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ゲームを仕事にするとは? プロゲーマー対談ライブの模様をレポート
プロゲーマーとは一体どのような存在なのか、そして彼らにとってゲームとは?
2019年9月14日 01:26
“プロゲーマー”という単語が浸透し始めている昨今だが、その実態はまだ広くは知られていない。彼らはどんな生活をし、プロとしてどのような活動をしているのか? 「ゲームをしているだけで生活できるなんて楽だ」などと揶揄されることもあるが、彼らは実際幸せなのだろうか?
TGS 2019のタケヤ化学工業ブースでは、様々なゲームにおいてトップを走るプロゲーマー計6名が招かれ、彼らの謎に包まれた「リアル」を解明すべくトークライブが開催された。格闘ゲーム、シューティングゲーム、パズルゲームなど、ジャンルの違うゲームをプレイする彼らの共通項は一つ「対戦ゲームが好きであること」だ。
毎日6~7時間もゲームをプレイし、30歳を超えてもゲームの勝ち負けで一喜一憂する。そんな一昔前であれば社会不適合者と思われてもおかしくない彼らが語る、対戦ゲームの魅力、そしてプロゲーマーという職業の実態とはいったいどんなものなのだろうか。
「気づいたら朝」は当たり前。プロゲーマーの生活サイクルとは。
最初に登壇したのは、ももち選手(忍ism Gaming所属)、西澤選手(よしもとゲーミング所属)、live選手(RED ONE所属)、あばだんご選手(忍ism Gaming所属)の4名。彼らは全員プロゲーマーでありながら、それぞれ異なるゲームをメインに活動している。
まず話題に上ったのは「1日のゲームのプレイ時間」だ。「ストリートファイターV」をメインに活動するももち選手は、ゲームする時は必ず配信をするようにしていて、日に6~7時間は当たり前に配信しているとのこと。時には20時間も連続で配信するらしく、これには他の登壇者も驚いていた。
いくらゲームが好きとはいえ、同じことを20時間も続けられるというのは、やはり常軌を逸している。「奥さんがいるのにそんなにゲームをして、罪悪感は無いんですか?」という西澤選手の問いに対してももち選手は、「仕事なのでいいでしょ、と思っています。ただ今日幕張に来る途中、妻に『ディズニーランド行きたいなあ』とアピールされましたね」と笑って返した。
かく言う西澤選手も、吉本興業に所属するお笑い芸人でありながら1日の大半をゲームに費やしているようで、「お笑いはついで、趣味みたいなもんです」と自虐気味に語った。live選手、あばだんご選手も同じくゲーム漬けの生活のようで、気づいたら朝になっているのも日常茶飯事だそう。ももち選手曰く「本当は寝たほうがいいプレイができるんですが、どうしても夜じゃないと対戦相手がいないので、これはもう対戦ゲームプレイヤーの宿命ですね」とのこと。
20時間は極端な例として、来る日も来る日もゲーム漬け生活をしていては、筆者ならゲームを嫌いになってしまいそうだが、ももち選手はゲームを続ける秘訣を以下のように語った「これはプロ関係なく、ゲーマーとしてのこだわりですが、自分が楽しめるゲーム以外はやりません」。様々な人の目に付く立場に居るからこそ、好きなゲームを好きなだけやる姿を発信することで、ゲームの良さを伝えていきたいとのこと。あばだんご選手もこれには共感できるようで、「好きなゲーム以外やらないのは僕もそうですね。そういう意味で言うと僕のプレイする「大乱闘スマッシュブラザーズ」はキャラが多いので飽きが来ないんです」と語った。
プロの数だけ苦悩がある?ジャンルごとに異なった悩みとは。
どれだけゲームが好きでも、楽しいことばかりでは無いだろう。「プロゲーマーになってからの苦い体験を教えてください。」と司会者が振ると、まず答えたのは西澤選手。「僕がメインでやっているゲームは4人1チームなので、チームメイトとの不和は絶えませんね」と、スプラトゥーンプレイヤーならではの悩みを吐露した。スプラトゥーンのプレイヤー層は若く、その分対立も多いとのこと。「勝った時の喜びは大きいが、それ以外の面では個人競技の方が絶対楽」と他の登壇者を羨むコメントをしていた。
対照的に、ぷよぷよをメインにプレイするlive選手は、若いプレイヤーがいないことを思い悩んでいる様だ。曰く、ぷよぷよは実力ゲーすぎて、1から始めるのが難しいとのこと。「初心者でも勝てる要素を増やして、より一般受けするゲームになってくれたら、と思うこともあります」と比較的ニッチな競技を生業とする者ならではの悩みを語った。
次に話題は「スランプとその対処法」に移った。プロとして結果を求められる日々を送る中、思うように勝利を掴めない時をどのように乗り越えるのか。自身を引きずりやすい性格と形容するももち選手は、スランプに悩まされた時期も多かったとのこと。そんなももち選手が編み出した対処法は切り替えを意識することだそう。「心が折れそうな時は、今の負けは俺の人生に全く関係ない!と無理やり思うようにしてます」と語った。
同じ忍ism Gaming所属のあばだんご選手は、スランプを経験したことは無いそうだ。「負けは常に自分の実力不足が原因なので、変にネガティブな思考に陥ることはありません」とクールに語った。
「薬物のような中毒性」?プロが語る対戦ゲームの魅力とは。
次に登壇したのは、ももち選手、あばだんご選手に加えて、藤村選手(忍ism Gaming所属)とtakera選手。話題は対戦ゲームの魅力になった。
「大乱闘スマッシュブラザーズ」プレイヤーのtakera選手は、「自分にとって対戦ゲームは薬物です」と、その中毒性を強調した。takera選手は感情的になりやすく、とある大会の3位決定戦で敗北した際は、椅子から床へダイヴして泣いたこともあるという。それでもスマブラをやめられないのは、勝利の瞬間の気持ち良さが忘れられないからとのこと。ももち選手もこれには共感できるようで、「大会前などは気持ちを高めるために、過去に自分が勝利した動画を見たりします」と語った。
家庭用の「ストリートファイターIV」のオンライン対戦から格闘ゲームにハマった藤村選手は、「ゲームで負けた悔しさを解消するためにゲームをしています」と語った。悔しさをバネに自分の敗戦動画を研究し、ひたすら練習してしまうという。藤村選手曰く、対戦ゲームにおける相手は画面を介していてもあくまで人間なので、戦い方を少し変えるだけで心理面で優位に付き、今まで全く敵わなかった相手に勝てるようになることもある。藤村選手はそんな勝利の瞬間の為にゲームに熱中してしまうと語った。負けず嫌いな藤村選手らしいコメントだ。
あばだんご選手は「自分にとってゲームは、心から楽しめる仕事です」と述べた。自分の仕事を心から楽しめる、単純な事の様で、それを実現できている人は世の中には少ないのではないか。「プロゲーマーになれて自分は本当に幸せだと思います」とあばだんご選手が述べると、他の登壇者からも共感の声が上がった。
年内にプロポーズ予定?
トークライブも終わりに差し掛かろうとするとき、ももち選手から藤村選手へ「それで、いつ結婚するの?」との質問が。不意の質問に笑みがこぼれる藤村選手だったが、「年内にはプロポーズしたいと思っています」と回答。長年連れ添った彼女は、ゲーマーではないが藤村選手のプロ活動を理解してくれる人とのこと。EVO 2019を優勝したボンちゃん選手しかり、格闘ゲーム界隈には結婚すると大会成績が良くなるとのジンクスがある。藤村選手もそのジンクスの通り、結婚をバネに大会成績を伸ばすことができるのだろうか。
筆者が感じた、プロゲーマーに必要な才能
今回のトークライブでは、プロゲーマー計6名が登壇し、ゲームについて語り合った。「趣味を仕事にすると、やがてその趣味が嫌いになってしまう」というのが通説だが、彼らにその心配はなさそうだ。彼らの感覚としては、「ゲームを仕事にしている」というよりも、「ゲームを楽しむことが、結果として仕事になっている」と言う方が正しいのだろう。実際、一つのことに熱中する真っすぐな彼らの姿勢は、見る者を動かす力がある。しかしそれもまた、彼らのゲームへ対する集中力、そして勝利へ対する貪欲さがあってこそだ。彼らは淡々と語っていたが、飽きずに同じゲームを長くプレイし、どんな敗北にも屈せず練習することは、容易な事ではない。プロゲーマーという職業は、そういった才能があってこそ成立するもので、決して誰でも成しえる仕事では無いのだろう。