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【特別企画】3Dプリンター「Form 2」がホビー業界を変える! セミプロ/プロの世界を変えつつある“光造形3Dプリンター”とはなにか?
2018年4月19日 06:00
ワンフェスで一般ディーラーを回っているときに気になったものがある。「Form 2で出力しました」という“ノボリ”だ。一般ディーラーが3Dプリンターの「Form 2」を使っていると宣伝しているのである。話を聞いてみると、一般ディーラーの間には3Dプリンターを使って“ビジネス”に活用している人が増えているという。
数年前3Dプリンターは“世界を変える”とニュースで大きく取り上げられた。誰でも簡単に様々なものが作れる時代が来るとか、拳銃を誰でも作り犯罪が増えるとか、違法薬物を作れるといった論調まで出た。しかし実感として3Dプリンターが各家庭に進出しているとは言えないし、どう使われるかもあまり実感できない。
そんな中で「Form 2」は、ホビー業界において着実にユーザーを増やしており、アマチュアのみならず、セミプロ、プロの間で導入される状況が増えているとのことだ。今回、「Form 2」を開発したFormlabsの日本法人であるFormlabs マーケティング部部長の新井原慶一郎氏に話を聞けたので、取り上げてみたい。
高精度の出力が可能な「Form 2」はホビーの作り手達を魅了する
まず「3Dプリンター」というものをおさらいしたい。3Dプリンターというものはその名の通り、立体物を造型できるプリンターである。“印刷”方法には様々なものがあるが、どのように立体物ができるかは、インクリボンのついたヘッドが動いて紙に印刷するタイプのプリンターを思い描くのが良いかもしれない。ヘッドが動いていくと徐々に絵が描き出されるように、一体物の薄い層が1層1層形作られ、それが積み重なって造型を行なっていくという形になる。
3Dプリンターでは組み上げる素材でも大きな違いがある。熱で溶ける樹脂や、紫外線を当てると硬化する樹脂、粉末樹脂をレーザーで焼結させる方法もある。ノズルで素材を噴出して固めたり、液体樹脂を固めていくなど造形方法も様々だ。方式により扱える素材も樹脂から金属まであり、完成品も方式によって、精度や強度に違いが出る。
「「Form 2」は“光造形方式3Dプリンター”である。光造形では、液状樹脂に紫外線を当て硬化させ、層を重ねることで造型を行なう。精度が高い、複雑で細かい物が造れるところに特徴がある。
光造形方式の3Dプリンターは、3Dプリンターの中でも歴史が古い。最も初期から業務用で使われていた方式であり、業務用では数百万円から数千万クラスの機器も使われているという。ホビーショーなどでプラモデルやアクションフィギュアの灰色や透明な“試作品”が展示されるが、あれが光造型の3Dプリンターで打ち出されたものだ。ホビー業界においては、親和性の高い方式とも言えるだろう。
「Form2」の国内販売価格は約60万円。数百万という業務用プリンターと比べれば大きく価格は下がっているが、それでも一般ユーザーが気軽に購入できる価格ではない。それがどうして売れているのか? どんな人達が買い、どういった使われ方をしているだろうか?
その答えの1つが冒頭で紹介した「ワンダーフェスティバル」である。ワンフェスはフィギュアメーカーの新作発表会という側面もあるが、主役は一般ディーラーのガレージキットの展示/販売である。ディーラー達がここだけで販売するこだわりの商品、それは商業メーカーが手を出さないニッチなジャンルやキャラクターのグッズだったり、作家性の強く出た作品を購入できる貴重な機会だ。同人誌即売会「コミックマーケット(コミケ)」の立体版、と言えば伝わりやすいだろうか。
ここで「Form 2」がもたらしたのは“量産性”である。ワンフェスの商品はこだわりの立体物なため一点物の販売も少なくない。手作業の作品では完成品にばらつきが出る。少数生産の「ガレージキット」は、原型を元に手作業で型を作り、加工しやすいレジンを使って複製を作る。作品は数千円から数万円で販売されるものの、コストを考えると大手のように工場に発注などとてもできない。
ワンダーフェスティバルの公式ページには個人での型の制作、レジンを使った生産の実例が出ている。粘土でまず型を作るための原型を作り、熱に強いシリコンを流し込んで型を製作、ここに加工しやすいレジンを流し込んで作品を量産するのだ。これもかなりハードルが高いといえるが、一般ディーラーはこの方式を行なって量産していたりするのである。
その中で、「Form 2」はデーターさえPCで作成すれば、量産が可能なのだ。樹脂のコストや、製作時間などを考えると大きく儲けが出る、というわけでは決してないと思うが、手間はかなり軽くなりそうである。また「耐熱性に優れたレジン」という素材もあり、「Form2」で型を作成し、そこに樹脂を流し込んで量産するという方式もありそうだ。ワンフェスの一般ディーラー達にとって、精度の高い、使い勝手の良い3Dプリンターはニーズにマッチする商品なのだ。
もちろん「ワンフェスだからこそ“手作業”にこだわりたい」というディーラーも多いが、昨今のワンフェスでは、既存のキットの改造パーツや、フィギュアの靴など、細かい部品を「Form 2」で作り、販売するディーラーもいるとのことだ。
一方、プロが現場で「Form 2」を導入することも増えているという。Formlabsはプレスリリースでコトブキヤが「Form 2」を導入したことを2月に発表している。これまでのフィギュアの原型や、部品の試作品なども工場に発注したり、社内の大型3Dプリンターを使っていたが「Form 2」を使うことでこれまでより手軽に出力ができるようになった。
部品を造形し、すぐに“実物”として手に触れる。実際に業務用3Dプリンターを使っている現場にこそ、「Form 2」は魅力的な商品といえるだろう。他にも大手ホビーメーカーが導入している事例がある。また海外メーカーでは「Form 2」を数十台導入し、実際の商品を生産しているところもあるとのことだ。「Form 2」により光造形方式の3Dプリンターのハードルが大きく下がり、ホビー業界に大きな影響を与え始めているのだ。
ゲーム内の自分のキャラクターをフィギュアにしたい! この夢はいつ叶うのか?
一方で、やはり現状では3Dプリンターはコンシューマーには依然としてハードルが高いものであることが改めて実感できた。価格ももちろんだが、まず「3Dプリンターを使って何が欲しいか」というところを考えても使いこなせない。
3Dプリンターを使うには詳細でしっかりした3DCGモデルを作る技量が求められる。絵心が必要だったり、専門の知識、複雑なツールを使いこなす経験などが求められる。そしてフィギュアの制作者から良く聞かれるのだが「CGと立体物は違う」のである。関節なども出るが重なり合うところには不具合が出る。そういった経験や知識も求められる。
「自分だけのフィギュア」というものなら、現在いくつか「フィギュア製作会社」が出始めている。結婚式などの記念品や贈答品用に、首から下のパーツは出来合のものを使い、送った写真の人の顔をフィギュア化して乗せる、という方式もあるし、3Dでのデータを持ち寄ってそれを立体化するサービスもある。熱意と資金があれば自分が望んだキャラクターをフィギュア化してもらうことも可能かもしれない。
“夢”の話をすれば、個人的な立体物を自分の3Dプリンターで造型できる未来は魅力的だ。「モンスターハンター:ワールド」のキャラクター作成ツールでは、非常に凝った自分のキャラクターを作ることができるが、これをフィギュアにできたら……と夢見るユーザーは多いだろう。将来は高精度の3Dデータを販売し、個人宅で出力、もしくは模型店などに業務用3Dプリンターが設置され、そこで料金を払って造型して購入、という日が来るかもしれない。
あるいは「PUBG」では、豊富な武器、防具、アバターアイテムが存在する。お気に入りのアバターと装備をフィギュア化できればとても魅力的ではないだろうか。ゲーム内のキャラクターを立体物で手にしたい、という気持ちは筆者だけではないだろう。
しかし、現在販売されているようなハイクオリティなフィギュアを3Dプリンターで出力できるか、という点では、まだ高いハードルがある。例えば「Form 2」が出力できるのは単色の素材だけだ。色を変えるにはカートリッジそのものを交換する必要がある。現在複数の色のカートリッジが販売されているが、将来的には色を組み合わせて素材に混ぜ込み、望んだ色を出すこともできるという。バンダイの「イロプラ」のように異なる色味の素材を組み合わることも理論的には可能なのだ。
3Dプリンターはホビーの“現場”を変えつつある。「Form 2」の普及は作り手側のニーズとの合致が背景にある。実際の所「Form 2」が作り手をどう助け、ユーザーにどのような恩恵がもたらせられるか、そこは今後作り手に取材して聞きたいところだ。一般ディーラーの量産がしやすくなり、作家性の強い彼らの商品が入手しやすくなったとか、試作品が作りやすくなったことで商品の完成度を上がった、というようなメリットがあったのかなど、作り手の意見を聞いてみたい。
一方で3Dプリンターの“使われ方”も気になるところである。メーカーや、DMM.makeなど3Dプリンターを使った新しいビジネスを展開している所にも取材していきたい。3Dプリンターの将来はどういったものがあり、現状どういったビジネスが生まれているのか、こういった所も注目していきたいところだ。