レビュー

「クロノ・クロス:ラジカル・ドリーマーズ エディション」レビュー

リファインされたBGM! 「クロノ・クロス」を語るには外せない音楽

 これはあくまで個人的にだが、バトル強化で通常攻撃の威力まで上がらなかったのは、非常に良い判断だったと感じている。通常攻撃が強化されなかったことで、本作の魅力であるBGMをきちんと堪能できるという利点があるからだ。

 「そんなこと?」と思うなかれ。数々のHDリマスター作品を遊び、その度に「キャラクター強化」的な便利機能を堪能してきた筆者だが、キャラクターが強化されすぎていて、せっかくのカッコ良いバトルBGMのイントロを聞いただけでボスを倒してしまった、なんてことも数知れず。オリジナル版を数十周と重ねたゲームですら、結局HD版で便利機能を切ってBGMを堪能するほうを選ぶことになったゲームも数多くある。

 本作を語る上でもうひとつ欠かせないのはBGMなのだから、これは非常に大事なことだ。「クロノ・クロス」のBGMは、初代「マリオパーティ」などで作曲を担当した光田康典氏によるもので、「本作でケルト音楽に目覚めた」という人も多いほど、聞いた人を虜にする民族調サウンドが多数使用されており、特に本作のOPムービーで使用されている「CHRONO CROSS 〜時の傷痕〜」はムービーとの親和性も高く、未だにJRPGのOPでも5本の指に入る傑作、とも囁かれている。

OPムービーを見ただけで自然と脳内に「時の傷痕」が流れる……そんなプレーヤーも多いだろう

 「クロノ・クロスRD」ではあえてBGMは「アレンジ」ではなく「リファイン」という形を取っている。リファインとは現在の環境に合わせた音質の向上で、それは「本作の音楽にはこれ以上の手を加える必要がない」というほど完成されたものであるからに他ならない。「クロノ・クロス」の音楽は今でも全く色あせず、むしろ今なおさらに光り輝き続け、数々の場面で音楽と共に涙を流すことになるはずだ。

 ホームワールドのテーマ曲とも言える「時の草原」は「クロノ・トリガー」のメインテーマのアコースティックアレンジといった風で、本作の雰囲気である“南国”感も強く出ており、聞いていて心地がいい。アナザーワールドの「夢の岸辺に」は「ラジカルドリーマーズ」のメインテーマである「Day of Summer」のアレンジだが、どことなく寂し気な雰囲気が強くなっており、ぜひ目をつむって聞いてみてほしい曲のひとつだ。

 他にも名曲の多い本作だが、他に筆者がぜひ聞いてほしいのは、神秘的な雰囲気が漂う「神の庭」や、たった一度きりの某所のバトルでしか聞けない「FATES 〜運命の神〜」。特に「FATES 〜運命の神〜」は一度しか聞けないバトルの曲とは思えないほど鮮烈な印象で、鼓膜に焼き付いてしまう。

 また、「MAGICAL DREAMERS 〜風と星と波と〜」は、発生時期が非常に限定的なイベントで使われているため、この名曲を聴かないままゲームを終えてしまう人も少なからずいるはずだ。聞き逃してしまった人は、絶対に2周目をやらないともったいない、というほどの名場面と名曲である。

 ちなみに本作のBGMだが、実は特定の場所で新アレンジBGMと新曲がある。新アレンジBGMの聞き方や新曲の流れる場所は明かせないが、PVがすでに公開されているので、気になる人はぜひPVを見てほしい。アレンジ楽曲は、思わず身震いしてしまうほどの粒ぞろい。本作のファンはもちろんのこと、まだプレイしたことのない人は本作の楽曲の持つ力の片鱗をこのPVから知ることができるだろう。

【『クロノ・クロス:ラジカル・ドリーマーズ エディション』楽曲紹介映像】

個性豊かなキャラクターたちは、イラストもリファイン!

 リファインされたのは音楽だけではない。キャラクターデザインを手掛けた結城信輝氏によって、全てのキャラクターイラストもリファインされている。より美しくなり、高解像度にも対応したイラストとなっているが、こちらはオリジナル版との切り替えが可能なので、昔のままで遊びたいという人はオリジナル版にしよう。

キャラクターアイコンのイラストなどが、全てリファイン!

 本作には非常に個性が豊かな仲間が45名も登場する(中には人間ではないキャラクターもいるので、”名”という数え方は正しくはないのだが……)。ストーリー上必ず仲間になるキャラクターもいるが、選んだルート次第では絶対に仲間にならないキャラクターや、加入時期が非常に限定的なキャラクターなどもいる。さらには「このキャラクターを仲間にしない方法があるの!?」なんていうルートも存在する。

 そのため全てのキャラクターを仲間にするためには必然的に周回が必要となる。ここで忘れてはならないのが、本作はホームとアナザーというふたつのパラレルワールドを行き来するという点。つまり同じ名前のキャラクターでも、仲間にできるのはホームのキャラクターだったり、アナザーのキャラクターだったりと、仲間によって条件もまるきり変わってくる。

 ホームとアナザーのどちらにも登場するキャラクターをあえてパーティに入れてパラレルワールドのほうのキャラクターに会わせてみると限定イベントが見られるので、こういった細かいイベントを拾っていくのも本作の楽しい点のひとつだ。

パーティの入れ替えは少々手間ではあるが、キャラクターによって様々なイベントがある

 また、画面サイズはノーマルならばオリジナル版と同じ4:3、フルは16:9……といった切り替えができる。ノーマルは画面で黒くなってしまう部分が多く、フルは画面全体が横に伸びてしまう。筆者が今回選んだのはオリジナルの画面をちょっとアップにしたようなズームで、本稿で使用している画像の大半はズームモードでプレイした時のものだ。

画面サイズは、タイトル画面の「SETTING」から変更可能。またグラフィックをオリジナル版にするか、新バージョンにするかもこちらで選ぶことができる

 これは実際の比較画像を見てもらうのが一番で、どのモードにするかは好みにもよると思うが、もしも迷ったらぜひズームを試してみてほしい。

ノーマル
フル

同時収録される「ラジカル・ドリーマーズ −盗めない宝石−」はサウンドノベル

 「クロノ・クロスRD」には、1996年にスーパーファミコン用のゲーム配信サービス「サテラビュー」で配信された幻の名作「ラジカル・ドリーマーズ −盗めない宝石−」も収録される。この作品は「クロノ・クロス」の3年前にリリースされたサウンドノベル形式のゲームで、「クロノ・クロス」の原型となっている。

 選択肢によって物語が分岐していき、選んだ選択次第ではバトルも発生するが、バトルも選択で行なう。ストーリーの内容は「クロノ・クロス」のネタバレにもなるためあまり深くは触れないが、主人公の少年セルジュが盗賊の少女キッド、魔術師ギルと盗賊団「ラジカル・ドリーマーズ」を組んでおり、ヤマネコの館に忍び込み、「凍てついた炎」という秘宝を盗むために邸内を探索していくことで進んでいく物語だ。

 エンディングは複数あり、メインのシナリオが「クロノ・クロス」の原型、かつ「クロノ・トリガー」ともつながりのあるストーリーとなっている。他のストーリーはコメディだったり、ホラー風だったりと、様々な形へと変貌していくので、ぜひ様々な選択肢を試して全てのエンディングにたどり着いてみよう。

バトルで誤った選択肢ばかり選ぶと、バッドエンドになってしまうことも……

 なお、「ラジカル・ドリーマーズ −盗めない宝石−」の音楽も光田氏が手掛けており、そのBGMはスーパーファミコンの時代の作品のため、16bit音楽となっている。「ラジカル・ドリーマーズ −盗めない宝石−」のほうが先にリリースされているため、16bitで作られた名曲らが「クロノ・クロス」でより豪華に生まれ変わったというほうが正しいのだが、「ラジカル・ドリーマーズ −盗めない宝石−」を当時プレイできた人のほうが圧倒的に少ないはずなので、「クロノ・クロス」の楽曲のチップチューンアレンジのように聞こえるという、逆現象が起こる。だがそれはそれでまた新たな楽しみとなって、プレイを盛り上げてくれるだろう。

 「ラジカル・ドリーマーズ −盗めない宝石−」は、発売から25年以上が経ってようやくの復刻作品となるので、ぜひともじっくり楽しんでほしい。