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「FFXIV」のボスバトルの魅力の秘密がついに明かされる!

吉田Pも絶賛した“ミスターオズマ”中川氏独自の「60秒ルール」とは!?

10月14日開催(米国時間)

 「ファイナルファンタジーXIV」のオフラインイベントでは、必ず、吉田氏以外の開発メンバーを呼び、デベロッパーズパネルが開かれることが恒例となっている。拡張ディスク第2弾「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター」発表の場となったファンイベント「FINAL FANTASY XIV FAN FESTIVAL 2016 Las Vegas」で登壇したのは、中川(Masaki Nakagawa)氏。

お馴染みの3人に中川氏を加えて行なわれたデベロッパーズパネル
プレゼンを行なう中川氏
中川氏が担当したバトル。タイタンやバハムートは担当していない

 中川氏がこうしたイベントに登場するのは今回が初めてだが、吉田氏のインタビューでは、“ボス戦を担当したスタッフ”として度々登場してきた重要メンバーのひとりだ。“シヴァ、リヴァイアサン、オズマ、女神ソフィアなどなど、ギミックが非常に個性的なボス戦を多数手がけた人物”というと興味を持つ「FFXIV」ファンも多いのではないだろうか。

 中川氏はもともとEコマース担当のプログラマで、「旧FFXIV」の時代からプレイしている根っからの「FFXIV」ファン。「旧FFXIV」時代に社内外から幅広く人材を募集していた吉田氏のフォーラムでの呼びかけに応じて応募し、入社後は、「旧FFXIV」時代はライブ班やアイテム班に所属。「新生FFXIV」ではモンスター班に異動し、その才能を開花させる。

 なぜ中川氏が手がけたボス戦は個性的なのか、どういうコンセプトでボス戦を手がけているのか。今回のデベロッパーズパネルでは、そういった貴重な話が中川氏本人から語られる貴重な機会となった。残念ながら「紅蓮のリベレーター」のボス戦に関するポロリはなかったが、さっそくお届けしよう。

 今回のデベロッパーズパネルでは中川氏と吉田氏の2人が登壇し、中川氏が基本的な説明を行ない、吉田氏がそれを補足するというスタイルで進められた。「かなり緊張しているので応援してあげて下さい」と吉田氏に煽られていた中川氏だったが、綺麗な英語で挨拶し、来場者の心をうまく掴んでいた。

 中川氏のプレゼンテーションは、オズマ戦をサンプルモチーフに、企画開始から実装までの流れで、各パートで何を行なっているかが具体的に紹介された。中でももっともおもしろかったのは、企画パートだ。

【3つのルール】
60秒ルール
ユニークな要素
過去のコンテンツよりもおもしろいものを
そうした結果誕生したのがオズマ戦

 中川氏は、ボス戦を企画する上での3つのルールを紹介した。1つは、中川氏は自らが定めたルール「60秒ルール」の存在。これは開発コアメンバーや吉田氏に対して、60秒以内で説明しておもしろいと感じて貰えなかったら、自らボツにして企画立案を最初からやり直すという。一見厳しすぎるような気もするが、説明に60秒かかる場合は、企画内容が複雑すぎておもしろくない場合が多いという。吉田氏は、この60秒ルールについて率直に「凄い」と褒め、その意識の高さを評価していた。

 2つ目は、中川氏が手がけたコンテンツの最大の特徴である「ユニークな要素を入れること」。これはオズマ戦における形態変化や、ブラックホールによる異次元転送、シヴァ戦における3つの武器を持ち替えながら戦うスワップウェポンや、床が滑る要素、リヴァイアサン戦の“床が傾く戦場”などがそれにあたる。

 吉田氏は、リヴァイアサン戦の裏話として、企画書には「船の上で戦って、リヴァイアサンが船を叩きつけて、バトルフィールドが傾く」と書かれていて、60秒ルール的もすぐおもしろさがわかる内容だったが、難しかったのがプログラマとデザイナーがそれを“どう実装するか”だったという。

 吉田氏はニヤリと笑いながら種明かしをしてくれた。「実は船は一切傾いていません。傾いているのは海と空で、皆さんは騙されています(笑)」。処理的には、海の上で船を傾かせるのは難易度が高すぎるため、船はそのままで、空と海を傾かせ、プレーヤーを滑らせ、あたかも傾いているように思わせることで、船の傾きを実装したという。実際に船は傾いていないため、冒険者たちは見えないヒモで引っ張ることで、横に滑らせているという。

 中川氏の最新作である女神ソフィア戦については、最初、魔法をコピーするアイデアを思い付いたものの、60秒ルールに引っかかりこれを破棄。その後1カ月近く悩んで、ある日ジムでランニングマシンを走っている時に天秤のアイデアを思い付いたという。その日はそのままジムを出て会社に向かったという。

 そして3つ目が「過去のコンテンツよりもおもしろいものを作る」。これなどはまさに“言うは易く行うは難し”の典型といえるが、吉田氏は「シヴァは好き、リヴァは嫌い、タイタンは苦手という風に、バトルコンテンツは好き嫌いがあって当然。でも“常に新しい体験を”というのが我々が大事にしているルール」と語ると、中川氏は「いつもユニークなものを目指しているが、実装するのが大変。開発チームには本当にいつも苦労を掛けている。みんなに感謝」と語り、開発チーム一眼となってそれを実現していることが伝わってきた。

【オズマの形態変化】
オズマの形態変化のみを描画したモデル

 こうして高いハードルを設定して毎回それを乗り越えていくタイプの中川氏だが、その代表作と言えるのが、アライアンスレイド禁忌都市マハのオズマ戦である。先述したように、オズマ自身が三角錐の形状から変幻自在の形態変化を行ない、バリエーション豊かな攻撃パターンを持つだけでなく、ブラックホールにより別次元に強制転送し、そこでフィールドバトルを経てまた戻ってくるという、前代未聞のギミックでプレーヤーを楽しませてくれる。

 このオズマは、中川氏にとって“大作”だったようで、企画立案から実装まで半年が掛かっているという。このため本来は、セクション内外のプレゼンを経てから、デザイナーへの発注を行なうプロセスを、同時平行して行なっていったという。

 デザイン面では、企画初期と実装バージョンではずいぶん異なっていることも明らかになった。各アライアンスが3方向に分かれて中央のオズマを攻撃する構図は変わっていないが、ピラミッドのデザインやオズマそのもののデザインは大きく変わっている。ちなみに、ブラックホールで飛ばされたフィールドエリアについては、オズマに呑み込まれた街という設定で、アトモスとのバトル位置を高くしたのは、中川氏のアイデアではなく、隕石の落下をインゲームカメラでしっかり捉えられるようにと考えたレベルデザインチームの配慮だという。

 そしてオズマ実装経緯の説明でもっとも印象的だったのは、実はオズマ戦は“もっともっと難しかったこと”だ。オズマは実装当初から、「難しすぎるのではないか」と散々に騒がれたボスコンテンツだが、企画当初の仕様は誰もクリアできないぐらいに難しかった。開発チーム24人によるテスト検証を繰り返しながら、難易度を調整し、現在の形に仕上げていったということだ。

【オズマ戦企画案】
企画から実装までの流れ
バトルコンセプト
バトルフィールド(真上から見た図)
バトルフィールド(真横から見た図)
バトルフィールドイメージ
フィールドイメージ
調整内容とその意図
その他の調整項目

 たとえば、ブラックホールで飛ばされた先のフィールドマップは現在よりかなり複雑なデザインになっているだけでなく、各アライアンスが3カ所に飛ばされるのではなく、即席で編成された4人PTが6カ所に飛ばされるというとんでもない仕様になっていた。一見、おもしろそうだが、ヒーラーが戦闘不能中のままブラックホールで飛ばされると、難易度が跳ね上がってしまうためボツとなった。ちなみに、実装バージョンでも、2人ヒーラーが戦闘不能になっている際は、他のアライアンスからヒーラーを組み入れるという例外措置を入れているというが、あまりにもレアな例外措置のため、バグとしてGM報告されたというエピソードも披露された。

 そのほか仕様変更された内容はあまりにも多いので、変更前のエクストリームな内容だけお伝えすると、加速度爆弾は、単体ではなく範囲攻撃だった。なおかつ加速度爆弾は付与されたことを示すエフェクトがなく、知らずに味方を巻き込んで戦闘不能になるケースが多かった。ブラックホールは2回実行される仕様だった。キューブ形状のオートアタックは3方向ではなく、ヘイトトップに対する単体攻撃だったなどなど。

 吉田氏が「オズマ零式を作るならこういう内容でも良いと思う」と語ると、それを期待するユーザーから歓声が上がり、「本当に零式欲しいの?」と再確認すると大歓声が巻き起こった。これを額面通りに受け取るなら、北米のユーザーは歯ごたえのあるコンテンツが大好きなようだ。

【オズマ戦仕様変更】
初期デザイン(左)はヴォイドアークに似すぎているという吉田氏の意見で現在の形(右)に変更に
初期デザイン(左)と実装バージョン(右)のオズマ内部。シンプルになっていることがわかる
ユニークな変更例としては、バグで圧縮世界のモンスターが登場して、デバッグで潰せなかったことから、世界にあったキャラクターモデルを変更した例も

 中川氏はこうした反応を見越していたようで、短い動画を見せてくれた。それはまさにオズマ零式、あるいは極オズマ戦と言えるような内容で、「このオズマ戦は違うぞ……」と気づいたときにはパーティーは全滅していたというもの。しかし、場内からはブーイングではなくなぜか大歓声だった。

 中川氏は、この動画の撮影に当たって、開発チームが全面協力してくれたことを報告し、本当に作ることになったらこれを使うと嬉しそうに語ってくれた。一方、コンテンツに全責任を負う吉田氏はオズマ零式には懐疑的で「ただ、ひたすら全員死んでるだけじゃん(笑)」と突き放したものの、あまりの反応の良さに、マハ全体の零式化ではなく、オズマ単体の零式化なら時間ができればいつか実装することは可能と譲歩した上で、「難しくても、『難しすぎる!』って文句言わないでね!(笑)」と釘を刺していた。

 このオズマ零式が本当に実装されるかどうかはともかく、今後も中川氏のユニークな発想と、厳しい60秒ルールによって素晴らしいボスコンテンツが登場することは間違いなさそう。今後の実装を楽しみにしたいところだ。

【オズマ零式!?】
文字通りあっという間に全滅してしまったオズマ零式。これを実装して欲しいというのだから、北米のユーザーはよほどエンドコンテンツ好きである