インタビュー

「FFXIV: 新生エオルゼア」吉田直樹氏発売記念インタビュー(後編)

吉田氏実演によるレベル50黒魔導士のMAXDPS講座

吉田氏実演によるレベル50黒魔導士のMAXDPS講座

インタビューに答えながら黒魔導士の準備を進める吉田氏
DPSの花形である黒魔導士。吉田氏は黒推しだった

吉田氏: では、レベル50黒魔導士の準備ができました。まず、黒魔導士の基本ローテーションからご説明します。まず、黒魔導士が1番最初にやることは、サンダラをかけることです。サンダラはキャストタイムが長く、かつメインのダメージ元が雷によるスリップダメージなので、まず継続ダメージが入るサンダラからスタート。

 戦闘の時間中ずっとこのサンダー系のスリップダメージを持続させるのがDPSを大きく伸ばす秘訣です。そしてサンダー系の魔法は、Procが1スリップダメージ毎に判定があり、20%の確率で次に詠唱するサンダー系がMPゼロでかつ瞬間詠唱に変わるという効果があるので、Procが発動したらサンダガを撃つというのが黒魔道士のサンダー系基本ルートです。これを意識して常に持続するかどうかは、相当大きいです。敵のサンダー状態を維持し続ければ、それだけProcするチャンスが増えます。また、詠唱時間が長いため、DPS継続のためサンダー系の詠唱に、迅速魔というアビリティを使うことも視野に入れます。

 それができた上で、次に考えるのが単体に対して最大のダメージを出すことです。そのためには、アストラルファイア3の状態からファイアを撃ち、そのProcが発動し、ファイガのMPコストがゼロ、かつ詠唱時間なし、という状態になったらファイガを撃つというのが、サンダー系とファイア系を使った基本ローテーションです。

 ちょっと実際にやってみましょう。まずサンダラを詠唱して、次にファイガを詠唱。最初は詠唱時間が長いですが、この時間でちょうどタンクがモンスターの敵視を取れる時間になっています。次にファイアを撃ち、いまファイアがProcしたので、次はファイガを積む。これを繰り返すとMPがガンガン減るので、減ったらブリザガに回すのですが、アストラルファイア3の状態だと、ブリザガの詠唱時間が半分になるので、ブリザガを経由して、アンブラルブリザド3でMPを回復している間に、さらにサンダラを積み直してDoTを継続し、またアンブラルブリザド3の状態からファイガに行く。その場合、ファイガのキャストタイムが1.5秒になるので、ファイガで一気にアストラルファイア3の状態に戻して、ファイアを継続します。この間、サンダラがProcしたら、サンダー系最大魔法のサンダガを合間に挟みます。

 なおかつ、コラプスというインスタントダメージのスキルを組み込みます。この魔法は固定ダメージ250で、30%の確率でダメージ倍という瞬間詠唱の魔法ですが、詠唱時間がないので移動中にも撃てます。つまり、例えばイフリートのブレスが来た時に、当然避けようと思って移動しますが、その移動中にコラプスが撃てます。直前に詠唱した魔法のGCD2秒が回っている場合、移動中にもこのGCDは消費されていきます。その移動中にアビリティであるコラプスを使えば、魔法が詠唱できない間もダメージを継続できます。移動中にGCDは消費され、移動停止と同時にまた魔法が使えるという寸法です。

 基本的にGCD2秒から2.5秒でスキルを回します。でも少し位置取りを変えようとして移動している時にもGCDは動いているわけですから、最大効率を考えれば、ここで移動と同時にアビリティを使うのがベストになります。ただし、確かにフィールドに徘徊しているモンスターは、意図的にそこまでしなくても倒せるようにしてあります。なぜなら数百回1人でバトルをしていく中で、常に上記のような緊張感は疲れるし、とてもしんどいからです。気楽さがなくなってしまいます。またリアルタイムで行なわれるため、初心者の方にはとても難しい。

 しかしレベルが上がり、難しいコンテンツになってくるといつかMAXダメージを要求される時が来ます。そうなった時に、なぜGCDが2秒から2.5秒なのかの意味がようやくわかっていただけると思います。どうしてもこれは経験しないとわからないとも思います。だから僕はバトルに関しては、フォーラムに戦術論ではなく、概念論を2回のみポストしました。なぜなら、大多数の方が今の高レベルプレイの説明を聞いても「わけわからんよ」ということになってしまうと思ったからです。だって今の説明を聞いてわかりますかって話です(笑)。

――私は今目の前で吉田さんのデモを実際に見ていましたから、どういうことなのかなんとか追えましたが、これ実際に記事になって吉田さんの発言を読むだけでは全然分からないという人が多いでしょうけど、よし吉Pがいうローテーションを俺もやってみようかという人もいると思いますよ。いや、しかし、吉田さんは聞きしに勝るDPSプロデューサーですね(笑)。

吉田氏: これはあくまで1体の敵に対してMAXDPSを出す為のルートなのですが、やはり各魔法やウェポンスキルのProcがなぜ確率になっているかというと、確率だからこそ、考えてローテーションを変える必要が出ます。固定化されなくなる。ファイラによってProcが2回発生したから、残り3回で詠唱をブリザガに回さなきゃいけなかったのが、ファイガを含めて5回撃てる。撃ちきろうにもターゲットが死んでいるというシチュエーションが出た場合、途中で迅速魔を使い、詠唱時間をゼロにしてサンダラを新しいモンスターに積んだ方が、サンダー系Procが出る確率が高くなり、結果トータルDPSが高くなるとか。

 さらに言えば、これはあくまで「基本ローテーション」なだけで、たとえばボス+雑魚など数が多い状況ならファイラやブリザラを使いますし、アストラルファイアIIIをギリギリまでMPを消費した後、迅速魔+フレアで攻撃し、MP0になったのをコンバートで戻し、ブリザガへ繋ぐ、など、シチュエーション判断でローテーションを変化させます。これが最終的にはプレーヤースキルになるわけです。この判断のために2秒から2.5秒のGCDは適切だと思っているのです。

 繰り返しになりますが、こんなもの数百時間プレイした先にたどり着けばいいものだと思います。そしてこれを最初から強要するような作りにはしていません。バトルシステム全体を長期間にわたってバランスを取るために、ここまで考えて作っている、というだけですので。

――やっぱり私は無理なお願いをして良かったなと思いますよ。吉田さんが黒魔導士の深淵に触れたことで、「FFXIV: 新生エオルゼア」のバトルの奥行きの深さがよくわかりましたし、何より吉田さん自身が、バトルについて隅々まで良く見ているということもよくわかりました。それにしてもフェーズ3で見ている世界と、正式サービス後のレベル50の世界はずいぶん違いますね。

吉田氏: それがキャラクターの成長と共に、プレーヤーが成長するという意味だと思っています。序盤は魔法1つずつの特徴や特性を覚えて、かつコンテンツとくっついた時に始めてバトルシステムは完成します。MMORPGのアクションシステムだけを見ても、それは単なるクラスやジョブのアクションローテーションに過ぎません。格闘ゲームのトレーニングモードでしかないのです。コンテンツという名前の「状況やシチュエーション」が揃って始めて、バトルシステム全体になります。だから、バトルシステムのGCD2.5秒の話だけをしていても、片手落ちになってしまうし、そもそも本当の意味での「はじめてのお客様」はそれすら見ていないと思います。

――まったくその通りだと思いますよ。ただ、私が吉田さんのこれまでの発言の中でちょっと気になったのは、吉田さんはレベル50からがゲームの始まりで、それ以前はコミュニティにしてもコンテンツにしても駆け抜ければいいという考え方をしているところです。純粋に私の価値観と断った上でお話しすると、私は吉田さんとはMMORPG観がだいぶ違うんですね。私はレベル50までの過程を楽しみたい人で、35くらいでだらだら遊びたい人なんです。「FFXIV: 新生エオルゼア」は非常に優れたMMOなので、いずれレベル50にするだろうけど、誰よりも早くとか、誰よりも強くとはまったく思わない。吉田さんが追い求めている、そういうチリチリした鉄火場のような緊張感でレイドボスに挑戦する戦い以外に、MMORPGに楽しいことって一杯あるよ、だから遊ばない? って言い続けてきたタイプです。MMORPGに求めているベクトルが違うんですね。

 だから私にとっては中レベル帯までしか遊べないフェーズ3の評価は大事なんです。その視点に立ってみるとこれは改良の余地があるのではないか。50でそういったものを全く意識しなくなるとしたらその通りかもしれないけれど、低レベル帯からゆっくりじっくりを楽しみたいって人にはちょっと退屈に映るかもしれないねという話で、レベル50では解決してるから問題ないというのは私は違うと思うんです。

吉田氏: そういう点で言うと、僕はもっともっと「はじめて」という方を見ています。中村さんが仕掛けたい論点よりももっと下、本当の意味で右も左もわからない人、リアルタイムになっただけで、もう手が追いつかなくなってしまう方々を中心に見ています。

――その配慮はプレイしていて確かに感じますね。ここまでチュートリアルが丁寧なオンラインゲームは遊んだことがないと誰しも言いますからね。そしてその具体的な施策のひとつがコンテンツファインダーというわけですね。

吉田氏: その仕組みもそのひとつでしかないのです。今この「新生FFXIV」のタイミングで、裾野を広げて、とにかくMMORPGというジャンルに触れたことのある人たちを増やさなければならない。そのプレイして頂けた方の何%、何十%を「新生FFXIV」に取り込めるか、という考え方をしないと、日本のMMORPGビジネスは、絶対に危ないだろうし、発展しなくなってしまうと思っています。

――やっぱり、吉田さんが見ている所と、ユーザーさんが見ている所、そして私が見ている所はそれぞれ違いますし、着地点、つまり目標とするところも全然違うので、当然意見の相違が出てくると思うのですが、共通点としては「おもしろいゲームにしたい」というところでしょうね。

吉田氏: そうですね。意見の相違はあって当然ですし、それこそがまさしくMMORPGなのかなとも思います。でもこうやって議論を交わすこと、お互いの意見を理解することこそ、コミュニケーションだと思いますし、メディアさんとのやりとりだったり、フォーラムの意義ですので、これからも真摯に続けさせて頂きたいと思っています。

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(中村聖司)