IGDA日本、第4回iPhone/iPod touchゲームセミナーを開催

UI視点でのゲームデザインをテーマに、ゲームニクス理論の紹介や新作アプリを発表


11月12日 開催

会場:アップルストア銀座



 国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)は11月12日、第4回iPhone/iPod Touch Game Devシリーズセミナーをアップルストア銀座で開催した。テーマは「ユーザーインターフェイス(UI)論から考える適切なゲームデザイン手法」で、ゲームジャーナリストの小野憲史氏が「ゲームニクス理論」を紹介、ゼペットの宮川義之氏は新作アプリ「LightBike2」などを発表した。

 「ゲームジャーナリストの小野憲史氏」とは、つまり筆者のことだが、これまでのセミナーを取材してきた経緯から、自分でレポートすることになった。そのため前半部分は「お手盛り」感も漂うが、そこはご容赦いただきたい。できるだけ客観的にレポートするつもりだ。

 さて、本セミナーも第4回目となり、イベントとしてすっかり定着してきた印象がある。今回も最終告知が開催1週間前だったにも関わらず、アップルストア銀座3階のイベントスペースは満席となった。なお本セミナーでは参加者によるTwitterでの「ツイート」(つぶやき)が奨励されている。ハッシュタグは「#igdaj」なので、興味のある人は検索して、本記事と合わせて読むといいだろう。




■ゲームニクスは「人を夢中にさせる」テクニック

スピーカーの小野憲史氏
ゲームニクス理論を提唱するサイトウ・アキヒロ氏(右)。会場ではサイトウ氏がゲームニクス理論の説明でテレビ出演したビデオも紹介された

 「ゲームニクス理論」といっても、耳慣れない人が多いだろう。これは立命館大学映像学部教授のサイトウ・アキヒロ氏が提唱しているもので、ゲームの「人を夢中にさせる(ハマらせる)」テクニックのことだ。サイトウ氏はファミコン時代からゲームを作ってきたベテラン開発者で、現在は大学でゲームニクス理論の研究をしながら、実際の商品開発に取り組んでいる。主なプロジェクトにはクラリオン株式会社との次世代カーナビゲーションシステムなどがある。

 もともとサイトウ氏はゲームの「間口が広く、奥が深い」特性を、家電などの商品開発に応用したいというビジョンを温めていた。筆者もそれに共感し、ゲームニクス理論を解説する書籍の編纂に協力させてもらった経緯がある。今回も本来ならサイトウ氏が登壇するところだが、残念ながら所用で参加できず、筆者が代打として解説することになった。

 「ゲームにハマらせる」と聞くと、ゲームデザインを連想する人が多いだろう。ここではゲームデザインとはルール作りのことで、ゲームニクスとはゲームデザインによって生まれた「楽しさ(fun)」をプレーヤーに伝えるための手段と切り分けている。そのためUIやレベルデザイン、演出など、さまざまな要素を含む概念となっている。これも家電のUIなどへの応用が念頭にあったためだ。


ゲームニクスはゲームの面白さをユーザーに伝えるためのテクニックだ。家電のリモコンとゲーム機のコントローラーを比べても、家電のUIは煩雑すぎて使いにくく、ゲームニクス的に劣っている

 続いてゲームニクス理論の概要について紹介する。ゲームニクスには「マニュアル不要で誰でも使える」、「使っているうちに、次第に上達していく」という2つの要素があり、そのために「直感的なUI」、「マニュアル不要のルール理解」、「はまる演出と段階的な学習効果」、「ゲームの外部化」という4つの原則がある。この下に数百個もの詳細項目があるが、時間の関係上、それぞれのさわり部分だけに止まった。

 この中でもiPhoneとの関係で重要なのが「直感的なUI」で、これはデバイス特性とソフトウェア(ゲーム)をうまく関連づけるという意味だ。これに反して失敗した例として、アーケードゲーム第1号の「コンピュータースペース」(1971)を紹介したい。本ゲームは宇宙船を操作して隕石やUFOを撃ち落とすゲームだが、4個の操作ボタンがパネル上に横一列に配置されており、慣れなければ操作に迷いやすい。この反省からか、第2作の「ポン」では、ボリュームスイッチでパドルを上下させるだけという、シンプルでわかりやすいUIデザインとなっている。
 
 この配列にした理由には、元になった「スペースウォー!」との関連性があると推察している。「スペースウォー!」はミニコンのPDP-1上で作られ、初期ではPDP-1の操作パネルにある4基のトグルスイッチを上下させて操作していた。このUIがそのまま「コンピュータスペース」にまで引き継がれたのではないだろうか? 真偽はどうあれ、ここから得られる教訓は「ハードウェアやユーザー層が変わったのに、元のゲームのUIを無批判に継承してはいけない」ということだ。


商用アーケード第1号「コンピュータスペース」はUIが直感的ではなく、続く「ポン」ではシンプルなUIとなった。これはPDP-1で作られた「スペースウォー!」の操作系を、そのまま引用したのが原因だったのではないだろうか?

 後半ではゲームニクス理論のiPhoneゲームへの摘要について解説した。ここで重要になるのが、いわゆる「十字キー+ABボタン」の不在だ。そのため画面上にバーチャルパッドを表示させて使う例が主流になっているが、その際は指がパッドから外れても操作をフォローするような仕掛けが必須だと指摘した。こうした配慮は「バイオハザード4」や「METAL GEAR SOLID TOUCH」を始め、大手タイトルでは主流となっている。

 ただし、これらはタイトルやブランド資産を活かしたい大手メーカー向けだ。逆にこうした強みのない中小デベロッパーは、バーチャルパッドに労力を割くよりも、新しいUIを作って、それを軸にゲームデザインを行なうべきだ。全iPhoneアプリで、十字キー+ABボタンというUIにこだわるのはゲームだけという現実もある。その上でゲームニクス的な視点から、そのゲームの持つ「面白さ」をプレーヤーに的確に伝える努力をするべきだろう。


iPhoneゲームにおける開発tips。このほか「複数の画面を頻繁に切り替えさせない」、「アイコンはメイン画面のアイコンより小さくしない」などが挙げられた

 ちなみに筆者はGAME Watchでのレビュー記事でも、ゲームニクス的な視点を取り入れている。第1に、ゲームの概要紹介を行ないながら、面白さの「核」の部分を、ゲームデザイン的な視点で指摘する。第2に、その面白さがプレーヤーに的確に伝わっているか、ゲームニクス的な視点から評価する。第3に、前の2つの結果から最終評価をする、という3段論法だ。

 例として「DrawRace」では、「同時プロット方式による見守りゲーム」という核に対して、「画面を見ただけで遊び方がわかる」、「ミスの結果がわかりやすく、タイム短縮のしがいがある」、「テンポがよく、繰り返し遊べる」という3点で評価している。これらがゲームニクス理論の「直感的なUI」、「マニュアル不要のルール理解」、「はまる演出と段階的な学習効果」に相当するというわけだ。よければ他のレビューもチェックしてみてほしい。


「DrawRace」でのレビュー事例。開発者が生み出したゲームデザインを、レビュアーがゲームニクス的視点でチェックする構成になっている



■伝説の神ゲー「LightBike」に続編が登場

ゼペット代表取締役の宮川義之氏
iYamatoでは非ゲーマー向けに持ち方が表示される

 第2部では「iNinja」、「iYamato」でおなじみの株式会社ゼペット代表取締役の宮川義之氏が登壇し、過去のタイトルの開発経緯を振り返りながら、iPhoneならではのゲームデザイン哲学について語った。また新作アプリ「LightBike2」、「PocketVegas」を発表。続編「iYamato2.0」と、CEDEC2009で発表された「iCarShoot」についても最新情報が公開された。

 はじめてiPhoneに触ったとき、そのパワーに驚いたという宮川氏。第1弾のゲーム「iNinja」は、これまでの携帯電話では難しかった物理エンジンによる滑らかな映像と、タッチ操作の組み合わせだった。しかし全ステージにセーブ・ロード機能搭載と作り込んだにもかかわらず、セールス的には芳しくなかった。

 そこで第2弾の制作にあたり参考にしたのが、米国のApp Storeで有料アプリのランキング1位を獲得した「LightBike」だったという。「LightBike」は「iNinja」よりもさらにシンプルなゲームだが、大ヒットを記録した。そこで「LightBike」のように「シンプルで、面白さの中核だけを切り取り、早く作る」をテーマに「iYamato」が誕生した。

 ちなみに「iYamato」で採用した「戦艦大和」という題材は、国内のiPhoneユーザーの中心層が30~40代であることに合わせるという、マーケティング的な狙いもあった。そこでコアなゲームファンでなくとも遊べるように、初プレイ時には必ず「iPhoneの持ち方」の画面を表示するように配慮している。なお「iYamato」は現在「月下の大和」をテーマに「Ver.2.0」を制作中だという。

 ボールペンでスーパーカー消しゴムを弾いて遊ぶ感覚をテーマにした「iCarshoot」も、3Dの物理計算と「おっさん狙い」をテーマに、音楽ゲーム「newtorica」を開発した有限会社Route24の西健一氏との雑談中に生まれたアイデアだ。ゲームデザインの原点は、画面をタッチして方向を決め、狙って打ち出すというアクション操作から。宮川氏は本作について、「ジャンル的にはレースゲームだが、本質は相手の邪魔もできる“ゴルフゲーム”だ」と表現した。確かにノックして車をゴールまで進める点はゴルフゲームそのものだ。


iCarshootの本質はゴルフゲーム。写真を張ってオリジナルカーが作れる

 続いて新作2本が初公開された。そのうちの1本が前述「LightBike」の続編「LightBike2」だ。アップルの関係者向けカンファレンス「WWDC」(WorldWide Developers Conference)で株式会社パンカクの柳澤康弘社長と出会い、意気投合した結果、開発をゼペットで担当することになったという。主な改良点は3Dビジュアルの強化と、アイテムやルールの追加だ。さらに本作ではオンライン対戦に、パンカクが提供するマッチングサービス「Pankaku-Net」が用いられ、コミュニティ要素が強化される予定だ。なおPankaku-Netは今後、他社の参入も視野に入れられている。 

 もう1つがiPhoneアプリの紹介サイト「AppBank」とのコラボレーションで開発中のトランプアプリ「PocketVegas」だ。「あらゆるトランプゲームを持ち運べるプラットフォーム」がコンセプトで、第1段として「対戦ソリティア」が配信され、順次コンテンツを追加していく予定だという。衛星軌道に浮かぶ宇宙カジノというイメージで、コミュニティ要素が重視されており、iPhoneのGPS機能で対戦相手の国が地球に表示されたり、Twitterと連動する機能もある。

 このように新作2本ではアプリのプラットフォーム化を念頭におき、ゲームだけでなく、周辺のサービスや背後の設計まで含めたゲームデザインが行なわれている点がポイントだ。


「LightBike2」では3Dのビジュアル観やアイテム類が追加された「PocketVegas」はTwitterと連動するトランプ・プラットフォーム

 最後に宮川氏は「遊び心地の時代」というキーワードでゲームデザイン哲学を語った。宮川氏はiPhoneがヒットした最大の要因は、触り心地が抜群によかったからだと分析し、ゲーム制作においてもiPhoneのUIをお手本に、「遊び心地」のいいゲームを作りたいと述べた。またiPhoneゲームが爆発的に増加したのは、参入障壁の低さに加えて既存の入力デバイスが使えず、大手の強みが生かせなかったからだと分析し、「既存のモノにのっかる時代ではない」と補足した。




■ゲーム画面は0.1秒しか見ない

パネルディスカッション風景
司会の新清士氏
ゼペット宮川義之氏(左)とAppBank宮下泰明氏(右)

 セッションの最後では前述のAppBankから宮下泰明氏も加わり、IGDA日本代表の新清士氏の司会で、パネルディスカッションが行なわれた。内容はお互いの議論を掘り下げから、アプリ談義、レビュー記事のスタイルなど多岐に渡ったが、その中でも興味深かったトピックを紹介しよう。

 まずAppBankでは、紹介するアプリの選定を宮下氏が行なっており、選定基準はスクリーンショットだけだという。それも1作あたり0.1秒ほどで、大量のスクリーンショットを次々にチェックしながら、ピンときたものを取り上げると語っていた。それでも「打率」はかなり高いのだという。

 このことから筆者は、以前ある開発者からアーケードゲームにおけるメインのゲーム画面の重要性について聞いた内容を思い出した。アーケードゲームのメイン画面はゲームデザインと深い関係があり、店内を周遊するお客さんにアピールする重要な要素となるため、非常に重要だというものだ。iPhoneアプリとアーケードの意外な共通点に驚かされた。

 また筆者はiPhone OS 3.0で可能になった、ドックコネクタやBluetoothによる外部デバイスの操作について紹介した。デバイスは家電量販店などで発売し、操作するためのアプリをiTunesで販売して、iPhoneをデバイスのリモコンとして使うイメージだ。すでに北米ではFMトランスミッターなどのニッチ商品から展開が始まっている。

 これは将来的に家電だけでなく、あらゆる情報操作に応用でき、iPhoneが万能リモコンになる可能性がある。アップルがやらずとも、マイクロソフトやGoogleが実現するかもしれない。もっとも、そこで使いやすいアプリを作るには、ゲームニクス的なノウハウが重要になる。ゲーム業界においても、こうしたラジカルな視野が必要だろう。

 最後に宮川氏は「ツールやミドルウェアがますます充実し、来年はもっとゲームが作りやすくなって、競争も激しくなる」とiPhoneアプリの激戦ぶりに触れた。これはユーザーから見れば天国だが、作り手からすれば、お笑い番組で若手芸人が次々に登場してくるようなものだという。こうした大量のアプリ群で頭ひとつ抜きん出るためには、完成度が高くて、ひねりが効いたアプリが必要だと指摘した。

 次回のセミナーは12月18日で、「ハドソンの戦略」と題して、同社の柴田真人氏が登壇する予定。次次回は1月15日を予定している。


(2009年 11月 13日)

[Reported by 小野憲史 / 撮影協力: 大前広樹]