「Destroy All Humans!」レビュー

Destroy All Humans!

エイリアン侵略アクションの名作が待望のリメイク!潜入、拉致、破壊……あらゆる手段で人類をもてあそべ!!

ジャンル:
  • アクションアドベンチャー
発売元:
  • THQ Nordic
開発元:
  • Black Forest Games
プラットフォーム:
  • Windows PC
  • PS4
  • Xbox
価格:
3,750円(税込)~
発売日:
2020年7月28日

 THQ Nordicは、プレイステーション 4/Xbox One/PC用アクションアドベンチャー「Destroy All Humans!」(以下、“DAH”)を7月28日に発売した(Steam版は7月29日発売)。本作は1950年代のアメリカを舞台に、宇宙人を操作して合衆国を混乱に陥れるというトンデモ設定のゲーム内容。黒服に身を包んだ秘密組織のエージェントや巨大ロボといった、ベッタベタな敵キャラたち……。古き良きSF映画の影響が色濃い3Dアクションアドベンチャーの傑作が、この夏リメイク作品として帰ってきた!

 2007年にプレイステーション 2向けに発売されたオリジナルの日本語版は、その残虐性が問題となったことからシナリオが大幅に改変され、日本人向けにパロディ満載の吹替がなされたといういわくつきの作品。もはや別物として生まれ変わったオリジナルの日本語版は一部で大いに話題となったが、今回発売されるリメイク版のDAHは、あくまで原作に忠実なシナリオを日本語字幕で楽しむ形となる。

 そのキワモノじみた設定や、人間を倒して脳みそを引っこ抜くという非人道的なプレイ内容から一見バカゲーとも思える本作だが、戦闘は多勢に無勢でシビアな状況に陥ることも多く、軍事基地に潜入したり、要人を誘拐したりと、ステルスアクションに近い緊張感のあるプレイも味わえる。今回のレビューでは発売前のSteam版をプレイできたので、本作独特のインモラルプレイの楽しさ、SFネタや冷戦ネタをこれでもかとぶっ込んだ演出の面白さについて紹介していきたい。

【追記】 Nintendo Switch版が2021年8月26日に発売された。

【Destroy All Humans! - Release Date Trailer】
【【日本限定】Destroy All Humans!(デストロイ オール ヒューマンズ!)スペシャル映像】

超兵器や超能力を有するも、水には弱いエイリアンの孤軍奮闘!

 本作はミッションクリア形式のサードパーソン・シューティング・アクションアドベンチャーであり、3Dフィールドでの地上戦や、UFOを操る空中戦といったミッションをクリアすることで、ゲームの本編が進む。主人公の「クリプト-137」(以下、“クリプト”)は、銀河の彼方にある「フロン帝国」のクローン戦士。地球の調査中に連絡が途絶えた仲間のクリプト-136を捜しつつ、アメリカ各地で人間のDNAサンプルを採取(もとい人間を虐殺)し、その過程で合衆国と対立を深める……というのが本作の大まかなストーリーだ。

 クリプトを操る地上戦では、電撃銃や分解光線といった超兵器で人間を排除していくため、ゲーム開始直後は「撃ちまくりの無双ゲーかな?」と思ってしまいがちだ。しかし、そうは問屋が卸さない。武装は強力でも、クリプト自身の耐久力は低く、普段は体の周りにバリアフィールドを展開している。このバリアは人間の銃弾や砲撃を食らうと少しずつゲージが減るため、警官や兵士に囲まれると、大ピンチに陥ることも。ゲージは一定時間が経つと徐々に回復するが、ゼロの状態で攻撃を受けるとあっけなくゲームオーバーになる。また、水が弱点という設定により、少しでも水に浸かるとゲージがあっという間に減っていく。オリジナル版のように一撃で死ぬことはなくなったが、それでも瀕死の状態で敵から逃げ回るうちに、川に足を突っ込んでジ・エンド、なんてこともあり得る。

本作では主人公のクリプト(右)と「ポックス博士」(左)の2名で地球を侵略するが、博士は武装強化などのサポート役なので、戦闘に出るのは実質クリプト1人
初めて接触した生命体(牛)を地球の支配種族と思い込むクリプト。この後、腹いせに牛をサイコキネシスで仕留めるなど、なかなかに心が狭いやつ
電撃銃の「ザップ・O・マティック」は、ロックオンせずとも前方の標的を自動で捕捉する。立ちふさがる人間どもを骨の髄まで痺れさせてやれ!
こんな浅い川に入っただけで死ぬなら、そりゃあ歌やコンピューターウイルスで死ぬ宇宙人もいるわな……(注:90年代の映画の話です)

 最初のミッションでは物体を持ち上げる「サイコキネシス」と電撃銃くらいしか攻撃手段はないが、ゲームが進むにつれて武装は充実していき、残酷さも増していく。例えば、高威力のエネルギー弾を撃ち出す「分解光線」は人間を溶かし、緑色のビームを発射する「アナルプローブ」は尻から脳みそ(DNA)を抽出する。また、時限爆破装置の「イオンデトネイター」は広範囲の対象を吹き飛ばして消滅させるなど、威力がえげつない。ただ、本作では出血や部位破壊などのリアルな表現はなく、アナルプローブから逃げ回る人間の姿などは見ていると段々と笑えてくる。感電して悶える人間や、溶け残った骸骨などにゲラゲラできるようになれば、あなたも一人前のフロン星人だ!そもそも日本では河童が尻子玉を抜く逸話もあるし、尻から脳みそ抜く程度の描写なら大丈夫でしょ。えっ、そんなことない?

 とはいえ、強い兵器にはデメリットもある。強力すぎて、人間が消し炭になってしまうことだ。これでは死体からDNAを抽出できない!また、逃げ惑う人々を手当たり次第に消していると街の警戒レベルがどんどん上がり、警察や軍隊、果てには秘密組織「マジェスティック」の黒服エージェントまで集まってくる。警察の銃くらいなら大したことないが、エージェントの武器はかなり強いため、何事もやりすぎは禁物だ。初めのうちは電撃銃で人間を仕留め、少しずつDNAをかき集めて武装を強化していくといいだろう。人間など後からいくらでもプチプチ潰せるのだから、焦ることはない。

分解光線の弾に当たって骨だけになった人間。攻撃が非人道的すぎるって?クリプトは人間じゃないから、いいんだよ!
オリジナルの日本語版では「イチジクビーム」に改変されていたアナルプローブ……。2020年の世界は、どうやら表現規制がないらしい
イオンデトネイターはボタンの長押しで射程が伸び、射出後は任意のタイミングで起爆可能。できるだけ大勢の人間や戦車などを巻き込もう!
集めたDNAでクリプトやUFOの武装を強化できる。電撃銃は強化していくと複数の人間を巻き込めるようになるので、オススメだ
死体からDNAを抽出する際は頭が破裂する演出も。間近で見るとグロ注意……

千里の道も一歩から?人類に溶け込み、任務を遂行しよう!

 先述のように、本作は多勢に無勢の状況が基本となるため、戦闘では必要に応じて撤退しながら回復を待ったり、敵をできるだけ分断させて各個撃破を狙ったりと、細かな立ち回りも重要だ。また、侵略を成功させるには闇雲に破壊工作を繰り広げるだけでは不十分。時には敵の要人を洗脳したり、同士討ちさせたりと、ジワジワと内部から崩壊させる絡め手も必要だ!というわけで、本作では超能力を駆使したステルスアクションを求められる場面もあり、エイリアンの多彩な侵略行為を体験できる。

 例えば、クリプトには任意のNPCに変身する能力があり、人に化けている間は警戒レベルが上がらず、安全に街の中を探索できる。この警戒レベルを上げないように(正体がバレないように)進めるミッションが意外と多いくせに、変身中は適度に人間の脳波をスキャンして精神力メーターを補給しないと変身が解ける。また、中盤から増えてくる黒服のエージェントは宇宙人の探知センサーを持っており、範囲内に入ると精神力メーターが一気に減っていく。そのため、探索中はミニマップでセンサーの範囲を確認しながら任務を進める必要があり、油断も隙もありゃしない。他にも催眠術の「フォロー」という能力で要人をUFOまで連行したり、兵士を操って周囲の注目を集めたり、味方にしたりと、クリプトに休む暇はない。宇宙人の侵略って、こんなに大変なんだなーと同情したくなってくるほどだ。

 本作の宇宙人は典型的な悪者顔だが、その実はテクノロジーの力で己の弱点をカバーする努力系男子。「技術力はスゴイのに、意外なモノが弱点」というのはSF映画に登場する宇宙人のテンプレでもあり、このギャップが何とも微笑ましいのだ。そう思うと、ツルっとした頭や小っちゃな胴体で一生懸命に人間を虐殺するクリプトが、急に可愛らしく見えてこないだろうか?えっ、無理……?ですよね!

脳波スキャンを行なうと人間の思考も読み取れるが、田舎町の住民の脳内は農作業と性交のことばかり……って、さすがにモブでも描写が雑すぎるわ!
マジェスティックの秘密基地ともなると、あちこち探知センサーだらけで緊張感がやばい……結婚式で浮気、なるほど
軍の基地に忍び込んで、要人を誘拐するミッションもあり。見つからないよう、慎重に進もう
操作に慣れてきたら、フォローの能力で人間を操り、同士討ちを狙うのも面白いぞ!

上空から街を破壊するも、あっさり墜ちるUFOの悲哀

 ミッションには地上戦だけでなく、UFOに乗り込んで上空から街を襲撃する空中戦もある。クリプトと同様にUFOもシールドを有しており、ミッションが進むにつれて高威力の兵器が使えるようになるが、強力なものほど弾数に限りがある。そのため、最初から使える「殺人光線」(ネーミングがド直球!)で施設や人間を焼き払うのが基本の戦い方になってくる。軍の戦車や施設ならともかく、何の罪もない一般人の街を攻撃するのはちょっと……などと戸惑う方もおられるかもしれないが、大丈夫。そんな逡巡は、地上戦と同じく一瞬で終わる。殺人光線を民家や逃げ惑う人間に浴びせるうちに、段々とあなたのサディスティックな部分が露わになるので、心配無用だ。

殺人光線は、ボタンを押し続けることで赤い熱線を照射。建物を壊すだけでなく、当たった地面をも燃やし尽くす
「アブダクト・O・ビーム」はサイコキネシスと同様、車などを持ち上げて投げつけることができる
反物質を標的に放ち、衝撃波を発生させる「ソニックブーム」。見た目の派手さに欠け、弾数も限りがあるため、筆者はあまり使わなかった
「量子デコンストラクター」も弾数が少ないものの、空間を捻じ曲げるほどの超兵器であり、使用感は一番気持ちがいい!

 神の視点で地上を蹂躙できるなら、さぞ気持ちよかろう!と思うかもしれないが、UFOの移動は無駄にリアルな慣性が働いており、方向キーを少し動かすだけでも想定より動いてしまいがちだ。それに加えて本体の当たり判定も大きいため、思うように攻撃を避けられない場面もしばしば。車両や人間からエネルギーを吸い上げる「ドレイン」でシールドのゲージを回復できるが、慣れないうちは移動と回避に手間取るだろう。リアルさを追求したからこそのUFOプレイは、良くも悪くも侵略の難しさをプレーヤーに見せつけてくるのだ。

最初のミッションで操作に手間取り、軍隊の集中砲火を浴びる筆者のUFO
ゲームオーバーになると新聞に醜態が晒される。田舎町の新聞の片隅で生涯を終えるなど、これ以上の屈辱があろうか!?
UFOに乗り込むミッション自体は少なく、どちらかと言うと、イベントシーンで引っ張りだこ

演出過剰な冷戦時代の空気感が、SFマニアにはたまらない?

 ここまでゲームのプレイ内容を紹介してきたが、筆者としては本作の癖が強すぎる演出にこそ注目したい。DAHは1950年代のアメリカを舞台に、エイリアンの地球侵略を描いた作品だ。そのため、シナリオの中では冷戦時代の共産主義の脅威が繰り返し語られる。事実、秘密組織のマジェスティックは、共産主義国家(ソ連)との戦争に備えて田舎町の若者を組織に勧誘したり、テレビを使って国民を扇動しようとしたり、牛を使って非道な放射線実験を行ったりと、目的のためなら手段を選ばない。見方によっては、宇宙人よりよっぽどタチが悪いのだ。民衆は民衆で頭が空っぽのように描かれており、共産主義を悪と信じて疑わない。そんな世界を歩いていると、むしろ宇宙人の登場で目を覚ましてやれ!みたいな気持ちになってくるから不思議だ。

 極端な時代背景の描写が謎なリアルさを生む一方、本作のキャラクターは逆にどこまでも昔ながらのSF映画のテンプレートを踏襲する。主人公からして典型的なグレイ型の宇宙人のデザインで武器は電撃や光線銃だし、冒頭の牛に遭遇する演出もベタだ。敵の軍人はどいつもこいつもアメリカ万歳の脳たりんで、困ったらとりあえず戦車やロボットを持ち出す。エージェントは全員が黒帽子に黒スーツって「逆に目立つわ!秘密裏に行動する気あんのかこら!」と突っ込みを入れたくなる。いつ戦争が起きるか分からない緊張感、国家ぐるみのプロパガンダなど、時代設定が巧みな分、思いっきり単純化されたキャラ設定によって現実とフィクションが混ざり合う。そんな奇妙なプレイ感覚を味わえるのが、本作の大きな特徴なのだ。

市長に化け、住民の質問に答えるシーン。冗談のつもりで「共産主義のせいにする」を選んだら……
住民からまさかの拍手喝采!この演出には筆者もドン引きで、某国から怒られないのかとヒヤヒヤした
円盤の襲撃も全部アカ(共産主義者)の仕業……って何でやねん!怒られるぞ!
アメリカ・イズ・ナンバーワンを絵に描いたような軍人がロボットを従えて登場とか、もう突っ込む気力もないっすわ

サクサク進むミッションに、やり込み要素も満載!

 本作のミッション自体は20~30分ほどでクリアできるものが多い。サクッと進む分、後半ほどミッション中に様々な指令が追加され、戦闘に潜入、誘拐とバラエティに富んだ遊びを楽しめる。できることは多いが、攻撃や変身、催眠術もボタン1つで実行でき、アクションはミッションの進行に伴い少しずつ増えるため、思ったよりも操作が楽だったというのがプレイした素直な感想だ。

 手軽に遊べる一方で、各ミッション中には「地面に足をつけるな」や「ロケットを使って兵士を倒す」など、プレーヤーの腕が試される任意の目標も設定されている。他にも、各マップに2~30体ほどある自律型ドローンの「フロンプローブ」を集めると、DNAだけでなく、イラストギャラリーも追加され、収集要素も抜かりない。クリアしたミッションは再挑戦できるし、マップを探索して時間制限付きの「チャレンジ」クエストにも挑めるなど、プレーヤーを飽きさせない工夫が光る一作なのだ。

人間を撃ち殺さず、敢えて海までサイコキネシスで運び、溺死させるという任意の目標。いやー、夕日が美しいね!
フロンプローブはマップの至る所に隠れているので、コンプリートを目指すのも一興だ
ミッションの進行に応じて、各マップのチャレンジクエストも順次、解禁される
マップに降り立ち、指定の場所まで行けばチャレンジスタート!本編では出番の少ないUFOを操作したり、思う存分に暴れまわったり、好きなだけ楽しもう

 宇宙人を操作して人類の殲滅を目論むという色モノ枠でありながら、本作は大味になりがちな外国製のゲームにしてはアクション性も高く、手応えのある戦闘やステルスアクションを楽しめる。ぶっ飛んだ背景設定は極端に感じられる一方で、国家のためという免罪符を得た人間の愚かしい所業を目の当たりにすると、どっちが悪者か分からない場面も確かにあった。それだけ制作陣が本気で50年代のアメリカやSF映画の世界を再現した、とも言えるが、まあ正直そんな小難しいことは考えず、今日もいそいそと無抵抗な市民から脳みそをちまちま頂くのが本作の正しい遊び方なのでは?とも思う。そんな倫理観をどっかに置き忘れてきたようなDAHの不思議な魅力を、この夏ぜひご堪能あれ。

特定のミッションの任意目標を達成すると主人公の見た目を変えられるので、腕に覚えのある方は挑戦してみよう!
ミッションの一枚絵は不謹慎なものが多く、ブラックユーモア好きにはたまらない
記念すべき最初の犠牲者となる農民。「戦闘力5のゴミめ!」と思える頃には、あなたも立派な侵略者だ