ニュース

【devcom 2018】Crytekがゲームエンジン「CRYENGINE」の最新アップデートを紹介

8月19日~20日開催

会場:Koelnmesse(独ケルン)

 昨年に引き続き、Crytekがdevcomでは元気な姿を見せている。CrytekのCRYENGINEプロダクトマネージャーのCollin Bishop氏は、CRYENGINEの最新アップデートを伝えるチュートリアルセッションを行なった。

 Crytekはビジネス面で、2016年に「CRYENGINE」無料化、その直後に訪れた経営危機、世界各地のスタジオ閉鎖、トルコ政府による投資、フランクフルト、キエフに加え、イスタンブールの3スタジオ体制化という大激動の1年を乗り切った。その後、2017年、2018年と、GDCではセッションに登壇するスピーカーが激減すると共に、ブース出展を取りやめているため、「CRYENGINE」の現況に直接触れる数少ない機会となっている。

CrytekのCollin Bishop氏

 本セッションは、チュートリアルセッションということで、Bishop氏が実際にCRYENGINEのSandbox Editorを操作してゲームサンプルを動かして実演する形式で行なわれた。2時間の長丁場で多くの新機能が解説されたが、このうち、もっとも興味を引いた2項目を紹介したい。

 ひとつめは、テラインのスカルプトとペインティングツールだ。これは、テライン製作、アセット配置、といったレベルのアートデザインに関するもので、スプライン曲線で描いたパスに沿って、テラインを上下させたり、その部分のタイルテクスチャを変更したりできる。

 この機能によって、Bishop氏が実演していたように、地面に道を作る作業がかなり素早くできそうだ。道からオフセットした位置に、ちょうど道と周囲の森林を隔てるように柵を作るのも容易で、その柵の密度もパラメータをスライダーで変更するだけで簡単に変化させることができる。そのほか、不可視データである各種プローブの配置も簡単に行なえることが確認できた。

【CRYENGINE Sandbox Editor】

 シューターやフィールドトリックの攻略を重視する本格アクションでは、この手のざっくりしたレベル製作はゲームになじまないかもしれないが、PRGやMOBを薙ぎ倒す爽快感をプレイの軸に据えるゲームでは、レベル中のフィールドアセットの配置に繊細な注意を払う必要はない。

 程度の差こそあれ、あくまで視覚的にプレイフィールドを演出するアートワークの一環であるから、アーティストフレンドリーなペインティングUIは好印象だ。レベルデザイナーが作業を行う場合でも、精密なアートワークをひとつひとつのレベルに対して行なう必要はなく、作業のハードルはかなり低くなる。

【CRYENGINE Sandbox Editor】

 「CRYENGINE」のエディタには、こうしたゲーム開発に有意な便利機能が多く、ずいぶんと実用的になっている。ただ、「CRYENGINE」のみならず、モダンなゲームエンジンのエディタ環境では、データモデルやプロパティがどうしても複雑化する傾向にあり、例えばプロパティのペインでも、もう少し視覚的なプレビューを増やしたり、レイアウトを工夫して、パラメータの列挙から脱却してほしい気もする。とはいえ、慣れてくるとある程度無機質な方が軽量で素早く変更したいパラメータにアクセスできることから、このあたりのUIは、ノーマル、エキスパートの切り替えや、あまり変更する必要のないパラメータをデフォルトで隠すといった方法が妥当だろうか。

【CRYENGINE Sandbox Editor】

 もうひとつ「CRYENGINE」開発環境で便利だと感じた機能は、特段にナビゲーションメッシュを準備する作業をしなくても済む点だ。おそらくMOBのパスファインディングのために、ナビゲーションメッシュが必要なのは他のゲームエンジンと変わらないのだろう。ポイントは、その作成に手続き的な作業が必要なく、最適なナビゲーションメッシュを用意してくれるところにある。ランタイムで動的に生成されるのか、ツールのバックスレッドで常に最新を用意してくれるのかは判断がつかなかったが、どちらにしても便利な機能だ。

 もちろん、手動、目視によるナビゲーションメッシュの調整には、人間の力によって、最も最適なものを用意できるメリットがある「CRYENGINE」にも手動設定や手動調整の機能は用意されているから、その点は心配ない。

 セッションでは、このほかにも、エンティティをノードベースのFlow Graphによる制御したり、シネマティックやアニメーションの制御なども、Bishop氏によって開設された。このあたりの機能は、「Unreal Engine」とかなり似ているため特筆すべきものはない。タイムラインベースのエディタとノードベースのエディタを関連付けてアニメーションを設定していく作業のイメージもほとんど変わらず、エディタの使い勝手に若干の差はあるだろうが、おおむね共通した概念で習得できそうだ。

【CRYENGINE Sandbox Editor】

 最後に、ゲームエンジンそのもの以外の話題で、ひとつ興味深かったのは、Crytekがコミュニティの形成に力を入れていることだ。かつてのイメージから、ついてこれるヤツだけついてこい的な、硬派でストイックな印象の「CRYENGINE」だったのだが、その様相は大きく変わりつつあるようだ。

 オンラインのフェーラムに対応するコミュニティマネージャーの配置や、本セッションのような直接的なハンズオンチュートリアルのみならず、サンプルプロジェクトやフリーアセットといった部分でも、先行する「Unity」や「Unreal Engine」に追いすがろうとしている姿勢が見受けられる。

 若年層コミュニティの支援は、たとえインディで成功するゲームが少なくても意味はある。そのゲームエンジンの開発環境で育った開発者が、首尾よくゲーム会社に就職してくれれば、採用の可能性が増大することが期待できるからだ。Crytekのお膝元、ドイツでのイベントである分を差し引いても、「CRYENGINE」のコミュニティは以前より格段に大きくなっているように感じられた。

 対して、商用ベースの世界では、CRYENGINEを採用したビッグタイトルのリリースは、2017年の「Sniper: Ghost Warrior 3」と「Prey」、2018年の「Kingdom Come: Deliverance」(ただし、いずれも「CRYENGINE 4」以前を使用)程度とかなり採用数が減っているのが実情だ。「CRYENGINE V」採用タイトルとしては、VRタイトルの「Robinson: The Journey」くらいだろうか。隆盛を極める「Unity」や「Unreal Engine」から大きく水をあけられた格好だ。

 ゲーム採用が振るわない一方で、BtoBではAmazonとの間に100億円規模とも言われるライセンス契約を成功させ、「Lumberyard」の礎となった。残念ながら、その後の「Lumberyard」タイトルリリースの話題もなく、こちらもあまり盛り上がっているとは言えない状況だが、Amazon自身のスタジオにより複数のタイトルが開発されている。

【CRYENGINE V - Hunt: Showdown Tech Demo GDC 18】

 そんな状況ではあるが、2018年の3月にはGDC開催に合わせて「Hunt: Showdown」を題材にした技術デモを公開して健在ぶりをアピールした。「Hunt: Showdown」は、2014年の前回の経営危機の際に閉鎖されたアメリカのスタジオで開発されていた「Hunt: Horrors of the Gilded Age」をベースとしており、フランクフルトの本社スタジオで開発されたものだ。本年2月の公開以降、現在もアーリーアクセスフェイズが続いている。

 リアルタイムレイトレースGIが発表された今となっては、どうしても見劣りしてしまうが、CRYENGINEは、早くからSVOGI(Sparse voxel octree global illumination)という高品質なGIを実装し、今も改良を続けている。SVOGIは、2012年~2013年ごろ、「UE4」でも実装が試みられたが、Epic Gamesが求める品質では速度が出ず断念したという経緯を持つものだ。「Hunt: Showdown」は、CrytekによるこのSVOGIの最新実装でプレイできるため、最新グラフィックスの比較のためにプレイしてみる必要があるかもしれない。

 まだまだ明るい話題が少ないCrytekだが、ようやく「CRYENGINE V」世代のゲームのリリースも見え始めている。本年3月には、少々やり過ぎた感のあったPay What You Want方式(CRYENGINE利用ユーザーが任意のライセンス料を決められる方式)から、Epic Gamesと同様の5,000ドル以上のプロジェクトごとには売上の5%のライセンス料を課す方式に改められた。

 この変更は、「CRYENGINE」の開発持続性を担保すると共に、Crytekの財務体質の健全化に資するものと考えられる。Crytekには、はやく元気を取り戻して、またGDCに戻ってくることを期待したい。