2017年12月7日 12:00
海外でHD版「L.A.ノワール」の発売が発表され、次いで日本語版の発売決定情報に筆者は「ついに来たか!」と喜んだ。「L.A.ノワール」はもう1度遊んでみたいタイトルだった。本作の発売はその想いをかなえてくれた。
「L.A.ノワール」は、2011年7月に発売されたアドベンチャーゲームだ。1947年、戦後すぐのロサンジェルスを舞台に、連続殺人事件を核としたロスの“闇”が描かれる。主人公のコール・フェルプスは異例の出世を遂げていく中で、彼自身が抱える闇とも対峙していくこととなる。
今回紹介する「L.A.ノワール」は、グラフィックスを720pから1080pにアップグレード。PS4 Pro/Xbox One Xでは4K出力にも対応している。Swich版は携帯プレイに対応しており、さらに本作をVR向けにカスタマイズしたHTC Vive用VRアドベンチャー「L.A.ノワール: VR事件簿」も発売される。
本稿では、「L.A.ノワール」というコンテンツにフォーカスし内容の面白さを語っていきたい。HD版と言うこともあり、物語に踏み込んでいる部分もある。今回が「L.A.ノワール」初挑戦という方は、ネタバレに注意して欲しい。
戦後直後のロスで巻き起こる犯罪。隠された闇が姿を現わす
「L.A.ノワール」の主人公はコール・フェルプス。彼は第2次世界大戦の沖縄戦で活躍し、勇敢な兵士に贈られるという銀星勲章を授与されている。銃撃戦にもひるまない勇気を持ち、熱意のある、生真面目な性格である。
彼は卓越した観察力と行動力を持っており、優秀な警官として異例の出世を遂げていく。「パトロール課」の警官であった彼は、盗難車両を調査する「交通課」、殺人事件を扱う「殺人課」、ギャングなどの問題に対処する「風紀課」と部署を異動していく。
フェルプスが様々な事件と対面していく中で、徐々に明らかになるのは「ブラック・ダリア事件」という残忍な殺人事件の影だ。女性の頭部を打ち据え、首を絞めて殺害した後、死体に侮蔑的なメッセージを書いて放置するという残忍な犯行だ。この手口は実際に当時のハリウッドで起きた事件がモデルとなっている。ハリウッド女優志望の若い女性が非常にむごたらしく殺害された事件で、模倣犯や、犯人を名乗り出たものも存在したが、迷宮入りとなっている。「L.A.ノワール」でも、この事件に似た連続殺人事件が起きるのだ。
また、本作はフェルプス自身の秘密にも迫っていく。彼は沖縄戦を語りたがらない。そのストーリーは断片的に語られ、プレーヤーは徐々にフェルプスが抱えている闇に向き合うことになる。他にも、「新聞記事」を通じて描かれる、ある麻薬密売と、精神科医に関する事件がある。「L.A.ノワール」は1話で完結する事件を描きながらもこういった様々な要素が徐々に形を見せていく連続ドラマしての側面も持っている。プレーヤーはこの時代ならではの要素と、今の時代でも変わらない人間の葛藤が生み出す様々な物語に直面していく。
そしてやはり本作ならではの“時代性”がいい。戦争が終わり、人々が活気を取り戻しつつある時代。ハリウッドは全盛期であり、アメリカ中から女の子がこのロスに夢を抱えてくる。街は飾り立てられ、明るく賑やかな音楽がカーステレオから流れている。音楽にダンスに酒に食事、様々な娯楽も多い。
「L.A.ノワール」は1940~50年代のロサンジェルスを緻密なグラフィックスで描き出している。街並みと特徴的なランドマークはもちろん、警察署や様々な家庭、バーや銀行、は建物の中まで緻密に描き出され、当時の家具や雑誌、ポスター、店の様々な調度品など、全てのオブジェクトから“時代”の香りが立ち上ってくる。「グランド・セフト・オート」シリーズや、「「レッド・ デッド・リデンプション」を生み出したロックスター ゲームスだからこその時代の緻密な描写にうならされるだろう。
特に「L.A.ノワール」では音楽が印象的だ。この時代のヒット曲が車のラジオから流れ時代性を強めるだけでなく、ゲーム性にも深く取り入れられている。捜査場面では緊迫感のあるBGMが響き、手がかりのあるところではピアノ音が鳴る。そしてその場での有用な手がかりが全て見つかると、音楽が終わるのだ。
他にも、時間制限がある時のBGMや、カーチェイス時の音楽など、いかにもこの時代の映画で使われていたような楽曲が使われているのも良い。音楽が「L.A.ノワール」の魅力を倍増させているのである。
「L.A.ノワール」は上質な推理小説、本格的なミステリードラマを感じさせる推理アドベンチャーだ。プレーヤーは名探偵になった気分で様々な事件と、それを解き明かしていく刑事達のドラマを体験できる。「ああ、ミステリーって良いなあ」と強く感じられる、雰囲気に酔える作品なのである。
相手の表情から真実を見抜け。緊迫感のある尋問シーン
「L.A.ノワール」での具体的なゲームシステムを紹介していこう。本作はアドベンチャーゲームだ。インターフェイスは3人称視点のオープンワールドアクションに近く、「グランド・セフト・オート」シリーズなどをプレイしていればすぐになじめるだろう。
ブリーフィングを経た後車に乗り込み、事件現場に向かっていく。この時の相棒との掛け合いも楽しさの1つ。フェルプスは様々な部署に異動するため相棒も変わる。彼らの個性を楽しむと共に、ぽつりぽつりと語るフェルプス自身の話も面白い。無駄足を踏んでつい愚痴ってしまったフェルプスに、アルコール浸りで愚痴ばかりの殺人課のベテラン刑事ギャロウェイが、「今のお前となら良い酒が飲めそうだ」といわれたり、車内の会話は特に楽しい。
殺人現場などではまず証拠を集める探索を行なう。証拠品を見るときにスティックを使うのだが、HD版「L.A.ノワール」では一工夫加えてある。Switch版ではジャイロセンサーで証拠品を動かすことができ、PS4版でもタッチスクリーンで証拠品を動かせるのだ。Swich版ではタッチスクリーンでキャラクター移動も可能である。
証拠や情報を揃えたら本作最大のウリである「尋問」を行なう。「L.A.ノワール」は会話シーンを実際の役者で収録し、彼らの表情を「モーションスキャン」で取り込み、キャラクターにリアルな表情を浮かべさせることに成功している。
強調されているのは「彼らが嘘をついているかどうか」だ。真実を語っている人はこちらをまっすぐ見て目をそらさない。表情も信念を感じさせるものとなっている。ところが嘘をついてる場合は、露骨に目をそらし、居心地の悪い顔をする。彼らの表情を観察し、読み解くことで真実を暴き出すのである。
以前体験したSwitch版ではこの時の選択肢が「優しい警官」、「悪い警官」、「問いただす」となっていたが、今回プレイしたPS4版では「信用する」、「疑う」、「反証する」という、PS3/Xbox 360版と同じものになっていた。「信用する」はその名の通り相手が嘘をついていないとして話を進める時の選択、逆に嘘だと思う場合は「疑う」を選択することで真実を導き出せる。手に入れた情報と違う証言をしたときは「反証する」を選び、メモから対応する項目を選ぶ。
ちょっと難しく感じるのは、この質問を間違えると即「不正解」になってしまうことだ。例え不正解でも事件は進み、物語は一端の結末を迎えるが、明かされない事実が残る。このため真実に到達するためにやり直すというモチベーションに繋がるのだが、即不正解というのは、結構シビアだと感じた。「嘘をついてるらしいが、疑うと、反証するとどっちだろう」ということも多い。
昔のアドベンチャーゲームだと「総当たり式」が多く、成功するまで何度でも質問できるというシステムも多かったが、「L.A.ノワール」は失敗に厳しいバランスだ。「こういう感じで話を進めたいんだけど、選択した結果は違った」となることもあった。
とはいえ、だからこそ緊張感は生まれるし、相手の表情を読もうと食い入るように画面を見つめてしまう。実際に相手を尋問し、隙を突き、真実を探し出す「腹の探り合い」を体験できる。本作のシステムがあるからこそ、相手の言葉を聞き逃さず、表情の変化を見逃さない、「刑事の聞き込み」が楽しめるのだ。
また、正解が見えにくいときは「直感ポイント」を使うという手もある。これは5ポイントまでストックできるポイントで、使うことで証拠品のある場所がわかったり、尋問の際の選択肢を1つ消せる。このポイントでヒントを得ることも時には大事だ。
愛はどこへ消えたのか。すれ違う男女に忍び寄る殺人鬼の影
筆者が特に好きなエピソードは「墜ちた偶像」である。1つの殺人未遂事件、薬で意識を混濁させた2人の女を、車で崖から突き落とそうとした事件をきっかけに、ハリウッドの闇が明らかにされる事件である。
この事件はなんと言ってもクライマックスが良い。巨大な映画セットで、ギャングとの大規模な銃撃戦となるのだ。この映画セットは非常に大規模で、壮麗に見えるが、実際はもうガラクタで、歩き回ると色々なところが崩れていく。銃撃戦時はガソリンの入ったドラム缶を打ち抜くことで、大爆発と共に崩壊する。
「L.A.ノワール」の時代、映画は全盛であった。女優を目指す女の子は好色な映画関係者に体を差し出しても役をほしがったし、有名女優すら裏の力と結託し、暴力で自分の意を通そうとした。しかし、後世に生きる筆者達はハリウッドが凋落するのを知っている。この後テレビメディアの台頭により、ハリウッドはその輝きを弱めるのだ。スキャンダルが明らかになり、セットが崩壊するというド派手な事件の結末は、その後のハリウッドを暗示しているかのようだ。
プレイをしていく上で、「L.A.ノワール」は様々な“愛の形”を描く作品としても注目して欲しい。ギャロウェイは「殺人事件の犯人のほとんどは身内か関係者だ」というが、事件を調査するフェルプスは様々な家庭、愛の形に直面することとなる。
本作では「ブラック・ダリア事件」同様、酔っ払った1人歩きの女性が被害者になるケースが多い。それは、彼女たちが酒に逃げなくてはならなかった問題を抱えているからだ。もちろんひどい男が原因の事件もあるが、夫婦同士、お互いが「こんなはずではなかった」と思いながら、ずれを大きくしていく場合も多い。
殺人事件というショッキングな事態のせいで明るみに出るが、人間が2人で向き合う以上、ずれは生じてしまう。本作の男女が抱える問題の多くは、どこにでもある家庭の姿、外から見れば小さいかもしれないが、本人達は確かに感じる“溝”であるだろう。そしてその溝によるほんの些細な行動が、取り返しのできない悲劇への“隙”となってしまうのは、フィクションといえど、とてもやるせない。
プレイしていて思わず、筆者自身の他人への向き合い方、人間の業の深さも考えさせられてしまった。本作のこのストーリーテリングと演出はとても見事だ。そしてだからこそ、明らかになっていく「本当の事件」に、グッと引き込まれていくのである。
一方、フェルプスは家庭を持っているが、その家庭の姿はゲームではほとんど語られない。しかし、人間の闇を見続ける刑事という職業は、彼に大きな影響を与えているのは伝わってくる。フェルプス自身は抱え込む性格の男であり、相棒や、プレーヤーにすら彼の“本心”はわからないところがある。物語を通じて、「フェルプスは本当は何を思っていたのか」を考えるのも、「L.A.ノワール」の楽しみ方だ。一通りプレイを終えた後も、お気に入りの小説のように、プレイし直し、隅の隅まで楽しみたくなる作品である。
今回改めてプレイし直して、その雰囲気に心地よく酔うことができた。前回のプレイでは「人への愛情」というものが、ここまで細かく書かれていたことに気が付かなかったようにも思う。本作のドラマ、描かれる人間の業の深さをじっくりと味わって貰いたい作品だ。
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