レビュー

「龍が如く8」クリア後レビュー

春日一番の魅力、ハワイで極まる。エンディングノートはゲーム遺産級コンテンツ

【龍が如く8】

1月26日 発売

価格:
スタンダード・エディション 9,680円
デラックス・エディション 10,780円
アルティメット・エディション 12,760円

 先日、ようやく「龍が如く8」をクリアした。プレイ時間は約80時間。1月26日の発売直後から少しずつプレイし、1カ月半ほどでクリアしたことになる。この間、「龍が如く8」をプレイするのが毎日の楽しみだった。物語の終わりが見えてきてから、クリアするのが惜しくなり、ドンドコ島やスジモンバトルに全力逃避したりしていたが、いよいよ逃げ場がなくなり、ついに終わりを迎えてしまった。いま長いエンドロール後のエピローグまで見終わり、大きな満足感と小さくない喪失感が押し寄せてきている。

【ドンドコ島に全力逃避中】
ドンドコ島を守るためにせっせと戦う春日一番
宇内アナ発見。最序盤以来ですっかり忘れていた
キャンプファイアーは楽しい想い出
気付けばあっという間に5つ星リゾートに

 本当に優れたゲームは、そのゲームへの興味関心が現実をやや上回ることがあるが、「龍が如く8」はまさにそれだった。ストーリーの続きが気になって会社に出す報告書が手につかなかったり、エンディングノートのエピソードを想い出して想い出し泣きをしたり、逃避先のドンドコ島のゴミ掃除が面倒くさ過ぎてどうにかならないのかと頭を抱えたりすることもしばしばだった。

 2024年もこれからたくさんのゲームがリリースされ、我々ゲームファンに多くの興奮や感動をもたらしてくれることと思うが、ストーリーテリングにおいて、今年はもう本作を凌駕するゲームは出てこないのではないか。そう思えるほど満足できた作品だった。本稿では、クリア後の余韻が残っているうちに、クリア後レビューとして、本作の魅力を点描しておきたいと思う。なお、本稿はネタバレを含んでいる。特に絶賛プレイ中の方はここまでで留めておき、クリア後に読むことを強くお勧めしておきたい。未プレイの方はぜひレビューから御一読いただきたい。

3つの軸で展開される濃密過ぎるストーリー

 「龍が如く8」で特筆すべきだと思うのはなんといってもストーリーだ。本作はナンバリング最新作として、「龍が如く7」と、時系列的に並行している「龍が如く7外伝」の直系の続編となっている。「龍が如く7」で主人公を務めた春日一番と、「龍が如く7外伝」で再登板となった桐生一馬のダブル主人公となっており、彼らが背負った宿命と向き合いながら、それぞれが課せられた使命をハワイと日本で同時平行して遂行していく。

【ダブル主人公】

 「龍が如く8」は、セガが誇るAAAタイトルらしく発表から発売まで綿密に情報公開のマイルストーンが設定され、発売前から多くの情報を知ることができていた。ゲームの舞台はハワイとなり、春日一番がなぜか全裸でワイキキビーチに放り出されていること。“ミスター龍が如く”桐生一馬がガンに侵され余命半年であること。そして春日一番は向田紗栄子にプロポーズしてこっぴどく振られたこと。いずれも抜き差しならない情報ばかりで、「『龍8』は、病床の桐生を尻目に、一番が紗栄子にハワイで再度プロポーズを目指すゲームなのか?」と、「龍が如く」ファンを大混乱に陥れてくれた(念のため書いておくと、この推測は全部間違っている)。

【『龍が如く8』ストーリートレーラー】

 その情報公開は昨年夏の「RGG SUMMIT SUMMER 2023」からリリース直前まで断続的に続いており、いま見返すと、かなり際どいクリティカルなシーンをさりげなく見せていたりすることがわかるが、発売前に「龍が如く8」のストーリーを事前に読み切れた人間はいないはずだ。ハワイ編(という区分けはないが、便宜上そう呼ぶ)に関するストーリー情報はほとんど出してないし、エンディングノートもその意図は完全にふせられており、一番と紗栄子の恋路に関しては、2人はハワイと日本で離ればなれで、最後の最後までやきもきさせる。クリア後に振り返ると、とにかく事前の仕込みと仕掛けが絶妙だ。

【RGG SUMMIT SUMMER 2023 / 龍が如くスタジオ新作発表会】

 春日一番がメインを張るハワイ編は、過去のシリーズがそうであったように、新しい舞台で、新しい登場人物が次々と登場し、土地柄、文化の違いを活かした表と裏、光と闇のストーリーが展開される。ハワイ、ワイキキに行ったことがある方なら、見覚えのある建物や通り、キャラクターが登場し、絶妙に現実の設定をまぶしたいかにもありそうなストーリー展開に引き込まれることだろう。終盤、広げすぎた風呂敷を畳むのに苦慮している印象はあるものの、春日一番と桐生一馬という2つの主題は、この上なく綺麗に描ききっている。

 とりわけ春日一番の男気あふれる“信じ抜く力”は、ハワイの地でも遺憾なく発揮され、普通に考えてもっとも取らないであろう選択肢をあえてとって正面突破していく姿には、半ば呆れながらも、それが作品の魅力になっている。「龍が如く7」でも感じたことだが、春日一番の、あの桐生一馬に対して一歩も引けを取らない圧倒的な主人公力には改めて感心させられる。彼は今作を通じて「龍が如く」の主人公として絶対的な地位を確立し、そのポジションにもはや異を唱える人はいないだろう。

 メインストーリーについては、「龍が如く」シリーズのセオリー通りの設計になっており、シリーズをプレイしてきた方なら、かなり前半部分で、誰が裏切って、どこでひっくり返って、誰が合流して、ボスとラスボスはこいつというのは見えてしまう。よく言えばわかりやすいが、悪く言えばパターン化しており、サプライズがあるとすれば、春日一番の決断に対してであり、これには最初から最後まで驚かされっぱなしだった。主人公の行動がもっとも読めず、でも一番が言うなら仕方がないかと思えてしまう。龍が如くスタジオは、もの凄い主人公を生み出したものだと思う。

【ハワイでも変わらない春日一番】

 そして「龍が如く8」のストーリー上の最大の凄味がエンディングノートである。ガンに犯され余命短い桐生一馬が、シリーズを通じて付き合いのある警察官 伊達真の引き合いのもと、過去に関係を持った人物たちと様々な形で再開を果たすコンテンツで、これがもの凄い。期待を遥かに凌ぐボリュームで構成されており、「龍が如く8」のもうひとつのメインコンテンツといっても過言ではない。

 エンディングノートが凄いのは、現実世界の時の流れと絶妙にリンクした「龍が如く」シリーズの強みを存分に活かして、自分自身の過去を振り返るような錯覚に浸れることだ。追憶シーンは皆若々しく、若かりし頃の楽しい経験や、きつかったこと、若さゆえの過ちなど、実際に十数年前の経験であるため、「ああ、昔の神室町はこうだった」、「そういえば永州でこういうことあったなあ」などと、あたかも我が事のような気持ちになって振り返ることができる。ユニークなのは「龍が如く 維新!」や「龍が如く OF THE END」といった外伝作品も振り返りに含まれていることで、結果として「龍が如く」シリーズが総覧出来る仕掛けになっている。

 注意点としては、コンテンツが丸ごと過去シリーズの振り返りになっており、プレイしていなければ全然わからない所だが、逆に言えば、この「龍が如く8」を起点に、過去作を遊びながら想い出をさかのぼっていくという楽しみ方を提供してくれているとも言える。世に出ている多くのレビューでは、弊誌含め、過去のシリーズ、せめて前作「龍が如く7」のプレイを推奨していると思うが、まったくのゼロから「龍が如く8」から「龍が如く」シリーズに入るという遊び方でも全然良いと思う。「龍が如く8」はそれぐらい懐の深い作品だと思うし、プレイする価値がある。

【エンディングノート】
エンディングドラマ、追憶ダイアリー、未練ミッションで構成されている
若かりし頃の桐生一馬。当時の写真が懐かしい
小野ミチオを懐かしむ桐生一馬
トレーラーでも話題になった久しぶりのフォーシャインポーズ。「キレッキレでフォーシャイン!じゃねえだろ桐生さん……」と笑い泣きすること請け合いだ
エンディングノートが充実することで桐生が強くなっていく

 それにしてもエンディングノートには泣かされた。エンディングノートの中核を担うエンディングドラマは、すべて伊達真からの紹介でスタートし、過去に絡みのあった人物たちと、直接的、間接的に再開を果たしていく。今、シリーズの登場人物と再開したらどうなるかというifストーリーが覗けるのもおもしろいし、「龍が如く7外伝」をプレイした人にとっては、その続き的な感覚で楽しめるのも良い。ただ、それ以上に重要なのは、なぜ伊達はわざわざ日本中から人を集めるような、そういう手間暇のかかることをしているのか、だ。

 メインストーリーを進めながら少しずつエンディングドラマを消化していく過程で、伊達真がゲームコンテンツ上に設置された単なる狂言回しだけの存在ではなく、彼自身がある意図を持ってやっていることに気付く。エンディングドラマ第8話のラストシーン、桐生一馬と伊達真の最後の会話は、ゲーム史上屈指の名シーンで、これを見るだけのために本作をプレイする価値があるといっても過言ではないし、ゲーム体験はついにここまで来たかという感慨深い気持ちにもなった。これを見ずにクリアするのはあまりにももったいない。「龍が如く8」をプレイする方はぜひエンディングドラマは最後まで進めて欲しい。

【エンディングドラマ】
エンディングドラマは全8話構成。アサガオの太一からスタートする
仲介役を務めるのは、神室町の追憶ダイアリーでも筆頭に来る伊達真
条件を満たすと伊達から電話が掛かってくる。まさか伊達もこちらがトイレ捜索しているとは思わないだろう
エンディングドラマはとても強い印象を残す素晴らしいコンテンツだ

 そしてもうひとつ忘れてはならないのは、一番と紗栄子の恋路の行方だが、先述したように、春日一番はハワイ、向田紗栄子は日本でゲーム中の大半の時を過ごすため、直接語り合う機会は序盤と終盤にしか訪れない。この2人をかろうじて繋ぐ役割を担うのが桐生一馬で、死を覚悟した伝説のヤクザ、堂島の龍が放つ台詞は1つ1つが重みがあり、この役回りはとても味わい深い。ヤクザ、宗教、自然破壊、ガンなど極めてシリアスなテーマを扱う本作において、一服の清涼剤と言える要素でもある。この恋路は、ダブル主人公のストーリーに比べれば、おまけのおまけ的存在だが、最後まで愉しませてくれるし、シリーズに新たな可能性を感じさせる要素でもある。

【2人の愛の旅路は……】
向田紗栄子をデートに誘う春日一番
全力で想いを伝える春日一番
全力で振られる春日一番
その後ふたりは離ればなれになるが、桐生一馬が仲介役を担う
果たして春日一番は男になれるのか!?

春日一番の魅力にどんどん引き込まれていくサイドコンテンツ

 メインストーリー以外にも魅力は多い。「龍が如く7」から引き続き採用されたコマンド式バトルは、前作から改善されさらに遊びやすくなった。バトルバランスはゆるめで、リアルタイムアクションバトルになっている「龍が如く7外伝」や「JUDGE EYES:死神の遺言」のような、ボス戦では少しでも油断すると満タンから即死みたいなチリチリするようなバトルは一度もない。これは「龍が如く」シリーズお馴染みの歯ごたえのあるバトルを求める向きには不満だろうが、逆にリアルタイムバトルが苦手な方には、安心して楽しめるし、「龍が如く」はもはやそういう万人向けのAAAタイトルになったということだろう。

【バトルは易しめ】
バトルの難易度は、遊びやすくなっている分、前作「龍が如く7」よりも低い

 装備品やアイテム、所持金はハワイと日本で使い回しが可能な超便利仕様で、全体ヒールも使い放題、バフ/デバフの効果も絶大、最強装備も比較的簡単に取得でき、お馴染みのダンジョン系コンテンツに潜ってレベリングすれば、さくさくゲームが進められる。おまけに“デリヘル”ことデリバリーヘルプを使えば、多少のレベル差をひっくり返せるような強烈な攻撃を放ててしまう(そもそもそういう状況自体に巡り会うことがないが)など、ゲームの難易度は低めに抑えられている。

【デリバリーヘルプ】
大金を払うことで助けを呼べるデリバリーヘルプ
我らが伊達真も参戦する
西部警察ばりのカッコ良さで攻撃してくれるが、敵へのダメージはまったく別の方法で与える。笑ったら負けだ
ドンドコ島からもデリバリーできる

 それから設定についても、良い意味で「龍が如く」らしいアバウトさだ。春日一番が英語にビビってたのも最序盤だけで、その後はすべての外国人がナチュラルに日本語を喋っていたり、日本とハワイの距離感が、神室町と異人町レベルに近いこと、サブストーリーのキャラクターは、ハワイらしい新キャラクターの創造より、過去作の名物キャラの再登場に重きが置かれ、リソースとネタの使い回し感がぬぐえないことなどなど、良くも悪くもツッコミどころは多い。

【お馴染みの人物達もハワイに大集結】
お馴染みおむつ軍団。権田原組長もキレッキレのおむつ芸を見せてくれる
おや、じゃねえよとツッコみたくなる保田団長。またしてもとんでもないトラブルを運んでくる
ハワイにもやっぱりミチオはいた
おそうじ丸もしっかり。相変わらずデカ過ぎる

 そういうツッコミどころはあっても「だからクソゲー」という風に微塵もならないのは、個々のコンテンツの目的が明確だからだろう。たとえば、コマンド式バトルは、敵との戦いの場、勝ち負けを付ける場、パーティーの成長を確認する場である以上に、仲間との絆を確認する場になっており、それは特定の組み合わせの飲食を取った際に発生する宴会トークもそうだし、街を移動中に突発的にはじまるパーティーチャットや絆さんぽもそうだ。すべて仲間と絆を深めることに繋がっている。

【絆を高め、絆で戦う】
飲食店で特定の組み合わせで飲食すると発生する宴会トーク
桐生パートの宴会トークにも注目したい
街を歩いていると発生するパーティーチャット
仲間との絆が高まるとバトル中に連係攻撃が発動することも
ゲージを貯めて絆攻撃

 いわゆるクエストであるサブストーリーも同質だ。基本的に春日一番がやっかいごとに巻き込まれるパターンで、なんだかんだで助けることになる。その内容は桐生一馬の時代以上に、コミカルかつユニークなものが増えており、新生「龍が如く」の新たな魅力になっている。そうしてこれらサイドコンテンツをプレイしていくごとにプレーヤーは春日一番がどんどん好きになっていく。

 RPGのクエスト、特に海外のオープンワールドRPGのクエストは、報酬がなければまずやらないようなつまらない内容のものが多く、この無味乾燥なサブクエストの機械的な配置が、ゲーム全体の評価を下げることも少なくない。この点「龍が如く8」のサブストーリーは、春日一番の反応見たさについついプレイしたくなる魅力があり、これを開発チームがどれほど意識しているのかはわからないが、RPGにおける一種の発明とさえ思う。

 実際に、こうした各種イベントを通して春日一番の人間力が増し、キャラクターが強化される仕組みもあるが、これらサイドコンテンツを通じて高まった仲間との絆は、メインストーリーの感情的な盛り上げに一役も二役も買っていることは間違いない。すべてのコンテンツは春日一番に通ず。「龍が如く8」は、サイドで高めた絆と人間力で、メインを戦っていく、これが極めてうまく機能しているゲームになっていると思う。

【ハワイで様々なことに巻き込まれる春日一番】
春日の人助けの対象は、相棒ナンシーちゃん(ザリガニ)も含まれる
春日一番の新たな相棒ヨーゼフ。春日の頭に住み着いてしまった
ビーチでよくわからない人捜しに付き合わされる
ハワイでも危険なスタントマンをやらされる春日

さらに広がる龍が如くワールド。今後の展開に超期待だぜ!

 今回、主題から外れるのであえて触れなかったが、ドンドコ島やスジモンバトル、マッチングアプリ、クレイジーデリバリーといった、ミニゲームというにはリッチすぎるアクティビティも魅力のひとつだ。これは将棋やダーツ、麻雀、カラオケ、アーケードゲームといった従来のアクティビティからさらに加えられたもので、その気になれば100時間でも200時間でも追加で楽しめるだろう。個人的な希望を言えば、これらのアクティビティでも、仲間とのコミュニケーションや絆を深められる要素があればより楽しいと思う。

【しっかり楽しませていただきました】
スジモンバトルもしっかりクリア
ハワイのナイトクラブでは春日一番史上もっともムフフな表情が見られる
ダマされ率のほうが高いマッチングアプリ。だがそれがいい
正直やるのが遅すぎたクレイジーデリバリー。序盤向けのコンテンツだった

 クリアして感じたのは、「龍が如く」は今後も続くという確かな手応えだ。なぜそう思ったのかというのは確信的なネタバレになるので伏せたいが、2作を通じて培われた仲間との絆、ハワイで新たに増えた仲間、春日一番という途方もなく魅力的な主人公、そしてこの春日一番が動けば何をやってもだいたい許される(実際許してしまう)というゲームデザイン上の大発明をセガがそのままにしておくはずがないと思うからだ。

 「龍が如く8」を経て龍が如くワールドがどう広がるかはまったくわからない。どのような可能性もありうるし、そこはファンの声次第というところもあるだろう。個人的には、ハワイには、まだ語るべき要素が多くあるように思うし、春日一番とその仲間たちが描く物語をもっともっと愉しみたい。今回新登場したトミザワや千歳を深掘りする形でハワイの別の島や街までエリアを拡張するのもありだろうし、まったく別の国や地域で新しい物語を始めてもいいだろう。春日一番ならどこで何をやってもおもしろくなると思う。

 今は大作クリア後の心地よい余韻に浸りつつ、彼女イベントをひととおり回収してから、色々忘れていることだらけだった過去作をいくつかプレイしたいと思っている。「龍が如く8」、2024年まずはクリアしておきたい傑作だ。

【まだまだ遊び足りない!】
前作から引き続きいわゆる“彼女イベント”は存在する。贈り物をあげられる女性(年齢、立場を問わない)との好感度をあげていこう
クリア後のカラオケは全員が見守ってくれて楽しさ倍増だ
絆さんぽは全員分のフィナーレまで見届けたい
離れがたい魅力であふれたハワイ。新たな展開を期待したい