「Outward」レビュー

Outward

リアルな生活を、より詳細に紹介

 さて、部族恩を得た筆者は、色々あって、晴れて自由の身になった。包帯ひとつで手に入れた部族恩の価値があまりに重すぎるのでは、と思いつつ、そこについては深く追究しないでおこう。プレーヤーはシエルツォを旅立つ3名のキャラクターにそれぞれ誘われて、いずれかの道を選ぶこととなる。ここでどの道を選ぶかがストーリーの分岐となるのだが、何はともあれ旅立たなければならない。ここからが、いよいよ本作の真骨頂とも言える、過酷な冒険の真の始まりだ。

 本作においては時間が経てば眠くなり、だが安全性が確保されていない場所で迂闊にテントを張って眠れば、野盗に襲われたりすることもある。街の中など安全な場所であれば、眠っても奇襲される心配はない。

野営をする時は、そこで眠ると奇襲される確率が表示される。睡眠時間と同時に見張る時間を多めに設定すれば奇襲確率を0%にすることができるものの、その分時間は経過してしまう。ブラッドプライスの返済中ならば、5日間のカウントダウンが進むことになる

 だが冬に眠る場合、外気温が低いため、そのまま眠れば風邪を引く可能性が高い。焚き火セットをテントの近くに置いておくと体温が維持できる反面、あまりに長く焚き火の傍で眠っていると今度は体温が上がりすぎて、熱中症になったりする。

 生魚や生肉を食べればほぼ確実に食中毒に、生の果実ですら稀に食中毒になるので、できるだけ火を通して食べなければならない一方で、全ての食べ物は時間経過で腐敗する。いつまでも大事に抱え込むことはできず、定期的に食料を補充し、調理しておかなければならない。

”旅人の糧食”は、この世界の一般的な携帯食。食べ物(なんでも良い)×2、塩×1で旅人の糧食が3個作れる。調理するには台所を使うか、もしくは焚き火+鍋が必要だ。そして焚き火をするには、木×3で焚き火セットを作っておかなければならないし、鍋はあらかじめ商人から購入する必要がある

 更に、水の準備も必要だ。水を運ぶには”皮袋”が必要だが、皮袋はクリエイトができないため、どこかで拾うなりするしか入手手段がない。皮袋さえあれば水場で水を汲めるが、汚い水では腹を壊し、海辺では塩水を入手できる。塩水を飲めばより一層喉が渇くのだが、焚き火セットと鍋があれば塩水を蒸留して、きれいな水と塩を手に入れることができる。塩は様々な料理に使うので、塩水は意外と用途がある。(とは言っても、鍋を購入するまでは蒸留もできないのだが)

基本的に”きれいな水”以外は、飲んだ時に消化不良を起こす可能性がある

 空腹を放置すれば、体力の最大値が減少していき、敵からの被ダメージも増加。水を飲まずにいると、スタミナの最大値が減少していき、敵からの被ダメージも増加。睡眠を取らないと、スタミナ回復速度とマナ(MP)回復速度に影響する。消化不良を起こすと食事をとった時に一定確率で嘔吐し、食べ物の効果を無効にしてしまうし、感染症にかかると体力を徐々に失っていく。

怪我(流血)をしたら、包帯で治さなければならない

 地図を開いても自分の現在位置がわかるなんていう親切さはなく、ただ各所の位置が示されているだけだ。強いて言うならば都市だけは青い宝石のような飾りがついているものの、むしろ目印になるものはそれだけだ。あとはコンパスとマップで、目印になるようなものを頼りに歩むしかない。

何のヒントも書かれていないため、最初は随分戸惑った地図。青い宝石がついているところが都市なのだと気が付くまでにも、数分を要した

 しかもこのゲームは、前述の通り日付が経過すれば季節がどんどん変わってゆく。下図のマップはふたつとも、プレーヤーが最初に訪れることになる、ケルソネスというエリア。

 どちらも同じケルソネスなのだが、ゲーム内で季節が移行してしまうと、同じエリアでも景色がまるで変わってしまうのが、わかるだろうか。全てのエリアが同じように四季によって様変わりするわけではないのだが、しっかりとした目印を自分で把握しておかないと、割と簡単に変わった景色に惑わされ、再び迷ってしまう。

ケルソネスで目印になるのは、らせん状の山。この山はエリアのほぼ中央に位置するため、コンパスと地図とで自分の現在地を把握しやすい

 しかも、転送やワープ移動なんていう便利な機能もなければ、我が家にあるアイテムボックスが実は別のアイテムボックスと亜空間で繋がっていてアイテムを共有できるだなんてことも、一切ない。

 シエルツォ(開始地点の村)のアイテムボックスに入れたものはシエルツォでしか取り出せないし、ベルグ(別の街)のアイテムボックスに入れたものはベルグでしか取り出せない。なのに、エリアを切り替えるたびに、”旅人の糧食”が一定数必要になる。筆者は当初、旅人の糧食を求められるのは関所的なところに支払う通行料かと思っていたのだが、どうやら”エリアとエリアを切り替える”=”その間の長旅で使用した食料”という設定のようだ。

 そのため、一度エリア切り替え時に失ったからおしまいなのではなく、エリアを切り替えるたびに一定数の旅人の糧食を求められる。よって必然的にエリアの行き来は最小限に留め、次のエリアに進んだら次のエリアを拠点に、できるだけ移動しないのが得策だ。だが、新たなエリアで自分の家を持ちたい場合、法外な金額を要求される。

筆者は銀貨500枚を払ってベルグに家を購入したが、アイテムやクリエイトレシピ付き、台所に錬金術セット、ベッドにアイテムボックスと、割と中身は充実しているため、頑張って銀貨500枚を稼ぐ価値はある

でも、その銀貨どうやって稼ぐの?

 このゲームは、全てが過酷。銀貨1枚を稼ぐのも序盤は難しいが、そこらへんで拾うことができる”油”と”水”だけで、”暖かいポーション”を作成することができて、この暖かいポーションが序盤の金策に最適とされている。(ただし、暖かいポーションを作成するためには、まず錬金術キットを購入する必要があるので、そこまでは不要なものを売ったりするしかない)

 暖かいポーションはひとつ銀貨4枚で売れる。油と水だけで3個の暖かいポーションが作れるので、必然的に全部売れば銀貨12枚分だ。これを量産することで、かなりの銀貨を稼ぐことができる。

 実際筆者も暖かいポーションをひたすら作りまくって売ることで、鍋や装備、錬金術キットや、この先の旅にどうしてもほしいクリエイトレシピなどを買い揃えた。だが、やがて暖かいポーションだけでは物足りなくなってくる。もちろん暖かいポーションは簡単に作れるため、素材が余っていればどんどんお金稼ぎに使っていいのだが、わざわざ素材を取りにいく手間を考えると、いずれ暖かいポーションでは時給換算で割に合わなくなってくるのだ。

 そんなプレーヤーに勧めたいお金稼ぎは、”追い剥ぎ”になること。……この世界観では実に勧め難いのだが、残念ながら事実。金に困った人間が盗賊に堕ちるように、結局人間が人間を襲うのが一番効率がいいのである。

別に、あれを倒してしまっても構わんのだろう?

 人間の敵を倒せば、武器などのアイテムが手に入ることが多く、それをしこたま持って帰って街で売りさばくか、売れない場合は分解して素材にしてから売るなどもできる(稀に、売ることも分解することもできないアイテムもあるので、そういうアイテムは捨てる)。

 しかも人間の敵は、貴重な皮袋(水を運べるアイテム)をドロップすることもあるので、襲わない手はないというものだ。

かつては自分も盗賊に全てを奪われ、キャラクタークリエイトからやり直しまでしたのに、人間って本当に非情よね……(ごそごそ)

 ちなみに、今更ではあるが、本作には魔法が存在する。使用条件は本作らしく割とシビアで、修得にもお金やら何やら、かなり大事なものを要求される上に、選択を誤ったと思っても取り返しがきかない要素のひとつではあるのだが、本作は戦闘がかなり厳しいため、魔法があることで有利に働く場面は数多くある。

基本的にこのゲームでの戦闘は1対1となるが、魔法があれば最悪2体くらいまでは同時に相手にできることもある。あくまで”できることもある”だけで、推奨はしない
中には、”シギル”と呼ばれる魔法陣と、そこに更に魔法を重ねた、”組み合わせ魔法”なるものも。火のシギル+スパークで、中距離攻撃となる”ファイヤーボール”の魔法を使うなど、組み合わせ魔法はかなりの数があるので、そのエリアにいる敵の弱点や、自分の使いやすいものを発動できるよう、スロットにセットしておくと良い

 なお、ゲーム開始当初はたった重量25までしか入らないカバンしか買えなかったのだが、追い剥ぎを繰り返しているうちに重量75のリュックを買うことができたので、より一層追い剥ぎ行為が捗ったのは、言うまでもない。

どうですか、奥さん! このリュック、追い剥ぎをすれば簡単に買えるんです! その代わり失敗すると、自分が身ぐるみ剥がされるんですけれどね!

 もちろん、頑なに邪道に落ちないのも、ひとつの道ではある。これだけリアルさを追求しているからこそ、自分から人間は襲わないというのも、有りだろう。実際、このゲームの中は、実に生活感が溢れている。世界観はファンタジーであるものの、時間が経てば経つほど、まるでこの世界に本当に生きているかのようなリアルさを感じるのだ。

 だから、どうしても人を襲うことに躊躇いがある……というプレーヤーには、鹿やハイエナ、シャコなどを狩るのをオススメしたい。これらの生物たちも2体を相手にするのは無謀なので、1対1で戦うことは意識しよう。

 また、魔法だけではなく、罠などのアイテムも使うことができる。まずは仕掛け線の罠を所持していないとならないが、罠を張り、敵をひっかけることで、比較的安全に強敵にも大ダメージを入れることが可能だ。

敵が引っ掛からなかった罠は、回収可能。エコ。

 どのような敵を相手に、どのように戦うか、それを模索していくのも本作の魅力のひとつ。

 戦闘の難易度は高いが、攻撃タイミングの慣れと、1対1を意識していれば、大体はどうにかなる、というのが筆者の印象ではあるものの、何せプレーヤーはちょっと魔法が使える程度のほぼ普通の人間なので、かっこいい剣劇で敵を圧倒できるわけでもなければ、颯爽とジャストタイミングでローリングを決めて敵の攻撃をかわせるわけでもない。なのに敵は「どこのPvPのプロだよ」というレベルの回避を行ってくるので、非常に腹立たしいが、ある種の我慢比べのようなもので、先に振った方が負けるのだ。

 ちなみに、メインクエストの中では(ルート次第で)NPCとの戦いを命じられるものもある。「悪人だから」と斬り捨てるも良し。あくまで平和的に解決してみようというのも良し。そもそもとしてクエストそのものを無視してサバイバル生活を楽しみ銀貨稼ぎに勤しんだところで、何も問題はない。

クエスト次第では、「倒せ」と言われた相手に友好的に接されることもあるのだが……
友好的解決を試みた結果、敵に酔わされた後、身ぐるみはがされて奴隷になった。なおこの時は様々な手段でなんとか奪われた装備を取り戻すことはできたのだが、キャラクターを新たに作り直した時くらいのピンチだった。また全てを失う寸前だったかもしれない。ちょっと油断したらこうなるので、本当に危険だ

 ……つまりこんな風に、色々と現実的な要素を盛り込みつつ、銀貨や持ち物を奪ったり奪われたりするゲームである。

 面倒だけれど、気が付くとその面倒さにハマってしまう。あまりに不親切すぎて何をすればいいのかもわからないけれど、なんとなく色々やっているうちにわかってくる。

 ただ、わかってきたころには取り返しのつかない要素がいくつも発生している場合もあり、そうなった場合は、一度そのルートでの冒険を終えて新たにキャラクターを作り直すこともある。

 さて、以下では上記で紹介しきれなかった要素について、紹介していこう。