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「時間さえあればゲームをずーっと作っていたい」ゲーム界の巨匠、小島秀夫氏と水口哲也氏が述べた「ゲームに対する思い」

2月19日 開催

会場:TRUNK BY SHOTO GALLERY

 対話プラットフォーム「trialog(トライアログ)」は、東京都渋谷区のTRUNK BY SHOTO GALLERYにて小島秀夫氏、水口哲也氏の2人のゲームクリエイターを招いてのトークイベント「trialog vol.9『クオリティとミッション』」を開催した。

左から水口哲也氏、小島秀夫氏、若林恵氏

 trialog共同企画者であり、フリーの編集者である若林恵氏が司会を務め、「『いい仕事』とは?」ということをテーマにトークセッションを実施した。最初にお互いの印象を聞かれると、水口氏は、小島氏の印象について「自分の中からの出てくるイメージを信じていて、太くて強い。時間がかかっても自分の思いを成し遂げる人」だと述べた。一方の小島氏は、「自分は友達が少ないので水口氏は数少ない同じクリエイターとしての人物。タイプの違うクリエイターであるため気が合うのかなと思う」、とコメント。

小島氏は自身のTwitterにて水口氏と笑顔の2ショット写真を何度もツイートしている

「作っているものは違うが、好きなものは似ている。」世代がある程度近いため似ているのかもしれないとコメント
お互いにフラストレーションを溜めながら、つくり続けている数少ないクリエイターなのではないか、という水口氏のコメントに対し小島氏は「誰でも、ものづくりをすることはフラストレーションが溜まる」と意見を述べた

 若林氏が次に質問したのは「ゲーム製作の今と昔」。小島氏は、ゲームを作るということは今も昔も変わらない。今回は新しくコジマプロダクションを立ち上げて、事務所を探したり、スタッフを探したりしながら「デススト」を作っていくということは、新たな試みとなった。また、「メタルギアソリッドV」以上にメインキャストとして多くの俳優を起用するのも新たしい試みだった、と語った。

 ここでは「デススト」に数多く登場するカニに関するエピソードが述べられた。最初カニはデザイナーに作ってもらったが、左右対称であったためリアリティが感じられなかった。そこで、カニを飼っているスタッフがいいたため、彼に協力してもらいカニをスキャン。そうすることでよりリアリティを追求したそうだ。

儲ける目的に対し「ものづくり」を押し付けるのは難しいと述べる小島氏

 ゲーム制作におけるスケジュールの話では、バジェットとスケジュールを見て制作すると述べた上で、これに関して小島氏は説明。例えば1人で絵を書いても、そのときは良くても次の日にはイヤになっている。自分自身は毎日変化していて、世の中も同じように変化していく。だから、昨日の時点で最高だと思うものも今日になるとそうでも無くなってしまう。そのため、毎日毎日練り直す。

 従って、バジェットとスケジュールがあるからものづくりに終りが来る。スケジュールがあるからそのまでにできるものを全力で作り上げる。そういったことを総合的に考慮してクオリティのラインを決めるそうだ。加えて、映画は撮影したらある程度終わりだが、ゲームづくりはデジタルに進化したため、細かい部分までいじることができ終わりがない、という。

 水口氏は頷き、「僕らはいくらでも時間があると言われたらずーっと作ってしまう。そのため、リリースさせなければならない期限が迫ると(もっと制作していたいという気持ちがあるため)イヤイヤ作る。」とコメント。ゲームづくりならではの特徴なのではないかという考えを述べ、音楽や映像、ストーリーの制約がないため、やろうと思えばどこまででも行けてしまう。そのため、ここまで達成すれば完成というビジョンを最初にしっかりと決める、といった自分なりのポリシーを語った。

完成のラインを考えながらバランスを取って細かく決める

 また、ゲームづくりに関して小島氏はプラモデルを例として挙げた。プラモデルは完成品としての形が決まっており、決められたパーツを元に組み上げるが、ゲームを作るクリエイターは見えないパーツの制作も行ないながら完成品を組み上げてゆく。見えないパーツも多くのことを踏まえて調整することが重要になるという。

 作品のコンセプトはどうやって決めるのか、という質問に対し水口氏は、「小島さんとは真逆かもしれないが詩を作ったりするんですよ。パッと閃いたイメージを削ぎ落として短い詩にする。それをアートディレクターなどに見せて、『どのようなことを感じたか』ということを確かめる。そのフィードバックを元に、作品を組み上げるということもある」とのこと。これを聞くと小島氏は冗談交じりに「水口さんとは一緒に仕事できないですね」とコメントし、会場を笑わせた。

和気あいあいとトークが進行していたが、2人の答えはどれも鋭いものであった

 ここで小島氏は再びゲームを作り始めた昔の状況を振り返った。自分たちがゲームを作り始めた頃はゲームという媒体があまり発展していなかった。そのため、誰も知らないし、決まっていない。小島氏は若い頃、どのようにゲームを作るのかを先輩に聞いたところ「会社は(そういったことを)教えるところではない」と言い切られた。よくよく聞いてみたら知らないだけだったということが判明し、びっくりしたとのこと。今は何となくゲームのフォーマットがあるが、はっきりとした決まりというものが昔はなかった、と語った。

 映画は2時間、テレビは15分でCMが入るなど、それぞれにフォーマットが決まっているが、当時のゲームには決まりがなかった。最近はなんとなくフォーマットが決まってしまっている。「ゲームオーバーがあって、復帰ポイントはこんな感じで」など決まっているのが少し残念に思う。とも小島氏はコメントした。

「デススト」でも「ゲームオーバー」というワードが何度か登場する。ゲームならではの要素に対し、小島氏ならではの思いがあったのか見しれない

 小島氏は、ゲームを作る上でフォーマットが何となく決まってきている流れを受けて、ある種の窮屈さを感じるか。という質問に対し、「僕はある程度決まったフォーマットで作るのも、もちろん面白いと思う。しかしながら、そうじゃないアプローチもあるのに、それらの道が塞がれてしまっているように感じる。だけど、そういう発想があってもいいんじゃないかとは思う。僕は今までの人生でゲームを作ってきたので、年寄として『そういうゲームも合ってもいいんだよ』ということを(若い世代に)知ってほしい。」と述べた。

 既に開拓された作品は作らず、ジャンルという枠に囚われない2人のクリエイターの考えは、ゲーム制作者だけにとどまらず、多くの人に「気づきのきっかけ」を与えるトークセッションだったように思う。ゲームを通してどのようなことを感じてほしいのか、という思いが伝わる内容となっていた。常に新しいもの、まだこの世に生まれていないコンテンツを生み出す2人のクリエイターに今後も注目していきたい。

水口氏は、「DEATH STRANDING」を遊んだ感想として、どこか自分のことのようでうるっと来た、と述べた
会場ではトークセッションの内容をまとめたボードも制作されていた
また会場からは「日常的にどのようにしてアンテナを張っているか」という質問に対し、自身がよく本屋に行くことを述べた上で、自分で良い作品を見つけるという感性を育てるために本屋に行くというのも一つだと思うと回答した