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【CEDEC2013】「FFXIV: 新生エオルゼア」のサウンドデザインの秘密
状況に合わせた自然な効果音、様々な仕掛けをが盛り込まれたBGM
(2013/8/22 21:54)
「MMORPGならではのサウンドデザイン ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア」というタイトルで講演を行なったのは本作のサウンドディレクターを務めるスクウェア・エニックスの祖堅正慶氏と、テクニカルディレクターの土田善紀氏。
「FFXIV: 新生エオルゼア」では描かれるストーリーが変わり、フィールド、戦闘のタイミングなども変わっていく中で、過去のリソースは1/10も使えなくなったという。このため、BGM・サウンドも大きく作り直された。祖堅氏、土田氏は時にお互いにツッコミを入れるという明るい雰囲気で、本作ならではの様々な状況に合わせた音の出し方や、音楽の使い方などを説明していった。
「これできるよね?」祖堅氏の要請に応えて土田氏が実現させた自然な効果音
講演ではまず土田氏から「効果音の使い方」が語られた。MMORPGは音という視点から見ると難しいジャンルだという。通常のゲームと大きく異なり、どこに何人のキャラクターが集まるか予測できない。プレーヤーキャラクターがどんな装備を身につけているか予測できない。そのために全ての音をあらかじめ用意していつでも使える、というようにするのは現実的ではない。
このため、リアルタイムに変わる状況に合わせて効果音を読み込み、使うものは残し、使わないものはどんどん切り捨てていくという方式をとった。注意深く聞いていると最初だけは遅延が発生する場合もあるかもしれないが、周りのキャラクターの足音や、状況で鳴りそうな音、装備品の音などをその場で読み込み、状況に合わせた音の使い方を実現できたという。
さらに様々な状況での効果音の使用法が語られた。「FFXIV: 新生エオルゼア」では人が集まるとき、人がたくさんいるときに「ガヤ音」といわれる、人混みを表現する効果音が使われる。人のささやきや、時として上がる大きな声、笑い声など周りの人が上げる声だ。この人々の声の自然な表現をするための工夫がされているのが土田氏がアトモス(大気)+ギア(変速)という造語で作った「アトモス・ギア」システムだ。
人数に合わせた人々の声、それは人の集まる人数によって変わり、さらに戦闘や街の中、周りの状況で変化する。キャラクターがいる周りの人数を計算し、その状況に合わせて音が選択され、距離に応じて使われる。戦闘時には鬨の声が入り、街では笑い声が入ったりもする。現在はさらに周りの種族に合わせてもこのガヤ音は変化するという。
“空間での音響効果”も様々な点で見直しが行なわれた。洞窟から外に出るときや、騒がしい酒場へ外からドアを開けて入ってくる時の音の変化をより自然に表現するには境界線に音を設定し、外の動きをどう漏らすのか、逆にどう打ち消すかを土田氏は図を使って説明した。徐々に音が混じっていく感じ、雰囲気が切り替わる境界線などを1つ1つマップで指定するのではなく、ポイントを設定し、そこからキャラクターの位置で音のバランスを変えていくシステムを作り上げた。
この他、「海の音の変化」の手法が語られた。海に浮かぶ船に乗っているとき、波が船体を打つ音は四方から聞こえる。そこからプレーヤーが船をでて、海から離れると波音は背後でのみ聞こえるようになり、やがて海の方向を向いて耳を澄まさせなければ聞こえなくなる。この感覚をシステムでできないだろうかと、祖堅氏は土田氏に依頼した。土田氏は最初は4chで音がでてそこから音のある地形から離れることで音を出す場所を変化させ、近くなると融合していくという仕組みを作った。
4つの音の出る点が、そこから離れることで音源が後方に動いていき、音源同士が近くなると融合しチャンネルが減るようにした。4chが2chになり、最後はモノラルになる。音のボリュームも距離に合わせて変化する。キャラクターを中心に、音の出る場所の位置を変え、音源そのものを減らしていくこのシステムは、ちょうど扇を閉じていくように音源が移動し、収束していくこととなる。このシステムでより自然なキャラクターの移動による音の表現を実現したという。
多彩な仕掛けを盛り込み、演出要素を強化したBGM
土田氏による効果音の手法に加え、祖堅氏からは「FFXIV: 新生エオルゼア」ならではのBGMを使った演出も紹介された。「FFXIV: 新生エオルゼア」はクエストをこなしながらキャラクターを育てていく作品である。プレーヤーのクエストをこなす筋道はある程度決まっている。
そこで祖堅氏はクエストに関して印象的なフレーズを盛り込み、クエストの進行に合わせて楽曲が重なっていく様に鳴らしていくことで、クエストを進めながら、1つの長い曲を聴いているような曲の出し方を工夫した。
また、「ファイナルファンタジー」シリーズのBGMを全体的にアレンジしたり、一部分だけアレンジしたり、フレーズを取り入れるなどで様々な状況で盛り込んでいるところも聞き所だと祖堅氏は語った。
「FFXIV」では「リムサ・ロミンサ」、「ウルダハ」、「グリダニア」といった様々な都市国家が登場する。祖堅氏はこれらの国のオリジナリティを楽曲から確立するというアプローチを行なっている。まず国に合わせたフレーズを作り、そこから街中の曲、フィールドの曲と、各国の曲からアレンジすることで国の違いを強調した。
さらにBGMは様々な状況で変化するという。BGMは場所だけではなく、昼夜でも変化する。日の出、日の入りには特別なBGMが流れる。特定の状況で特定の乗り物の時に流れるBGMも用意される。この他にも様々な“仕掛け”が用意されているとのことだ。
変化だけでなく、あえて変化させないという場面もある。フィールドに入るとまずそのフィールドのアイキャッチBGMが流れる。このBGMは戦闘に入っても止まらない。例えばダンジョンに入ったとき、すぐに戦闘に入っても、まずはダンジョンのテーマをきちんと聞かせるのだ。プレーヤーにフィールドを強く意識させる仕掛けとなっているという。
この他、曲のループは極力行なわない方針としている。「FFXIV: 新生エオルゼア」では音の主役はあくまで効果音とし、音楽は“BGM”に徹する。フィールドの曲も環境音に対するスパイスという意識を持っている祖堅氏は語った。ただし、曲をループさせて聞きたいというユーザーの要望に応える設定も用意していくとのこと。
最後に祖堅氏は「FFXIV: 新生エオルゼア」開発を振り返り、「とにかくきつかった」と語った。ほとんど全ての音楽、効果音を作り直す。それはAAAタイトルを半年で作るということを意味しており、「これだけのことは2度とやりたくない」と語った。実際、ここまで“家に帰れなかった”ことはなかったとのことだ。作成中もユーザーから応援されるなどこれまで無かった経験もした。「毎日地獄で、毎日祭り。超楽しかったです」。最後に祖堅氏はこう語った。
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※画面は開発中のものです