2020年8月28日 14:00
筆者は悶々する日々が続いている。e-スポーツ界などでもおなじみのハイエンドドライビングホイール「T-GT」(スラストマスター)が現在生産がストップしているようで、欲しくても買えない状態が続いているからだ。オークションやフリマアプリで定価を超える高値が付けられた未使用品を無理して買うべきか、冒険にはなるが中古を手に入れるか。もしかしたらPS5/Xbox Series X向けに新型が発表されるかもしれない。
そんな悶々とした状況の中、編集部から「未発表の新型ハンコンあるけどテストしてみない?」とお誘いがあり、無類のゲームハードウェア、特にコクピット系ハードウェア大好き(しかも新型ハンコン欲しい病まっただ中の)筆者はこの嬉しすぎる依頼に即座に飛びつかせていただいた。
テスト品が筆者宅に到着するまでにざっくり話を聞いてみると「G29の後継」、「型式は”G923”」、「筐体や作りはほぼ同じ」、「フォースフィードバック(以下、FFB)を一から作り直した」とのこと。触ってみなければなんともいえないが、「FFBの刷新」これが一番の肝だろうから期待がだいぶ高まる。
ちなみに筆者が使用してきたPC系レーシングホイールの歴史を紹介しておくと、スラストマスター「Formula T2」、マイクロソフト「Microsoft Sidewinder Force Feedback Wheel」ロジクール「GT FORCE」、「GT FORCE Pro」、「G25 Racing Wheel」となり、「G25」でHパターンシフターの面白さを知ったその後は質感向上を求めてスラストマスターの「T500RS+TH8RS+他」を導入し、現在まで使用中となっている。
「G27」、「G29」はスキップとなったが元ロジクールユーザーとして、十数年ぶりのロジクール製品がどこまで進化しているか興味は尽きない。今回、比較対象として「G29」もお借りしているので実際プレイして比較しながらテストレポートをお送りしたい。
まずは本体をチェック。外見は「G29」とほぼ同一
テスト品が到着してそのパッケージを確認すると、「G923」のセールスポイントが書かれている。要約すると「”TRUEFORCE”は次世代FFBでアクションやエンジン音と連携し、プログラム上の設定で最適なトラクションを得られる。デュアルモーター式のFFBのメカニズムを持ち、それは2倍の精度と1,000Hzまでの高速応答が可能。各部材は本物の素材を使って構成され、ハンドル上のセレクターダイヤルや回転数のLEDインジケーター、向上したブレーキスプリングはすばらしい操作性を誇る」ということだ。いやが上にも期待が高まってくる。
各部ディテールをチェックしてみる。たしかに言われていた通り筐体やボタン配置に違いはなくこれでコストカットにつながっていると思われる。カラーリングは変わっていて「G29」での赤い調整ダイヤルと水色だったボタンは濃いグレーになった。ハンドルのスポークやパドルシフトはアルミ製で、これらも黒く塗装されていて触ってみるとサラサラでちょっとひんやりして気持ちがいい。ハンドル中央のオーナメントは”PS”ロゴからロジクールの”G”ロゴに変更された。
直径約28cmほどのハンドル自体は革巻きで高級感たっぷり。手触り感も程よいグリップ感をもち、滑ることもなさそう。革を痛めたくなければレーシンググローブをしたほうがいいかもしれない。全体的に黒くなってしまってボタンの判別がつきにくいかもしれないが全体的にオモチャっぽさが消えてスパルタンな印象になった。最大回転角度は900度となっており「G29」を含めた多くのハンコンの標準的な角度となっている。そして両サイドには”TRUEFORCE”のロゴが入れられ、ロジクールの”TRUEFORCE”への絶対的な自信をアピールしている。
そしてペダルの変化に驚かされた。筐体もペダルも「G29」と同じ作りに見えるが、ペダルを押し込んでその違いがはっきりわかった。「G29」のブレーキペダルは2段階というか、踏んでからさらに「こいつめ!」とばかりに押し込まなければならない領域があり、スラストマスター系でいうところの「ブレーキMOD(※コニカルラバーブレーキ)」が内蔵されているような感触がある。
しかし、「G923」のペダルユニットは受ける感触が全く違った。確かにコニカルラバーブレーキは実車のような感覚があるかもしれないが、プレーヤーを選ぶところがあって実は難しい装備ではあった。「G923」では0~100%全域にわたってリニアで重めのペダルフィールが感じられる。リニアなフィーリングはブレーキング中のミリ単位の踏み具合をコントロールすることが容易になるのでブレーキロックなど妙なミスを防ぐことができそうだ。
注意点としては、「G29」と「G923」の共通点としては特にブレーキにおいて半端ない踏力を必要とするところ。ロジクールは昔からカーペット用に滑り止めの歯がペダルユニット底面に用意されているが、まず間違いなくペダルユニットがはずれてしまう。レーシングコクピットなどへ底面のボルト穴を使って確実に固定したいところだ。
固定できたなら今度は踏み方にも注意が必要で、金属製のペダル面は意外と滑ってしまう。特に靴下をはいていると”ずばっ”と踏むと”ずるっ”と上側に足先が逃げて行ってしまう。ペダルの根元から足の腹で”ぐぅっ”っと押し込むかレーシングシューズの使用を考えよう。
そして、別売オプションのロジクールGのハンコン専用シフター「ドライビングフォースシフター」は「G923」でももちろん使える。接続も「G29」同様でハンドル本体底面に接続する形で6速マニュアルシフトを表現できる。シフトレバー本体もショートストロークでカチっと心地よくシフトを入れることができる。リバースギアへはノブを垂直に押し込みながら6速側へ入れることで機能する。なお、PCでは設定で変更できる場合が多いので、走り出す前にオプションを確認して欲しい。
比較のためにひとまず「G29」で走ってみる。十数年ぶりのロジクールロスは取り戻せるのか!?
G923の評価に入る前に、評価のベースとなるG29のFFB特製についてしっかり把握しておく必要があるだろう。そこで手始めにG29で「グランツーリスモSPORT(以下、GTS)」をプレイしてみた。コースは「筑波サーキット」、クルマは「トヨタ86」をチョイス。もちろんマニュアルトランスミッションを選択する。
数周走ってみたら実車に近いタイムで走れるようになったのでハンコンとしての実力も申し分ない感触だった。FFBに関して言えばなにかのリアクション、たとえば縁石への乗り上げやクラッシュなどに対して振動が起こる感じで、基本的に”FFB”といえばこういうものだ。
ある程度感覚がつかめてきたので、同じく「GT SPORT」で「レッドブル・リンク」、「F1500T-A」をチョイスしてハードなレースを行なってみた。1980年代の強烈なF1マシンでここ数年もF1レースが行なわれる、その昔”A1リンク”と呼ばれていたサーキット。上りのブラインドコーナー(その先が見にくいコーナー)が多くトラクションをかけるのが超難しいサーキットでもある。最近、筆者はトラクションコントロールシステムの値を”0”にしてトラクションをスムーズにかける練習をこのサーキットで行なっていることもあってこのチョイスとさせていただいた。
とても驚いた。アクセルの開け方、エンジン回転の上がり方がとてもスムーズだった。正直スラストマスター系のペダルセットではここがなかなかシビアで苦労しているところもあったが、この「G29」のアクセルペダルはそれよりもスムーズにトラクションをかけられる印象。今回素材はないが「鈴鹿サーキット」のヘアピンコーナーの立ち上がりもリニアにトラクションがかかっていった。そしてFFBも同様にきっかけがあって初めて機能する感じで、ダートに飛び出したりクラッシュすると大き目のリアクションが返ってくる。そしてクルマ自体のパワーにあわせてFFBも強くなる感じだった。
思っていたよりも少ない時間で優勝することはできたので、ロジクールロスはあっさりと消滅してしまったようだ。筆者が過去使用していた「G25」の感覚にすぐ戻れた。ロジクールのハンコンの実力はさすがの一言。さすがに現行のベストセラー商品だけはあるし、高級ハンコンにも引けを取らない精度を出してくれている。それでは以下、今回の本命である「G923」に設置し直そう。
G923による衝撃の”TRUEFORCE”体験!
今回筆者がテストに使用したゲームの中で”TRUEFORCE”に対応していたのはPS4「グランツーリスモSPORT」、PC「Assetto Corsa Competizione(以下、ACコンペティツィオーネ)」の2タイトルだった。
まず手始めにPC「ACコンペティツィオーネ」で試してみる。PC上ではドライバ―/コントロールソフトウェアとして「ロジクール G HUB」を導入する必要がある。レビュー時点での同ソフトウェアのバージョンは「2020.6.58918」だった。導入されたら最新版かを確認しておこう。
さっそく「ACコンペティツィオーネ」で走ってみた。「ロジクール G HUB」で認識していることを確認し、「ACコンペティツィオーネ」のコントローラー設定を行なう。「G923 Racing Wheel for PS4 and PC」という項目が出てきて、それを選択すると”TRUEFORCEオーディオゲイン”という項目が現れる。これは「G29」接続時には表示されない項目だ。
準備万端で”シングルプレーヤーモード”・”フリープレイ”を選択。サーキットは「ニュルブルクリンク グランプリコース」、クルマは「レクサス RC F」をチョイスしてさっそく走ってみよう。「ACコンペティツィオーネ」では走り出す前に車両の”電源ON~エンジン始動”という手順を踏むことになるが、すでにそこから”TRUEFORCE”が実力を発揮してくれる。
エンジン始動からニュートラルギアでの空ぶかし、パッケージにあったように”エンジン音と連携”というのはこういうことだと気づかせてくれる。さらに走行中の路面の状況やタイヤをこじったり、Gがかかったりぬけたり、グリップがあったりなかったりという状況も克明に伝えてくれる。
今回”TRUEFORCE”を体験しながら、この衝撃をどのように伝えればいいのか非常に悩んで試行錯誤を繰り返してみたが、走り込んでいるうちにG923のかすかな駆動音に気づき、この音を使うのがもっとも伝えやすいのではないかと思った。そこで、今回「G923」での動画撮影においては、収音のため別マイクを用意してASMR(和訳すると自律感覚絶頂反応)的な収録方法にトライしてみた。わざわざ集音して音を拾っているので大げさに聞こえてくるが、実際にはほとんど耳には入らず、手に伝わってくるものとなっている。
おわかりいただるだろうか、エンジン始動の時点ですでに違いが明確だった。新型「G923」は走行中もずっと”ころころ””じりじり””ぐりぐり””がーーーっ””かこんかこん”などオノマトペで表現するととても多彩に演じわけており、このように微細な表現をプレーヤーに伝えてくれる。走行状況はもちろんのこと、走るに至るまでの”演出”も見事にこなしてくれていてプレーヤーをその世界へいざなってくれる。
そして大多数の方がプレイされているだろう「GTS」でのFFBは派手さはないがバランスが取られている感触でハードウェアの使い方は”さすが”の一言。卒なく路面の状況やGのかかりやぬけ、タイヤが横方向のGで削られていく感触を微細に表現してくれている。「G29」同様「筑波サーキット」、「トヨタ86」と「レッドブル・リンク」、「F1500T-A」という組み合わせで走ってみた。前述の「ACコンペティツィオーネ」同様のASMR的収録方法となっており環境音が大きめになっているのでご確認いただきたい。
ブレーキフィールにも触れておきたい。「G923」のブレーキはリニアな踏み込みが可能だと前述したが、ハードブレーキング時にも”ドンッ”と踏み込んでからのブレーキロックにならないところでの微妙な力加減がとてもやりやすく、そのおかげでブレーキングポイントもこれまでのハンコンシステムより奥にすることができる。筆者も最初のころはブレーキが余ってしまって再加速させたぐらいだった。ヒール&トゥでも踏力を固定させることが容易で実車での練習にもなるのではないかと感じられた。
スラストマスター「T-GT」での同様の機能「T-DFB」は現状PS4の「グランツーリスモ SPORT」でしかその効果を発揮しない。”TRUEFORCE”はその壁を破ってマルチプラットフォームでの展開となっている。
残念ながら商品としては“今回も”PlayStation/PC、Xbox/PC(こちらは日本では発売無し)と分けて開発・発売しなければならない状況は変わらなかったが、プレーヤーからすると一歩前進したように思える。PCであればXbox「Forza Motorsport」シリーズがプレイできるので、そちらが対応すればPlayStation/PC版の「G923」があればいいのかもしれない。ただし、執筆時点ではPC版「Forza Motorsport 7」は「G923」は対応していなかった。
PC上で「G923」を扱う上で素晴らしいのはそのカスタマイズ力にある。PS4やXboxでは基本的にFFBの強さなどのパラメーターを細かく変更するのは難しい場合があるが、PCであればコントロール/ドライバーソフトウェアの「logicool G HUB」をベースにゲームによってそういった設定を細かく”プロファイル”として記録しておけるからだ。さらにゲーム側での実装具合によってもそのパフォーマンスをいかんなく発揮することができるだろう。
なお、オフィシャルリリースから「GRID」、「グランツーリスモSPORT」、「iRacing」、「Assetto Corsa Competizione」、「F1 2020」、「DIRT RALLY 2.0」での対応が発表されている。さらに対応タイトルは増えていくということでマルチプラットフォーム・マルチソフトウェアでの対応により期待が高まる。
ハイエンドハンコンと比較すると……?
筆者は現時点ではスラストマスターの「T500RS」を使っており、いわゆるハイエンドハンコンの部類に入る。さらにフェラーリF1レプリカのステアリングやHパターンシフターを追加、そしてペダルユニットを最近発売されたばかりの「T-LCM」に交換するなどの改良を加えている。そして先日同社の「T-GT」をレビューし、高級ハンコンはひととおり触れてきている。価格にして10万円クラスで、まだFanatecなど上には上があるものの、ゲームファンが手軽に手を出せない製品なのも事実だ。
機能的には「G923」の”TRUEFORCE”は「T-GT」の”T-DFB”と同じようなFFBを与えてくれるものという印象だ。どちらも”ハプティクス”という触覚に訴えかける技術ということになるが、それを得るためにかかるコストを考えると「T-GT」が約10万円、「G923」が約6万円と考えればどちらにすればいいか悩みどころではある。確かに価格が高いほうが相応の部材や電力を使っているので”高品質”なのは事実だろう。現状「T-GT」が手に入りにくかったりすることもネガティブな要因だし、合わせて「G923」に「ドライビングフォースシフター」を組み込んでもUSB1本で接続できるという手軽さは称賛に値する。
コストパフォーマンスを優先させると次は質感の問題が出てくる。「T-GT」等の高級ハンコンのがっちりした剛性感や動きのスムーズさ、部材も含めた質感の高さは対価を払っても十分満足できるものだ。ただ、以前のレビューを踏まえたうえで今回の「G923」をテストした結果”レーシングカーの運転”という一点で考えればまったくそん色なかったのも事実。ハンドルは”TRUEFORCE”で高精度に路面の状況を伝えてくれるし、アクセルペダルとブレーキペダルはその解像感とミリ単位でのコントロールのしやすさは他の高級ハンコンでは感じられなかったことをお伝えしておきたい。
新たな覇者となるシムレーサー誕生を期待する!
”弘法筆を選ばず”という言葉があるように、e-スポーツのトッププレーヤーからすればデバイスの違いはさほど影響はないと思われるが、この「G923」のハンドル・アクセル・ブレーキのコントロール性の高さは、eスポーツ界の新たなスタンダードになるかもしれないと思わされた。
全ての機構がとてもスムーズであり、自分がどれだけ動かしたいのか、どのポジションに固定させたいのかを確実にソフトウェアに伝えられる。ドリフト状態でもグリップの変化が豊かに伝わってくるし、レース中でもミサイルになって突っ込まなくなったり、ブレーキかけすぎでタイヤロックしにくくなったり、トラクションもぎゅわっとかけられてホイールスピンしにくくなるなどいいことずくめ。マルチプレイでも迷惑をかけずに参加できる。
あまたいるであろうお茶の間シムレーサーが「G923」を使うことで新たなる覇者となる可能性も出てきたのではないだろうか…….「ロジクール G923 レーシングハンドル&ペダル」はそんな期待を抱かせてくれる高コスパの新世代ハプティクスデバイスだった。