2020年12月9日 18:00
人間は、毎日睡眠を必要とする。食事をとらなければ死んでしまうし、水分も同様だ。だが、汚い水を飲めば感染症になり、塩水を飲めば逆に喉が渇いてしまう。生の食物をそのまま食べると消化不良になるので、火を通さなければならない。暑い時期に厚着をしていたら脱水症状になってしまうし、寒い時期に暖を取らずにいたら風邪をひく。持てる重さには限界があり、自分の持てる荷物の限界量をカバンにいれてしまうと、一歩も歩くことができない。獣の牙などで傷つけられると、感染症になる。
何を当たり前のことを、と思うかもしれない。だが、こんな当たり前の出来事を、ゲームに反映したらどうなるだろうか。その再現にチャレンジしたタイトルがオープンワールドRPG「Outward」だ。
「Outward」はPS4/Xbox One/PC(DMM GAME PLAYER)向けソフトで、カナダのNine Dots Studioが開発するタイトル。元々は英語版のみだったが、2020年12月10日、日本語版がPS4版とDMM GAME PLAYER版にてリリースされる。ソロプレイのほか、オンライン/オフライン(画面上下分割)で最大2名でのプレイにも対応する。
本作は、極々ありふれたひとりの人間――すなわちプレーヤーが、時には理不尽な罪を背負わされたり、獣や盗賊に襲われたり、空腹、暑さ、寒さ、怪我、病気など、ありとあらゆる現象と戦いながら、生きていく”だけ”に特化したゲームと言える。ある程度の物語はあれど、必ずしもその道筋通りに生きる必要もない。むしろ道筋通りに生きようとして、失敗するのが大半だろう。
ゲーム内では常に時間が経過しており、ゲーム内で寝れば日数も経過する。そして既定の日数を過ごせば、物語の進行を問わず季節は変わってゆく。物語の進行やエリアによって季節が変わることはあれど、睡眠を必須とするゲームでありながら睡眠で日数が経過し、かつ季節も変わってゆくゲームはなかなかないのではないだろうか。
なお筆者がこのゲームの魅力に辿り着けたのは、プレイから数時間後。ちょっと時間がかかってしまったのは、筆者がそもそも極端に地図を読むのが苦手なためで、普段からマップがないゲームでもすぐに道順が覚えられるタイプの人ならば、恐らくもっと早くこのゲームの魅力に気付けるはずだ(筆者の方向音痴ぶりは、某死にゲーの開始地点のエリアを、数年間に渡り10周以上プレイしていても、未だに覚えられないレベル)。
そんなとある冒険者たる筆者の綴る物語に、耳を傾けてほしい。
シビアすぎるゲーム性に、一度は音を上げる
プレーヤーは、オーライという大陸のシエルツォに暮らしている、普通の人間だ。だが、プレーヤーの祖母が昔犯した大罪を償うため、”ブラッドプライス”と呼ばれる借金を先祖代々、抱えている。
そんなプレーヤーの前にまず立ちはだかるのは、もちろん借金の返済。しかも、オープニングで起こる出来事のせいで、いきなりたったの5日間で借金を返済しろと迫られる。
先祖代々続く借金をたった5日で返すだなんて、無理に決まっている。もちろんプレーヤーもそう訴えるけれど、諸々のせいでそれもままならない。
ちなみに返済額は、銀貨150枚。と、言われてもどれくらいの量かわからないと思うが、何もわからずにやっている場合、5日以内に返せる金額ではない。しかもこのゲームは、冒頭の通り「寝れば時間が経過する」ので、5日経ったら本当に借金が返済できなかったものとして扱われる。
「物語を進めなければ、いつまでもお金を稼いでいられる」なんていう、甘っちょろいゲームではないのだ。
しかもこのゲーム、基本的に一度したことは取り返しがつかないと思って良い。セーブデータからロードし直せばいいだなんてことは許されず、選択肢を選んだ後にはオートセーブでセーブデータが上書きされている。キャラクターは何体も作成可能だが、セーブデータはキャラクター毎にひとつまでしか持てないため、必然的に一度選択を間違えたキャラクターは、そのまま進んでいくしかない。
実は筆者はプレイを開始して数時間ほどの頃、一度担当編集に「これ以上、このゲームをプレイできないかもしれない」と泣きついていた。このような泣き言を口にするなど、筆者のライター人生で初めての出来事だ。その全ては、「やり直しができない点」にあった。訳もわからずふらふらと無防備に街の外に出た筆者は、盗賊に襲われて身ぐるみ剥がされ、それまでに買い揃えてきた装備などをほぼ全部失ったのだ。
結局この後、筆者が取った行動は――”新たにキャラクターを作り直す”だった。嘘だと思うような、本当の話だ。 この時筆者は4時間ほどプレイを進めていたのだが、訳もわからず彷徨った挙句に全てを失ったプレイデータをこのまま続けるよりも、何をすればいいのか少しつかめてきた状態から新規にゲームをやり直したほうがマシだと考え、実際その判断は今になっても間違っていなかったと思っている。このように、プレーヤーが常に「こんなことになっちゃったけれど、どうする?」と問われ続けているのが、本作「Outward」だ。
――さて、話を戻すが、そんなしんどさが溢れる中だろうとも、2体目のキャラクターも5日以内に銀貨を150枚返さなければならないのだ。だが、よく話を聞くと、借金の返済には銀貨150枚以外に、”部族恩”なるものを手に入れるという方法もあるらしい。
ならば、そのクエストとやらを受注できる人物が、どこかにいるのではないか。”新生2代目筆者”は街の中をうろうろと歩き続け、そしてついに「怪我をしたので包帯を欲しい」という村人を見つけ、その村人に包帯を渡すことで”部族恩”を手に入れたのだった。
ちなみに包帯は、道中で拾った”亜麻布”を2枚、クリエイト(合成)して作ったものだ。この包帯ひとつですら貴重品なので、うっかり別のことに使用してしまっていた場合、恐らく他のプレーヤーも「最初からやり直したほうが早いな……」という気持ちになるだろう。
恐らくこの部族恩については、なんとなく頭の片隅に残りつつも、結局は銀貨150枚を律儀に返す道を模索することになるだろうプレーヤーが多いと思うが、余程見落としがない限り道中で普通に手に入れられる包帯ひとつで借金が帳消しになる部族恩が得られるとは、まさか想像もつかないだろう。かくいう筆者も、部族恩とはきっといくつもあって、それらクエスト的なものを解決して、一定量を集めていくものだとばかり思っていた。だが、街中を歩いていてもそれらしき人が全く見当たらなかったため、いつしか部族恩のことを忘れていたのだった。まさか銀貨150枚の借金が、包帯ひとつで解決するだなんて……。
キャラデリする必要など、全然なかった。身ぐるみ剥がされた状態からでも、包帯ひとつあれば部族恩を得られて、終わっていた。それに気が付いた時は、ちょっとだけ泣いた。だが、失った4時間で得られたものも大きかった(と、思うことにした)。余談だが、5日以内に返せなかった場合、借金が銀貨300枚になるうえに住居として使っていた灯台を奪われたりと、まさに踏んだり蹴ったりの状態になる。理不尽だらけのようなゲームに見えつつ、包帯ひとつで全てを解決できてしまう救済策がしれっと用意されているあたり、実は理不尽ばかりではないということが伺える。