の人間はバーチャルに負けない、リアルに戻そうと対抗意識を燃やしていた印象があるが、それが一緒にやって行こうとなったのは外部からは経緯がわかりにくいが、もう少しそこら辺の想いを聞かせて欲しい。

山内氏: たとえばGR Supraの例を取ると、GR Supraはゲーム内でローンチしてだいたい60万台ぐらいがユーザーによって購入された。「GT SPORT」は、インゲームクレジットを貯めてクルマを買うゲーム。そして「GR Supra GT CUP」というのは、単なるワンメイクレースということではなくて、 GR Supraに載ったプレーヤーのフィードバックを得て、次の年のイヤーモデルを作るという野心的なプロジェクトでもあった。今トヨタの中で企画されている次のモデルは、7万件以上のフィードバックの内容が反映されて、新しいGR Supraに生まれ変わる。そしてこの取り組みは今後も続けていく。今の時代にスポーツカーが何台ぐらい売れるものなのか。たとえば、ライフタイムを通じて1万台以上売れるスポーツカーはどのブランドを見渡しても見てもない。でも「GT」なら、60万台以上が売れて、それがいつかクルマのカスタマーになる。それは凄くサイクルではないか。

――7万件のフィードバックの内容は?

山内氏: それはGR Supraの開発チームの皆さんが作ったアンケートに答えるという形。ゲーム内の行動分析という形ではなく、GR Supraの皆さんがプレーヤーに直接アクセスして彼らが知りたい情報を取るという形。

――両社のコラボは今後どのように発展させていくつもりなのか?

山内氏: 僕は自動車が好き。どうやったらこの文化を維持しているんだろうということをいつも考えている。こういう試みを他のメーカーにもやっていただきたいと思っている。

――「GR Supra GT CUP」は第2回、第3回と続くのか?

山内氏: 僕がお聞きしている範囲では、もちろん来年も開催される。今回のチャンピオンは初代ウィナーになる。

【GR Supra】

――プレーヤーの裾野を広げるという取り組みについて、過去に若年層のみならずシニアにも広げたいという話があったが、シニアクラス向けの車種も入りつつあるが、その予定はいかがか?

山内氏: それはいつも念頭に置いている。あとはそれをどの順番で実現していくのかという段階。

――国体に協力した感想を聞かせて欲しい

山内氏: 実は2019茨城国体の文化プログラムとして参加するまで、僕自身国体に関心を持っていたわけではなかったが、実際に経験してみると、各都道府県から代表の皆さん、ご家族が集まってきて、そこでああいったスポーツが行なわれること自体素晴らしいことと思ったし、それが「グランツーリスモ」のようなeスポーツを通じてこれまで以上にポピュラーになっていくとすればそれは素晴らしいこと。今後もやっていきたいと考えている。

――来年、プレイステーション 5が登場するということで、「GT SPORT」を使ったサンプルも披露された。PS5はレイトレーシングやハプティック技術など、様々な新要素が追加される予定になっているが、どのようなゲーム体験が可能になると考えているか?

山内氏: 僕はそういうことを話せる立場ではない(笑)

【PS5については口をつぐんだ】
PS5に対する質問は苦笑しながら口をつぐんだ

――ゲームをプレイする事でSupraを実際に買わなくても、凄く身近なものになるということか?

山内氏: そのとおり。GR Supra GT CUPの出場選手達の一部は、トヨタさんの御厚意で、実際のサーキットでテストドライブを走行している。ゲームの中とクルマの動きはまったく同じだと行っているので、言ってみれば「グランツーリスモ」の中でクルマの試乗が可能になっている。

――そこまでリアルに出来ているということで、今PS5の話が出たが、今後テクノロジーの進化によってここを変えたいという要素はあるか?

山内氏: それは複雑な問い。コンピューターの進化もあるし、それを取り巻く環境、人間社会の変化も同時に起きている中で、それが相互に影響し合いながら変わっていっている。それは、まだ具体的には話せないが、おそらくビデオゲームにおいても言えることで、ましてやクルマというのは社会的な存在なので、クルマのビデオゲームである「グランツーリスモ」が、コンピューターやそういった技術を基盤にした社会の基盤の変化に合わせて、「グランツーリスモ」がどう変化していくのかというのは興味深い話題ではある。

――今回のようなリアルイベントを今後どう発展させていくか?

山内氏: 具体的ない目標はないが、価値のあること、人が楽しんでもらえていることという手応えは感じているので、1つ1つベストを尽くして、かつ細かい進化を重ねていくことだろうと思う。

【リアルイベント】

――先ほど“クリーンなバトル”とあったが、スポーツの分野でクリーンというのはなかなか難しいと思うが、なぜ「GT」はクリーンなのか、特殊な事情があるのか?

山内氏: 1つは「GT」が持っているフィロソフィーやブランドイメージをプレーヤーの皆さんが共有していただいている。この20年続くカルチャーみたいなもの。子供の頃から共有していることが大きいと思う。それから先程フェアでクリーンなコンペティションは、必ず幸せにするはずだという仮説をお伝えしたが、リアルないモータースポーツはどうしてもお金が掛かるから、原理的のフェアにならない。お金がある人が勝ちやすい状態になっている。これは多くのスポーツにおいて起きていること。「GT」の場合、極端な話、タイヤの1セット分のお金で何年も本格的なコンペティションができる。それは大きな違いだし、そういう基盤があるから選手達は心から競争を楽しめるのではないかと思う。

――選手たちは友達と「GT」を楽しむところからはじめて、それがレベルは高くなってもその気持ちを忘れていないということか?

山内氏: そのとおり。自分が向上していく感覚は誰だって持ちたいと思う。でも世の中、案外フェアにできてないから、どこかでイヤになってしまうことはあると思うが、「GT」内ではそれが起きないのが大事。

【フェア&クリーンなレース】

――2016年5月の「GT SPORT」のアンヴェイルイベントで山内さんが「GT SPORT」をeモータースポーツであると定義してから3年半が経過したが、ご自身がやりたかったことがどの程度実現できているのか?

山内氏: あのときに僕が申し上げたのは、eモータースポーツというよりも、今後100年のモータースポーツをデザインするということだったと思う。それは今も変わっていない。モータースポーツは150年ぐらいの歴史があって、貴族のスポーツとしてスタートして、ヨットや登山、北極・南極探検と似ているところがある。

 貴族が自分たちのプライドを賭けて戦うのがモータースポーツの起源で、1970年頃に、言ってみれば、クルマにステッカーを貼るだけで、コマーシャルのお金が流れ込んで来るという例外的な時代が訪れる。でもそれは僕の想像では1990年台ぐらいには終わっていて、たった20年ぐらいしか続かなかった。そしてモータースポーツは今また元の姿に戻ろうとしていて、「でもそれでいいのか?」という話。

 僕らはモータースポーツの素晴らしさを知ってしまったし、それを後の世代にも伝えていきたいし、だとしたらそうではないモータースポーツの形を作らないと、モータースポーツはポピュラーなスポーツたり得ないことになってしまう。それが「GT SPORT」を作った理由。

――昨日「ジャガー ビジョングランツーリスモ」が発表されたが、「GT」のクルマは基本的に実車をベースにその再現を行なっていると思う。実車の特性、ドライビングのチューニング、エンジン音も実車から取り込んでいるということだが、架空のクルマの場合、乗り心地やエンジン音などはどのように決められているのか?

山内氏: 当然クルマはプロダクションに入る前にデザインが行なわれる。インテリア、エクステリアだけでなく、メカニズムのデザインも含まれる。カーデザイナーやエンジニアが考えたデザインを「GT」で再現するというのがビジョングランツーリスモの作り方で、そういう意味では実写と変わらない。

【ジャガー ビジョングランツーリスモ】

――電気自動車のサウンド音はどのように決めているのか?

山内氏: EVはどんな音でも鳴らせる時代にとっくに突入している。ハードウェアとは無関係に、どういう音を作るのか。内燃機関のクルマも、サウンドデザインはかなり進化していて、色んな仕掛けで実際に鳴っている音以外の音も鳴っている。それはEVもまったく同じで、デザイナーが鳴らしたい音を鳴らしている。

――東京モーターショーの感想を聞かせて欲しい。

山内氏: 実は僕忙しすぎて、まだ会場を回れていない(笑)。ただ、これまでと違ったアプローチで開催されていて、それがどういう効果を及ぼすのか楽しみにしている。

――「GT」のレースが発展してきて、ワークスのようなお金が動く世界になりつつある。そうなってくるとイコールコンディションなどのレギュレーションなどの問題が出てくると思うが、将来的な不安はないのか?

山内氏: まだそこまではなっていない(笑)。が、そういう悩みは常にある。ともすれば、そういう変化は容易に訪れるので、それをどうデザインするのかだと思う。FIAというより文化をどう創るかは自分たちが決めること。自分たちがどういう文化を創りたいかということ。

――先日ミシュランとのパートナーシップを発表したが、「GT SPORT」への変化は?

山内氏: すでに僕らが持っているタイヤの物理モデルはかなり精度が高いが、もっと知りたいことはあって、たとえば、ミシュランしか持ってないような性能検査施設など、知りたいことはいろいろある。シーズンが終わって少し余裕ができたらミシュランのテクニカルセンターに行って、まだわからないことをミシュランのエンジニアと議論できたらいいなと思う。

――今の質問と関連して、「GT SPORT」はリリース後にクルマの挙動が変わっているが、今後ミシュランとの協業で、さらにクルマの挙動が変わることはありうると理解していいか?

山内氏: そのとおり。タイヤは奥が深いので永遠に正解にはたどり着かないと思うが、少しでも精度の高いものにしたいと思っている。

――来年の目標を聞かせて欲しい。

山内氏: 僕は目標を言ったことがない(笑)。基本的には目の前に現れた方をハッピーにするということでずっと続けてきていて、大それた目標はない。来年もチャンピオンシップはやる。