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今回は数々のレイドボスの生みの親 中川大輔氏! 「FFXIVファンフェス」名物「開発パネル」レポート

オメガ、タイタン、絶アレキ。妄想の中から生まれたレイドボスたち

2021年秋発売

 スクウェア・エニックスは、プレイステーション 4/Windows/Mac用MMORPG「ファイナルファンタジーXIV」のデジタルファンフェスを開催した。このレポートでは、開発パネルの模様をお送りしたい。

 開発パネルの登壇者は、プロデューサー兼ディレクター吉田直樹氏、バトルコンテンツデザイナーの中川大輔氏とリードアニメーターの宮澤隆信氏の3名。このパネルでは「レイドコンテンツ~私たちの妄想が形になるまで~」と称して、「希望の園エデン:アルファ編 4層」を例に、高難易度レイドの開発裏話が披露された。

 吉田氏から普段「中川君」と呼ばれている中川大輔氏は、バトルコンテンツデザイナー。リソースの発注、コンテンツの調整などを行なっている。前職はなんど、産業用ボードのファームウェア等の開発を行なうプログラマーとして、アセンブラなどのマシン後を駆使して働いていたそうだ。

 吉田氏によれば、中川氏が入社した時、焼肉屋で開催された歓迎会において、「侵攻2層を反面教師にして頑張りたいと思います!」と語ったそうだが、今や第2の光の戦士絶対殺すマン(初代はタイタン討滅戦の須藤賢次氏)として、レイドで手腕を振るっている。ちなみに、手掛けたコンテンツの中で最も手ごたえがあったのは「次元の狭間オメガ」の最終ステージ「アルファ編」の4層だそうだ。吉田氏は「ツクヨミ討滅戦」が「大輔君の1回目の完成形として印象に残っている」そうだ。

中川大輔氏

 宮澤氏は、キャラクターに動きを付けるモーション班に所属している。モーション班は、プレーヤーキャラクターから、バトルコンテンツで落ちてくる隕石まで様々なものに動きを付けることを業務にしている。中はいくつかのセクションに分かれており、バトルモーション、クラフターなどのモーション、カットシーンやイベント、フェイシャルモーション、バトルコンテンツのモンスターモーションという分業態勢になっている。

 宮澤氏は、2014年4月から開発に参加。当初はバトルコンテンツのモンスターモーションなどを担当し、現在は、モーション班全体の取りまとめをしている。「隕石にもアニメーションがついてるの?」と驚く吉田氏に対して、「そうです。隕石がシュッと落ちてくるのをこだわって作っています」と真顔で応えていた。「プランナーの無茶ぶりを、どう達成するかのディレクションも担当してもらっている」という吉田氏からの紹介に対しても、「まだまだ若輩者です」と謙虚に答えていた。とはいえ、すでに開発に参加してから6年、多くのコンテンツを担当しており、その中でも印象に残っているのはアライアンスレイド「禁忌都市マハ」のボス「オズマ」だそうだ。

宮澤隆信氏

オメガになり切って「次元の狭間オメガ:アルファ編」4層を作る

 「次元の狭間オメガ:アルファ編」の4層は中川氏が「思い入れが強くて今でも好きなコンテンツの1つです」という場所。その開発で最初に決まっていたのは、(1)人型であり、男性型と女性型が存在する、(2)身体の一部が武器になる、という2つ。

 レイドのようなコンテンツでは、キャラクターが決まらないとバトルコンテンツの企画が始まらないので、パッチリリースの9カ月前にはモデル発注をしなければ製作が間に合わないのだそうだ。

 中川氏は、バトルにストーリーを入れることが必須だとは考えていないというが、今回のアルファ4層に関しては入れたいと思った。「次元の狭間オメガ:アルファ編」は、シリーズの完結編に当たるコンテンツであり、特に零式の第4層は、ここだけにあるエクストラバトルも含めてシリーズの総決算的な場所だ。

 人間を理解するためにゲームを始めたオメガ。だが元の姿で光の戦士に敗れたオメガは、より人間を理解するために人型となって襲い掛かってくる、というのが4層の設定だ。

 「オメガが人を模倣していく過程を、バトルに落とし込んでいく中で、オメガが色々な試行錯誤をするも、人に負けていくという過程を、バトルを通して伝えたいと思いました」と中川氏。「オメガにとって、オメガM(男性型)とオメガF(女性型が)ある理由はなんだろうという疑問が妄想の出発点になりました。オメガは、自分自身にはなかった性別というものに、人の強さがあるのではないかと考えたのではないだろうか。それで実際にバトル中に検証してみようという流れになっています。そういう発想から、バトル中に男性型と女性型が入れ替わっていくというアイデアが生まれました」。

 その設定に従い、前半のバトルでは、オメガは頻繁に男性型と女性型へと姿を変える。さらにもう1つのさらにもう1つの要素である、身体が武器になるということについては、性別に強さがないとしたら、人が使う武器に強さがあるのではないかと考えたのではないかという妄想から、オメガが自らの手や足を変形させて盾や刃にするというアイデアが生まれた。

 「これは、自分自身がオメガだったとしたら、と考えたの?」と吉田氏が聞くと、仲川氏は「この瞬間だけは、私はオメガでしたね!」と断言した。

 その後、今度は男女型が同時に出現し、連携技を仕掛けてくるようになる。これは中川氏によると、力を合わせた動きの模倣なのだそうだ。中川氏は、オメガは3層で機械の身体で戦った時の記憶を検証するだろうと考えた。人による力を合わせた動きによって自分が撃破された記憶がよみがえり、それを模倣してみようとなるはずなのだと。「ただ、オメガの模倣は人が力を合わせるというものではなく、なんとなくプログラムされたような動きになるのかなと思いました」と、人になり切れない機械生命体であるオメガの限界も、動きで表現している。

 「オメガは、3層でたぶんリミットブレイクをぶち込まれていたと思うんですね。おそらく痛かったんじゃないかと思います」と中川氏。そのため、リミットブレイクのような技も使ってくる。だがこの時にはまだ、最終的に実装された「コスモメモリー」は入っていなかった。あの技は最終的な仕上げのタイミングで「最後ひと盛りしちゃうんですよね。なんか物足りないなと思って」というこだわりによって生まれていた。吉田氏は「須藤神を反面教師にしているとは思えない」と、ヒカセン殺すマンぶりに苦笑していた。

 考えうる限りの人の強さを模倣したオメガだが、結局勝つことができない。形だけの模倣では、人の強さを理解することができなかった。というのが、ノーマル版での結末だ。

水銀になる演出は3体の種類が違うモデルを使用

 オメガは、男性型から女性型に変形する時、一度溶けて水銀の水たまりのような姿になり、そこから女性型として現れる。オメガらしい変形だが、実はかなり複雑なことをやっている。最初にこの演出を中川誠貴氏言い出した時、宮澤氏は「すげー無茶ぶりがきたなと思いました」とその時の気持ちを語った。

 だが、レイド4層や蛮神戦は、新しい表現にチャレンジする場でもあるので、どうやったら表現できるのかの検証がスタートした。溶けるという表現のテスト映像が紹介されたが、その時にはまだ水銀になったとき不自然さがある。

【溶ける表現のテスト映像】

 溶けた状態を表現するために、まずモデルが溶ける状態をシミュレーションして、その動きに合わせてボーンを入れた。通常のモデルをこの溶ける演出専用のモデルに入れ替えることで、すとんと溶けおちる表現が可能になった。だが、「FFXIV」では1つのモデルに2種類のボーンを登録できないため、通常のバトルモデルと演出用のモデルは別のキャラクターということになる。別々のキャラクターを入れ替えることになるのでターゲットが外れてしまう。さらに切り替えの時、一瞬キャラが消えて見える。

 これを解消するために、通常モデルと演出用モデルの間にVFXで作ったエフェクトモデルをはさみ込み、同じポーズのまま、3つのモデルが切り替わっていくことで一瞬消えて見えるという状態を防いでいる。ゲームの中ではほんの数秒の出来事だが、この形態変化には多くのリソースが使われているのだ。

【オメガのボーン】
左が通常のモデル、右が溶ける専用のモデル
3つのモデルを差し替えて溶ける演出を作成

「なんかうおーと出てくる」から生まれる妄想

 「FFXIV」開発内部では、ゲーム中の大掛かりな演出を「履行演出」と呼んでいる。もともとは蛮神の「履行技」と呼ばれる攻撃に演出を入れていたのが、現在ではボスが使う大技の演出が全てそう呼ばれるようになっている。零式アルファ編4層では、人型になっても光の戦士に勝てなかったオメガがバグってしまい、人と機械を合わせたようなファイナルオメガへと変貌する。その登場シーンが履行演出となっている。

 開発ではまず企画から流れが提示され、それをもとにモーション班で草案を用意する。関連セクションの担当者を集めて、履行演出を詰めていくため、通称履行演出会議と呼ばれる会議をする。この会議ではラフな草案をもとに、演出の内容をつめていく。草案にはこんな動きにしたい、こんな演出にしたいというラフなアイデアが書いてあり、これを見ながら、ああしたい、こうしたいとアイデアを出していく。3,4時間の長丁場になることもある。

【アルファ4層の履行演出草案】

 そうして演出が決まると、コンテに起こして関係者間のイメージを共有していく。このコンテは紙のコンテの他に、動きが複雑な場合は動画でのコンテを作ることもある。

【アルファ4層の履行演出絵コンテ】

 前半と後半でBG(背景)の切り替えが想定されていたため、切り替えるタイミング、さきほどのモデルと同様一瞬消えてしまうのを防ぐための演出が必要になる。今回はオメガの寝所という名前の巨大な目を利用することになった。オメガの目を閉じることで、ホログラム空間を閉じるという意味で、前半と後半の切り替えにした。巨大な目が締まると、画面全体にノイズが走る。その一瞬のムービーが流れるタイミングで背景を切り替える。

【アルファ4層の履行演出】

 ファイナルオメガが、なぜこの姿になったのか中川氏の中には一応の設定があるらしいが、プレーヤーもクエストのストーリーを通じて類推することができるようになっている。そのため「皆さんの考察を見るのを楽しみにしているので、ここで明言するのは避けたい」と名言はしなかった。

 ファイナルオメガが使ってくる大技「ハローワールド」は、プログラミングを学び始める時、最初に書くもっとも初歩的なプログラミングの名前だ。それが技名になっているのは「ハローワールドは、バグっているという表現をやりたいと思ったんです。企画の時からハローワールドでした。オメガほどの存在でもバグってしまって、最初に学ぶプログラムになっている」という意図がある。プレーヤーを苦しめた技だが、もの悲しさもある。

手付のこだわりアニメーションで作ったタイタン

 次に、「希望の園エデン:覚醒編」の4層ボスタイタンについての話題が出た。タイタンは形態をダイナミックに変化させるというコンセプトのもとに作られている。考えたのは中川氏。タイタンがバトル中に戦車になりますと言われた宮澤氏は「ダジャレかと思いました、タイタン、タイタンク……と」

 タイタンは、人型、タンク型、手にドリルを付けた形態、巨人型と戦闘中に何度も姿を変える。これを先ほどのオメガのようにモデルの差し替えで表現するのは難しいため、最初からすべてのパーツをモデルに装着しておいて、必要に応じて非表示にするという方法が取られた。

【タイタン】
実際のモデル
表示の切り替えでいろいろな形態を表現

 武装の変化の演出は、身にまとっているものを一度バラバラにして、武装として再構成していこう、と宮澤氏が妄想した。それに合わせて、1つ1つのパーツを別々に動かせるようにセットアップしている。この武装の変形は、ある程度まとめて動かせるようにはしているが、基本的にはすべて手でアニメーションを付けている。カッコよくパーツが外れて、かっこよくついていくというところをひたすら妄想したが、シミュレーションしても理想の動きが作れなかったことから、手で作ったという苦心の作だ。

 この苦労に対して、中川氏は「宮澤さんに任せればすべてうまくいくと信じていました」と頷き、「プランナー簡単な仕事だな(笑)」と吉田氏に突っ込まれていた。

【タイタンの武装変化】

ストーリーに攻略のヒントがあった絶アレキサンダー

 最後は、「絶アレキサンダー」の「未来観測」ギミックの作成エピソードを紹介したい。「未来観測」は、アレキサンダーは未来を観測してプレーヤーを倒そうとする。プレーヤーは、観測されている未来と違うことをすることで、倒されることを防ぐというギミック。自分の幻体の動きを見て、そうならないように立ち回りながらビームを避ける後半の難所だ。

【未来観測】

 「機工城アレキサンダー」ストーリーでは、実はアレキサンダーは未来を改変する自分は倒されるべき存在だと考えている。そのため光の戦士に自分を停止して欲しいと願っている。絶に登場するアレキサンダーも最終的には自分は倒されるべきであると思っている。そのため、アレキサンダーは光の戦士に未来を見せて、自分を倒してもらおうとするという技なのだ。

 「絶アレキサンダー」では、新規モデルを用意してもらうことが決まっていたので、どうしても「時」に関する新しいギミックを作りたかったのだそうだ。すでに過去にいくことと時間を止めるという演出は使っていたので、今回は未来を見るというシチュエーションが使われることになり「未来観測」が生まれた。

 実は「未来観測」の幻体は「エニグマ・コーデックス」というバフが付いていないと見えない。中川氏は、「配信の文化は大事にするべきと思い、未来観測を上手く使おうかなと思った」。普通に到達すると見えないものになるが、何らかの工夫をすると見えるようになるというのは盛り上がるかなと思ったそうだ。だが、何の工夫もなく入れてしまうと、絶アルテマの覚醒ギミックと同じになってしまう。そこでストーリー的な伏線を回収するために、見えないものを見えるようにしようと考えた。

 「今思うと配信映えは自分自身の欲です。腕試しのつもりでやってやろうという気持ちがありました。そんな形から入ったのですが、仕掛けを成立するためにストーリーを利用するという検討から入りました」(中川氏)。実は絶アレキサンダーのバトルにストーリーを組み込むことは、早い段階で一度諦めていた。だが、使える材料がないか今一度見直すことになった。

 なぜバトルにストーリーを入れようとしたのか。それは、中川氏がそれこそが自分の強みだと思ったからだ。絶コンテンツはやってきたことの集大成ともいえるコンテンツなので、自分の強みを入れようと思った。

 そうして見直していたところ、シャノアの存在に気付いた。「君がいたか!」と。シャノアは、もともとボスのペットとして登場した猫だが、その正体はアレキサンダーの化身であり、光の戦士たちにとっては味方になる。

【シャノア】

そんなシャノアがプレーヤーを手助けするのは自然なことに思えた。それが「真心」と「審判の結晶」ギミックに繋がっていく。シャノアが飛ばした真心が審判の結晶が持つ力を吸収し、プレーヤーに時の力が与えられる。その結果、未来が見えるようになる。ストーリー的な矛盾もなく、ギミックに落とし込めた。

【真心ギミック】
真心が飛んで行って審判の結晶を壊す
途中で壊すと「エニグマ・コーデックス」が手に入らない

 だが、実は真心は、「機工城アレキサンダー:律動篇」の3層では、観たらすぐに壊さないとだめというギミックだった。そのため、見ると有無を言わさず殴りにいってしまう。実は審判の結晶はアレキサンダーの時空潜行を看破するために必要なものなのだが、アレキサンダーの真意に気付かないままこれらに対応してしまうと、まごころから時の力を得られない。配信を見ているプレーヤーが、シャノアはストーリー上味方だから、何かあるよといっても、バトルはバトル、ストーリーはストーリーと考えていると、なかなかストーリーのヒントに気付かない。シャノアの存在に気付いたことで、ギミックが完成し、ストーリー由来としても綺麗なものができた

パーフェクトアレキサンダー合体演出

 パーフェクトアレキサンダーはアレキサンダーと、クルーズチェイサー、ブルートジャスティスが合体した最終形態。日々無茶ぶりには慣れているという宮澤氏でも、この合体シーンを作るのはかなり悩んだという。そして悩んだ結果、1体ずつ吸収していくシーンを作らなければならないと結論づけた。

【パーフェクトアレキサンダー】

 アレキサンダーには足や、変形する腕、胸がないので、まずはキャラ班にそのためのパーツを追加してもらう必要があったのだが、変形を口頭で説明するのが難しかったので、モーション班でざっくりした動画を作った。

【モーション班で作った動画】

 最初の動画の時点ではカメラワークは何も入っていなかったが、これをキャラ班が作り、入れていく。ロボットアニメが好きな担当者の努力もあり、かっこいい変形合体シーンが誕生した。

【演出が入る前の動画】
【完成動画】

 「FFXIV」の高難度コンテンツには多くのプレーヤーが挑戦している。その面白さは、今回紹介したような、多くの開発スタッフの妄想が結実して生まれている。「希望の園エデン:再生編」が現在攻略中という人も多いだろう。どうしても1つ1つのギミックや演出が、試行錯誤の中から生まれているのだと思いつつ戦ってみると、また新しい発見があるかもしれない。

 最後に中川氏と宮澤氏からのメッセージを紹介してレポートを終えたい。「自分が全力で妄想したものが、出来上がってくるのを見るのがいつでも最高の瞬間だと思います。」と中川氏。「今後も止まることなく妄想力前回で突き進んでいきたいと思います。暁月のフィナーレでも最高のバトルコンテンツをお届けしたいです」(中川氏)。

 「妄想をグラフィックスに落とし込んでいくのは、グラフィックスチームの役割だと思っています。これからもプレーヤーの皆さんに驚きや感動をお届けできるように、全力で取り組んでいきたいと思います。ぜひ暁月のフィナーレもご期待ください」(宮澤氏)。