レビュー
「戦場のフーガ」レビュー
時には命すら代償に。戦場を巨大戦車1台で生き抜く子供たちをシンプルかつシビアに描くSRPG
2021年7月28日 00:00
「戦場のフーガ」は,設立25周年記念を迎えたサイバーコネクトツー初の自社パブリッシングタイトル第1弾だ。犬や猫を擬人化した「イヌヒト」や「ネコヒト」達が暮らす浮遊大陸が舞台となる。同社ではこれまでもこうした世界観や設定を「リトルテイルブロンクス」と呼び、これを元に2本のソフトを世に送り出している。
1本は1998年にバンダイナムコゲームスが発売したプレイステーション用3Dアクション「テイルコンチェルト」で、もう1つが同じくバンダイナムコゲームスが2010年に発売したニンテンドーDS用アクションRPG「Solatorobo それからCODAへ」で、いずれも「リトルテイルブロンクス」を舞台にしたタイトルとなっており、歴史を感じさせる。
▼シンプルなシミュレーションRPG。移動操作が一切ないストーリー重視の斬新なシステム
▼シビアな戦略が要求される戦車バトル
▼ゲーム進行の鍵は休息時間「インターミッション」
▼バトルの魅力はヒーロー効果!サポート効果や協力必殺技で難局を突破
筆者は今回「リトルテイルブロンクス」の系譜を受け継ぐという「戦場のフーガ」を通して、イヌヒトやネコヒト達が暮らす世界観に初めて触れたが、正直言って「素晴らしい」の一言に尽きる。猫や犬をモチーフにしたケモノ娘やケモノ少年といった獣人たちが暮らす牧歌的な雰囲気の世界と、そこに登場する第一次世界大戦以降に登場した初期の戦車などをモチーフにしたメカデザインは、筆者にとって大好物だからだ。さらにいうとそもそもケモノは昭和のアニメ「名探偵ホームズ」に代表されるように需要も多く、筆者も大好きな世界観の1つだ。
にもかかわらず、こんな素晴らしい世界設定や構想を持っていながらゲームに関しては10年も新作が出ていないとはなんと「もったいない」とも感じた。同社はそもそも「ケモノプロジェクト」といったケモノにまつわるプロジェクトまで立ち上げるほどのケモノ好きだ。そのくらい愛のこめられたタイトルが同社の設立25周年タイトルとして登場したのは大歓迎したい。
主なあらすじはかなりシンプルで、平和な「ガスコ」という国に突如攻めてきた「ベルマン帝国」。ベルマン帝国の兵士たちは、本作の主人公となるイヌヒトの子供たちが住む村にも出現し、両親や祖父母など村の人たちを次々とさらっていく。ラジオから聴こえる謎の声のおかげでその難から逃れた子供たちは、不思議な超巨大戦車「タラニス」に導かれてこれに搭乗、さらわれた人たちを救おうと決意するのであった、というもの。
正直、これだけでも昭和のアニメや漫画の定番パターンかと心が震えた。最近でも同様のテイストの作品が色々と出ていると思うが、子供たちだけで未知の兵器に乗り込むという点と、この未知の兵器がきっかけで子供たちが戦争に巻き込まれるというテイストにとても昭和っぽい印象を感じたのだ。
それでいて本作は、ストーリーとバトルのみに重点を絞った非常に斬新なシステムを採用しており、これも大きな魅力の1つとなっている。早速そんな「戦場のフーガ」をプレイした感触について語っていくとしよう。
シンプルなシミュレーションRPG。移動操作が一切ないストーリー重視の斬新なシステム
本作は基本的には超巨大戦車「タラニス」を操作して敵を倒していくバトルシミュレーションだ。とは言ってもフィールド内で戦車を配置したり、どのように攻めるか、といった戦略要素はなく、シンプルに「タラニス」と敵部隊との直接対決にのみ焦点を絞ったバトルを繰り返す構成のシステムに仕上がっている。
バトルはコマンド選択式で、敵を倒せば経験値を獲得して子供たちがレベルアップしたり、アイテムを獲得できる。こうして入手したアイテムを使用して戦車の改造などが行なえるなど、RPGのような要素も併せ持っているのが面白い。それに加えてフィールド移動などが存在せず、エリアごとに予め配置されたマス目に沿って進めるボードゲームのようなテイストも併せ持つなど、ジャンルを問われると悩ましい不思議なタイトルに仕上がっている。
本作では自由に村に移動して買い物をしたり、フィールド上でモンスターを倒して経験値や金を稼ぐ、といったことは行なわない。極論を言えば、移動操作は一切行なわず、戦闘の絡む移動、すなわち特定のポイントのみをプレイする仕組みとなっている。
本作は全12章立てとなっており、それぞれの章の構成がはっきりしている。章の初めには本作の舞台となる「ガスコ」の島内地図が表示され、どこを移動しているかが簡略図で示される。そして道中立ち寄った村でのやり取りなどが楽しめる。
村や街では戦時下のため買い物は行なえず、手持ちのアイテムとの物々交換のみが行なえる。他にも街や村の名所を巡ることで、そこで出会った人たちから励ましの言葉をもらったり、現在の状況などを教えてもらいつつ、消費アイテムなどが貰える場合もある。章ごとに話が進む連載漫画「シューカの冒険」といった遊び心のあるアイテムも用意され、懐古的テイストの冒険活劇が楽しめる。
街や村のイベントはいわば本作のプロローグであり、その後は冒険の目的地が示された簡略化したGPSアイコンに到着し、いよいよここで章タイトルが表示される。現地に到着直後の様子は静止画とシンプルな音声やテキストなどで状況が説明され、いよいよ本作のメインとなる各章の特定エリアの攻略がスタートとなる。
画面に表示されるのはシンプルなボードゲームのようなビジュアルだ。特定エリア内の行動についてもあまり自由はなく、原則としてフィールド上に敷かれたレールの上を進んでいく方式だ。レール上には様々なマスが用意されており、道中のマスを通過する際にそれぞれ発生するイベントを行なうという仕組みとなる。
マスには敵との戦闘もあれば、貴重なアイテム獲得のマスもある。またHP回復やSP回復といったマスもあり、ここを通過することで、回復も行なえる。同時に回復できるマスもあれば、どちらかしか回復できないマスもある。また、遺跡のマスでは、遺跡に立ち寄ることで、アイテムゲットの探検のミニゲームにも挑戦できる。
これらのマスはスキップができないため、プレーヤーがやることは原則として1つ1つマスを進めていくことだけなのだが、道中には分岐点が出てくる場合もあり、この時だけは好みで選択できる。選択できる道は安全な道、普通の道、危険な道の3種類だ。
これらの違いは道中に登場する敵の種類や回復マスの数などが異なり、安全な道ほど、登場する敵が弱く進めやすかったり、回復アイテムが豊富ですぐに全快できたりする一方で、危険な道ほど敵が強く消耗が激しい割に回復マスがないため、過酷な連戦が待っている。
これだけ聞くと危険な道をあえて進む理由が気になるところだろう。「願わくば、我に七難八苦を与えたまへ」じゃあるまいし、楽に進めるなら楽な方がいい。本作の場合は厳しい中にもしっかりメリットはある。これはいたってシンプルで、危険な道ほど経験値やドロップアイテムがおいしいのだ。
筆者は今回あえてすべて危険な道を選択し続けた。その結果、「タラニス」内は常に死屍累々、ギリギリで回復して進める、といったプレイスタイルに終始することとなった。正直なところ楽な道ばかり選んだ場合の最終レベルはどのくらいになるのか、その状態で最後までクリアできるのかが気になるところだ。
こうして無事ゴールまでたどり着くと、ストーリーが展開し、場合によってはボス戦などのバトルが発生し、それを乗り越えることで、物語の内容も前に進み、次の章に進んでいくことになる。
道中のマスの1つには「インターミッション」がある。ボードの最初の方のマスとして設定されるほか、中間地点にも1つ、そして章のラスト手前など何か所か設置されている。ここではいわば普通のRPGでいうところの、買い物や装備強化などの「タラニス」の強化や、搭乗する子供たちの強化を行なう場所ともいえる。後述の状態異常からの回復、子供同士の親密度を深める行為は原則としてここでしか行なえないため、単なる休息以上に非常に重要なポイントとなる。
特に本作では体力やSP回復のアイテムが不足しても道中でそれを補う手段が存在しない。そのため、無計画にガンガンとこうしたアイテムを消耗してしまうと、回復できずに詰んでしまう場合も出てくるなど、バトルに関してはかなりシビアな作りとなっている。
なお、インターミッションについてはそこで行なえることが非常に多岐に渡る上に、後述のバトルシステムとも関わる内容も多いため、後ほど詳しく説明することにする。
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