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ゲーム開発のパーソナル化を象徴した「センス・オブ・ワンダーナイト」
今年も驚きの作品が続出。会場でも体験できるプレゼン9作品の全てをご紹介!
(2013/9/21 17:48)
近年ではゲームエンジン「Unity」が代表するように、安価で高機能なゲーム開発環境が得られるようになり、個人制作のゲームの高品質化が進んでいる。その一方で、人を感動させる画期的なアイディアのゲームに見つけることは、多数のゲームが溢れかえるようになった現在、むしろ難しくなっているのかもしれない。
そうした個人制作のゲームに光を当てるイベントが「センス・オブ・ワンダー ナイト(以下『SOWN』」だ。東京ゲームショウ期間中に毎年開催され、今年6回目の開催となる。本イベントは、“見た瞬間、コンセプトを聞いた瞬間に、誰もがハッと、自分の世界が何か変わるような感覚”=「センス・オブ・ワンダー」を引き起こすようなゲーム作品を集め、品評し、広く紹介することを目指している。
イベントが継続的に続けられていることもあり、近年ではこの「SOWN」の出展を目指してゲームを開発する人も増えているようだ。過去の出展作品の中にはその後製品化を果たしたものも多く、いわばインディーズの登竜門として広く認知されるようになってきた。
その中で今年は9つの作品がプレゼンテーションされた。傾向としては、非常に個人的な感情や思考をつぶさに反映した作品が多く、いわばパーソナルなゲーム作品が増えているようだった。個人的な体験を他と共有するためのツールとしてのゲーム開発、これが世界的に新しい表現の方法として浸透していくのかもしれない。
そんなことを感じさせた今年の9作品を、会場での受賞内容とともに以下ご紹介していこう。
なお、「SOWN」で出展された各作品は、TGS 2013会場内の「インディーズゲームコーナー」にも出展され、来場者は実際にプレイすることもできる。皆さんも気になる作品があればぜひいちど触ってみてはいかがだろうか?
「カポラッチカさん」── 濱口健太/日本
本作は従来の音ゲーとは逆の概念で創られた作品だ。通常の音ゲーが、ゲーム操作の結果としてサウンドを演奏を発生させるところ、本作では実際の演奏をリアルタイムにキャプチャーして、それをゲーム内に登場させるという仕組みなのだ。
ゲームには複数の種類がある。演奏に合わせた音符がプラットフォームとなってキャラクターが前に進んでいくゲームや、上から落ちてくるパターンに合わせて楽器を演奏するゲーム、複数のキャラクターの映像に合わせて適した和音を生み出していくゲームなどだ。
実際の演奏がゲームプレイになることで、本作は「楽器の練習にもピッタリ」という濵口氏。チーム2人で画面に合わせた演奏では、タイミングをあわせるのもなかなか難しいらしく、ちょっとヨタヨタ感のあるおもしろい響きで来場者を沸かせていた。
「チュー太とふしぎな洞くつ」── チュー太製作委員会/日本
トライデントコンピューター専門学校の先生、学生、そしてとある会社の技術者が集まって結成された「チュー太製作委員会」の皆さんは新機軸の“超柔軟インターフェイス”と、それを使ったゲーム「チュー太とふしぎな洞くつ」を披露した。
この超柔軟インターフェイスは、複数の圧力センサーを柔らかな物質の中に埋め込んで構成したもので、押したり曲げたり摘んだりとグニュグニュに力を加えることで、その圧力を感知してゲーム入力に使える仕組みとなっている。
従来のコントローラーは「ビジネスライク」で、柔らかいコントローラーは「癒やし」との対比には会場も爆笑だ。ゲームのほうはネズミ風のぬいぐるみで操作する。洞くつを進んでいくネズミが障害物に当たらないように、ぬいぐるみを押したり広げたりすることで、洞くつの形を変えていくという仕組みだ。
プレゼンテーション的には気合が入りすぎ前置きにあまりに長い時間をつかってしまい、ゲームそのものが30秒ほどしか披露されなかったため、それ以上のところはわからなかったが、この柔らかいコントローラーというのは広く応用できそうな手応えがあって興味深い。
「TSURI」── 雑魚雑魚/日本
・Best Presentation Awardを受賞
3年連続の出場を果たし「そろそろ審査員にしてください」と主張する同人ゲーム開発チーム雑魚雑魚は、今年もネタ豊富なプレゼンで会場を沸かせた。肝心のゲームの方は、なんと、プレイしないゲーム。その名も“TSURI”。
アプリを起動すると釣りシーンが始まる。次にやるのは、アプリを終了すること。“TSURI”のことなんて忘れて日常に戻り、人生を楽しむ。そして忘れた頃に“TSURI”を起動すると……何かが釣れているという塩梅だ。
というわけで、もちろん放置した時間に応じて釣果が変わる。1時間後に起動すると、120cmのマグロ。5日後に起動すると、1,800cmのザトウクジラをゲット。そして1ヶ月後に起動すると……伝説の巨大ロボ(10,500cm)をゲットだ! 釣れたからといって何がどうなるわけでもないが。
雑魚雑魚メンバーはゲームプレイのデモンストレーションと称して「パズドラ」で遊び始めたり、カップ麺を作り始めたり、会場の同時通訳スタッフいじりを始めたりと完全に脱線したままゲームを再起動することなくプレゼン終了。会場のウケをとってBest Presentation Awardを受賞した。いや、まあそれはゲームを披露するイベントでどうなんだと思う部分がないわけでもないが、確かに面白かった。
「KYOTO」── Eddie Lee(Funktronic Labs)/日本
・Best Art Awardを受賞
カルフォルニア出身で京都のゲームデベロッパー、キュー・ゲームスに勤めた経験もあるインディーズ開発者、Eddie Lee氏は、自らのパーソナルな感動をインタラクティブ・アート化したゲーム「KYOTO」を披露した。
Lee氏は始めて来日し際、アメリカ西海岸とは全く違った京都の姿に深い感銘を受けたという。ある日桜の咲く公園で夜空を見上げていたときに、得も言われぬ感動に襲われ、帰国後それをLee氏なりの形であらわしたのがこの作品だ。
本作はゲームというよりアートそのもの。シルエットと光で表された桜の木や、それが映る水面、明るく光る月、周囲を飛び回るホタルが印象的に描かれ、マウスでなぞることで様々な美しいエフェクトが発生する。アンビエント系の音楽も連動していて、極めて繊細な雰囲気を湛えている。
見ているだけでも何か心をゆさぶる趣があり、Best Art Awardを受賞するにふさわしい美しさだった。
「Space Qube」── Qwen Wu (Qubit Games)/台湾
台湾のインディーズ開発者Qubit GamesのQwen Wu氏らのチームは、立体のブロック(キューブ)を使って自由にキャラクターを作り、遊ぶことのできるシューティングゲーム「Space Cube」を紹介した。
カナダに単身赴任していたエンジニアのWu氏は、台湾に残した5歳の子供と一緒にレゴブロックで遊ぶために、「レゴブロックのネットワーク化」を考え、この作品を着想したという。
そのため本作ではブロックを使ったエディット機能がメインとなっている。操作は簡単で、ブロックを2Dのレイヤー毎に配置していって、複数のレイヤーで3Dを作るという仕組みだ。金太郎飴を逆に組み立てる感じをイメージすればわかりやすい。5歳の子供でも操作できるほど簡単に創られている。
こうして創られたキャラクターでステージクリア型のシューティングゲームに挑戦。敵を倒してブロックを回収するとパワーアップ。最後はボス戦。このあたりはオーソドックスだが丁寧なつくりだ。
面白い試みとして、本作でつくった3Dキャラクターを、クラウド上にアップして依頼すると、Qubit Gamesのスタッフが3Dプリンタで実物を出力して送り届けてくれるサービスをスタート。本作はこの「SOWN」に合わせて9月20日に配信開始したとのことなので、皆さんもどうぞ。
「Mirage」── Mario.von Rickenbach / スイス
・Best Experimental Game Award を受賞
スイスのインディーズ開発者Rickenbach氏が披露したのは、謎のシルクハット生物が生物的な進化を遂げつつ、世界を探索してポップコーンを食べていくという超シュールなゲームだ。
ゲームはシルクハットだけの状態からスタート。世界にはいろいろな体のパーツが転がっていて、まず「足」を見つけると自在に移動できるようになる。まだ世界がぼやけて見えるので、次は「目」を獲得。すると、周囲に漂うポップコーンが見えるようになる。次はそれを食べるための「口」だ。
こうしてシルクハットはパーツを付け加える度にあらたな能力を獲得していき、探索する世界を海の中から空、やがては宇宙にまで広げていくという流れだ。シュールレアリスム的な映像に合わせて超オシャレなスムースジャズがBGMとして流れ、なんだか不思議に癒される。
足や目や口という、説明不要でその機能がわかるパーツでゲームプレイが広がっていくという点が好意的に受け入れられ、実験的ゲームとして最高の評価を受けた。この仕組みは言語を超えるゲームの実現に重要であったことはもちろんだが、同じ概念でさらにゲームのアイディアを広げていくこともできそうだ。
「Framed」── Boggs Joshua (Loveshack Entertainment) / オーストラリア
ゲームのシナリオ構造そのものを遊びに変える手法として、画期的なアイディアを披露してくれたのがこの「Framed」。オーストラリアのJoshua氏が率いるうインディーズチームが開発したこの作品では、サスペンスコミックのように表現されたコマ割りをプレーヤーが再配置することで、正しいシナリオを見つけてゲームを進めていく。
例えば「逃走」、「銃撃」、「ジャンプ」、「部屋の床」、「テーブルと窓のある部屋」、「窓の外に滑車つきワイヤー」というコマ割りで構成されたシーン。ここではそのままシーケンスをスタートすると、「銃撃」に続く「ジャンプ」シーンで被弾し、次の「部屋の床」に這いつくばって死んでしまう。
そこでコマを入れ替えて、「銃撃」、「テーブルの有る部屋」、「部屋の床」、「ジャンプ」というふうにする。すると、銃撃をテーブルを使って避け、部床で助走してから、ジャンプ。窓を破って窓の外にある滑車に取り付く、という流れで脱出シーケンスが成立するのだ。
面白いのは、こういったイベント時系列を入れ替えることで、空間的な配置もかわり、それにより起こる現象が多彩に変化していくことだ。失敗しても成功しても納得できるシーケンスがアニメーション再生され、見ているだけでも面白い。製品化されれば是非買って遊んでみたいと思わせる作品だった。
「Museum of Simulation Technology」── Albert Bor Hung Shih / アメリカ合衆国
・Best Technological Game Award および
・Audience Award の2部門を受賞
カーネギーメロン大学、エンターテイメントテクノロジーセンターに所属するHung Shih氏はとてもシャイな性格なようで、ガッチガチに緊張して言葉を途切れさせながらも、来場者の度肝を抜くようなすごいゲーム作品を見せてくれた。
本作でフィーチャーされたのは「強制遠近法」という概念。遠くにある巨大な構造物を指でつまんでいるような写真など、一種の錯視現象を作るトリックアートの手法だ。
FPS風のインターフェイスで操作する本作では、ゲーム内にある様々なオブジェクトをつまんで移動させることができる。その際、風景のどこにオブジェクトを移動させるかで、そのオブジェクト自体の大きさが変わってしまうのだ。
例えば遠方にある巨大な塔をつまんで、ぐるりと回って横にあるテーブルの上に置くと、チェスの駒と同じようなサイズになる。逆に、チェスの駒をつまんで、ぐるりと遠方の風景の方に置くと、さきほどのタワーのように大きくなるのだ。
これは、物体を、その奥にある壁などの障害物にギリギリぶつかる大きさに自動的にスケーリングするという手法で実現されている。とても不思議な感覚ながら、コントロールは実に直感的。これを使ってステージ内のどこかにあるゴールを目指すというのが本作のシステムなのだ。
最初の方のステージでは、小さなブロックを空に向かって置き巨大化させ、橋のように使って先に進むといった簡単な解法だ。これが先に進むと様々な工夫が始まり、例えば空に浮かぶ月をつまんで壁際におくと、裏側にゴールがあったりと驚きの連続だ。
入り口と出口が対になっている2つのポータルを使うと、自分自身をスケールすることもできる。これを利用して巨大化、最初は見えなかった世界の向こう側を見るとゴールが見つかるという仕組みには集まった来場者も度肝を抜かれ、「オオ~」というどよめきが起こるほどだった。
本作がBest Technological Game Award および「SOWN」の大賞でもあるAudience Awardという2部門の受賞に輝いたのは、まさにこの機知に富んだゲームプレイメカニクスによるものだ。筆者としては、空間パズルFPS「Portal」を始めて見た際の驚きに似た衝撃を本作から受けた。
「Lost Toys」── Danielle Marie Swank(Barking Mouse Studio) / アメリカ合衆国
・Best Design Awardを受賞
直感操作の非言語インターフェイス、ゲームの目的も自ずとわかるというテーマに即した作品を開発したのは、インディーズ開発者Danielle Marie Swank氏らのチーム。本作「Lost Toys」では幻想的な映像を使ってプレーヤーの関心や、プレイの誘導にうまく繋げる手法を積極的に取り入れている。
ゲームのゴールは、ステージ内にある、最初は何なのかよくわからない灰色のオブジェクトを本来の姿に戻すこと。オブジェクトはルービック・キューブ的な構造をもっていて、適切に回転させることで解くというシンプルなルールだ。
本作ではそこに独特のあーとスタイルを持ち込んでいる。木製のオモチャのような外観は、それが直接手で触れるべきものであることを示す。操作中のオブジェクトは被写界深度表現によりフォーカスされ、ゲームプレイの主眼が暗示される。ゲーム画面にひとつの文字もないが、誰もがプレイできるゲームなのだ。
本作はこの印象的な画面デザインがゲームプレイにリンクしている点を評価され、Best Design Awardを受賞。子供向けの知育ゲームとしてもよさそうだし、大人がリラックスするためにプレイするのもよさそうだ。