Wiiゲームレビュー

アドベンチャーゲームの金字塔が
装いを新たにWiiで登場!

「アナザーコード:R 記憶の扉」

  • ジャンル:アドベンチャー
  • 発売元:任天堂株式会社
  • 開発元:株式会社シング
  • 価格:5,800円
  • プラットフォーム:Wii
  • 発売日:発売中(2月5日発売)
  • プレイ人数:1人
  • CEROレーティング:A(全年齢対象)


 2005年に、DSユーザーの間で注目されたアドベンチャーゲームが発売された。タイトルは「アナザーコード 2つの記憶」(以下、アナザーコード)。開発元はアドベンチャーゲームというジャンルにおいてエキスパートであるシング。ゲーム自体は短かったが、タッチペンをフルに使った謎解きは今でも印象に残っている。主人公のアシュレイもものすごく魅力的なキャラクターで、日本だけじゃなく世界中のゲーマーたちに愛されたキャラクターだと言える。

 年は過ぎて2009年。今はWiiリモコンという、アドベンチャーゲームにぴったりのコントローラーを備えたゲーム機「Wii」がある。「アナザーコード」の続編が制作されたのも必然的な出来事だ。そして2月5日、グラフィックス面を一新した続編がついに発売された。アシュレイの過去のミステリーが明かされる時が来た!


■ 過去の記憶を巡る謎めいた物語

「アナザーコード:R」の舞台は、ジュリエット・レイクという湖の周辺エリアだ。自然に囲まれたキャンプ場だけでなく、住宅地、レストラン、研究所など、さまざまな場所で過去の記憶を巡る物語が展開される

 ことの発端は1994年に遡る。主人公が3歳の誕生日を迎えた夜のこと。科学者の母親、サヨコは「アナザー」という記憶制御装置の開発に関連した理由で、アシュレイの前で殺される。その後アシュレイは、父親のリチャードの妹ジェシカに預けられる。その一方でリチャードは、サヨコの残したアナザーの論文を手に単身ブラッド・エドワード島へと向かい、アナザーの開発を始める。

 それから11年後の2005年。死んだと確信していた父リチャードから手紙を受け取ったアシュレイは、ジェシカと一緒にブラッド・エドワード島に渡る。そこで生前の記憶を失くしたゴーストの少年ディーと出会うことで、記憶の断片を組み合わせながらアシュレイはリチャードと再会し、母の死とアナザーという装置の真相を知らされる。

 ここまでは、前作DS用の「アナザーコード」であった出来事。ここからは、「アナザーコード:R」のプロローグで語られることだ。

 アシュレイの元に帰り大学の講師になったリチャードは、突然また研究に励みたいと言って、ジュリエット・レイクという湖に面した「JCヴァレー」研究所で働き始めた。研究に没頭していたリチャードは、もう半年前から家に帰っていなかった。アシュレイはもちろん、それをとても悲しんでいた。

 ある日、進展があった。アシュレイの元に、リチャードからの小包が届いたのだ。その中には、DASと呼ばれる小型の端末とファミリーキャンプの招待状が入っていた。最初は戸惑っていたアシュレイだったが、おばさんのジェシカに説得されてジュリエット・レイクに向かうことにしたのだった。

 ファミリーキャンプに辿り着きバスを降りた瞬間に、アシュレイは過去の記憶に襲われる。幼い頃、母と一緒にこの場所を訪れていたという記憶。何の目的で来たのかはわからない。だが、確実に訪れていた……。

 「アナザーコード:R」は、過去の記憶の断片に隠された真実を見つける為に奮闘するアシュレイの物語だ。現在と過去のパズルを組み合わせることで少しずつ、アナザーという装置とサヨコの死にまつわる真実に近付いていく。

各エピソードの最後でそれまでに得た情報をクイズ形式でまとめるというのは、「ウイッシュルーム」と同じ構造だ記憶の断片が写真として保存される。エピソードの最後に人物と場所の記憶の写真を正しく組み合わせることで、記憶が事実として成立する

■ 直感的に何でもできる理想的なインターフェイス

 日本のアドベンチャーゲームが大好きな筆者だが、「アナザーコード:R」は紛れもなく理想的なインターフェイスを持っていると思う。移動、アイテムの選択、背景物の捜査など、すべての操作をWiiリモコンで直感的に行なうことができる。自分の手が画面の向こうのバーチャルな世界に実際に入っている感覚を味わえる。

 移動では、リモコンの十字ボタンか画面の左右に表示された矢印をタッチすることでアシュレイを動かす。捜査は、画面内の気になるところにポインターを合わせながら進行する。ポイントしたものを調べることが可能なときは黄色く表示され、Aボタンを押すことで説明文が表示される。

 机や本棚など複数の物が存在する場所をポイントした場合は、Aボタンを押すとカメラがズームインし、対象物に載っている物(メモなど)をさらに詳しく調べられる。この丁寧でわかりやすいインターフェイスのおかげで、捜査はいつも気持ちよく、ストレスを一切感じることなく進めることができる。

 また、メニュー画面でも役に立つ機能を提供している。登場人物の多い本作だが、見やすい相関図がありキャラクター同士の関係をいつでも調べることが可能だ。これまでの物語のあらすじもゲームの進行に応じて更新されるので、最後に遊んだときからしばらく時間が経ったとしても、重要な情報を忘れないように今までの出来事を振り返ることができる。

移動パートでは、奥や手前に分岐点がある場合、画面に表示される上、下の矢印をクリックすることで好きなほうに進むことができる捜索できるものがある場所にいるときは、カメラがアシュレイの背後に位置される。画面の左右にある矢印アイコンをクリックすることで、部屋の中を見回すことができる画面の右下に、DASやアイテムなどのアイコンが表示される。それらにリモコンのポインターを合わせてAボタンを押すと、メニューを開くことができる

■ 見たことのないような独特なグラフィックススタイル

 DSからWiiに引っ越した「アナザーコード:R」は、グラフィックス的に飛躍的な進化を遂げた。キャラクターと背景はすべてポリゴンになったのだが、カメラは「スーパーマリオブラザーズ」や「風のクロノア」などのゲームと同じように、側面から主人公の動きを追いかける。

 実は背景物はすべてポリゴンではなく、ポリゴンで表現されたものもあれば、ドットグラフィックスで作られたものもある(木や茂みなど)。3Dと2Dが違和感なく融合されていて、画面に流れる景色がいつも綺麗で、ユーザーの目を輝かせる力を持っている。こんなに個性的なグラフィックスは本当に久しぶりで、筆者はそういう面では「アナザーコード:R」はユニークなゲームだと思う。

 移動パートは側面からの視点で表現されるが、建物に入ると捜査パートに移る。捜査パートでは部屋の正面にある物が見えるように、カメラが主人公の背後に移動する。リモコンの左右でキャラクターの向きを変えることができ、周囲のアイテムなどを簡単に調べられるのも魅力の1つだ。

 本作のグラフィックスは単に綺麗なだけでなく、所々で独創的な演出が散りばめられている。例えば、建物の部屋から部屋へと移動する際に、机や本棚などのすべての背景物が立体的な絵本のように地面から現われる。言葉で説明するのは難しいが、その特殊な効果に毎回癒された。

 このような演出は、移動パートでも挿入される。違うエリアに向かう時に、カメラが走るアシュレイの背後に移り、木や建物などの背景物が立体的な絵本のように地面から生えるのだ。それはものすごく幻想的で、それを見るために筆者はわざわざエリア移動を何度も繰り返した。気持ち良くて心まで癒すことのできるこのすごい特殊効果を、プレイしてぜひ自分の目で確かめて欲しい。

この画像では伝わりづらいが、エリア移動する際の演出は素晴らしい。シングに脱帽!アシュレイが過去の記憶に襲われる瞬間に画面が歪み、過去にあったイベントが表示される。その演出はオリジナリティーに溢れている

■ 全体的に冗長さが目立つ会話パート

 「ウイッシュルーム」を始めとしたシングの全作品は、捜査よりも文章を重視したアドベンチャーゲームばかりだった。「アナザーコード:R」も例外ではない。

 会話パートでは、2分割された画面にアシュレイと相手を表示。モーションキャプチャーによるリアルな身振り手ぶりをしながら、キャラクターたちは会話を進める。ユーザーはそれを読み、新しいキーワードが出たときにそれに関する新しい情報を得られるという、アドベンチャーゲームとしては非常にオーソドックスなスタイルでゲームが進む。またフラッシュバックを使用するストーリー展開は、シングならではのテクニックだ。

 会話パートに関しては、相手の受け答えが多いのが気になる。例えば、主人公が「カバンを失くした」と言ったら、相手は「カバンを失くした?」と返してくるというように、新しいワードが出るたびに相手は高い確率で「なになに?」という受け答えをしてくる。

 1回だけならまだしも、これが頻繁に繰り返されると会話のテンポが非常に遅くなるため、読む側がストレスを感じることも少なくないだろう。個人的には、相手のセリフの気になるところでボタンを押して会話に割り込むといったシステムのほうが、変化があってよかったのではないかと思う。

 また、ゲームの寿命を伸ばすためか全体的に冗長な文章になってしまったのも気になるところ。特に前半のほとんどは、文章を読むことに時間を費やすことになる。登場人物が多いこともあり、新しいキャラクターが登場する度に紹介する必要があることは認めるが、もうちょっと文章を簡略化したほうがゲームのテンポがよくなったのではないだろうか。

 実際の小説もそうだが、別に本が分厚いから買うのではなくて、作品が面白いから買うのだろう。本作の1番目立つ欠点はセリフの長さだ。アドベンチャーゲームのスペシャリストであるシングに、次の作品からこの問題を是非解決して欲しい。

相手の質問に答える際には、お決まりの文章による選択肢ではなくアシュレイの表情が2パターン表示される。例えば、頷くと断るという表情核心に辿り着くまでのキャラクターのセリフが長すぎる。その冗長さは、ゲームのテンポを損なうケースが多い相手の話の途中で、さまざまなキーワードが出てくる。相手の話が終わったら、そのキーワードについてさらなる情報が聞き出せる

■ リモコンをフルに使う独創的な謎

特定の謎を解くためには、アイテムとアイテムを組み合わせる必要もある

 DS用の「アナザーコード」はDS特有のタッチペンを活かした謎を提供していたが、今回はWiiリモコンが謎解きパートの主人公となる。前作では「DAS」というDSによく似た端末を使って謎に挑んでいたが、今回はそれに加えてWiiリモコンに似た「RAS」というコントローラーを活かしてさまざまな謎を解くことになる。

 本作の肝となる謎解きについては、先ほども述べた通り物語の前半はほぼ文章を読むことに時間を費やすことになり、手ごたえのある謎に挑戦できないのが残念だ。ほとんどの謎は、リモコンを使って物を運んだり動かしたりといった簡単なものばかりで、謎が提示される回数も非常に少ない。2時間の会話シーンのあとに1つのシンプルな謎に挑戦するというのが前半の主な流れだ。

 しかし後半に入ると状況が変わる。提示される謎の数が増えるだけでなく、その難度も上がる。会話などから得られるヒントが減り、アドベンチャーゲーム好きにとって初めて本当の挑戦が始まる。

 数々の謎の中でも特に印象に残ったのは、ドアのロックを解除する謎解き。この謎解きでは画面に番号などが表示されるが、リモコンにはない番号が含まれていることもあるため、どうやってそのコマンドを入力するかを推理する必要がある。

 もう1つ面白いと思ったのが、DASを使った写真撮影。DASでは気になる背景物を撮影でき、その写真を謎解きに利用することもできる。写真と写真を重ねて表示させたり、写真を回転させることで新たな発見ができるのも、本作の魅力の1つといえる。

前半では本当の意味での謎よりも、リモコンを使った直感的な動きがユーザーに要求される。例えば縄を投げたり、実験管を振ったりするといったアクションだ。そのシンプルさにアドベンチャーゲームのベテランは不満を抱くだろう謎を解く際に、リモコンの動きが正確に読み取られないケースもあった。個人的には、物を回転させるときの正確さが中途半端だと感じた最後の謎は、逆に難しすぎる。ヒントが少ないということもあって、アドベンチャーゲームに馴染みのないユーザーは苦労するだろう

■ 予想以上に長く遊べる意欲作

 ユーザーによって本作の寿命は変わるが、ゲームをクリアするのに少なくとも10時間程度は必要。筆者は文章を読むのが比較的遅く、何でも調べたくなる性分なので20時間ぐらいかかった。結構満足できるボリュームだ。

 ゲームを1度クリアすると、2周目以降はいくつかの変更点がある。文章の早送りやムービースキップができるようになる上に、DASに送られるメッセージの内容が変わることでキャラクターたちの新たな一面が見えてくる。謎解きに関しても、内容が微妙に変わったり、入力する必要のあるコマンドの数が増えたりと難度が上がる。また2周目のエンディングに、あるものが追加されるというのもやりこみ派のユーザーにはたまらないだろう。

 ただ、キャラクターにリアルさを与えるために開発者たちはモーションキャプチャーを使用したが、ボイスが一切ないというのが納得できない。任天堂の昔からのポリシーだろうが、アドベンチャーゲームというジャンルでは、特に音声が必要だと思う。アシュレイたちがリアルな手ぶり、リアルな表情をしているのに、その口からは何も音が発せられないというのが残念でならない。

 このほかに気になったところは調べられる物の多さ。異常なぐらいの多さ。ストーリーに関連があると思われるものだけをチョイスして調べてもいいが、関係ない物が多過ぎると、どれが重要なのかわかりづらくなるケースが多い。丁寧な作りではあるが、調べられる物をもうちょっと少なくしたほうが良かったのではないだろうか。アイテムの説明文を読むのが好きな筆者はそれを欠点とは思わないが、この点においてもやはりバランスがキーワードだろう。

 結論を言うと、「アナザーコード:R」は決して完璧なアドベンチャーゲームではない。しかしその独特なグラフィックス、世界観、インターフェイスが大勢のユーザーを魅了することは間違いない。文章の長さのせいでテンポが不安定な本作だが、ストーリー展開がいつも気になってエンディングを見たくなるのは確実だ。



【Reported by ジョン・カミナリ】
芸名:ジョン・カミナリ
国籍:イタリア
年齢:33歳
職業:俳優、声優、タレント、テレビゲーム評論家
趣味:テレビゲーム、映画鑑賞、読書(山田悠介)、カラオケ(アニメソング)
デビュー作品:銀幕版スシ王子!(ペぺロンチーノ役)
ブログ:ジョン・カミナリの、秘密の撮影日記
 イタリアで6年間テレビゲーム雑誌の編集部員として働いたあと、新しい刺激を求めて2005年に大好きな日本へ。子供の頃から夢見ていた役者の仕事を本格的に始める。堤幸彦監督の「銀幕版スシ王子!」で個性的なマフィアのボス、ぺぺロンチーノを熱演。現在もTVドラマやTVゲームなどで、俳優・声優として活躍中。日本語を勉強し始めたのは23歳のとき。理由は「ファイナルファンタジーVII」や「ゼノギアス」などのRPGの文章を理解するため。好きなジャンルはRPGと音楽ゲーム。「リモココロン」のような個性的なゲームも大歓迎。お気に入りのゲームは「ゲームセンターCX」と「ワンダと巨像」。芸名はイタリア人の友達に、本人が雷のように予想不可能なタイミングで現われるからという理由で付けられた。将来の夢は、大好きな「龍が如く」シリーズに敵役として出演すること


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(2009年4月10日)

[Reported by ジョン・カミナリ ]