2019年4月26日 00:00
「Days Gone」は、秩序が崩壊した後の世界を描くオープンワールドアクションだ。原因不明のパンデミックにより、人々の多くがフリーカーと呼ばれる群れで生活し自分達以外を襲う怪物に変化してしまった。政府は機能せず、生き残った人々はキャンプで非常に苦しい自給自足での生活を行なっている。
本作は非常に大量のフリーカーがまさに“波”の様に襲ってくるそのゲームギミックが大きな特徴であるが、最大の魅力はストーリーにある。この世界で人はどう生きていくのか、主人公ディーコンはキャンプにわざと属さない流れ者である。人々は生きぬくために集まり、独自の法で暮らしている。ディーコンはその“外”にいる。プレーヤーはディーコンを通じて様々な人の生き方を見ていく。制作者はかなり力を込めてその物語を描いている。
オープンワールドとしても本作は面白い。フリーカー達は“群れ”で生きる者達だ。巣を作って数匹が固まっている場所もあるが、数十、百体を超える群体で移動している場合もあり、それに遭遇すると波に呑まれた時のように殺される。その恐怖は非常に大きい。プレーヤーはフリーカーの声を恐れ、彼らが活発になる夜を恐れるようになる。そんな恐怖の世界を進んでいくのである。
今回は本作の基本的なシステム、設定を中心にレビューし「Days Gone」の魅力を紹介したい。ストーリー要素にも触れるので、ネタバレを嫌う方は、プレイしてから読んで欲しい。自分なりの作品解釈と、筆者の感想を比べ、より深く作品世界を味わっていただきたい。
パンデミックの後の世界を旅する2人、その先にある世界は……
ディーコンと相棒のブーザーはパンデミックを生き延びた。パンデミックの日、ディーコンは傷ついた妻を助けながら住民を街から脱出させるためのヘリにたどり着いた。しかし、ヘリで運べるのは2人まで。……ディーコンはブーザーと共に残る道を選択した。そして2年後、ディーコンとブーザーは「ドリフター」と呼ばれるキャンプに属さない者として、バイクを駆り、複数のキャンプの仕事を請け負って生活していた。
ブーザーは言う「そろそろ北に行って、心機一転しないか?」。しかしディーコンはその提案を受け入れられないでいた。この地にはサラの墓があるのだ。2年前のあの日、ヘリが着くはずだった難民キャンプはフリーカーの群れに襲われ壊滅していたのだ。以降ディーコンはここにサラの墓を作り、住み着こうとするフリーカーを殺し続けている。そういう過去に別れを告げようと、ブーザーは言うのだ。
そんなとき、2人に大きなやっかいごとが降りかかる。フリーカーを“神”として崇拝する狂信者集団リッパーがブーザーを捕まえ彼の腕に“印”をバーナーで刻みつけたのだ。重症のやけどを負いうめくブーザー。彼を助けるため拠点にブーザーを残し、ディーコンはフリーカーがうろつくフィールドをバイクで走る。
「Days Gone」の世界の秩序は完全に崩壊している。国家はすでに機能していない。人々はリーダーを小さなコミュニティ「キャンプ」を作り、自給自足の苦しい生活をしている。働かなくては生きていけない。フリーカーの影を避けながら、リーダーの厳しい決まりを守りながら生きていくしかない。パンデミックを生き延びられたのは怪しい経歴を持つ者も多く、モラルも崩壊している。キャンプからの離脱者や、盗賊達の襲撃、さらにはリッパーに掠われ、洗脳される者までいる。プレーヤーはディーコンの目を通して、崩壊した世界を生きぬく人達と直面することとなる。
「Days Gone」はゲーム性が大きくクローズアップされている作品だが、最大の魅力はストーリーである。フィールドを探索しキャラクターの強化やアイテムを収集するオープンワールド要素もあるが、ストーリークエストがゲームを引っ張っていく。キャンプを率いるリーダー達のキャラクターは強烈だ。
キャンプ「コープランド」は同じ名前のコープランドという男が仕切っている。政府への不信と、今の世の中を生きていく事への思想に強い思い入れを持っていて、電波塔を占拠し「フリーオレゴン」という海賊ラジオ放送で延々と自説を垂れ流している。「ホットスプリングス」というキャンプはエイダ・タッカーという老婆がリーダーだ。彼女は元刑務所の管理者であり、厳しくキャンプを管理している。労働を怠ける人に対し体罰も常態化しているが、そうしなければ秩序は保てないのだ。
そして国家緊急対応機構「NERO(ネロ)」だ。政府が完全に崩壊した世界で、このNEROだけが活動している。彼らは防護機密服に身を包み、ヘリで移動している。このヘリに近づこうとすれば即座に射殺される。彼らは何をしているのか、その謎もプレーヤーの興味を強く引き寄せる。放棄されたNEROの難民受け入れ施設には能力値をアップさせる特殊注射器があり、“宝探し”の要素もある。
「俺達の番が来るのも、結局時間の問題とも思う。でも、だとしたらよ……俺達はなんでこうしてあがいていると思う? もう、それしかできねえからだよ!」。筆者は、ディーコンが思わず叫ぶように言ったこのセリフが好きだ。これに対してブーザーは答えない。答えのない問いを問い続けながら生きぬく人々。彼らがどう生きていくのか、その気持ちがプレイを進める大きな原動力となっているのだ。
激しく濃密な戦い。スキルと武器により、戦力を充実
「Days Gone」の基本となるのはTPSのアクションシューティングだ。この世界は力こそが全てであり、キャンプが依頼してくるミッションのメインは裏切り者や犯罪者の捕縛や抹殺、そして敵対勢力への報復だ。またフリーカーの巣を減らすことも求められている。ディーコンはフリーカーに強い憎しみを抱いており、彼らを減らすためには力を惜しまない。
「Days Gone」は初見のプレイだとかなり難しく感じるだろう。自分の耐久力は低めで武器の攻撃力は全体的に高い。敵のAIは狡猾で防御に適した陣地でプレーヤーを待ち受けている。あっという間に数発撃たれゲームオーバーとなりかねない。このため、まず双眼鏡で偵察し、敵にマーカーをつけるという行動が有効だ。能力値が増え、スキルを覚え、本作ならではの戦い方に慣れれば戦闘はかなり有利に進められるようになる。
筆者のお気に入りは、序盤で作れるようになる「惑乱ボルト」。クロスボウで発射できる特殊な矢で、敵を混乱させ同士討ちができる。仲間が固まっているところでは特に有効で、敵を混乱させられる。こういった特殊アイテムは敵のキャンプを襲い、地下シェルターの中の地図を発見することで製法を学ぶことができる。惑乱ボルトを作るには、フリーカーの巣を燃やしたときにできる灰が必要だ。
ミッションをクリアし経験値を得ることで様々なスキルをアンロックできる。スキルには「格闘戦」、「遠距離戦」、「サバイバル」の3つのカテゴリがあり、筆者のオススメは「ベテランメカニック」だ。このスキルはスクラップを使って格闘武器を修復できるようになるスキルだ。格闘攻撃はフリーカーに囲まれたときに重宝する。意外にもリッパーの特殊な刃物が使い勝手が良い。遠距離戦では、移動中狙いがぶれなくなる「ムービングショット」、時間がゆっくりとなる「フォーカスショット」も早めに得ておきたいスキルだ。
独自の習性を把握し、フリーカーを殲滅せよ!
「Days Gone」においてフリーカーは独自の生態を持つ野生動物、凶暴な自然の災害の様に扱われている。彼らには独特のルールがある。彼らは日光に弱く、夕方や夜に活発に活動する。日中は“巣”の中に引きこもっている。巣は家など建造物の中に、木の枝などを何かの粘液で固めたような鳥の巣のようなものを作ってその中で寝ている。
この巣に火炎瓶を投げ込み駆除すればフリーカーの数は減る。巣が火に包まれると数体のフリーカーが飛び出し襲いかかってくる。フリーカーは音に敏感であり、特に銃を撃つとかなりの距離から駆け寄ってくる。注意しないと囲まれてしまう。
また、夜には何十体ものフリーカーが集団で移動している。このフリーカー群に遭遇したらなすすべはないだろう。筆者はミッション中にこの群れに遭遇し、逃げるついでに目的の野盗のキャンプに突っ込んだ事がある。フリーカーは野盗達の銃声に反応し猛然と襲いかかり、見事ミッションクリアできたのだが、そこに近づくことができず戦利品を獲れなかった。日を改めていくつもりだが……死体は残っているのだろうか。
フィールドには大規模な巣がある。そこには百体を軽く超えるフリーカーが暗闇に蠢いている。コレを全滅させることで様々な利益が得られるが、装備もスキルも貧弱な序盤ではキツイ。何とか体験会で挑戦した拠点は倒せたのだが、アサルトライフルの乱射でどうにかできたという感じだった。もっと地形を活用し、近接地雷などを多用して有効に戦っていきたい。そうできるのはゲーム終盤近くのやりこみ要素かな、というのが印象だった。
何はなくてもまずガソリン! 世界を旅するために気をつけること
もう1つ、特筆しておきたいのが「バイク」だ。ディーコンはパンデミック前からバイカーのクラブに所属していたし、今もバイクに深い愛情を注いでいる。バイクはゲームのセーブポイントであり、拠点などへ向かう際は敵のポイントから数十メートル離れたところでバイクを止め、セーブをしてから潜入することで敵に気づかれずに戦うことができる。
プレーヤーを悩ませるのが「ガソリン」だ。バイクで移動する際、ガソリンは命綱となる。「Days Gone」のガソリンはかなり消費が早く、例えば自分の拠点からキャンプに向かうと帰りにはガソリンが足りなくなるほど燃費が悪い。キャンプでは通貨であるクレジットを消費すれば補給できるが、序盤はこれの負担もデカイ
このため、補給はかなり気を使うことになる。レッカー車や施設には石油のポリタンクが転がっていることが多く、これを使って補給できる。ガソリンは1度使っても再び訪れると再出現するポイントがある。1度行った場所はフリーカーの巣を破壊し通行可能にすればファストトラベルができる。ファストトラベルは時間とガソリンを消費するので、補給をこまめにしながら進んでいこう。
バイクや武器はキャンプとの親密度を上げることでより高性能なものを入手できるようになる。また、通貨である「クレジット」はキャンプごとに異なる。換金できる「フリーカーの耳」や「動物の肉」をどこで売ればいいかも考えることで装備を入手しやすくできるだろう。
世界が滅んだのに、どうして俺達は生きるのか? その問いかけが心に刺さる物語
「Days Gone」におけるストーリーミッションは他のオープンワールドと同じようにフィールドコンテンツのチュートリアルでもあるのだが、本作の場合特にストーリーが濃密なため、“繰り返し”を感じさせない。先が気になるストーリー、追加される様々なゲームメカニクスで、プレーヤーはどんどんゲームを進めていくこととなるだろう。
筆者が強く印象に残るキャラクターは「リッキー」だ。彼女は1年前くらいまでディーコン達と共にドリフターとして暮らしていたが、今はアイアン・マイクが率いるキャンプに所属している。タフで自由な価値観を持っていて、とても頼もしい。ディーコンとはまた違う、この世界を必死に、しかし明るく生きぬく姿には好感を持った。
そして切ないのはディーコンの妻“サラ”の記憶だ。ディーコンは過去に囚われていて、何度も彼女のことを思い出す。彼女は植物学者で、ふとした偶然でディーコンと出会った。ディーコンはそれまでの人生で全く出会ったことのない女性と出会い、その魅力に想いを強くしていく。その出会いと別れまでは決して長い時間ではないのだが、ディーコンが失ったものの大きさをプレーヤーは強く共感することとなるだろう。
世界は滅んだけど人は生きている。何のために? 明日に希望なんてない、今日を生きぬくことも難しい、事態は悪くなりつつあるし、いずれ自分達も自我を失い本能だけで生きる怪物になってしまうかもしれない。それなのに今日を必死で生きている。少ない食料で、きつい労働と、野盗達との戦いに明け暮れながら……それでも人はもがくのだ。本作の人々の姿は心を動かされる。そして物語の先を見たいと、強く思わされるのだ。
筆者の場合は、本作を日本語吹き替え版でプレイした。感情を込めて話す声優達の演技はやはり心に響く。主要人物だけでなく、キャンプでふと耳にする会話。パンデミックの前の生き方や、自分が犯した罪を悔恨と共に語る話などそういったドラマが描かれているのも良い。
「Days Gone」は濃厚で真摯なテーマを持った作品である。エキサイティングな戦闘システム、様々な探索要素、そして大量のフリーカーを殲滅させるチャレンジ要素など多くのコンテンツがあり、十数時間プレイしてもまだまだ道は半ば、ボリュームはたっぷりだ。殺伐とした地獄のような世界だが、強い魅力を持ったゲームである。ぜひプレイして欲しい。
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