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任天堂など各メーカーの法務担当が集結。二次創作・動画配信など知的財産権の重要性を語る
東京eスポーツフェスタにてパネルディスカッション「ゲーム業界における知的財産権の重要性について」が開催
2025年1月10日 21:45
- 【東京eスポーツフェスタ2025】
- 会期:1月10日~12日
- 会場:東京ビッグサイト 南1・2ホール
- 入場:無料
近年、ゲーム業界の発展の陰で知的財産権をめぐる問題も深刻化している。海賊版のほか、二次創作や動画配信などの問題も出ている。この状況に対し、業界を代表する企業はどのように対応しているのだろうか。
東京ビックサイトにて開催中の「東京eスポーツフェスタ2025」では、ACCS(コンピュータソフトウェア著作権協会)によるパネルディスカッション「ゲーム業界における知的財産権の重要性について」が開催された。そのパネルディスカッションは、知的財産権を巡る様々な課題と、その解決に向けた具体的な取り組みが語られる貴重な場となった。
本稿では、「ゲーム業界における知的財産権の重要性について」の内容を詳しく紹介する。
二次創作と動画配信のガイドラインを例にしたユーザーに向けた取り組み
最初のテーマとして、ゲームユーザーによる著作権侵害への対策、そして健全なゲームプレイを促進するための実況ガイドラインの整備といった、「ユーザーに向けた著作権に関する事例や取り組み」が取り上げられた。
まず、コーエーテクモホールディングスの西村智稔氏が、ユーザーに対する著作権の取り組みとして、「同人誌などの二次創作」と「動画配信関連」の2つを挙げた。西村氏は、二次創作について、同社としては同人誌のような二次創作を否定していないと明言。コミックマーケット(コミケ)への協賛からもわかるように、いわゆるオタク文化には寛容な企業であると述べた。
しかしながら、過去には同社の格闘ゲーム「DEAD OR ALIVE」シリーズに関する同人誌を、4つのサイトで計200~300件程度販売停止した事例も紹介。また、ゲーム内容が未公開の段階でメイングラフィックのみを使った同人誌の販売を中止要請したケースや、SNSやPixivなどのネット上に投稿されるイラストについても、同社が不適切と判断した内容については年間2,000~3,000件に及ぶ厳しい対応をしていると語った。
西村氏は、ファン活動への感謝を示しつつも、クリエイターが生み出した大切なキャラクターは「娘のような存在」であると表現し、アダルト改変されたものや、キャラクターのイメージを損なうものには対応せざるを得ないという。また、ロイヤリティを支払い正規に許諾を得た企業を保護する必要性もあるため、厳しく対応していると説明した。
続いて、カプコンの奥山幹樹氏は、動画配信に関するガイドラインについて説明した。カプコンは、事務所などに所属していない一般ユーザー向けにガイドラインを公開しており、ユーザーによる動画投稿を応援する立場を明確にした。YouTubeなどの広告収入や、視聴者からのスーパーチャット機能を利用した収益化も容認しており、ユーザーがゲームの楽しさを共有し、より多くの人にゲームの魅力を伝えることを後押ししている。
ただし、動画配信にあたっては、ゲーム内の音楽やボイス、ムービーのみを抜き出して投稿すること、公式映像や大会の映像をそのまま掲載することなど、いくつかの禁止事項を設けている。さらに、差別的な内容やアダルト系のコンテンツ、誹謗中傷や宗教活動に関わる動画も禁止しており、ブランドイメージを損なう行為や、ユーザーが不快な思いをする可能性のあるコンテンツに対しては、厳格に対応する姿勢を示した。
奥山氏は、ガイドラインに違反していなくても、最終的にはカプコンが不適切と判断したコンテンツは削除する場合もあると述べ、ユーザーにガイドラインを理解した上で、動画配信を楽しんでほしいと呼びかけた。また、他社も同様のガイドラインを公開しているため、各社のガイドラインを確認するように注意を促した。
同業者間の知的財産権の扱いと海賊版対策について
セッションでは次に、同業者間の知的財産権の尊重と、海賊版対策という、より業界全体に関わるテーマに移った。
まず、セガの桝本菊夫氏が、同業者間の知的財産権侵害について言及した。桝本氏によると、近年は悪質な知的財産権侵害の事例はほとんどなくなってきているという。これは、業界内でのモラルが向上し、知的財産権に対する意識が高まっていることを示唆している。また、ゲーム業界は互いに良い部分を「マネ」しあいながら発展してきた側面があるとし、他社の取り組みを参考にすることは問題ないとの考えを示した。
ただし、その「マネ」にも限度があることにも言及した。例えば、キャラクターデザインが競合他社に模倣されるといったケースは、著作権侵害の可能性が生じる。実際にそのような事例があったとし、セガは著作権侵害に基づく警告を行ない、問題となった企業は自発的にキャラクターのデザインを変更するなどの対応をしたと説明した。
続いて、任天堂の西浦光二氏が、知的財産権侵害の中でも最も深刻な問題として、電子的な違法コピー、いわゆる海賊版の問題を挙げた。任天堂のゲーム機には様々なセキュリティ対策が施されているものの、マジコンやモッドチップといった違法なツールを使用すると、海賊版のゲームがプレイ可能になってしまうと説明した。
これらのツールは、法律上の「技術的制限手段」を無効化するものであり、日本では不正競争防止法、海外では主に著作権法で規制されていると解説した。海賊版の蔓延は、任天堂だけでなく、ソフトメーカー各社のビジネスにも悪影響を及ぼすため、このような違法なツールへの対策を強化していると述べた。
具体的な対策として、過去の「マジコン訴訟」を紹介。この訴訟では、ニンテンドーDSの正規ゲームカードを模倣し、認証をパスして海賊版を起動させる不正機器を販売していた業者に対し、任天堂だけでなく50社以上のソフトメーカーが原告に加わり、不正競争防止法違反として勝訴したと説明した。
さらに、エミュレーターについても触れ、エミュレーター自体はゲーム機などの特定の装置やソフトウェアの挙動を模倣するソフトウェアであり、必ずしも違法ではないものの、その使用方法によっては違法になる場合があると説明した。エミュレーターが違法となるケースとして、模倣元のゲームのプログラムを複製して作成した場合、ゲームソフトのセキュリティを無効化する機能を持っている場合、海賊版サイトへのリンクを多数持ち、海賊版の入手を容易にしている場合の3つを挙げた。
Nintendo Switchに関しても、エミュレーターが複数流通していたが、技術的制限手段を無効化する違法な機能を持つものに対しては、米国を含む海外で訴訟や警告などの対策を行い対処したと述べた。
特許権、商標権、意匠権を駆使した知的財産戦略
セッションは、著作権に関する議論から、さらに踏み込み、特許権、商標権、意匠権といった、著作権以外の知的財産権に焦点を当てた。モデレーターの久保田裕氏は、各社が時間と労力をかけて創出した新しいゲームを保護するためには、これらの知的財産権の活用が不可欠であると述べ、知的財産権の許諾や侵害の状況、それらの重要性について、パネリストに話を促した。
このテーマに対して、まずコナミの村瀬俊介氏が、ゲーム開発費の高騰に触れ、大規模なタイトルでは開発費が2桁、場合によっては3桁億円を超えるものもあると指摘した。その上で、開発期間中に生まれた革新的な技術や、面白いゲームの仕組みといったものを、開発費を回収する手段として、他社へのライセンスアウトに繋げるという視点も重要であると述べた。
また、研究開発によって生まれた新しい技術が保護されない状況では、開発者のインセンティブが失われてしまい、新しい技術や面白いゲームが生まれにくくなるという悪循環に陥る可能性を示唆した。そのため、知的財産権を保護することが重要であり、コナミとしてもACCSのような団体と協力して模倣品や海賊版対策に積極的に取り組んでいくと述べた。
続いて、カプコンの奥山幹樹氏は、カプコンが各タイトルの開発に積極的に投資を行なっていることを説明した。世界品質のゲームコンテンツを創出するために、人材投資だけでなく、開発エンジンや最先端技術の研究開発費にも多額の投資をしているという。また、eスポーツや映像ライセンスなどの周辺事業との連携を強化し、全世界でのコンテンツ展開を拡大することで、ブランド価値の向上に努めていると述べた。
しかし、知的財産の活用と保護を行なわなければ、模倣品が多数生まれ、ブランド価値が低下してしまうと指摘し、模倣品の蔓延は会社やゲームの存続を危うくする可能性があるため、ユーザーが愛するゲームやゲーム会社を守るためにも、知的財産を保護していく必要があると語った。ゲームのアイデアそのものは著作権で保護できないため、特許を含めた知財ミックス戦略が重要であるとし、特許権や商標権を積極的に出願。これらの特許は、クロスライセンスという形で他社にライセンスを提供することで、ゲーム開発の自由度を高め、より魅力的なゲームデザインの実現に繋げていると述べた。
さらに、セガの桝本菊夫氏は、コナミの村瀬氏と同様に、ゲーム開発に多大な投資が必要となっている現状を語った。1タイトルあたり100億円を超えるものも存在し、開発過程で生まれる新しい技術の発明については、積極的に特許出願・登録を行なうようにしているという。ただし、獲得した特許は独占的に利用するのではなく、適切なライセンス契約を結び、適正な対価を支払えば、他社もセガの特許技術を利用できるという方針を示した。特許を独占してしまうと、新規参入が難しくなるという誤解を解き、特許は、きちんと話をすれば適切な対価で使用できるものであり、開発に多額の投資をした他社の技術を、一定のロイヤリティで利用できるという認識を持ってほしいと述べた。
最後に、任天堂の西浦光二氏が、ゲームソフトとコントローラーに関する知的財産権の活用事例を紹介した。最初に紹介されたのは、2015年に発売された「スプラトゥーン」。見た目がそっくりな模倣品に対して著作権侵害で対応したものの、ゲームシステム自体が模倣された場合には著作権での対応が難しいため、特許権を活用したと説明した。また、Nintendo SwitchのJoy-Conの事例を挙げ、デザインを模倣した製品に対し、意匠登録を活用するとともに、意匠権で保護できない製品については、構造に関する特許権を活用して対応していると述べた。
知的財産権を活かしたゲーム業界の持続的発展
セッションの最後に、モデレーターの久保田裕氏が、今後のゲーム業界における知的財産実務について各担当者に意見を求めた。
まず、カプコンの奥山幹樹氏は、ゲームやeスポーツはルールがあるからこそ面白く、知的財産に関する法律やガイドラインがエンタメ産業を支えていると述べた。クールジャパン再起動のためにも、知的財産の活用が不可欠であり、企業努力によって生まれたものを保護する必要があると強調した。
任天堂の西浦光二氏は、任天堂IPに触れる人口の拡大を基本戦略とし、ソフトからハードまで多岐にわたるビジネスを展開していると述べた。知的財産部では、ビジネスとブランドを保護するため、特許権、意匠権、商標権、著作権など様々な知的財産権を取得し活用している。それぞれの権利には特有の守備範囲があるため、長所を生かしながら、組み合わせてビジネスとブランドを多角的に保護していくことが重要であり、知的財産権の適切な保護と活用は、ゲーム業界の健全な発展に不可欠だと語った。
コーエーテクモホールディングスの西村智稔氏は、知的財産権の利活用に関しては、ルールを理解することが最も重要だと強調した。知的財産権を定める法律は人為的なものであり、万人が納得するものではないが、ルールの中でいかにベストパフォーマンスを出すかが重要だと語った。ユーザーだけでなく、ステークホルダー全体で相互に高め合っていくために、知的財産を有効に活用していきたいと述べた。
セガの桝本菊夫氏は、人類は先人の創作や発明を利用して発展してきたと述べ、模倣すること自体は悪いことではないとしながらも、許されない模倣があることを指摘した。先人の創作や発明に対して、インセンティブを還元することが、文化の発展につながると語り、ゲームも文化であると位置付けた。日本のゲーム文化を国際市場で戦わせるためにも、政府や国民が一体となり、知的財産権保護政策を進める必要があると述べた。
コナミデジタルエンタテインメントの村瀬俊介氏は、日本の知的財産推進計画における海賊版対策について言及し、侵害コンテンツの購入は侵害者の利益を助長するため、国民の規範意識を高める啓発活動が必要だと語った。権利者が権利行使をすることに対して、あたかも悪いことのような印象を持っているユーザーもいるが、そうではないことを理解してほしいと述べた。開発者のインセンティブを守るため、また、正規の権利者(ライセンスホルダー)を保護するため、権利行使は必要であることを強調した。このように、模倣品を容認しないということが、国民の規範意識として醸成されることによって、日本の国益にもゲーム産業の発展にも繋がると話した。
最後に、久保田氏は、著作権法が文化への貢献を目的としている点を強調した。知的財産制度は、創造活動を促進するために存在し、特に著作権法は、人の心情や感情を創造的に表現したものを保護すると述べた。特に、総合芸術としてのゲーム業界は、日本の宝であり、世界平和にも貢献できる可能性を秘めているという認識を示した。その上で、知的財産権は、ただ保護するだけでなく、有効に活用することが重要であると述べた。
今回のパネルディスカッションでは、ゲーム業界における知的財産権の重要性について、権利者であるゲームメーカーが集まったが、業界の発展には、メーカーだけでなく、ユーザー、配信事業者、販売店など、様々な関係者の協力が不可欠であると強調した。ゲーム開発には多大な労力、時間、コストがかかっており、そこには世界観、文化を破壊させる世界観が大きく影響していることを理解してもらいたいとし、知的財産の価値を理解した上で、今後も共に活動をしていきたいと述べ、セッションを締めくくった。
(C)東京eスポーツフェスタ実行委員会