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「DEATH STRANDING」発売直後の小島秀夫監督インタビュー“いいねで繋がる無償の愛を届けたかった”

11月10日 開催

会場:SIE SSJ品川ビル PlayStation Hall

 11月10日に開催された発売記念イベント「『DEATH STRANDING』 World Strand Tour(ワールド・ストランド・ツアー) 2019 TOKYO」、弊誌でもイベントレポート(参考記事)を掲載しているが、会場がひとつに繋がったイベント後に小島秀夫氏へインタビューする機会を得たのでお届けしていきたい。

 「DEATH STRANDING(デス・ストランディング)」発売後初となる、小島監督のインタビュー。実際に作品が世界中のユーザーの元へ届いた現在の心境や、「最も多くのInstagram・Twitterのフォロワーがいるゲームディレクター」としてギネス世界記録を達成した感想、体験したことのないゲームを開発する苦労などを語ってくれた。

イベントでも「DEATH STRANDING」で世界中の人に繋がってほしいと話していた小島監督

――今回ギネス世界記録に認定された率直な感想と、今後世界一のフォロワー数でどのようなことをSNSで発信していったり、繋がりを深めて行きたいと考えていますか?

小島秀夫氏:正直嬉しいです。そんなにフォロワー数が多いほうではないと思うのでありがたいなと。SNSって諸刃の剣というか使い方次第ですが、ただ、世界中が繋がってること自体は悪くない。僕も本を読んだり映画を観たりしたのを呟くと、間に僕のファンが居てくれてどんどん拡散してくれて、最終的な作家さんに届くんですよ。それでDMで友達になったりして。

 そういう繋がりが可能な時代なので、SNSの本来持っているパワーは凄くポジティブなんで、使い方を考えないといけないんですけど、今回ギネス世界記録をいただけたので、繋がりという良さを皆さんにより拡散というか、そういうことをしていきたいです。正直ちょっとしんどいなとも思ってたんですが、もうちょっと頑張ります(笑)。

「最も多くのInstagram・Twitterのフォロワーがいるゲームディレクター」として一度に2つものギネス世界記録に認定された小島監督。世界を駆け巡りグローバルに活躍しているが、SNSのポジティブなパワーを実感しているそう

――ワールドツアー中に発売を迎えましたけども、プレイをされている方の声も監督に届き始めていると思うのですが、率直なご感想をお願いします。

小島秀夫氏:間接的に繋がるというコンセプトのゲームなので、ヘッドショットばっかりしていて、それはそれで楽しいですが、それでいいのかなという問いかけをした作品ですけど。この緩い繋がりが良いっていう人が居てそれはちょっとびっくりしました。日本の方はやっぱり繋がることにポジティブですね。

――日本と海外のユーザーでは、遊び方もちょっと違うなと感じることはあるんですか?

小島秀夫氏:そうですねやっぱり個の時代じゃないですか。個人が自由に動いて、ゲームがその象徴でもあると思うんですけど。俺が一番強いとか、そういうのとは真逆の行為をしているので、国によってやっぱり印象が違うと思うんですよね。

作品を通して世界に伝えたいテーマは繋がり。繋がることはポジティブであると小島監督は語った

――先ほどのイベントで大塚明夫さんの涙が凄く印象的だったんですが、久々に発売後のファンとのイベントだと思いますが、イベントに関する率直なご感想をいただけますか。

小島秀夫氏:4年振りの新作で、今回のワールドツアーは10年振りくらいで。パリとロンドン、ベルリン、ニューヨーク、サンフランシスコ、東京を巡ってきて、繋がろう繋がろうと言ってますけど、直接サイン会やフォトセッションで握手してお互いの気持ちを交換するというのはしばらくやってなかったんで、凄く良いなと。ネットを通じてもいいですけど、言葉も違うけど直接会って話をするということは今回10年振りですけど、できて良かったです。

 日本の方とはそんなに、ギュッとハグしたりして写真撮れませんけど、今日はそれをやってみました。

10年振りというワールドツアーでは、ファンとの直接的な繋がりを感じたという

――今作はノーマン・リーダスやレア・セドゥなど映画界で活躍するキャストも沢山出演していますが、小島監督自身、映画とゲームの垣根というものに関してどのように考えていますか。

小島秀夫氏:これもずっと言ってますけど、映画とゲームはインタラクティブなんで180度違うものだったんですが、今はデジタルになって、将来はストリーミングという所で同じ場所に集まると思います。映画はスクリーンという場所や、今のゲームも残るんですが、どちらでもない新しいデジタルのエンターテインメントができると思います。

 映画とゲームは途中までプロセスが一緒なんです。世界観を作ったり、モデルを作ったり、それこそパフォーマンスキャプチャーなど同じテクノロジーも使いますし、そうなってくると同じクリエイターやキャストもストーリーの中に入ってきますし、そうなると垣根はなくなり、広い大地というか繋がりになると思います。僕は映画とゲームの橋を渡すことをしないといけないと思うので、5年10年するとそういった技法もできるかもしれませんね。

映画とゲームの世界を繋いでくれる小島監督

――「DEATH STRANDING」を実際にプレイすると、凄い新しいゲーム体験だったと感じるんですけど、開発中も新しいことのトライアルがあったかと思いますが、小島監督が一番チャレンジだと思ったことは何でしょう。

小島秀夫氏:色んな要素で何百というメカニズムでバランスを取りながらできているゲームなんですけど。やはりステルスの時もそうでしだが、新しい物って形がないとわからないんですよ。言葉で説明したり、絵を書いたり。僕の頭の中を見せる訳にはいかないので。やっぱり最初はスタッフがわからないということが大変で、「とにかく死んでください」ということから創り出して、ある程度出来てくるとわかってくる。

 なので一つ上げると、「いいね」があるじゃないですか。あれはポジティブなんですけど、ネガティブがないことに「何でですか? 」と。普通SNSではあるじゃないですか、それとお金にならないということになかなか同意してもらえなくて。ゲームってやっぱり自分の有利にならないと、そういう行動をしないんですよとスタッフが言うので、ここが難しかったです。「それをやってしまうと普通のゲームじゃないの? とりあえず“いいね”は無償の愛だ! これをまずやりましょう」と創り出したんですけど。

ゲーム中のいいね機能は当初スタッフから意見があったことを明かしてくれた

――ゲームをプレイしていて、色んな「Documents」であったり世界観の話を見ていて、エジプトの死生観というのが出てきてると思うんですけど、色々な国がある中でエジプトを例にして出していたのは何か理由があるんでしょうか。

小島秀夫氏:僕は毎週好きで博物館とか行くんですけど、東洋と西洋とか死生観って違うじゃないですか。エジプトもそうなんで、全世界あらゆる死生観は入れるようにしています。喋り出すと長いですけど、そもそも生命が生まれて進化していって、ある時点で死を確認したんですね。エジプトでは死んだ者が帰ってくるピラミッドを造って、生と死という概念が生まれたことが人類の誇りであるので、この部分をフォーカスしています。

 インカ帝国などの要素を入れているんですが、知りたい人だけ知れるアーカイブに入れてますし、ヒッグスのコスチュームもそうですけど、わかる人はわかる。知らなくていい人は知らない。そういう構造になってます。

小島監督は「生と死という概念が生まれたことが人類の誇りだ」と語る

――作品を作る前から、小島監督が「月」に関するツイートをしているのが印象的だったのですが、「DEATH STRANDING」でも月が台詞として出てきますが、深いテーマに月が関係していたりするのでしょうか。

小島秀夫氏:僕はその、不可能の7割は可能だと思っているので。絶対不可能はあると思うんですけど、人間は空を飛べないですが、飛行機は空を飛べるんで。やっぱり人生で色々出来ないことがあって、でも出来ないことを諦めると当然評価はされません。それを越えるためにどうするかというのが知恵です。まともに越えなくてもいいじゃないですか? 壁があっても横から行ったりとか、これがゲームデザインなんですけど。

 僕の中で子供の時に宇宙飛行士に憧れてまして。50年前にアメリカ人が3名、何千人もサポーターが居る中月に行って、帰ってきたんですよ。嘘かもしれませんけどね(笑)。50年前に人類は月に行って帰ってきたんです、誰もが行ったこともない所に。それを考えたら何でもできるような気がして。クリフの台詞もそういう意味合いで出してます。月に行けたんで人類は。北極にも行ってますけど、何でもできるんで、そういう個人的な思いです。

「誰も行ったことのない場所に行けるんだから、出来ないことなんて無いんです」と話す小島監督

――ゲームをプレイした印象として、オープンワールド的ではあるんですけど、広がりすぎることと自分の物語にする塩梅が難しいと思うのですが、その辺り一番苦労したことはありますか。

小島秀夫氏:ゲームとストーリーテリングって本当は相性が良くないんですよ。マルチエンディングとかいっぱいあるんですけど、この辺はストーリーではないと思うんで。ああいうゲーム好きですけど、やっぱりある1本の運命があって、どんだけ頑張っても彼氏と彼女が別れる。それがストーリーじゃないですか。

 ゲームでよくある右に行くと別れない設定があるというのもありますが、僕のゲームではないんですよね。1本ストーリーがあって進んでいくことになるんですけど、「DEATH STRANDING」はオープンワールドなのでやっぱり自由度がないと意味がないじゃないですか。このゲームはAからB、BからCへ繋いでいくんですけど、そこのルートがもう自由なんですよ。

 ただAからB、BからCという時間の流れがあるからストーリーが流れる設計で、AからCやDには行かないです。だからAからBに行くときに、山や川へ行ってもいいし、ビーチに行ってもいい自由度があると。なので東京、渋谷、上野に行くという3点は決まっているんですけど、電車で行く、歩きや自転車、タクシーで行く、もしくは途中で休憩する。そういう所をオープンワールドで自由にしています。そんなに凄いストーリーテリングではないですけど。

小島監督の描くオープワールドは自由な手段

――ゲームって人を殺すゲームがいっぱいあるんですけど、「DEATH STRANDING」は人を殺すことにペナルティが大きいと思うんですが理由はありますか?

小島秀夫氏:棒と縄の話をよくしますけど、お猿さんが四つ足だった時があって、直立歩行して棒を持った。これが最初の武器というか道具です。嫌なものを遠ざける、次に縄を発明して好きなものを繋ぎとめる。この2つで今の世界があって、手があるじゃないですか? これで握手すれば縄ですよ。人間同士グーでパンチするのは棒ですよ。

 なので両面持っているんですよ、これは人間が招いた宿命みたいなものです。縄のテーマをしたい時に、というか棒も使えるんですけど、そこで殺傷をポジティブにするとゲーム性としてアレなんで……、あんまりそこを意識している訳ではないですけど、物語のテーマもそうですが。答えになってますかね?

「DEATH STRANDING」で多く語られる棒と縄。その両面を人間は持っている

――途中からか最初からなのかわからないですが、赤ん坊のBTが出てきますが他と違いなどはあるんですか?

小島秀夫氏:違いというか結構強いんです。小さいので(笑)。BTにも本当は色々なバリエーションを作りたかったんですけど、今の形になってますが、赤ちゃんのまま死んだ人も居るので、そこをBTとBBの対比というかそういった意味でも入れてます。

キャラクターにも様々な意味が隠されている

――ゲームクリア後も任務を続けたり、プレーヤーと繋がりたいという想いが結構出てくると思います。そういう人達に向けた、アップデートや施策などはありますか。

小島秀夫氏:DLCですか? 今の所予定ないですけど、終わると……あっこれアカン(笑)。ストーリーは一応終わるんですけど、配達任務はずっと続くんで。全部の残ってるミッションもいっぱいありますし、お互いプレーヤー同士のミッションもあるので。ストーリーが無くなったとしても、結構遊べるようにはなってます。でもまぁ、DLCは今の所考えてないですけどね。こんな所でいいですかね(笑)。

危うくネタバレしそうになる小島監督。ストーリーが終わっても配達人としてミッションを存分に楽しめる

会場を後にする際、来場者からのメッセージに「みんな字が上手いな」と目を通している姿が印象的だった

――これからも「DEATH STRANDING」で繋がるのを楽しみにしています、ありがとうございました!