「SEA OF SOLITUDE」レビュー

SEA OF SOLITUDE

水没した都市、怪物の少女……共感できる苦悩と清涼感が魅力のアクションアドベンチャー

ジャンル:
  • アクションアドベンチャー
発売元:
  • EA
開発元:
  • Jo-Mei Games
プラットフォーム:
  • PS4
  • Xbox One
  • Windows PC
価格:
1,900円(税込)
発売日:
2019年7月5日

 「SEA OF SOLITUDE」はドイツのベルリンに拠点を置く独立系開発スタジオ、Jo-Mei Gamesが開発し、Electronic Artsが販売するステージクリア型アクションゲームだ。

 広大な海が広がる世界に1人、ボートに乗って浮かぶのはケイという少女の名を持つ黒い毛むくじゃらの怪物である。人の形をしているが、目だけは怪しげな赤い瞳を光らせる。

 ケイは普通の人間のように、歩いたりジャンプしたり泳いだり、ボートを漕いだりして暗い世界を進んでいく。そんなケイの行く手を阻むのは、ケイと同じような黒く毛むくじゃらの姿をした巨大な怪物たちだ。怪物たちはケイを罵りながら行く手を阻んだり、ケイ自身に悩みを打ち明けたり、ケイを食べようとして行く手を阻む。

 このような世界でケイはどこへ向かうのか? ケイはなぜ怪物の姿をしているのか? ケイと対峙する怪物の正体は何か? ちょっとユニークなシチュエーションのタイトルだが「SEA OF SOLITUDE」を最後までプレイする事で、プレーヤーはこうした謎の全てを知り、ケイの深層心理の奥底にある悩みや悲しみを共有し、共に解決していくことになる。今回はそんな不思議な世界の冒険アクション「SEA OF SOLITUDE」を紹介したい。

主人公はケイという少女の名を持つ黒い怪物だ。赤く光る眼が不気味だが、話す言葉や口調は女の子そのものだ
海上の主な移動手段はボートだ。この世界には自分以外にも多くの巨大な黒い怪物たちが出現し、ケイの行く手を遮る
建物の上などを走り回ったりジャンプしたり、ちょっとした段差を昇る事もできるが、超人的なアクションは行なわない

沈みゆく街の中を怪物の少女がさまようアドベンチャー

 「SEA OF SOLITUDE」は怪物となってしまった少女を操作し、水没した街を探索していくアクションアドベンチャー。ちょっとおどろおどろしいホラーっぽい要素も含んだ不思議な世界観が魅力だ。主人公のケイは女の子の意思を持っているが、全身が黒く毛むくじゃらの怪物の姿で、怪しげな赤い目と背中に背負ったオレンジのリュックが印象的だ。

 この世界は大半の建物が水没した海だらけの世界として描かれ、住人などは登場しない。フィールドを埋め尽くす海と空は雨が降り続け、灰色で薄暗い。また、ケイの記憶も失われており、なぜ自分がここにいるかもわからない。ケイは目的も探しつつ前に進んでいく。

 さらに海の中には常にケイを狙い続ける魚の形をした怪物が存在する。怪物は泳ぎが速いが地上に上がってこられないため、ケイはボートを使って移動している間と海上の建物にいる間は怪物に食べられずに過ごすことができるが、海中を泳いでいる時に怪物に見つかると食べられてしまう。

 後半になると海上でのシーンが減るためそれに伴い出番は減るが、魚の怪物は本作の象徴とも言うべき存在感を示しており、魚の怪物に食べられるシーンのみ、衝撃的なカットシーンが用意されている。そのカットシーンは、魚の怪物の体当たりの衝撃で真上に飛ばされたケイがそのままバクっと鋭い歯で2度3度とかみ砕かれるというなかなかショッキングな映像だ。

 なお、魚の怪物に対しては、位置を知るためのボタンが割り振られていて、怪物の現在の位置をチェックできる。海上を泳いで移動する必要がある場合などは怪物が離れた時を見計らって海に飛び込むことで、危機を回避できる。また、魚の怪物が危険な位置まで接近してくると、画面全体に青みがかかってくるので、これを危険信号として状況を把握する事もできる。

ケイは常にオレンジのリュックを背負って行動する。リュックを背負っている事については劇中ではほとんど触れられる事はないが、実は重要な役割を担っている
魚の怪物についてのみ、ボタンを押す事で現在の怪物の位置を確認する事ができるようになっている
接近に気が付かず海を泳いでいると食べられてしまう! カットシーンに入ってしまうと、最早逃げ出す術は何もない。映像も不気味だが食べられる時の音もかなり不快だ

 プレーヤーはケイを操作してこの世界をさまよい歩き、ボートに乗って海を移動したり、泳いだり、海上に上がれる建物があればそこに上がって歩いたりジャンプして段差をよじ登ったり、梯子を昇ったりして移動していく。ボートの移動や歩いている時の操作感は、速すぎず遅すぎずちょうどいい感覚だ。欲を言えばダッシュする機能があってもよかったが、広いフィールドを走って移動する場面は少なく、狭いエリアを歩きまわる事が多いので、ちょうどいい速度に感じた。

 本作には魚の怪物以外にも様々な黒い怪物たちが登場する。これら怪物たちは時にケイの行く手を遮るし、時にはケイに語りかけたり、怒ったり、悲しみをぶつけてくる。怪物たちの中には鳥や狼など動物の形状を模した物も存在するが、いずれの怪物も黒く、目が赤い点は共通している。赤い目と全身黒ずくめで毛むくじゃらの怪物たちの見た目はかなり恐怖を感じさせるものばかりだ。

 これら怪物たちを妨害したり、または対話する方法はフィールドのいたるところにある「穢れ」を取り除くことだ。ケイの向かう先には至る所に、穢れと呼ばれる謎の黒く蠢く物が光や自身の分身などを束縛している。ケイはその穢れを自身が背負うリュックに吸収する事で取り除く能力を持っており、右手を穢れにかざすことで束縛された光や自身の分身を解放していく。

 どこに「穢れ」がいるのかは、序盤で使えるようになるフレアと呼ばれる光の弾を使う。本作ではマップなどの表示がないため、ストーリーを進めるためには次にどこに行けばいいか、目的地を探す必要がある。このフレアはケイの左手から発せられ、次に自分が進むべき目標に向かって光の弾が放出されて飛んで行き、目的地を教えてくれる。

 フレアは障害物などに当たるとそこで弾けて消失してしまうため、目的地に向かう途中で消失してしまう場合は、自身の場所を変えるなどしてフレアを飛ばし、正しい目的地を探す。

魚の怪物以外にもいろんな怪物が登場する。中には動物の姿をした怪物も登場するが……
光などを封じている穢れを取り除くことで、物語が展開していく。この時、穢れはケイのリュックに吸収されていくのがわかる。リュックは穢れを入れるためのものだったのだ
フレアを放つと光の弾が次の目的地に向かって飛んでいく。何度でも放てるが、建物など障害物は通過できないので、放つ場所と軌道を考える必要がある

 また、フレアを武器として使って穢れを倒す場面も出てくる。エリアによっては人の形をしてケイを襲ってくる穢れも登場するのだ。このような穢れと対峙した場合、通常の穢れを取り除くスキルでは対応できない。このような時は、穢れにフレアの光を当てる事で消滅させることができる。なお、単純にフレアを放つだけでは消滅させることはできず、1度穢れとの距離を詰めて、こちらを追ってくるように仕向けて動かす必要がある点には注意が必要だ。

 このように、穢れによる束縛から解放された光や自分の分身の力を使うことで、怪物を妨害したり、怪物との対話を経て、物語が進んでいく。そしてエリア内の全ての穢れを払う事で暗闇は晴れ、日の光が差し込み、水没していた都市から水が引いていき、建物が姿を現すようになるし、怪物もその姿を消していく。

 この時のビジュアルと演出がとても気持ちいい。暗かった空が1点の光から一気に広がっていく見せ方は爽快だし、特にこれまで灰色だった海の色が明るくなると同時に、海の水が一気に引いて、水没していた建物が姿を現す描写は本作の見どころの1つと言える。明るくなって解放されたエリアを歩くのはとても気持ちいい。

 問題を解決するためのフィールドは建物の壁や水などで囲まれており、そのエリア内の問題を解決しないと先に進むことはできない作りだ。逆に囲まれたエリアの中なら自由に移動する事ができる。これらはエリアごとに章立ての構成になっており、1度クリアした章は後でメニューから選んでそこだけやり直す事も可能だ。

人型の穢れを消滅させるのにもフレアを使用する
問題が解決したエリアは暗い空が晴れ、水もきれいになり、明るい雰囲気に一転する。エリアは章立てで区切られており、全12章構成だ

 フレアで示された場所までどのようにして移動するかが本作のゲームとしての面白いところだ。シンプルに歩いていけるところをたどっていけば到着するような場所もあるが、中にはどうやってそこにたどり着けばいいかわかりにくい場所も多く存在する。

 高い場所への移動で困った時は、周囲に梯子がないか探すなどしていくのがいいだろう。また、エリアによっては温風機が設置され、一定間隔でかなり強い熱風が噴き出す場所もある。このような場所では、温風機の熱風を利用して高い場所に昇ることができるが、真横からの熱風はこちらの進行を阻害する。こうしたユニークな仕掛けがあちこちに用意されており、最後まで頭を使いながらのケイのアクションが楽しめた。

 筆者がゲーム的に最も苦労したのは第5章の途中にある海上の建物への移動だ。この辺りは建物の多くが水没しており、ボートが使えないため、海上にかろうじて飛び出ている建物の上をたどりながら目的の建物まで泳いで移動する必要があるのだが、その周辺には当然、魚の怪物がうろついている。そのため、海上の建物まで泳ぐ最短ルートを模索しつつ、怪物の位置を把握しながら泳ぐ必要があったのだが、そのタイミングがかなりシビアで、何度も怪物に食われまくったが、最終的にはギリギリのタイミングでうまくたどり着くことができた。

温風機の仕掛けから一定時間ごとに噴き出る熱風を利用して、通常のジャンプでは届かないような場所にも移動する事ができる
筆者が最も苦労したのがこの奥にあるビルまで泳いで渡るところだ。魚の怪物の軌道を把握しつつ、最も距離が離れたところで海に飛び込む必要があるのだが、タイミングが非常に厳しかった

怪物たちの正体は? 誰もが抱えがちな悩みをゲーム化することで伝える手法

 本作における怪物たちの正体は実は第3章くらいまで進めるとかなり明確になってくる。その正体はズバリ、ケイの深層心理の奥深くに潜むケイ自身の悩みや、ケイの弟や家族などとの悩みや問題が怪物の姿をとったものだ。また、ケイ自身の問題は人の形に近い姿の怪物になるが、家族たちの問題は鳥や狼など、別の生物の姿をした怪物としてこの世界に登場している事がわかる。

 例えば、第3章と4章は弟との関係性の悩みから生まれた、弟の意識を持つ鳥の姿をした怪物との対話が主なストーリーとなる。この怪物はケイを襲ったりはしないが、近寄ろうとすると弟の置かれた状況に対する悲しみを訴え、悩みを聞いてくれなかったケイに対する怒りを覗かせつつ、逃げ出してしまう。最初のうちはその気持ちが理解できないケイだが、弟の怪物と対峙し、周囲にある穢れを取り除いていくことで、弟の身に起こった出来事を理解していく。

 そう。弟は実は学校でいじめにあっていたのだ。3章と4章では人の形をした穢れが登場し、弟に対するいじめの言葉とともに近づくケイに向かって襲い掛かってくるのだ。これらの穢れを取り除いていく事で初めてケイは弟の悩みに気が付く。そしてそんな弟の悩みに気が付いてあげられず、弟に苦しい思いをさせてしまった事を理解し、反省してその時何をすべきだったかについて考えるのだ。そして、今後の弟との向き合い方について考えた結論を、穢れを取り除いた光の形で弟にぶつけていく。

鳥の姿をした怪物に近づくと、どこかで会った覚えがある事に気が付く。そして怪物の正体がケイの弟のサニーの意思を持っていることに自ら気が付くのだ
弟のサニーの意思を持つ怪物を悩ませるのは学校でのいじめだった。いじめっ子たちの姿をした穢れたちが、ケイの行く手を阻む。彼らに囲まれるとケイは意識を失ってしまう。いじめをこのような形で表現するのはなかなか斬新だ

 いじめの問題は非常に根深い問題だ。いじめてる当人たちはふざけているだけでさほどの悪意はない。だがいじめを受けている方にとっては学校生活の全てを嫌になるほどの苦痛を味わう。当事者以外に理解できる人間は少なく、大人に頼っても一時的な物だと軽く考え、真摯に受け止めてくれる人は少ないし、本作におけるケイのように、いじめの相談をしてもなかなか真剣には聞いてもらえない。こうしたいじめられた側の心情をこういう形で表現してきたのは非常に斬新だ。

 また、穢れという形でいじめと向き合う事で、ケイは普通に話を聞くよりも真摯にその状況を理解できたのだと思う。そのため、曇りのない真剣な意思を弟にぶつけることができたのではないかと解釈した。

 こうして全ての穢れを取り除き、自身の気持ちを光の形でぶつけたことで、ケイの中の弟とのわだかまりが解消され、弟の意思を持った怪物は人間の弟の姿に戻り、周囲には青空が広がっていく。人間の姿に戻った弟はハウスボートに乗って日の当たる海原を楽しそうに疾走していく。

ケイはこれまでの自身の行いを反省し、サニーを二度と見捨てない事を誓う
サニーに対するわだかまりが解けたことで怪物は人間のサニーの姿に戻り、ライフボートに乗り込んでいく。ただし、ケイはこのボートには乗せてもらえない。まだ自身の問題が解決していないからだろう

 このような感じで両親などとの問題や悩みを解消していき、最後には深層心理の根底にある自分自身の問題と向き合うという展開が続いていくのだ。

 こうした悩みや問題は第3~4章ではいじめっ子に姿を変えた穢れがケイの行く手を阻んだが、章ごとに色んな形に姿を変えてケイの邪魔をしてくる。姿形は変わってもやるべき事は穢れを払う事だ。穢れを払う方法は章によって異なる部分もあるが、操作などについては簡単なガイドが表示されるので、何をすればいいのかわからなくて困るという詰まり方はなかったし、同じ操作の繰り返しで単調にならないような工夫が施されている印象を受けた。

 本作を一通りプレイした上での筆者の考えだが、本作はあくまでもケイの心理描写の中の物語のため、実際の弟や両親などの姿は見る事ができても、それはあくまでもケイの中にある彼らだと思われる。全てケイの心の中でのわだかまりであり、それを解消する事でケイ自身も変わっていこうとしているのではないだろうか。

 思春期の少女にとっては、家族などとの関係における悩みや問題というのは深層心理ではまさに「怪物」として扱われるのだろう。そしてこうした問題を仮に彼女の中で解決したとしても実際の彼らとの関係性も解決できるかはまた別の話だ。でも少なくともケイは自身の中の問題を解決したことで前に進むことを決意したのではないかと筆者は解釈している。こうした怪物の解釈などについては、プレイした人同士で話をしてみるのも面白そうだ。

 なお、本作ではやりこみ要素として、道中至るところに、瓶に詰められた手紙や、空を飛べずに留まっているカモメが存在する。瓶に詰められた手紙はそれぞれ短めの文章が書かれている。全てを繋げるとどんな内容の文章が待っているのか気になるところだ。そしてカモメについては後ろから軽く触れてあげることで、空に飛び立っていく。その時のカモメが飛び去っていくビジュアルはカメラアングルにも工夫がされていて、気持ちいい演出になっている。

 これらはストーリーの進行上は何の影響もなく、ストーリー上は通らないような場所に隠れて配置されているものも多い。筆者も1回クリアしただけでは、全てを回収できていないので、2度目以降のプレイでこれらを探し回るのも面白そうだ。

 また、本作のプレイ時間は途中で詰まった時間も含めて4時間半ほどとかなり短い。価格も1,900円前後なので手軽に遊んで思春期の少女の気持ちを共有してみるのもいい体験になると思う。

フィールドのいたるところに落ちている瓶入りメッセージには分割されたメッセージが記載されている。すべてを繋げるとどんな内容が書かれているのか気になるところだ
フィールドのいたるところに留まっているカモメ。近づいて触れてあげることで飛び立っていく。この時カメラの中心がケイではなくカモメとなり、カモメを追う形でカメラがスーッと移動して飛び立つカモメを追うビジュアルが楽しめる

 筆者はこの手の深層心理の中の世界というスタイルに対しては興味はあるが、いつも期待半分、不安半分の気持ちで挑む事が多い。というのも問題が解決せずに結局うまくいかない展開になってしまうとみている側が非常につらい気分になってしまうからだ。一方で前向きに進む展開は大歓迎なので、そのチョイスが悩ましい。

 そういうなかで筆者は本作を素晴らしい作品だと感じた。いじめなど人の心の闇をテーマとして扱いながら、主人公のケイがひたすら前向きな考えなので、物語もひたすら前向きに進んでいくのだだ。そのため、道中では多少厳しい内容の話も出てくるが、プレイ後にはしがらみから解放されたような清々しい気分が味わえた。是非本作をプレイして、この清涼感を共に楽しんでみてほしい。

プロローグに登場する謎の少女はケイにフレアを与えてくれるほか、行く先々で登場してケイを助けてくれる。だが、とある章では意外な形で彼女と再会する……
穢れが取り除かれ、怪物が姿を消した時の演出はどれも爽快感抜群だ。特に海の水がスーッと引けて建物が出てくる演出は見ていて心がスカッとなる
穢れを取り除いたあとに分身が封印されている場合、分身とシンクロすることで光の光線を照射して怪物を封じたりすることができる