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究極のデコPC作家ALI ABBAS氏の珍妙な作品群がCasekingブースに登場
世界初の“コーヒーが飲めるPC”を作った男のデコPCに注ぐアツイ想いとは
2019年8月25日 00:52
- 8月20日~24日(現地時間) 開催
- 場所:ケルンメッセ
gamescom 2019も、最終日を迎えた。PCデバイスが集められた会場の一角、ベルリンを拠点にヨーロッパ市場で手広くPCを扱うリテールベンダーCasekingのブースでは、PCケースモデラー、Ali “THE CRE8OR” Abbas氏のエッジの効いた作品群が数多く展示され、会場を訪れる人の度肝を抜いていた。
Abbas氏の作品は、なんというかもう完全に突き抜けているのである。異次元のチンドン具合に、苦笑と賞賛が入り混じった感情で、半笑いが止まらない。ここまでくると、その清々しさに感動すら覚えてしまう。
会場では、たまたまブースを徘徊するAbbas氏に出くわし、少しだけAbbas氏の話を直接聞くことができた。gamescom 2019のしめくくりに、筆者からはこのAli “THE CRE8OR” Abbas氏の彼の人生そのものともいえる作品群、並々ならぬ情熱を持って製作してきたデコPCの数々を紹介したい。
Casekingのサイトにある彼の特設ページの紹介では、Pakistanで過ごした少年時代の原体験が創造のベースだとか、彼の内なるマクガイバーが騒ぎ出してだとか、いろいろクールに演出する表現が盛られているが、要するにAbbas氏はただの工作おじさんである。さりとて、デコPCにかける情熱は本物以外の何ものでもなく、彼の作品は実際に動作するということが何にもおいて素晴らしい。
造形デザインをして、樹脂や木工でカタチを盛るだけなら他の人にもできるだろう。日本の特撮プロダクションの美術さんや造形師さんのほうが、きっと素敵な結果を生み出すに違いない。Abbas氏が優れているのは、まったく無駄とも言える、必要性を完全に度外視した、謎の実用性と機能性を兼ね備えていることだ。これぞ現代に脈々と受け継がれるドイツのクラフトマンシップと言うべきではないか。
その最たるものが、世界最大サイズの完全動作するPCマウス“DCMM Colossus”で、Abbas氏は2013年にこの作品でワールドレコードを獲得しているというのだから、もうこれは素直に賞賛するしかない。マウスの中にデスクトップPCを内蔵するという荒技で、その発想はもちろん筆者にはない。
スポーツカーをイメージした“DCMM Colossus”に搭載されているギミックは、PC本体に留まらない。エアインテークやエキゾーストパイプから立ち上るスチーム、マウスホイール付近からせり上がるWebカム、後方スリットから排出される光学ディスク、キーボードホルダーになるリアスポイラーといった楽しいギミックの数々で楽しませてくれる。その一方で、26×68×98cmのサイズ、21.5キロの重量というから、卓上にPCが必要がないとしても軽快なマウス操作には全く向かない。
もっとも、完全に動作しているとは言い難いのと、マウスの定義を手で操作するとした場合定義に外れてしまうという話はあるが、大きさだけならさらに上を行く試みもある。William Osman氏という人物が自動車をマウスにしてメールを送るという、Abbas氏に負けず劣らずのバカさ加減の試作を行なっているので、こちらもぜひチェックしてみてほしい。
Abbas氏の作品に目をつけたNVIDIAが「Gears of War 4」にあわせたプロモーションの一環として、GTX1060を搭載したGeforce Garageの製作を依頼したこともある。“The Lancer Unleashed”と名付けられたこの作品は、LEDイルミに加え、CPU/GPU水冷クーラントのサーキュレーションチューブも、ゲームのイメージを意識したブルーにカラーリングされている。
またランサー部分は着脱可能で、内蔵バッテリーでチェーンソー部分が可動する。バッテリー残量を示すインジケーターも搭載されており、雰囲気もののギミックなのに、こうしたところが無駄に実用的だ。
この“The Lancer Unleashed”は実物をGamescom会場で見ることができ、その大きく、いかついデザインは大いに注目を集めていた。わかる人にはこれがデコPCなのだとわかるのだが、普通の人には単なる奇抜なブース装飾にしか見えていない。それくらいAbbas氏の作品はPCとは思えぬほど常軌を逸している。
Abbas氏のの挑戦で、もうひとつ紹介しておきたいのは、世界初のコーヒー抽出機能搭載PC、“Mekspresso”だ。この“Mekspresso”はZOTACとのコラボで実現したもので、同社のスタイリッシュなゲーミングPC、MEK1のプロモーションのために昨年2018年に製作されたものだ。
こんなマシンがあったらいいなと、試作に至らないまでも誰もが一度は思い描いたことがあるだろう。Abbas氏の作品にしては珍しくかなり実用的で、PCの発熱を利用して沸かした湯でネスレのNespressoカプセルを抽出する。PCでの作業中、いつでも好きな時に淹れたてのコーヒーが楽しめる夢のマシーンだ。
Abbas氏によると、これらの事例のように、どんな企業とのどんなコラボの要請も、基本的にウェルカムだそうだ。Casekingと彼との正確な契約関係を聞くことはできなかったが、ひとつの企業に抱え込まれていても、プロのデコPC作家としてイニシアチブは彼の方にあり、フェアで良好な関係を築いている印象を受ける。
ちょうど、CasekingがスポンサードしているプロのeSportsチームH2KやチームSproutと同様の立ち位置なのではないかと思われる。露出機会でCasekingブランドロゴの入ったウェアを身につける代わりに、作業場、機材や部材、活動資金を援助するといったものなのだろう。
今でこそ、自他共に認めるこの道の第一人者となったAbbas氏だが、デコPC製作を始めた1990年代の終わりごろには、まだまだ腕も未熟で発想的にもありふれたものでイマイチだったという。それから約10年、黙々と腕を磨くと共に、発想の転換を図り2010年ごろから、次々とユニークな作品を発表し始める。
それからは破竹の勢いで、約10年の間に、German casemodding championships (DCMM)で、優勝16回、準優賞14回、第3位11回の栄冠に輝いている。またDCMM史上初、同一大会に出品した異なる作品によって1位~3位を総ナメにしたり、逆に同一作品で別のDCMM大会を3度優勝するといった快挙を成し遂げている。その他、German Modding Masters Championship(DMMC)で4回優勝、We-Mod-IT CE Modding Contest(WMI)でも2回優勝し、合計の受賞歴は63回に達している。
そんな彼ほどのデコPC作家でも、Casekingとの現在の関係が始まったのは2017年と、わずか2年前のことだ。早い段階から広告価値を見出して抱え込んで来なかったという経緯もあって、デコPC作家がプロフェッショナルとして独立性を保つ気風が醸成されたのかもしれない。
こうした状況を背景に、Abbas氏単独の意思で、コラボによる新作デコPCの製作の決定できるし、既存の他社とのコラボで誕生したものでなければ、現状は一点もののデコPCであっても、量産のためのライセンス供与は前向きに検討できるそうだ。
Casekingの方はというと、グループ各社でデコPCの販売は行なっておらず、「THE CRE8OR - SAGE / SAG-ELIMINATOR」というAbbas氏のブランドロゴをエンブレムにあしらったGPUリテイナーのみ販売している。
これは増大した重量によりビデオカードがたわんだり、スロットから脱落しないように、マザーボードのエッジとビデオカードのエッジに支柱を引っ掛けて加重を分散するものだ。これにAbbas氏のクールな“THE CRE8OR”ロゴがあしらわれたエンブレムが付属する。
“THE CRE8OR”のブランド力がいかほどのものかはわからないが、きっと数あるエディションのひとつなのだろう。だとしても、キャラクターグッズまで発売されているのだから、ヨーロッパではAbbas氏の人気がゲーマーやハードコアなPCマニアの間である程度確立しているのかもしれない。
デコPCが販売されていないのは、売価と在庫の観点から高額商品はリスクが大きく、20ユーロ程度のグッズに留めておいた方が無難、まぁそういう判断なのだろう。
というわけで、日本の準大手、いわゆるショップブランドの皆さん、Abbas氏のデコPCを販売するのはいかがでしょう。きっと売れますよ、多分。
HPやDELLといった大手ブランドですら、低価格を指向する以外の商品の方向性を模索し、LEDやら透過ディスプレイによる奇抜な演出で差別化を図ろうとしているご時世、デコPCクリエイターの作家性を頼りにした商品もアリではないかと思う。
Ali “THE CRE8OR” Abbas氏の作風は日本受けが非常に良さそうだ。完全受注限定生産の限定商法で構わないと思うので、是非とも日本での展開を期待したい。