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3Dプリンターによるビジネス、芸術表現を提示したDMM.com発表会
ビジネスの提案とアーティスト活動、新たな3Dプリンターの活用法
2018年4月25日 19:37
DMM.comは、日本HPとリコージャパンの協力の下「マスプロダクションサポートサービス」を開始することを発表、本社にて発表会を行なった。
このマスプロダクションサポートサービスは、日本HPが提供し、リコージャパンが販売する粉末を溶剤で固めて成形する業務用3Dプリンタ「HP Jet Fusion 3D 4200 printer」を使用して行なわれるサービスで、DMM.comは、ビジネスユーザーをサポートしていくという。
弊誌では先日「Foma 2」の記事でセミプロ向けに普及する3Dプリンターの状況を取り上げたが、今回の発表会の内容は企業向けであり、一般ユーザーには縁遠いものといえる。しかし、今後の3Dプリンターを使ったサービスの形が提示され、クリエイター達がどのように活用していくかといった実例も提示されたので、「3Dプリンターによる新しい未来」を提示する1つのビジョンとして、紹介していきたい。
どのようなビジネスができるか? プリンター導入まで視野に入れたビジネス提案
発表会の中心となったのは、優れた業務用プリンターを導入したDMM.comの今後の取り組み。発表はDMM.make 3D プリント部門部長の川岸孝輔氏が行なった。DMM.comは物作りのプラットフォームとして「DMM.make」を立ち上げ、ここで3Dプリンターを使った“商品”を作り出すためのノウハウを提供している。つまり、「こういった立体物を作りたい」と考えている企業ユーザーに対し、ノウハウのないところならば3Dモデルの作成から、全てをDMM.makeが請け負い、量産まで実現させるビジネスだ。
例えば発表会などで製品のミニチュアを配ったり、ゲームのグッズを販売したり、配布したいメーカーがあったとする。こういったことを行なう場合、これまでは工場に話を持って行って試作品を作ったうえで量産したり、ノウハウのある製造会社に任せるといった手法をとっていた。
DMM.makeは3Dモデルの作成、それは例えばイラストの提示だったり、「こういう商品が欲しい」というアイデアレベルでも良い。もちろんノウハウや、「試作品を複製したい」といったユーザーの要求にも応えていこうというサービスだ。3Dプリンタでの出力なため例えばドローンの内部部品や機構といったものまでは作成できないが、単色のグッズや部品などを製作、量産することでコストを抑えられる。
打ち出す素材は、ステンレスやチタンと言った金属から、耐久性に優れた樹脂、透明なアクリルと幅広く対応している。企業のニーズに応え、ノウハウのないところにもバックアップすることで製品を量産させる体制を提供できるという。
さらに「マスプロダクションサポートサービス」とは、3Dプリンターそのものを導入し、生産する体制を作り上げる企業の取り組みそのものをサポートするサービスだ。この「マスプロダクションサポートサービス」を導入することで、試作品製造やその後の量産体制構築のサービス、3Dプリンターのメンテナンスやクラウドサービスによる支援などをすることで企業が「生産拠点」をつくる働きかけもフォローしていくとのことだ。
日本HP 3Dプリンティングビジネス部 部長の秋山仁氏は海外での3Dプリンターの活用事例を語った。3Dプリンター導入初期には「もう金型を使った生産はなくなる」など、3Dプリンターがあたかも従来の産業と対立するかのように報道されたという。
実際には既存の物作りと3Dプリンターは融合していく傾向があると秋山氏は語った。車のカスタマイズにスマホのアプリでパーツを選び、カスタマイズ部分を3Dプリンタで出力して組み込んだり、対象の人そっくりな頭部を持つオリジナル人形を制作し、仕上げは職人が行なうなど、3Dプリンターは従来の技術と融合して活用されている。
そんな中で現在の企業に欠けているのは3Dプリンターを使用するノウハウと、経験。「マスプロダクションサポートサービス」は、そういった現在の企業に足りないノウハウを提供、共有することで、3Dプリンターを使った新しいビジネスを生み出していきたい、ということだ。
こういったDMM.comの3Dプリンターを使ったビジネスの規模は「1,000~5,000個ほどの生産」を念頭に置いているという。グッズや、部品を生産したり、出資者を募るスタートアップ向けといったビジネスが今回の発表内容の対象となるようだ。
製品により金額なども大きく異なるが、ゲーム業界としては例えばゲームイベントで配られるグッズが作りやすくなったり、コストを下げてクオリティを上げる、といったことも期待できるだろう。エンドユーザーにとってはこのDMM.comの取り組みが今後のコンテンツにどう影響を及ぼしていくか、まだ見えてこない。企業間での動きは見ていきたいところだ。
3Dプリンターだからこそできる作品、新たなアプローチが生む芸術
新国立競技場の設計などで知られる建築設計事務所「隈研吾建築都市設計事務所」の村井庄一氏は、事務所の活動と、3Dプリンターを使用した実例を提示した。隈研吾建築都市設計事務所は、素材を活かし、日本の建築技術を活用した様々な建物を設計してきた。さらに新素材の特性を活かしたデザインも行なっている。
ダッソー・システムズとコラボレーションしミラノデザインウィーク2018に出展された「Breath/ng(ブリージング)」は、空気の浄化機能を持つ建築素材を活用した制作物。布を最大限に空気に触れさせ、なおかつ全体としての形を整えるジョイントとなる部分に3Dプリンターでの独特の形状の部品を活用した。CADデータで設計した複雑な形状を、強度もしっかり持たせた上で制作することができたため、作業時間も大きく短縮できたという。
後藤映則氏は時間の彫刻「toki-」シリーズにおいて、3Dプリンターを積極的に活用しているアーティストだ。後藤氏は“時間”を表現しようと、まず人が歩く姿をコマ送りのように数秒ごとにシンプルなイラストにし、それをCGとして取り込み、並べた後、その絵をモーフィングで繋いでいった。
これを3Dプリンターで打ち出すと線の集合体のようなオブジェクトになる。しかしこれに上からプロジェクターで限定的に光を当てると人の形が浮かび上がり、オブジェクトを回転させることで人が歩いているアニメーションのようになるのだ。複数の箇所に光を当てることでその人の過去や未来の姿が浮かび上がる。移り変わっていく時間を、立体物として表現するには、繊細で複雑な立体物が作れる3Dプリンターがあったからこそだ。
後藤氏はさらにこれを発展させ、バレリーナの踊る姿、変化していく数字、複数の人の姿などなど多彩なアプローチを行なっている。後藤氏は東京オリンピックを記念して、様々なアスリートの姿を描き出す作品も構想中とのことだ。
今回は2つの事例が発表されたが、もう1つメカトロニクスエンジニアの小笠原氏によるドローンのデザインも展示されていた。風などの外部の力を考えつつ軽量化にこだわるための構造をAIで設計した作品で、オープンソース化する考えも持っているという。
DMM.comはこういったアーティスト、クリエイターもバックアップし、3Dプリンターを活用した創作の可能性、ビジネスなども提示していくという。今回、特に衝撃を受けたのは後藤氏の作品だった。3Dプリンターだからこそできる芸術表現、非常にユニークなアプローチは、感心させられた。
また、3Dプリンターによるフレキシブルな部品設計と、軽くて強度のある素材が、表現の幅を広げるという方向も面白かった。ビジネスのハードルを下げ、新しいアプローチを可能にする3Dプリンター。これからも注目していきたい技術である。