東京ゲームショウ2009レポート

「センス・オブ・ワンダー ナイト 2009」に登場した珠玉の10作品を紹介
アッと驚く新鮮なゲームアイディアが世界中から続々登場!

9月24日~27日 開催(24日、25日はビジネスデイ)

会場:幕張メッセ

入場料:1,000円(一般/前売り)、1,200円(一般/当日)、小学生以下は入場無料

 

選考委員および司会進行を務めたIGDA日本・代表の新清士氏
選考委員の面々。右からABA Gamesの長健太氏、バインダイナムコの高橋慶太氏、GamasutraのSimon Carless氏、エンターブレインの杉内賢次氏、ベクターの片山崇氏

 東京ゲームショウ2009の2日目の9月25日、幕張メッセの大会議室にて「センス・オブ・ワンダー ナイト 2009」と題するイベントが開催された。CESAが主催するこのイベントは、ユニークなゲームアイディアを全世界から募集し、優秀な作品の制作者にプレゼンテーションの機会を与えるというもので、初開催された昨年に引き続き、今回が2度目の開催だ。

 個人や小規模開発チームによる作品発表が主になる「センス・オブ・ワンダー ナイト」だが、昨年発表された作品のうちひとつが、プレイステーション 3のオンライン配信専用タイトルとして製品化を果たすなど、独立ゲーム製作者の登竜門的な役割も果たしつつある。

 そして今回の「センス・オブ・ワンダー ナイト 2009」では、全世界18の国と地域から65件の応募を受け、選考の結果10個のゲーム作品が選ばれた。イベント会場にはそれぞれの作品の制作者が登場し、大勢の来場者の前でプレゼンテーションを行なった。

 ちなみに、会場に集まった数百名の来場者には、振ると「ピコピコ」と音の鳴る棒状の玩具が配布されていた。「プレゼンテーションに感動したら鳴らしましょう」というのが今回のルールだ。そして各制作者による発表が始まると、数分置きに「ピコピコ」という音が会場中に響き渡った。面白い、素晴らしいコンセプトが披露されると、より大きな音が鳴り響く。発表者と聴講者が一同に集う会場ならではの、ユーモラスなフィードバック手法だ。

 司会進行を務めたIGDA日本代表の新清士氏は、今回選出された10個の作品を3つのカテゴリーに分類して紹介した。それは、「幾何学的なおもしろさ」、「コンセプトの意外性」、「既存システムへの新しい提案」となっている。それぞれのカテゴリーの真意については、実際に紹介された作品の内容をご覧になればすぐにわかるだろう。以下、それぞれの作品内容をご紹介していきたい。


会場には数百名の業界関係者が訪れた。全来場者に「振ると音が鳴るオモチャ」が渡されており、プレゼンテーションに感銘を受けるたびに「ピコピコ」と賑やかな音が打ち鳴らされ、会場の雰囲気が和やかに盛り上げられていた



■ 「幾何学的なおもしろさ」の部

・「ボールキャリー」 小野 琢也/日本

「ボールキャリー」の画面
発表者、小野琢也氏。作品は「構想1年、制作1週間」だそう

 昨年の「センス・オブ・ワンダー ナイト」に聴講者として参加して感銘を受けたという小野琢也氏が発表したゲーム「ボールキャリー」は、ユーザーインターフェイスの捉え方に独自性を持つ作品だ。

 ゲームの目的は、地面に配置されたボールを目標地点まで運ぶこと。ただし、ボールを動かす方法は「地面をへこませる」ことだけだ。ここで普通なら、マウスを使って対象地点をポイントしてとなりそうなところ、本作ではキーボードをユニークな方法で使う。

 キーボードのレイアウトと、ゲーム画面のレイアウトが一致しており、押したキー位置に対応する地面がへこむ、という仕組みになっているのだ。つまり、キートップに書いてある文字は何の意味もなく、キーの位置だけが重要だ。ボールを滑らかに運動させるためには、へこませたい位置に対応するキーを滑らかに押していくという操作になる。そのプレイシーンはピアノの奏法を見ているようだ。

 小野氏は本作のポイントを「既存のデバイスを使って新しい体験をさせる」ことであると説明する。本作はキーボードという入力デバイスの物理的な形状をストレートにゲームへ応用した例となるが、同様の考え方は、ゲームコントローラーやその他のデバイスでも活用できそうだ。


キーボードの配置とゲーム上の地点がダイレクトに対応するという、ユーザーインターフェイスの考え方に面白さがある
昨年の「センス・オブ・ワンダー」の作品から着想を得て1年、作業に入ってからは1週間で本作を完成させたという



・「Hazard — The Journey Of Life」 Alexander Bruce/オーストラリア

「Hazard — The Journey Of Life」
哲学的な意味を込めてこのゲームをデザインした、と語る発表者のAlexander Bruce氏

 オーストラリアの開発者、Alexander Bruce氏が発表した作品は、「人生の選択」に関する哲学的なメッセージが随所に込められた、詩的な3Dアドベンチャーゲームだ。アドベンチャーゲームとは言っても、キャラクター的なものは何も存在しない。独特の構造を持つダンジョンと、いくつかのテキストで世界が成り立っている。

 ゲームを開始すると、プレーヤーは何もない部屋に出現する。しばらくあたりを見回すと、1方の壁面には「EXIT」と書かれた扉が、別の壁面には「Choose Your Destination」と書かれた矩形が現われる。そこから場面がワープして、ひとつめの冒険が始まる。

 ワープした先には地面に大きな亀裂があり、中空に「JUMP!!」という巨大文字のサインが浮いている。ほとんどのプレーヤーはここで、「ジャンプすれば先に進めるんだろう」と考えてジャンプする。しかし、亀裂は決して飛び越えられず、プレーヤーは穴の中に落ち込んでしまう。そこでひとつめのメッセージが現われる。「サインや過去の経験に従っても、行きたい場所に行けるとは限らない。だがその選択は、必ずあなたをどこか別の場所へ導く」。

 やがて場面は元いた黒い壁の部屋に戻り、先ほどジャンプに失敗した場所を再び訪れる。今度はそこに「WALK?」と書かれたサインがあり、恐る恐るそれに従ってみると、なんと中空に足場が生成されて、向こう岸へ渡ることができる。そして渡った先にはこんなメッセージが。「物事は最初の1歩を踏み出すことが最も難しい」。

 こんな調子で、このゲームはダンジョンの幾何学的な構造とそれに対して予期されるプレーヤーの「選択」に対し、哲学的なメッセージが重ね合わされるというスタイルで進行していく。ゲーム的でないメッセージを伝えるひとつのスタイルとして、なかなかユニークな手法だと感じられる。グラフィックなど技術的な面でも高度な表現に挑戦しており、開発力とセンスの良さを窺わせた。


行く先々での選択ついて、哲学的なメッセージが現われる
ゲーム後半にはダンジョンの構造を変えるような銃も登場し、選択や行動の範囲が広がっていくようだ。ゲーム全体から「PORTAL」的なセンスの良さが感じられた



・「Shadow Physics」 Enemy Airship/アメリカ


Enemy Airshipチーム。「影」を使うゲームのポイントを紹介した

 アメリカの2人組み開発チームEnemy Airshipによる作品「Shadow Physics」は、奇抜なアイディアがエンターテイメントとして高い完成度に磨きあげられた例のひとつだ。ゲームの基本コンセプトは「影の世界」。閉鎖空間に置かれた3Dオブジェクトの「影」が、ゲームのプレイ対象となるのだ。

 プレーヤーが操作するキャラクターも「影」だ。キャラクターは走り、ジャンプすることができ、影によってつくられた地形を移動してゴールを目指す。そこで面白いのが、世界が影で構成されていることによって初めて実現する様々なギミックやトリックだ。

 影世界の構造は、3Dオブジェクトと光源の位置関係によって変化する。たとえば影の世界では壁になっている場所も、光源の角度を変えたり、物体の位置を変えたりすることで影の落ち方を変え、新たなルートを切り開くことができる。こういった仕組みを応用して、ゲームには様々なスタイルのステージが用意されている。

 来場者の「ピコピコ」が特に激しく鳴り響いたのが、2つの光源が置かれたシーンだ。ひとつの3Dオブジェクトから2つの影が伸び、閉鎖空間を構成する別の壁面に「足場」を作る。その時、プレーヤーキャラクター自身もまた2つに分身している点がゲームの不可思議さを増している。

 このとき、一方の壁面で通行可能であっても、別の壁面で進めない場合は、キャラクターは立ち往生。逆に、一方の壁面で足場がなくても、別の壁面に足場があれば、キャラクターはそこを進むことができる。これを利用して、光源の位置や角度を変えてルートを作っていくのだが、いつもは特に関心を払うことのない「影」が見事なパズルを構成することに驚きを禁じ得ない。

 ステージによっては激しく動く影によってキャラクターがつぶされてしまったり、落下して死んでしまったりと、かなりダイナミックな展開も見られた。アクションパズルゲームとして非常にユニークで、完成度の高い作品に仕上がっており、近い将来の商品化もあり得そうだ。


キャラクターは「影の世界」を行動することができる。物質の世界の変化や、光源の位置によって複雑に世界の形が変わるのが面白い
2つの光源を利用するステージや、物理オブジェクトを動かして影の形を変えていくステージなど、ゲーム構成に「影」ならではの様々な広がりがある

・「Incompatible BLOCK」 藤木 淳/日本

「Incompatible BLOCK」
独特の立体表現を研究し続ける藤木氏。「無限回廊」のコンセプトデザイナーでもある

 不思議な空間表現を研究しているという芸術家肌の開発者、藤木淳氏による「Incompatible BLOCK」は、ゲームというよりもコンセプチャルアートのような作品になっている。この藤木氏はPSP用ゲーム「無限回廊」の基本となるアイディアを創作した人物でもある。

 「Incompatible BLOCK」を開始すると、3D空間に立方体ブロックが規則的に配置された状態が画面に現われる。この画面はズームしたり回転することが可能だ。そして、配置されているブロックをマウスでつまみ、画面中の好きな所に移動させることができる。

 その際のちょっと不思議な挙動が本作のポイントだ。本作の画面は「並行投影」という手法で描かれており、遠近感がない。奥行き方向の距離感は極めて曖昧である。ある角度から「ブロックが積まれているように見える」ようにブロックを操作しても、実際に3D空間上でブロックが積まれているとは限らないように思えるのだが、実際にブロックを見た目上積まれているように並べると、自動的に、別角度から見てもきちんと積まれた状態になる。これを利用して、自由に立体的な形状を作ることができる。

 その上で、積まれたブロックの下端に位置するブロックを別の場所に移動させると、本来ならその上に積まれていたブロックが中空に浮いているように見えるはずなのだが、別角度から見ると、きちんと地面に接地している状態になる。そして同時に、いつの間にやら積まれたブロックの奥行き方向の位置がズレているのだ。3Dの投影方法を利用した一種のトリックである。

 さらに面白い機能がある。地面に置いたブロックの下面近くをつまむと、ブロックから「影」を分離して任意の位置に置き、ブロックに「高さ」を与えることができるのだ。そのとき、「影」を分離して2つ、3つに増やすと、ブロックそのものの実体が増殖する。増殖したブロックは画面の奥行き方向に配置され、カメラの角度を変えて初めて何が起きたかわかる。不思議な感覚の連続だ。

 本作はこういったツール的な機能構成を持ち、特に目的もないため「ゲーム」とは呼べない作品ではあるが、3D空間を2Dに平行投影することによる立体感のない見え方を逆手に取って、だまし絵と積み木遊びを融合するかのような遊びを生み出したコンセプトが面白い。


まるで「動くだまし絵」。ブロックを動かした後にカメラを回転すると何が起きたかがわかるというつくりは、不思議な感覚を体験させてくれる



■ 「コンセプトの意外性」の部

・「You Only Live Once」 Marcus Richert/スウェーデン

「You Only Live Once」
Marcus Richert氏。スウェーデン在住だそうだが、日本語と英語も堪能だ。そして作品は何と25ヶ国語の音声と字幕に対応している

 日本語が堪能なスウェーデン人のMarcus Richert氏は、「ゲームにありがちな表現」を皮肉たっぷりに笑い飛ばす、アニメーション作品をプレゼンテーションした。そのタイトルは「You Only Live Once(人生は一度きり)」。

 ゲームをスタートすると、一連のカットシーンが流れる。平和に生活する主人公ジャメインのもとに、「君のガールフレンドはいただいた。」と、悪のボスであるサー・ジャイアント・ピンク・リザードから手紙が届くのだ。それを見るや「このくそくそリザード!超特急で助けに行くぞ~!」と戦いに出ることを即決意する主人公。そして「スーパーマリオブラザーズ」スタイルの残機表示画面になり、そこには「ライフ×1」の表示が現われる。ここで早速会場が「ピコピコ」の嵐になった。

 次のシーン、ジャメインがボスの城にやってくる。「すみませーん!」、「おじゃましまーす」と行儀よく入っていくと、画面はありがちな横スクロールジャンプアクションのスタイルで表現されたダンジョンになる。ところがジャンプ力のない主人公は開始3秒で裂け目に落ちて、ゲームオーバー。あっけない。

 そして画面には「コンティニュー?」の表示が現われる。これを押すと、普通なら主人公が復活した状態でゲームが続きそうなものだ。本作では、確かに文字通りゲームの世界が「続く」のだが、ただし、主人公ジャメインは死んだままなのである。

 ダンジョンの向こう側からヒロインが現われる。主人公の状態を見てあわて、「もしもし、救急車をお願いします。サー・ジャイアント・ピンク・リザードの城です。はい、ワールド5の最終ステージです」と、適切な対応。そしてまた画面には「コンティニュー?」の表示が現われる。

 さらにゲームを続けても、主人公は決して復活しない。救急隊員に主人公の死亡を宣告され、ニュース番組で事件を報道される。さらに続けると、今度はサー・ジャイアント・ピンク・リザードが「ボスステージの安全管理義務違反」の容疑で警察にしょっぴかれたり、主人公の葬儀が行なわれたりと、やけにリアルな寸劇が続いていくのだ。この展開に会場は爆笑が絶えなかった。

 本作はよくあるゲームの「ライフ数」や、「コンティニュー」の概念を皮肉って、デジタル漫談のような形にまとめた作品である。したがってゲーム作品とはいえないものなのだが、とにかく面白さという点では抜群だ。本作はwww.kongregate.comにて無料でプレイできるということなので、興味のある方は試してみよう。



25の言語対応で、会場では日本語音声、英語字幕でデモンストレーションが行なわれた。一度ゲームオーバーになって何度「コンティニュー」しても、主人公の死後談が寸劇で語られるばかり。ゲームを終了してやり直してもゲームオーバーのままだ。それでも起動を繰り返していると墓が立ち、さらに繰り返すとゾンビになった主人公が起き上がり、さらに続けるとそのゾンビも死んでしまうという結末。人生は一度きり!



・「彼と彼女のバラバラ劇場」 ひも/日本

「彼と彼女のバラバラ劇場」

 個人開発者、ハンドルネーム「ひも」氏の作品は、テキストを使ったリアルタイムパズル的ゲームだ。「彼と彼女のバラバラ劇場」と題された本作の基本ルールは、「バラバラに並べられた男女のペアを、その会話の内容を見て適切な組み合わせに並べ替える」というもの。正しく組み合わせることができればステージクリアで、次のチャレンジがアンロックされる仕組みだ。

 このゲームのポイントは、男女のペアを正しく組みわせるために必要な情報が「会話」であること。各ペアの会話は同時並列的に進行していくので、プレーヤーはそれらのテキストを同時に読み取り、会話の文脈、セリフの関連性を素早く発見しなければならないのだ。

 答え合わせまでに1分間の猶予が与えられる通常のモードに加えて、ペアが判明したら即に答え合わせをし、タイムアタック的に延々ゲームを続けるモードもある。筆者としては、後者のモードはやり込めばやり込むほど頭の体操になり、面白くなりそうだと感じた。

 最後に「ひも」氏が本作の特徴として挙げたのが「ゲームエディットの容易さ」だ。会話のパターンさえ作ればゲームが成立するので、誰でも新たなステージを制作することができる。これを活用して「ひも」氏は会話パターン投稿用のウェブページを作り、自身のサイトで公開しているそうだ。

 ところが残念なことに、現在のところは1日のアクセス数が10にも満たず、ユーザーから会話パターンが投稿される場面にはまだ巡り合えていないとのこと。そこで「ひも」氏は、ゲームのタイトル名でWEB検索してくださいと、プレゼンテーションの場でエディット参加者を募集していた次第だ。



ランダムに並べられた男女の会話を読み取り、ペアを当てていくというゲームだ。作者の「ひも」氏は、本作が速読の訓練になるかも?と、色々な活用方法を考えているようだった



・「ecolpit」 misi/日本

「ecolpit」
発表を行なった「misi」氏

 ハンドルネーム「misi」氏が開発した2Dシューティングゲーム「ecolpit」は、ウィルライトのPCゲーム「SPORE」の微生物ステージを好きな人を直撃しそうなコンセプトを持つ作品だ。ゲームを構成するのはカラフルな微生物達と、その食料になる緑色の「エサ」。閉鎖空間の中で微生物たちは、より多くのエサを獲得して最大の大きさになるまで成長するかか、他のすべての微生物を倒してしまうことをゴールとして目指す。

 微生物は他の微生物を撃退したり、緑色の大きな塊として現われる「エサ」を食べやすいサイズに砕くための手段として弾を発射することができる。それを多数の微生物が行なうので、画面には弾丸が飛び交い、多人数同時参加によるシューティングゲームの様相を呈する。しかし、本作ではそこに興味深い「社会性」のコンセプトが織り込まれていることがポイントである。

 この世界の微生物は、自分を攻撃した生物や、自分を助けてくれた生物への「恨み」や「恩」を決して忘れない。「恨み」を抱く相手には積極的に攻撃を仕掛けるし、「恩」を感じている個体には協力するようなAIが組み込まれているのだ。

 この社会性が全体に広がる仕組みはシンプルだ。はじめは、全員がニュートラルな状態でスタートする。画面上に「エサ」が配置されると、それを食べるために誰かが弾丸を発射する。だが、その射撃はあまり精度が良くなく、流れ弾が発生する。それが偶然他の誰かに命中してしまうことによって、「恨み」を抱く個体が現われ、反撃が起こる。反撃が起きた際、共通の個体に「恨み」を抱いている個体は反撃した個体に「恩」を抱く。

 こうした反応が連鎖的に起きることによって、やがてゲーム世界は乱戦の様相を呈したり、ときには2つの陣営に分かれて戦争のような状態になることもあるそうだ。単純なルールと作用によって、一見複雑な社会構成が生まれるというのが面白いところである。

 プレーヤーはこの世界に参加し、微生物の1個としてクリア条件の達成を目指す。そこでやられてしまわないためには、他の微生物が構成する関係性をよく判断して、敵と味方を選び、自分に有利な状況を作る必要がある。各微生物の感情状態は「SPORE」風のフェイスアイコンで表示され、判断の基準になる。

 本作は、シンプルだが複雑なゲーム世界を作り出すメカニズムをうまく実装しており、プレイせずに世界の推移を眺めているだけでも面白い。他のゲームにも応用が可能な、普遍性の高いコンセプトアイディアと言えるだろう。



流れ弾という偶然から、キャラクター間の感情関係が連鎖反応的に生まれていく。ちょっとした社会シミュレーションという雰囲気もあって、様々な形でゲームAIに応用できるのではないか、と思わされた



■ 「既存システムへの新しい提案」の部

・「Swarm Racer 3000」 Joseph White (Lexaloffle Games)/日本

「Swarm Racer 3000」
発表を行なったJoseph White氏。現在東京の小金井に在住しているそうだ

 2Dのレースゲームはありふれたジャンルのひとつだが、Joseph White氏が制作した「Swarm Racer 3000」は、「群れ」を操作の対象とすることで全く新しいゲーム性を提案することに成功している。

 本作の主人公は、小さな三角形で表現された生物の集団だ。プレーヤーはこの集団に移動を指示するだけでなく、群れ全体の配置を広げたり、縮めたりといった操作が可能である。ゲームのルールは、この群れを導いて、ステージ中に配置された緑色の点をすべて獲得することだ。その際のクリアタイムを競うのがゲームの基本になっている。

 面白いのは、緑色の点を効率よく集めるためには、群れの広がりをうまく制御しながらプレイする必要があることだ。群れを広げれば、広い空間に散らばった点を一気にさらうことができるし、群れを小さくまとめれば、狭く入り組んだ場所をすばやく移動できる。

 ステージ構成にもさまざまな工夫が凝らされている。例えば、通路が複数の細いルートに分かれている場所では、群れを適切なサイズに広げることで、すべての通路を同時に通り抜けることができる。あるいは、押せば転がすことのできる球体を使い、触れると群れが焼かれてしまうレーザービームを塞いで道を作るようなシーンもある。

 タイムアタックのために危険なトラップを敢えて強引に突破し、群れの一部を犠牲にするという戦略もある。群れの過半数が消滅してしまっても、最低でも1匹が残っていればクリアは可能なのだ。あまりに群れが小さくなると緑の点を集める効率は確かに下がるのだが、それも本作の戦略性を高めるひとつの要素になっている。

 センスの良い映像とテンポの良いゲームプレイは高い完成度にあり、来場者の「ピコピコ」音が随所で鳴り響いていた。今回プレゼンテーションされた数々の作品の中で、もし製品化を目指すのであれば、その実現に最も近い作品のひとつであったように思える。



操作の対象が「群れ」であることで、広がる、縮まるという独特のコントロールが可能になっている。効率よく緑色の点を集めるためには、コースの形を素早く判断して適切な「p群れ」の形状を取ることが重要だ。物理的なオブジェクトを動かしてトラップを回避するようなステージもあった



・「para rail」 渡辺訓章・おにたま(有限会社ツェナワークス/チームONIKU)/日本

「para rail」
プレゼンテーションを行なったチームONIKU

 日本からは法人の参加もあった。有限会社ツェナワークスの開発チーム「ONIKU」からプレゼンテーションされた「para rail」は、「平行世界」的なものをゲームに使ってみてはどうか?というアイディアを実装した作品だ。発表者の渡辺氏はこれを「プレイしないゲーム」と表現する。

 「プレイしない」とは、プレーヤーがゲーム中のキャラクターなどのオブジェクトに対して一切のインタラクションを持たない、という意味だ。「para rail」は閉鎖空間内を浮遊する宇宙船が、外部から飛んでくる隕石を撃墜することでスコアを獲得するゲームになっているのだが、実際にプレーヤーがこれらのオブジェクトを操作することはまったくできず、AIが制御するようになっている。ではどうやってゲームを成立させるのだろうか。

 実のところ本作では、ゲーム画面をクリックすることで「平行世界を増やす」、「平行世界を消す」という2つの操作が可能になっている。はじめは1個だったゲーム世界が、クリックすると2つに分裂し、さらにクリックすると3つ、4つに、と言う風に、ほぼ無制限に「平行世界」を増やすことができるのだ。

 このとき、新たに作られた並行世界は完全にコピーされたものではなく、「何かが少しだけ違う」という世界になっている。まるで量子論の多世界解釈みたいな話だが、これにより、作られたそれぞれの平行世界では、時間を経る毎にだんだんと違いが大きくなっていく。ある世界では順調に隕石を撃破し、別の宇宙では隕石に衝突してゲームオーバー、ということになるわけだ。

 そしてキモとなるルールが、平行世界のどれか1つでもゲームオーバーになった時点で、ゲーム全体が終了するというものだ。このためハイスコアを目指すためにプレーヤーは平行宇宙をたくさんつくり、隕石に衝突してゲームオーバーになりそうな宇宙を素早く見つけては削除する、という方法で遊ぶことになる。こうして、展開の悪い平行世界は刈り取られて、うまくプレイされている並行宇宙が子々孫々まで続いていく。

 本作は自分で宇宙船をプレイしなくても良いゲームであるかわりに、複数の世界の状況を常に把握しておく必要がある点で、別の意味で難しくなっているようだ。「マルチコアプロセッサによる高速化も可能」とのことだが、本作の仕組みを使って応用例を考えるのはなかなか難しそう。とはいえ、「センス・オブ・ワンダー」にふさわしい、見るものをハッとさせるアイディアである。



自動制御されているゲーム世界のコピーをたくさん作り、どれかが「ヤバそうになったら」消す、という作業で遊びが成立する。応用方法としてはアドベンチャー的なゲームに使う方向性や、ネットワーク上で複数のプレーヤーが参加できるような方向性を考えているようだった



・「Transcend」 Zach Aikman (Fishbeat)/アメリカ

「Transcend」
プレゼンテーションを行なったZach Aikman氏。感覚に訴えるようなゲームデザインが得意であるようだ

 アメリカから参加したZach Aikman氏による作品は、音を見る、色を匂う、といった「共感覚」の不思議さを表現しようとするアクションゲームだ。見下ろし型の3Dアクションとして展開するゲームの基本コンセプトは「リズム」。ノリのよい音楽に合わせてボタンを押し、ビートを刻むことでキャラクターからビームが発射され、敵を攻撃できる。

 対する敵キャラクターもこちらを攻撃してくるので、プレーヤーは常に移動し、攻撃を回避したり、適切な対象を攻撃できるようポジショニングしなければならない。それを、リズムを刻みながらプレイするので、俄然「複数のことを同時にやる」という操作スタイルになってくる。これは結構難しそうだが、慣れてしまえば非常に気持ちの良い感覚であるようだ。

 こうした「リズム」に基づいたアクションを展開することで、音によって与えられる情報が、ゲーム画面上の映像として豊かに表現される。もしプレーヤーがリズムを刻めなかった場合は、うまく攻撃できなかったり、回避に失敗してやられてしまう。

 ゲーム全体としてはステージクリア型のスタイルをとっているようで、見た目の完成度も高い。マイクロフトの開発プラットフォーム「XNA Game Studio」を駆使して作られたシェーダーグラフィックスは、XBOX LIVE ARCADEなどで有料配信されていてもおかしくないほどの雰囲気を醸していた。

 いわゆる「音ゲー」とアクションゲームを融合させた内容は、例えば「Audio Surf」のような既存の作品でも試みられているため、驚きの要素こそ薄い。本作についてはオーディオ、グラフィックス、演出など、全体的な完成度の高さが、今回のイベントに選出された主な理由と言えそうだ。



「リズムに合わせてボタンをタップする」、「敵の攻撃を避ける」といった操作を同時に行なう必要があり、慣れるまではなかなか難しそうだ。本格的なレベルエディターも実装されているようで、非常にクオリティの高い作品であると感じられた




(2009年 9月 26日)

[Reported by 佐藤カフジ ]