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【GDC 2019】「The MISSING」SWERY氏が語る共感を生むゲームデザイン
ステータスは“個性”ではない。キャラクターに魅力を与える大きな発見とは?
2019年3月24日 08:31
2018年10月に発売されたPS4/Xbox One/Nintendo Switch/Windows PC「The MISSING - J.J.マクフィールドと追憶島-」。“SWERY”ことゲームクリエイター末弘秀孝氏が手がける本作は、主人公J.J.マクフィールドの首が飛び、手足がもがれ、悲惨な状況に陥っても死ぬことはできず、むしろ散り散りになった四肢を使ってパズルを解くというインパクト抜群のゲームデザインになっている。
このタイトルが生み出された背景には、「SWERYの作品はストーリーは面白いけど、ゲームプレイはまあ、あれだよね」という周囲の評価が大きく影響している。「なら、ゲームプレイから作ってやる!」という意気込みで生み出されたのが「The MISSING」だ。
特に本作では、ゲームプレイとシナリオが一体となることで、プレーヤーに強いゲーム体験を生むことが強く意識されている。GDC 2019のSWERY氏の講演にて、本作の作り方や考えた方が話されていった。
なお本稿はネタバレを含み、プレイ後に読んだ方が内容を深く理解できる。未プレイの方はご注意いただきたい。
数々に仕込まれた「共感」の種をSWERY氏が明かす!
本作のゲームプレイとシナリオの両方に共通するテーマは、「痛みと再生」。自己破壊と再生を繰り返しながら解くパズルがゲームプレイ部分、主人公の精神的苦痛が徐々に明らかになり、最後に浄化される話がシナリオ部分だ。
「痛みと再生」をゲーム全体で繰り返しながらエンディングまで進むことで、プレーヤーは主人公と同じ「痛みと再生」を経験できる。
冒頭でもご紹介したように、SWERY氏は本作でゲームプレイを先に作り、最後にシナリオを書くという手法に挑戦している。
大まかには、最初に基礎となるゲームシステムをデザインし、J.J.の死に方とパズルのバリエーションを決め、続いて舞台設定とステージの順番、そして詳細なステージデザインを決める。これらが完成した後、メインストーリーを書き始めるという流れだったそうだ。
また主人公を若い女性にしているのもシナリオ作成上のちゃんとした理由がある。ゲームプレイの「痛みと再生」をストーリー上でプレーヤーに伝えるには、「大事なものを探して深い闇に迷い込む」という設定がいいだろうと決定。これをさらにメインキャラクターに当てはめると、「等身大の若者」がよりフィットすると考えた。
そして、メインキャラクターの特徴はゲームプレイにも作用する。ゲームプレイから考え出されたメインキャラクターが、ゲームプレイに影響を与えるというサイクルで「The MISSING」は作られているとした。
SWERY氏は続けて、共感を生むためのポイントを話した。まず、ストーリーの導入はシンプルにしていること。本作では親友のエミリーが突然いなくなり、彼女を探しにいくこととなる。ここでテキストは極力入れず、雨を降らせるなど状況の変化で不穏さを演出。極力余計な手続きを必要とせずにゲームへと入っていけるようにしている。
オーソドックスな横スクロールアクションを採用したのは、この形式であれば「右に進む」とゴールが明確に理解できるから。これも、余計な説明を省けるという理由が大きいとした。
また本作では、「追憶の島」で置きている“現在”、メッセンジャーアプリで明らかになる“過去”、そしてその両方が重なる“未来”の3部構成で話が進む。メッセンジャーアプリでの会話は“現在ではない”というのがポイントで、この会話を読むことでJ.J.が周りからどのように見られているかが理解できるようになっている。
作品のテーマ的に、今の若い世代が共感できるものにしたいという狙いがSWERY氏にはあった。そのためメインキャラクターの抱える問題はあくまで等身大で個人的なものと定め、さらに若い世代へのヒアリングから「自己実現を叶える」ことを盛り込むことに。さらに「おじさんでは若者の心はわからない」と卒業したての学生をセカンドライターとして雇用した。
SWERY氏の挑戦として、これらの要素をカットシーンなしに、一続きのものとして描きたかったという。ゲームがスクリーンを超えてどこまで現実世界に波及するか、ゲームの外のプレーヤーをどれほど中に引きずり込めるか。「そこまで徹底的にこだわらないと、感動を生み出すことはできないなと思っている」と語った。
J.J.マクフィールドのキャラクター作りについては、SWERY氏の「すべての人はマジョリティでありマイノリティである」という持論が大きく反映されている。「日本人の私はこの会場ではマイノリティだが、日本へ帰ればマジョリティになる。そういう一面は誰しも当てはまるはず」というものだ。
本作では、ゲームの序盤は人間(マジョリティ)が怪しい世界に入り込んだことで、この世界ではマイノリティであることがゲームのプレイの中でだんだんと刷り込まれていく。これが第1段階。
後半になれば、ゲームプレイそのものがどんどん厳しくなっていく。加えて、ストーリーラインではJ.J.が現実世界でもマイノリティであり、そのことを苦にして自殺したことが判明する。ここでプレーヤーの苦痛はピークに達する。
しかしエンディングまで到達すれば、J.J.はそれらすべてに打ち勝つ。それを見たプレーヤーは誇らしかったり、愛おしかったりする気持ちになり、「これは自分の物語だ」と感じるようになることが狙いだとした。
SWERY氏は、J.J.を描いたことで「性別やLGBTQというステータスは個性ではない」と学んだという。「アメリカ人、日本人といったように、LGBTQはただの特性のひとつでしかない。本当に大事なのは、その人の唯一無二の部分。これが個性だし、表現すべきもの。ひとりの人としての性格や思想などが、ステータスよりも重要なものとして描かれていないと、キャラクターに魅力は出てこない」と話した。
さらに「今までは直感で判断していたものが、今回の作品を通して言語化できたと思う。この方法論は他のキャラクター造形にも使えるし、日本人=侍、中国人=カンフーといった安直なキャラクター造形へのアンチテーゼにもなる大きな発見」と続けた。
SWERY氏が最後に紹介したのは、ゲームの冒頭に表示される「この作品は、すべての人々が自分自身であることを否定しなくても良いという信念のもとに作られています。」というメッセージ。
実は完成の直前まで、このメッセージを入れる予定はなかったそうだが、ある人から「SWERYの言いたいことってこうだよね。だから入れよう」とアドバイスをもらったという。「その通りだ」と思ったSWERY氏は、バグチェックも終わりかけの開発最終版にも関わらず「プロデューサーが怒ろうがディレクターが鼻血を出そうが入れてくれ」とねじ込んだという。
「開発のどの段階でもやるべきことはやる」とSWERY氏。「この判断を誤ると開発はスケジュール通りに終わるかも知れないが、それまでかけた情熱や時間が失われる可能性がある。これをしっかり覚えて帰ってほしい」と締めくくった。
©White Owls Inc. / ARC SYSTEM WORKS