【特別企画】

国内最強Absolute JUPITER、アジア王者の称号には一歩届かず宿敵韓国に敗れる!

KeNNy選手、hNt選手らを擁するインフルエンサーチームは見事優勝果たす

9月18~20日開催

 9月18日~20日にかけて、人気FPS「VALORANT」の国際大会「Asia VALORANT Showdown」が開催された。アジア最強のチームを決めるべく開催された本大会には、日本、韓国、シンガポール、台湾の4か国から代表チームが招待され、BO3のシングルエリミネーションでしのぎを削った。また、本大会はRiot Games公認「Ignition Series」の一環である。アジア最強の称号と優勝賞金1万ドルをかけたこの大会に、日本からはAbsolute JUPITERが参戦した。

【Asia VALORANT Showdown】

 Absolute JUPITERは先日開催された国際大会「GALLERIA GLOBAL CHALLENGE」を勝ち抜いて本大会への出場権を獲得した。同チームは「CS:GO」時代からFPSシーンにおいて国内最強の座に君臨するカリスマ的チームで、「GGC」でも圧倒的なゲーム内容で優勝を果たした。そんな日本を代表する彼らの本大会での結果は、アジア諸国と比較した時の日本FPSシーンの競技レベルを推し量る基準ともなりえるものだ。日本語配信の同時視聴者数が一時2万5千人を超えたことからも、同大会の注目度がいかに高いかが分かる。

 また本大会にはプロ同士のトーナメントの他に、各国のストリーマーや元プロ選手たちが集められたインフルエンサー部門も設けられた。こちらは日本、韓国、シンガポール、タイの4か国からチームが招待されており、日本からはClutch Fi選手、KeNNy選手、Sikanesu選手、Surugamonkey選手、hNt選手がインフルエンサー代表として参加した。インフルエンサー部門にもプロ部門同様1万ドルの優勝賞金が用意されており、こちらも白熱の戦いとなった。本稿では、日本を代表してアジア大会を戦った2チームの力闘を紹介する。

実況はOooDa氏、解説はYukishiro氏だ

お祭り企画かと思えば、蓋を開ければガチ対戦の連続だったインフルエンサー部門!

 プロ部門に先立って開催されたインフルエンサー部門では、日本代表チームが準決勝でタイチームを撃破し決勝進出を決めた。日本代表チームの5人はいずれも「VALORANT」を中心に配信を行なうストリーマーだが、そのほとんどがFPSタイトルでのプロ経験がある強者揃いだ。とりわけhNt選手は、直前までBlackBird Ignisに所属し、「CS:GO」時代からAbsoluteのライバルとして戦ったIgnisの元リーダー。つまり、ほぼ現役の選手だ。

 5人は普段の配信では多くの視聴者を集める名ストリーマーなわけだが、大会中の各視点の配信を見る限り、皆かなり真剣な雰囲気でプレイしていたようだ。たとえば普段は配信中に筋トレをすることで有名なKeNNy選手も、大会中ばかりはゲームに徹していた。

個人配信のKeNNy選手

 その上、彼らは今大会に向けてかなりのチーム練習を積んできていたようで、その実力はかなりのものだった。それぞれ様々なタイトルで培った個人技の高さはもちろんのこと、チームの連携もかなり取れていた印象だ。各マップの位置取りは隙がなく、アビリティやUltの使い方も計算されていて、その立ち回りはインフルエンサーという肩書には不相応な、非常に洗練されたものだった。

対タイ戦での一コマ。hNt選手のブリーチがフォルトラインを使い、Clutch選手と共に敵を追い詰める、連携の取れた動きだ。hNt選手はナイフを持って敵前に出ているようだが、これはご愛嬌。

 そんな彼らの決勝の相手となったのは韓国チームだ。こちらも日本顔負けの強豪ぞろいで、hNt選手同様、元プロどころか、つい最近の「VALORANT」国内トーナメントに出場していた選手まで採用されている。手強い相手なのは間違いないが、日本チームとしてはAbsolute JUPITERに気持ちよく決勝を戦って貰うためにも、どうしても勝利したい一戦だ。試合は日本のディフェンダースタートで第1MAPはSPLITとなった。

お互いのチームのエージェント編成

 韓国チームはまとまった人数で敵陣に攻める戦法をとっていたようで、5人全員で1ポイントにラッシュをかけるような動きがしばしば見られた。しかし日本チームはその都度的確に対応し、Sikanesu選手のサイファーが索敵を行ない、hNt選手のブリーチがフォルトラインで相手の動きを止める、といった動きで安定して韓国チームの攻めを捌いていた。韓国チームはAとBを同時に揺さぶるような攻めができていればあるいは日本の守りを突破できていたかもしれないが、日本チームの堅さの前で徐々に攻めのペースが落ちていった印象があり、第1MAPの前半戦は日本チームが全勝した。

 そんな日本チームで最も活躍していたのはhNt選手だろう。ブリーチで守備の要を担っているだけでなく、ゲーム中最も攻撃力の高いオペレーターを持ち、積極的に相手をキルする動きを見せた。「CS:GO」時代から競技シーンで活躍する彼の動きには目を見張るものがあり、エイムの精度やピークの上手さは流石のものだ。第5ラウンドでは、hNt選手がオペレーターでACEを決めて見せたシーンもあり、チャットを大いに沸かせた。そんなhNt選手の活躍もあり、第1MAPは13-1という大差で日本チームが勝利。完勝に向けて幸先のいいスタートとなった。

“田レティクル”で有名なhNt選手、ACEのシーン
KeNNy選手のショーストッパーが炸裂し、日本チームがまず1勝

 続く第2MAP、日本チームのアタッカースタートでマップはASCENTとなった。日本チームはSikaneseu選手以外全員が使用エージェントを変えており、先ほどと比べて攻撃的な編成になっている。対する韓国チームはレイズがソーヴァに変わっている程度で、そこまでの変更は見られない。

第2試合のお互いのエージェント編成。日本チームはがらりと変わっている。

 この試合で驚かされたのは、日本チームの攻めパターンの多さだ。本大会に向けて編成された即席のチームとは思えないほど、彼らは様々な戦術を駆使して韓国チームに攻め入っていた。hNt選手が単騎で陽動を行ないその隙に他の4人が設置に向かう動きや、KeNNy選手が積極的にオーブを回収しUltを発動させていく攻めなど、彼らはストリーマーならではの“魅せる”プレイも欠かさない。

 そんな中でも最も印象的だった日本チームの攻めは、第10ラウンドで見せたClutch Fi選手の設置だろう。1on1の状況になった後、Clutch選手はAポイントでオーメンのテレポートUltを発動。韓国側もそれを読んですかさずBポイントに移動するも、なんとClutch選手はそこでUltをキャンセル、Aにとどまって設置を決めた。韓国側はあわててAに戻るもその時にはClutch選手は裏を取っており、背後から相手を華麗にキルして見せた。

Clutch Fi選手の偽装Ultのシーン

 各々の活躍があり、日本チームは7-5と有利な展開で前半戦を折り返した。このまま行けば日本が勝利できそうかとも思われたが、韓国チームも一筋縄ではいかず、試合は一進一退の展開になっていった。韓国チームは先ほどのMAPでは中々突破できずにいた日本の守りにも徐々に適応し、ラウンドを取っていくが、対する日本も粘り強い守りを見せ、試合は11-11までもつれ込んだ。

 決め手となったのは第23ラウンド、Midに5人を投入し中央突破を図る韓国チームに対し、オペレーターを持ったhNt選手がまずキャットウォークで1キル、そしてMidに周ってさらに2キルと、見事な立ち回りを見せた。hNt選手の作った人数差を保ったまま日本はラウンドを勝利し、先にマッチポイントを迎えた。

hNt選手トリプルキルのシーン

 そして第24ラウンド、オーバータイムに持ち込みたい韓国チームは、Bに4人を投入した攻めを展開。日本チームは設置を許してしまい、3-4の人数不利でリテイクの状況となった。チームの命運はSikaneseu選手、KeNNy選手、Clutch選手の3名に託されたわけだが、3人は動揺する様子もなく落ち着いた立ち回りを見せ、なんと1人も落とすことなく相手チームを一掃、逆転勝利をしてみせた。第2MAPは最終スコア11-13で日本チームの勝利、「Asia VALORANT Showdown」インフルエンサー部門は日本代表チームの優勝となった。

インフルエンサーチーム優勝の瞬間

 Absoluteに繋ぐべく素晴らしい活躍をしてくれたインフルエンサーチームだが、試合後の彼らのボイスチャットには、「楽しかった」、「またこのメンバーでやりたい」、「なんなら今すぐ飯行きたい」など互いを称える言葉が飛び交っていた。ゲーム内での実力と配信者としての魅力を兼ね備えた彼らは、今後も「VALORANT」シーンを盛り上げてくれること間違いないだろう。

因縁の日韓戦!アジア最強の称号は誰の手に?

 インフルエンサー部門で日本が優勝し、良い流れで迎えたプロ部門決勝戦、ここでの対戦カードは日本代表Absolute JUPITER対韓国代表Vision Strikersとなった。

 両チームとも準決勝では2MAP連取と強さを見せつけ、決勝へ勝ち進んできた。奇しくも2連続で日韓戦が繰り広げられることになったわけだが、FPSファンにとってこのカードはただの日韓戦以上の意味を持つ。というのもVision Strikersは、「CS:GO」時代に「MVP PK」という名前で活動していたチームを前身に持ち、AbsoluteとMVP PKは「CS:GO」時代からライバル関係にあるチームなのだ。以前GAME Watchが行ったインタビューでもLaz選手はVision Strikersをライバルとして意識していると語っており、Absoluteにとって初の国際大会の決勝でこの両チームが相まみえることは、まるで仕組まれていたかのような展開だ。

 同インタビューで今後の目標を聞かれた際、Absoluteの面々は口をそろえて「日本最強は当たり前、まずはアジア最強を目指していきたい」と語っていた。Absoluteは国内での圧倒的な強さから、「日本のFPSシーンを引っ張っていく」という意識がとても強いチームだ。彼らにとってアジア最強という称号は、彼ら自身のみならず、彼らが背負う日本のシーン全体の強さを証明するために何としても手にしたい称号なのだ。しかしその栄光の前に立ちはだかったのは宿敵韓国、日本語配信のチャットは固唾を飲んで試合の行方を見守った。

 試合の第1MAPはASCENT、Absoluteはアタッカーでのスタートとなった。両チームのエージェント編成はほぼ同じで、Absolute側はレイナを採用している分いくらか攻撃的な印象を受ける編成だ。そして注目すべきはCrow選手のブリーチの採用だ。Crow選手はこれまでセージやソーヴァといったエージェントを多く使っていたが、今大会では壁越しの攻撃を得意とするブリーチを採用している。索敵の面ではLaz選手の負担が増えるが、その分立ち回りに幅が出る編成、といったところだろうか。「VALORANT」は全体的に防衛スタートが有利とされているが、Vision Strikersは攻めの強さに定評のあるチームだ。そのためAbsoluteとしては、序盤の攻撃側でラウンドを稼ぎたい。

両チームのエージェント編成

 前半戦、Absoluteは連携の取れた攻めで相手陣への侵入を試みるも、Vision Strikersはそれを返り討ちにするような“攻撃的守備”でAbsoluteを圧倒した。時にはAbsoluteのスポーンにまで入り込む前衛的な守備の前に、Absoluteは中々突破口を見い出せず、スコアは一時6-2まで開いた。そしてVision Strikersの中でも前半戦に特に活躍して見えたのはやはりRb選手だろうか。ジェットでオペレーターを構える攻撃的なスタイルで、Rb選手はAbsoluteの面々を軽々とキルしていく。同じくジェットを操りオペレーターの扱いを得意とするAbsoluteのReita選手も、Rb選手の前では撃ち負けてしまう場面も多くみられた。

Reita選手に撃ち勝つRb選手
ローリングサンダーのスタン中にTakeJ選手に撃ち勝つRb選手。バケモノ級のエイム力だ。

 しかしAbsoluteも負けてはおらず、徐々にペースを掴んで自分たちの攻めを展開していった。例えば第11ラウンド、Barce選手がMidで強気の突撃を見せRb選手を撃破すると、時間をたっぷり使ってリジョインし、人数差を活かして5人一丸となってAへの攻めを敢行。各々がアビリティを使って隙の無い立ち回りを見せ、設置後もリテイクを許さない、Absoluteらしい連携の取れた攻めだった。こうした地道な攻めの甲斐もあり、Absoluteは序盤の劣勢を覆し、前半戦を6-6の同点で折り返した。

第11ラウンドを勝利するAbsolute

 続く後半戦は前半戦と比べてジリジリとした展開が続く。得意の攻めでラウンドを稼ぎたいVision Strikersに対し、Absoluteは盤石な守りでそれを捌いていく。そして試合が動いたのは第20ラウンド、AbsoluteはReita選手とTakeJ選手がオペレーターを購入して防衛戦に臨むものの、Aポイントを見ていたTakeJ選手が相手Stax選手の奇襲に敗れ、Absoluteはリテイクに望みをかけて後退の判断をする。しかしVision Strikersはその一瞬の隙に防衛の準備を整え、リテイクに来るAbsoluteに対し惜しむことなくUltを使用、Absoluteは全滅してしまった。試合後半でオペレーターを2本投入したラウンドを全滅で失うのはクレジット的にも非常に痛手であり、続くラウンドをエコで臨むもVision Strikersはこれを難なく突破、ここでVision Strikersが11-10の有利となってしまった。

オペレーター2本投入で臨むAbsolute
Zest選手のハンターズフューリー

 クレジットで大幅ビハインドとなったAbsoluteは、続く第22ラウンドもエコで挑む。ハンドガンで果敢に戦うも、やはりVision Strikersはラウンドを取らせてくれない。そして試合は12-10でVision Strikersのマッチポイントとなり、Absoluteとしては何としてもオーバータイムに持ち込みたい状況だ。なけなしのクレジットで装備を整えるも、オペレーターを購入したReita選手はライトシールドしか購入できていない。

Reita選手はライトシールドでラウンドに臨む

 第23ラウンド、Vision Strikersは時間をたっぷりと使い5人でBメインを攻める。Bメインで待ち構えていたのはReita選手だったが、アーマーの薄さのせいかStax選手に撃ち負け、一歩引いて待っていたCrow選手も討ち取られ、ここから一気にVision Strikersがなだれ込む。その後人数差5-3でリテイクを試みるも、Vision Strikersの守りは固く、Barce選手、Laz選手、TakeJ選手と続々と倒れ、最終ラウンドはVision Strikersがパーフェクト勝利、Absoluteは第1MAPを惜しくも敗北してしまった。

パーフェクト勝利を決めたVision Strikers

 後がない状況で迎えた第2MAP、AbsoluteはディフェンダースタートでマップはBINDだ。両チームの編成はほぼ変わらず、Vision Strikersはオーメンをブリムストーンに変えてきていた。Absoluteとしては何としてもここを勝ち第3MAPに繋げたいところだが、またしても前半戦は劣勢が続く。防衛側のAbsoluteは得意のリテイクの展開でラウンドを取りたいが、足止め効果が強いブリムストーンが中々それをさせてくれないのだ。一旦ポイントを明け渡し、それを包囲するように取り返す戦術に対して、ブリムストーンのスカイスモークやインセンディアリーといったアビリティがことごとく刺さる。Absolute劣勢のまま、ラウンド差は一時5-0まで開いた。

Glow選手のブリムストーン

 その後Absoluteは何とか相手の攻めに順応、徐々にラウンドを取り返し、前半戦を6-6の同点で折り返すも、続く後半戦、第13、14ラウンドとVision Strikersの守りの前にラウンドを落とし、またしてもVision Strikersにリードを許してしまう。ここで3連敗のボーナスを得たAbsoluteは、次のラウンドこそ落とすまいとクレジットを大量に投入して続く第15ラウンドに臨むが、これが裏目に出てしまう。Vision StrikersはAbsoluteがここでバイラウンドを仕掛けてくることをまたしても読んでおり、クレジット差を埋めるチャンスと見たか、Rb選手がSMGのスペクターを手にAロングに突撃してきた。これに対応できなかったAbsoluteはRb選手に完全な裏取りを許してしまい、何とか設置までこぎつけるもその後全滅。バイラウンドを全滅で終えるという最悪の展開をまたしても作ってしまった。

テールウインドで敵陣へ突入するRb選手

 その後エコラウンドをいくつか落としてラウンド差は10-6まで開く。第17ラウンドではAbsoluteが再びバイラウンドを仕掛け何とかラウンドを勝利するも、この時点でVision Strikersには豊富な蓄えがあり、クレジット有利は依然Vision Strikersにある。オペレーターを2本そろえたVision Strikersの守りはやはり堅く、12-7でVision Strikersが先にマッチポイントを迎える。

 そして迎えた第20ラウンド、何としてもVision Strikersの優勝を阻止したいAbsoluteだが、チームにはReita選手がオペレーターを購入する余裕もない。絶望的な状況のなか、Reita選手がBメインに向かうとここで飛び出てきたGlow選手に撃ち負けてしまう。Reita選手を失ったAbsoluteは4人でAポイントへ攻め入るも、Vision Strikersはすかさずこれに対応。Laz選手、TakeJ選手がなんとかキルをとるも返り討ちに遭い、最終的にはBarce選手1人対Vision Strikers3人の展開となった。Barce選手は何とかここからの逆転勝利を狙いたいところだったが、なすすべもなくZest選手のオペレーターに撃ち抜かれ、Absoluteは全滅。Asia VALORANT Showdownの勝者は韓国代表Vision Strikersとなった。

Zest選手の前に沈むBarce選手
試合はVision Strikersが勝利

 惜しくもアジア最強の称号を逃し、Vision Strikersに実力の差を見せつけられたAbsolute JUPITER。試合後彼らはTwitterで口々に、「勝ちたかった」と語った。負けてしまったAbsoluteだが、アジア大会という舞台で日本を背負って戦ってくれた彼らの雄姿は多くの国内FPSファンの心を打ったことだろう。今後Absolute JUPITERがさらなる活躍をし、そしていずれアジアチャンピオンになるためにも、是非彼らを応援してほしい。